<PCクエストノベル(2人)>
祈月〜サンカの隠里〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1985 / エルバード・ウイッシュテン / 元軍人、現在は旅人?】
【2067 / 琉雨 / 召還士兼学者見習い】
【その他登場人物】
【NPC/ グアドルース・ロード】
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何処でも良い筈、だった。
いや、実際は――そんな風ではなく。
何処かで、妹と思えるような可愛い子とのんびりとお茶を飲む、それだけで充分幸せだと思っていたのだ。
"綺麗な嬢ちゃんは、目の保養"
野郎を見て和む事は無いが全ての女性はこの世の至宝、とさえ、エルバード・ウイッシュテンは考えていた。
エルバード:「よう、嬢ちゃん♪ 今日も可愛いな…良ければ何処かでお茶でもどうだ?」
琉雨:「良いですよ。あ、でも出来るなら…珍しい茶葉があるところが良いんですが……」
エルバード:「珍しい茶葉? では、此処近郊の店じゃあ駄目だな……ハルフは温泉が名物だしアクアーネは水の都だけあって美味い茶葉もあるんだろうが……」
琉雨:「そうですね…他にも色々な場所がありますが……珍しい、茶葉がいいですね」
エルバード:「んー…じゃあ、未だに足を踏み入れた事がない場所か? サンカ――、とか」
琉雨:「サンカ……ええ。其処でしたら隠里ならではの珍しいものがあるかもしれません」
にこ、と琉雨は笑う。
桜色の髪が、笑った瞬間さらりと揺れ、そんな些細な事でさえもエルバードの瞳を楽しませる。
エルバード:「成る程。んー…サンカ、サンカ……何処かで、此処の場所について知ってる奴の話を聞いたような……」
琉雨:「そうなんですか? じゃあ、上手い事すれば色々調べ物も出来るかもしれませんね」
楽しそうに呟く琉雨。
お嬢ちゃんの楽しげな呟きを聞き流せる奴は男じゃない――、後にエルバードは、そう語る。
そうして。
いつもの様に柔らかな微笑を浮かべ、エルバードは、
エルバード:「では、サンカにでも行くとするか」
――と、呟いていた。
だが、琉雨にしてみれば「何処かでお茶を飲む」と言う話が出たし、それならば――と、サンカへ行きたくなったのであり……少し、回りくどい言い方をしてしまったが理由は、ちゃんとあったのだ。
しっかりと、間違いなく。
尚、サンカへ行きたい理由として珍しい茶葉のみでなく、更には学者見習でもある自分の知識の探求の為、伝承の調査も兼ねて、という思いもあった。
琉雨:「(一人だと、不安だけれど……)」
道案内の人も、一緒に其処まで行く人もいるのなら……、そう思いながら。
その後。
サンカの隠里への道筋――、行き方を知っていると言うエルバードの知人「グアドルース・ロード」も説得に説得を重ね引き連れる事に成功し。
いざ、出発、である。
+
グアドルース:「果たして、長老達が君達を受け入れてくれるかどうかが問題だな」
旅路にて、グアドルースはぽつりと呟いた。
辺りは未だ、一面の森の緑には遠い平原が続いている。
馬が暑さでやられないように水を時折与えながら、馬車は緩やかに走り続け――陽に焼けることのないだろうグアドルースの髪を照らした。
彼はサンカでは珍しい、男女両性の特徴をもつ人物であり、頑強な体躯と、またサンカの女性のみに見られるアルビノの繊細な美しさを持っており、呟くだけでも何かの音楽のようでさえある。
どうしても行きたいと言うから、とりあえず一緒に来てはみたものの……呟き通り、本当に長老達が首を縦に振るかどうかは定かではない。
隠里は、隠されているからこそ隠里なのだ、と言った長老の言葉さえ思い出してしまう。
が、
エルバード:「何だ? ただ単にお茶を飲みに行くだけで、長老の許可が居るのか?」
そう、聞き返してきて。
グアドルースは頭を抱えた。
何故こうも、この男はぼんやり構えてしまえるのか……。
そんな時、ぽそりと静かに琉雨が首を若干傾げつつも、言葉を挟む。
琉雨:「確かに。サンカは山奥にあり、その場所に住む古代民族の末裔の方々は下界と断絶された状況に有ります。部外者が入るのは良い顔をされないでしょうが……それでも」
どうしても見てみたい。
知らないことは、知りたい。
机上の空論ではない、知識の世界。
茶葉を探しに行くことで、他にも何か得られる伝承があるのであれば。
ただ、ひたすらに。
…琉雨の考えを読んだわけでもないだろうが、グアドルースが大きく頷き言葉を続ける。
グアドルース:「ああ。そしてサンカも今のままではいけない、と俺も思う。だが」
エルバード:「だが?」
グアドルース:「ついたら出来るだけ穏便に頼む。戦闘等、論外だ」
エルバード:「…心外だな、一応平和主義のつもりなんだが、俺は」
グアドルース:「どうだかな。平和主義という奴ほど、時に武力を行使すると言う例え話もあるくらいだ」
琉雨:「あの……」
おずおずと、差し出がましいかもしれないがと琉雨が呟く。
その力ない声に、グアドルースの赤い瞳がきつい光を放った。
グアドルース:「何だ?」
琉雨:「戦闘なんて起こる筈ありません…私たちはお茶を飲みに行くのですから……」
哀しげに瞳を伏せる琉雨に、エルバードは肩を優しく叩く。
グアドルースも言い過ぎた感があるのか、少しばかり気まずそうに空を眺めた。
その気まずい空気を打ち破るように、エルバードが、琉雨の顔を覗き込む。
微かに、琉雨の表情が引き攣った様な気がしないでもないが、構わずにエルバードは見つめ続けた
エルバード:「そういや、嬢ちゃん外の世界については余り詳しくなかったよな?」
グアドルース:「ではサンカに辿り着くまで、俺が見聞きしてきた世界の話を聞かせよう」
朗々とした声で、グアドルースは語り始める。
見つめられた恥ずかしさより、その声を聞くべく、漸く琉雨は顔をあげ、エルバードは、ただ明るい表情へ変わる琉雨へ、ほっとした様に笑顔を浮かべながら。
その中で、緩やかに言葉を選んでは。
琉雨の知らない外の世界の事。
伝承のみではない、知識のみではない、実感が伴った言葉を。
その場所場所に咲く、不思議な花の話。
いつも、自分から進んで仕事を始める子供たちの話。
この世界を渡り歩く吟遊詩人の話――、時に色合いを変え、話を変え、様々な話が次々と出ては、琉雨の耳を飽きさせる事が無いまま。
わくわくと、御伽噺をねだる子供のように琉雨は漆黒の瞳を輝かせる。
中でも、月光のみで咲くと言う花の話は驚きだった。
普通、陽にも照らさねばならないだろうに、その花は月夜の時にのみ、外に出し陽が出てくると急ぎ、しまうのだという。
見てみたい、と思う。
けれど、今は違う場所へ行くのだから…また今度、とも考え。
エルバードが、興味を示している琉雨の表情を優しく見守りながら、馬車はサンカの隠里の入り口へと、辿り着いた。
――馬が懐かしそうに、グアドルースへ帰ってきたね、と告げるよう、その鼻先を彼の身体へ押し付ける。
+
小さな馬車が一台入れるくらいの細い道。
更に鬱蒼とした、緑のみで覆われた小さな「里」
それが、「サンカの隠里」だった。
琉雨:「小さいけれど……」
不思議な場所、と琉雨は言えずに、ただ里を見つめ続けた。
確か、本で読み、得た知識では……サンカに住む人々の特徴として、男は皆強靱で立派な体躯を持ち、女は皆アルビノ(白子)で非常にか弱く美しい、と言われ…更に最大の特徴として額に一本の角があるため、古代はユニコーンの化身として恐れられてきた、とも言う。
そうして。
確かに、道案内をしてくれたグアドルースの額にも角はあった。
見ると、「何か?」と言う様にグアドルースは首を傾げる。
グアドルース:「何時までも、此処に居ても仕方が無いが…どうするんだ?」
エルバード:「俺としちゃ、お嬢ちゃんの気が済むまで里の外観を見させてやりたいが……」
琉雨:「え、えっと…すいません…、つい美しかったので…」
グアドルース:「美しい?」
琉雨:「はい…此処の里が。閉ざしてしまった気持ちも解ります」
エルバード:「知られないためではなく己の為、とか?」
琉雨:「いえ、そうではなく…すいません、上手い言葉が見つかりそうもありません」
首を振り足を勧めようとする琉雨を見、グアドルースが先頭を歩いた。
グアドルース:「最初に言ったことは忘れないでくれよ?」
と、言いながら。
再び言われ、エルバードの表情に苦虫を噛み潰したような、微妙な表情が生まれた。
エルバード:「解ってる、不要な戦闘は俺だってしたくない」
琉雨:「誰だって、そう思うでしょう? なのに何故、グアドルースさんはそんなに」
気にかけるのですか、と言いたかったが言葉には成らなかった。
頑強な体躯の男たちが目の前に立っていたからでもある。
美しい女性が居たからでもある。
だが、一番の理由は……。
エルバード:「本当に此処の里のお嬢さん方は美しい…逢えて光栄です」
と、言いながら参加の女性の追っかけ…もといナンパをしているからで。
はあっ…と、グアドルースが大きな溜息をついた。
グアドルース:「…だから言ったんだ、戦闘は避けろ、と」
琉雨:「つまり、言っていた戦闘と言うのは――、ナンパも含んでいたんですね」
冷や汗を流しながら呟く琉雨に、
グアドルース:「それ以外の何があるんだ……」
やけに、疲れきった、彼の呟きが、地に落ちた。
サンカの男性たちは、グアドルースに目を向けず、エルバードばかりを追いかけている。
……此処は、確か……隠里、の筈だったのだが。
だが、琉雨も出来うる限り調べたい事が沢山あったので、グアドルースが、元居た家で文献や資料等を読ませて貰いながら、丁寧にノートへと書き込んでいく。
出た時のままにしてある、との言葉通り少々、室内は湿気と埃っぽさを帯びてはいたものの、琉雨にとってはどの様な場所よりも貴重なものだった。
ぱらぱらと捲っては次を書き、次を読み。
琉雨:「森の中だけあって草や、木の実の種類が多くて……あら?」
ふと、先ほど聞いていた話の一つが目に飛び込んできて琉雨は瞳を丸くさせた。
琉雨:「アエーリア……月にのみ咲く花……花びらは白く黄色がかっており、満月の時のみ、開花し、その花びらを見せる」
丸い形をしているので、別名、「祈月」と言う。
月にのみ祈りを捧げるような姿にも見えるからだとも書いており――、
琉雨:「種…頼んだら一つくらい分けて貰えると良いのだけれど……」
咲かせてみたい、と考えた、その瞬間。
ガタガタっと大きな音がして――考える間もなく琉雨は自分を抱きしめた。
が。
エルバード:「おいおい…二人ともどうして俺を置いていくかな…」
グアドルース:「いや、楽しそうだったから、つい」
ぼろぼろ、ではないが逃げるのに疲労しまくったエルバードは浅い息を繰り返す。
良くまあ、此処が解ったものだ、と思うが、あえて深くは聞かないことにした……。
血の匂いを辿ってきた、と言われたら少し恐怖と言うか何と言うか。
…生きている限り、血の匂いと言うのは僅かながらあるというのは……聞いていても納得できない部分もあるもので。
エルバード:「楽しそう…まあ、いいがな。ほら、琉雨お嬢ちゃんが欲しがってた珍しい茶葉。美しいお嬢さんが善意で譲ってくれたぞ♪」
と、琉雨へと放る袋は、いやにどっしりと重みがあり。
ぱちぱち、琉雨は瞳を瞬かせる。
琉雨:「え、えっと、あの、これってもしかして…袋ごと? お土産にもするつもりですか?」
エルバード:「勿論♪ ちょっと、此処で楽しく飲ませてもらってだな…後は土産に」
それと他にも色々…と、ナップザックから種を出してきたり、薬草を出してきたりと、一体何をしていたのかと疑うほどに手品の如く様々なものを見せるエルバード。
グアドルース:「…これは。わざわざ、もう外に出て話を聞くより彼に話を聞いた方が良いだろうな」
琉雨:「は、はい……住人の方にも聞いてみたくはありましたが……」
ユニコーンの末裔とも言われるのであれば、嘘は嫌いなのか。
戦いを憎むと言うのは本当なのか。
古い伝承の末の語りを聞きたくはあったけれど……。
その夜。
僅かながらの森の食材でぐアドルースがサンカの郷土料理だというものを作り、二人へと食べさせてくれた。
木の実の甘さとハーブの爽やかさが上手い具合に調和されており、特にサンカの女性が好む料理、だと言う。
エルバードがお土産に、と貰ってきたお茶もとても美味しく…お湯を注ぐと、小さな花達がぽんぽんっと音を立てて咲くので見た目にも楽しく、琉雨はただ瞳を驚きの形にしていくのが精一杯だった。
琉雨:「色々、見た事が無い物が見れるのって…本当に楽しいことですね」
エルバード:「ああ。知らないことを知るのは、楽しいな」
にこり、とエルバードは笑んで。琉雨もその笑みに、笑みを返す。
まだまだ、調べたい事があるような気がするが、少しばかり彼らの話にも耳を傾けて行く内に更に夜は更け……。
――何時しか、琉雨はその場所で、うとうとと眠り込んでしまっていた
エルバード:「…っと…このままじゃいかんな…起きるまで毛布でも借りれるか?」
グアドルース:「良いが……やけにこの娘に優しいな」
エルバード:「存在自体が愛しくてな、つい」
グアドルース:「ほう?」
エルバード:「戦場に居た自分が焦がれ、求めたものや可能性を持っているからな」
その名を、希望と言うのかもしれないが……とエルバードは言いながら、琉雨の頭を優しく、撫でる。
貰った花の種の中には、琉雨が興味を示した花の種もある。
起きて、それを知った時の琉雨の笑顔を楽しみにしながらエルバードは受け取った毛布を、そっと、琉雨の肩へとかけた。
――サンカの隠里の空の下。
満月の光を受けた、アエーリアの花が、咲いている。
・End・
+ライター通信+
エルバード様、琉雨様、こんにちは。
そして初めまして。
今回クエストノベルを担当させて頂きました秋月 奏です。
大人しい琉雨さんと、元軍人のエルバードさん、二人の組み合わせが非常に楽しく、どの様な動きにしようか
話にしようか、色々考えながら、わくわくと執筆させて頂きました。
色々な、知識や、今もてるもの、失ったもの。
それぞれに、抱えてるお二人だとは思いますが…今後も楽しく日々を過ごせますように。
それでは今回は本当に有難うございました!
また、何処かにてお二人に逢えたら嬉しく思います。(^^)
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