<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


星に願いを?

★オープニング

ドゴーン!!
星の降りそうなある夜
城下町の外れ、深い森に凄まじい地響きと何かが落ちた音がした。
「まるで流れ星が落ちてきたようだった。」
と、夜道を帰ろうとしていた人物は語る。
翌日王宮守備隊が調査をしたが、草が軽く焼け焦げていた以外には特に危険なものは発見出来なかったといわれている。
そう、危険なものは…。

「笹の葉?なんだい?それ。」
常連客たちはルディアの言葉に首をかしげた。あまり聞きなれない言葉だ。
「異国の風習なんですけどね、七夕とかっていう星祭があるんだそうですよ。ある植物に願いを込めた紙を吊るすして星に願いをかけるとかなうっていう。」
その植物が笹の葉、だという。
「皆さんも見たことくらいはあるんじゃないですか?緑色で、幹は節がたくさんあって、少しシャープな感じのほら、こういう葉っぱ。」
ルディアの絵に何人かはああ、と頷く。なんとなく解った気がする。
「確か町外れにあるんですよ。笹の樹。男性の皆さん、採ってきてくださいませんか?大きい奴。みんなで七夕の星祭をやりましょうよ。」
「男性?女性は??」
「笹につける飾りをつけましょう。短冊だけよりも綺麗だし、もともとそういうものらしいですから。」
こいのぼり作りの時に使った折り紙の残りを見せながらルディアは笑った。
「客寄せにもなりますしね。協力してくださったら皆さんには、その後のパーティのタダ券差し上げますよ。」
久しぶりのパーティ。しかもタダ飯。面白そう。
それぞれの思惑がからみあい、それぞれの思いで彼らは頷いた。

立ち上がった男性達は店を出る直前、立ち止まった。
扉の前に入るのを躊躇う女性がいたからだ。彼らに促され彼女は中へと足を踏み入れる。
「…あの…大事なものを落としてしまったのです。」
明らかにソーンでは珍しい衣装を身につけた黒髪の女性は静かにお辞儀した。
ほとんどの者には見たことの無い服。だが、何人かは不思議なものを感じていた。どこかで見たようなデジャヴ…
「町外れの森で…夫から贈られた大事な髪飾りを…。どうか探して頂けませんか?」
「ああ、丁度良かった。これから町外れに行く人たちがいるんですよ。お願いできますよね?」
ルディアの問いに何人かの男性達は頷いた。
「お客さんはここで待ってて下さいね。戻ってきたら一緒に七夕パーティしましょう♪」

七夕。その言葉に見送る「女性」が不思議な表情を浮かべた事を気付いたものはいただろうか?

★出発前

「ルディアさん、竹じゃだめですか?大きな笹って見つかりにくいでしょうし。」
笹を取りに行こうとして立ち上がった男性陣の中の一人が振り向いて、そう問いかけた。
「は?竹?」
目をぱちくりさせるルディアに彼、アイラス・サーリアスは笑いかける。
「笹って普通、竹の枝の一部とか、後は熊笹みたいな草に近い植物を言うんですよ。七夕の飾りにする大きなものなら笹よりも竹の方が…。笹の樹ってあんまり見ませんし…。」
見つかるといいんですけどね。大きな「笹」が。と彼は続けた。
ここにいたり、ルディアは自分のミスに気付く。本人はすっかり竹を持ってきてもらうつもりでいたのだが、彼女はこう言ったのだ。笹の樹…と。
「ふえ〜ん、ごめんなさい。言い間違えただけです〜。竹をお願いします〜〜。」
泣き真似半分、笑顔半分。祈るような仕草で頼むルディアを周囲の冒険者達の笑顔が包む。アイラスも、解りました。と微笑んだ。
「お嬢、いえ、奥さんですね。その落とした髪飾りというものは、どのようなものですか?」
「そうですね、形とかを教えていただけませんか?でないと見つけてもどのようなものか解りませんから。」
山本・健一は依頼人の女性の手を取り、優しく問いかけた。同じように問いかけながらユツキ・ヤコウは懐から髪と筆を出す。女性から聞いた特徴をサラサラっと絵に起こしてみる。
「こんな感じですか?」
と差し出された絵に彼女が頷いたそれは、日本の知識がある彼らには「簪」に似たものであると解る。星をモチーフに金と銀の飾りがついたものであるという。
「用意はできた。そろそろ行くか?皆。」
「おお、力仕事は任しておきな、でっけえ笹竹取ってきてやっからよ!」
外で鉈や鋸などの用意をしていたミリオーネ=ガルファとオーマ・シュヴァルツが中に声をかける。
「じゃあ、お願いします。私たちは二人で…そういえばお名前は?」
「あ、織…織江と申します。どうぞ、よろしくお願いします。」
彼女、織江はそういうと頭を下げた。自分より背の高い年上女性の肩を抱きルディアは笑う。
「私たち、二人で笹飾りを作って待っていますから。暗くなる前には戻ってきてくださいね。よろしくお願いします。」
手を降る女性達に見送られ、彼らは森へと出かけて行った。

★森の中で
初夏の高い太陽が道を歩く冒険者達に熱く照りつける。
「いい天気ですね。今日はいい星合の夜になりそうです。」
「星合の夜?なんじゃそりゃ?」
なじみの友人アイラスの言葉に横を歩いていたオーマが首をかしげる。
「『星合の空』は七夕の夜の空のことですね。そうそう、織姫も彦星も同じ「とおづま」という別称があるんですよ。遠い妻と、遠い夫、異国の言葉ですけどね。」
「へえ、遠くに離れてんのか?夫婦が。」
ミリオーネもふんふんと首を縦に振る。答えるようにアイラスは七夕の伝説を語る。織姫と彦星という恋人が仕事もせずに遊んでいたため神に天の川の両端に引き離されたこと、一年に一度七夕の夜だけ会う事を許されると言うこと。
「相変わらず物知りだな。アイラスはよお。」
こういう薀蓄を語らせたらソーン指折りの友人にオーマは素直に感嘆の言葉を漏らす。
「本当は旧暦って言ってもっと遅くにやらないと、雨が多くて星が良く見えなかったりするんですけど、ソーンでは星の配置も違うしあんまり気にせず楽しめばいいと思いますよ。」
「私の国の古い風習です。まさか異世界で五節句の一つを体験できるなんて嬉しいですね。私はまだこの国に来たばかりで、こちらの風習を知らないもので。」
肩の烏に語りかけながら笑うユツキにアイラスはおや、と頭を掻く。本場の人間に偉そうに語ってしまった、とちょっと心地悪い。
ふと、ユツキは一番後ろを歩く健一に気がついた。同じ世界を知る匂いの彼になんとなく親近感を感じて近づく。
「どうしたんです?何か考え事でも?」
「あ、いえ、なんでもないですよ。ただ、彼女のことが気になってまして…。」
「彼女?ああ、織江さんのことですか?彼女も同郷っぽいですよね。」
「ええ、それに、その名もちょっと。彼女は…多分…」
「なんです?」
「いえ、何でもありません。ほら、着いたようですよ。」
何かを振り払うように首を振った健一が指差した先は、目的地の森だった。
鬱蒼と広がる緑の闇、その一角に昔、かつてソーンにきた異世界人が持ってきたという植物があるという。
「今は、あんまり珍しくも無いですけど、ほら、それが竹ですよ。」
アイラスが指差した先にはルディアが描いたものと同じ竹があった。笹の葉が風に揺れる。
「懐かしい、いい香りですね。っと、その前に探し物をしますか?」
目を閉じて故郷を思い返していたような健一は織江に頼まれた髪飾りを探し始めた。
竹を切るのなどは、男性が5人もいればすぐに終わる。
他の4人もとりあえず、竹取りは後にして探し物を手伝うことにしたのだ。

「森の精霊よ…我に力を…。」
「夜霧、頼んだよ。」
髪飾りの特徴を仲間に知らせた後、健一とユツキはそれぞれの人外の友に助力を頼んだ。
「森の中心に星が落ちた?どういう意味でしょう。」
「なに?森の中じゃ良く見えない?そっか、でももう少し探してみようよ。」

「光るものを探した方が楽だと思ったんですけど、結構草の背が高いですね。見にくくて困るなあ。」
「なあに、俺様に任しておけって!俺はこれでもクソ馬鹿腹黒イロモノに勘も運も強ぇんだぜ。あの姉ちゃんの笑い顔みてぇからな。」
アイラスとオーマはといえば、カンを頼りに周囲を見て回っている。よく言えば豪快に、悪く言えばあまり周囲を気にせずに歩くオーマの服をアイラスは慌てて引いた。
「オーマさん、少しは気をつけてください。女性の髪飾りですよ。小さいんですよ。オーマさんの足で踏まれたら…。」
「ペキッってかあ、あ゛っ」
ペキッ!
オーマの足元で何かが折れる音がした。流石のオーマも色黒の顔が白くなる…。が。
「良かった。ただの木の枝ですよ。」
「ふう、脅かしやがって。でも解ったよ。気をつける。」

さてその頃、森の中心をミリオーネは歩いていた。気のいい仲間との楽しい祭り、なかなか今日は気分が良かった。
「帰ったら料理の手伝いでもしてやるか。でも…折角の祭りに悲しい顔の女は似合わないからな。」
下を見ながら彼はごく普通に探しものをする…。
「ん?何だ。このこげた葉っぱは?」
見てみると、広い森の中で小さな広場であるそこだけ、草が焦げたように立ち枯れていた。
「火事って訳でもなさそうだな…一体?ん」
焦げ跡の中に、彼は星が光ったような印象を受け、膝をついた。服が墨で汚れるが気にも止めず星に手を伸ばした。
「これ…か?」
闇色の汚れをそっと手で払う。そこには…瞬く星が静かに光っていた。

髪飾りを見つけたミリオーネを仲間達が取り巻いた。
「よ!つけたか。良かったな。これで、彼女も旦那も喜ぶってもんだ。」
「お疲れさまです。へえ、見事な細工ですね。」
「懐かしいなあ。やっぱりこれは簪です。私の故郷でも女性がよくこういうのを付けていましたよ。っとダメだよ。夜霧悪戯しちゃ。」
「ちょっと中国系のデザインが入ってる。これは…?」
「どうしたんです?健一さん。」
「いえ、何でもありません。早く竹を切って帰りましょうか?もうすぐ日が暮れてしまいますよ。」
健一の言葉にみんなは頷くと笹竹の森へと足早に戻った。店の中と外、それぞれに飾るのに丁度いいサイズのものを二本選ぶと
「おーし、力仕事は俺に任せとけ!よいせー!!」
オーマが鉈で切り付け、一刀、二刀。三刀目を入れないうちに竹は簡単に倒れる。もう一本はミリオーネが見事な包丁捌きで切り倒す。
「しまった。台車を忘れてきてしまいましたよ。どうやって運びましょうか?」
困り顔のアイラスの肩をポン、とオーマが叩いた。
「力仕事は任せとけって言ったろ。俺の銃に比べたら竹の二本くらい軽いもんさ。」
言うより早くオーマは竹をひょいと肩に担いだ。
「ちっと軽すぎるかな。ま、いい、帰ろうぜ。」
空気の色が少しずつ濃くなってきている。5人は大急ぎで周囲を片付けると町までの道を戻り始めた。

★星の夫婦

彼らが白山羊亭に帰り着いたのは、その夜一番最初の星が空に光ったのとほぼ同時刻だった。
「おかえりなさ〜〜い♪ うわ〜、いい竹ですね。店にぴったりですよ。」
店のテーブルを避けて作られたスペースにオーマが横たえた笹竹を見てルディアは跳びはねるように喜ぶ。
「ほら、見てください。飾りも織江さんと一緒にこんなにたくさん、作ったんですよ。」
木箱一杯に詰められた輪飾り、つなぎ飾り。星かざりetc。
「あとは、これを飾って店の中と外に吊るしましょう。お手伝いお願いしますね。」
ルディアの言葉に皆頷くが、一人ミリオーネは服のポケットに手を入れてそれから店の中を見回すと…。
厨房の中に揺れる赤い服。
彼は、一人そっとその場を離れた。

「手伝おうか?」
かけられた声に彼女はハッと振り向いた。
さっき出かけていった男性たちが戻ってきたのだと、気付いたのは多分顔を見てからだったのだろう。
彼は確か、ミリオーネ。慌ててお辞儀をする。
「お…お疲れ様でした。」
「へえ、君がこの料理作ったのか。上手だな。」
カウンターの上には、ソーンではあまり見ない料理が並んでいる。健一やユツキが見たら、「和風」と「中国風」が混ざった料理だと気付くだろう。
料理人の習性で、手近な一つを口に運ぶ。
「うん、美味い。料理上手なんだな。あんたは…。」
「そんなこと、…言われたの始めてです。」
俯く彼女にミリオーネは目を瞬かせた。
「結婚しているんじゃないのか?旦那が言ってくれるだろう?」
「してますけど…殆ど会うことはできないんです。料理を食べてもらう事だって殆ど…。」
事情には、興味があったがそれを聞くのはあえてしなかった。しては、いけない気がした。
「…そうだ。はい、これ…。」
彼女の手を取り、髪飾りをミリオーネはそっと乗せた。
「あ、ありがとう…ございます。」
一瞬輝きながらも、すぐ曇る、どこか冴えない彼女の表情にミリオーネは声をかけることさえも出来ず見つめた。
「私…い…ので…う…か」
「ん?」
すぐ側の彼にさえ聞こえるか聞こえないかの囁き。聞き返しに答えた声もまだ小さかった。
「私が、妻でもいいのでしょうか?」
「は?なんで、そんなことを言ってるんだ?」
「私は、ずっと彼の側にいてあげられない。食事を作ることも。服を繕う事も。それなのに、夫婦と言えるのでしょうか?彼と結ばれていていいのでしょうか?」
今にも溢れ出しそうな涙を目にためる彼女に、ミリオーネは静かに近づくとそっと頬を拭った。
「俺には、夫婦の間のことやあんたらの事情は解らない。でもな、あんたたちは愛し合ってるんだろ?なら、夫婦の資格はそれだけでいいと思うぜ。気にしないことだ。」
「本当に、いいのでしょうか?」
「ああ、男ってのは自分の気持ちを言葉に出すのは苦手なもんだから口には出さないだろうが、ちゃんとあんたを愛しているはずだ。保証する。」
「ありがとう、ございます!!」
「そうそう、折角の祭りの夜に暗い顔は台無しだからな。笑うんだ、な?」
ミリオーネの言葉に頷いた彼女の顔は…ミリオーネが見たいと願っていた心から幸せそうな笑顔だった。

ざわざわざわ。
店の方が騒がしくなった。二人がひょいと厨房から顔を出すとあっ!とルディアが声を上げ手招きする。
「どうしたんだ?」
「お客さんなんですけど…。」
古風な服を来た男性が立っていた。お辞儀をすると店を見回し、問うた。
「失礼、こちらに私の妻がお邪魔していないでしょうか…。」
「あなた!」
「姫!」
ざわつく彼らの後ろから織江が駆け出し彼の胸に飛び込んだ。
「心配しましたよ。一年に一度の逢瀬。もうお会いできないかと…。」
「ごめんなさい。頂いた髪飾りを落としてしまって。連絡も出来ず…。」
「ええ、それがあなたの元に戻ったので居場所が解ったのです。」
抱き合う二人を皆が嬉しそうに見つめた。
「いいねえ、幸せそうな夫婦ってのは。見てるだけでこっちも幸せな分になるぜ。」
鼻をこすって笑うオーマの言葉に頷く冒険者達に二人は並んでお辞儀をした。
「妻をお助け頂き、本当にありがとうございました。」
「この度は大変ご迷惑をおかけしました。このご恩は忘れません。」
「いいんですよ。そうだ、お二人もご一緒しませんか?これから七夕のパーティをやるんです。織江さんにお料理も作ってもらったし。」
手を振るルディアは営業を始めるが、二人は顔を見合わせクスッと笑うと同時に首を横に振った。
「いえ、ならなおのこと我らは戻らねば。」
「皆様の星合の夜に、心からの幸せがあらんことを…。」
彼らはそう告げると二人、手を取って外に出た。
「さあ、帰りましょう。」
「あ、待って!あれ??」
二人を追って外に出たルディアは10秒後首を捻りながら戻ってくる。
「おかしいなあ?あの人たち足が速いですね。もう見えませんよ。」
彼女の言葉を確かめるように入れ違いで外に出た男達の視界にも彼らの姿はどこにも入らなかった。
「足が早いんですね。あんな服なのに…。」
私も見習わないと、と頭を掻くユツキに健一は小さく首を振った。
「いいえ。多分違いますね。帰ったんですよ。彼らはいるべきところへ…」
「えっ?」
「あれ?あんな星、この空にありましたっけ?まるで彦星と織姫星のようです。」
空を見上げている健一の視線を追うように天を仰いだアイラスは首を傾げた。
いつの間にか夜のビロードを纏った夏の空。
ソーンにもあった銀のミルク河の両端に一際美しく星が二つ輝いている。
星読みの占い師たちは驚きに肩を振るわせたと言う。
天に時に動き、時に寄り添う不思議な星がやってきた。と。

★星に願いを…
〜♪〜〜〜♪〜〜♪♪〜
星が降るようなある夜。
白山羊亭は賑やかな声で溢れていた。
店の軒端には大きな色とりどりの笹飾りが風に揺れる。
屋上や、店の前も開放された店の中では常連の冒険者達ばかりではなく通りすがりの子供や女性。
隣近所の店主達もまた集まり、不思議な涼しさと安らぎを与えてくれる笹の音を聞きながら星を仰いだ。
「ま、こういう静かな祭りもいいもんだよな。うん、星が綺麗だ。」
健一の竪琴を聞きながら、オーマはジョッキをグッと煽った。特等席で星を肴に。
頷くアイラスは横目で笹を見つめる。五色の短冊と言われるように色とりどりの短冊には願い事がしたためられている。
短冊に願いを書くと叶うと言う古い風習だと、烏に肉を分けながらユツキは言っていた。
『しっかりした人間になりたい』
これは多分そのユツキだろう。
「いいネタができたよね。知り合いも出来たし。」
と彼は笑う。
健一は演奏の前に水色の短冊に達筆な日本語で短冊を書いて吊るしている。
読めない人もいるだろうがアイラスと、それからユツキにはちゃんと読めた。
『大切な人に会えるように』
彼の穏やかな優しさは悲しみを知るからなのかもしれない、水竜の竪琴の音色を聞きながら二人はそんなことを思った。
『カミさんのブラッド万歳☆なラヴスキンシップが少ねぇ様に』
『親父道や腹黒同盟ソーンどきどき蹂躙』
などと書きかけたオーマはアイラスやミリオーネに今日は騒ぎを起こすなと睨まれる。
流石に迷惑かけちゃあいけねえな、呟き、短冊をポケットにしまったオーマの本命の願い事は
「動植物魔物も仲間も…シェラやサモンがてめぇにとっての幸せって奴を見つけられるように。」
アイラスはちょっと意外、と思う自分がいるのと、らしいな。と思う自分がいるのに気付いて苦笑していた。
「あ、いけない。僕の願い事書くのを忘れてました。」
ルディアに余った短冊を貰ったアイラスは、ちょっと考え事をしてからさらさらと、願い事を書いて笹に吊るした。
くるくる風に踊る短冊はなかなかその文字を読ませてくれない。
『……であるように。』
そして、ここにもまだ書いていない人が一人。いろいろ考えてミリオーネは
『みんなが幸せであるように』で、その下に小さく『店の客も増えると嬉しい』と書いた。
笹に吊るそうとしたとき、ポケットに残る感触に気付く。
「ん?こいつは…。」
小さな、小さな星飾りがひとつ。彼のポケットに残されていた。あの髪飾りから取れたのだろうか?
「もう返せないし、ま、いいか?」
彼は自分の短冊に星をぺたりと貼り付けると笹に飾った。
静かな星合の夜。
柔らかな歌声、優しい夜風が流れるような緩やかな時を彼らに贈っていった。

★蛇足

「七夕定食お願い。」
「こっちも。」
それからミリオーネの勤める居酒屋『お気楽亭』には新メニューができた。
野菜中心のヘルシーな料理に女性客の人気が集まり、客は少しずつ増えていると言う。
あの時織江が作った和食のアレンジバーションであることをあの時の仲間だけが知っている。
たまに彼らも店にやってくる。ほんの少し、願い事が叶ったようだ。
「これも星の恩返しかな?こら!そこのイロモノ親父、店で暴れるなよ!」
ミリオーネは汗を拭きながら厨房に向かい、今日も彼らしく笑っている。

★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★
☆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)☆
★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★

【 0929/山本健一       /男性 /25歳  /アトランティス帰り(天界、芸能) 】
【 1649/アイラス・サーリアス  /男性 /19歳  /フィズィクル・アディプト 】
【 1873/ユツキ・ヤコウ     /男性 /25歳  /文士/絵師 】
【 1953/オーマ・シュヴァルツ  /男性 /39歳  /医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り 】
【 1980/ミリオーネ・ガルファ  /男性 /23歳 /居酒屋『お気楽亭』コック 】

【 NPC/ルディア・カナーズ /女性/18歳 /ウエイトレスです】

★☆☆☆★☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆★
☆   ライター通信            ☆
★☆☆☆★☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆★

ライターの夢村です。
今回は七夕依頼にご参加くださいましてありがとうございます。

実は計ったように参加された皆さんが男性だったので、予定していた織江の話を少し削りました。
なので彼女の正体ははっきりとは描きませんでした。
でも…そういうことです。

今回の髪飾り探しは厳正にダイスロールをしてミリオーネさんが見つけました。
見つけてくださったお礼に織江とのからみと、願い事の顛末を書き込ませて頂きました。
ややラブコメ風味。
楽しんで頂けたでしょうか?

健一さんの落ち着いていて、深い優しさ。
アイラスさんの薀蓄と気配り。
ユツキさんの穏やかさ。
オーマさんの豪快さ。
そしてミリオーネさんの思いやり。
どれもとても楽しんで書かせていただきました。

忙しい日常。
時にのんびり星を見るのもまたいいのではないでしょうか?

では、またの機会にお会いできますように。
今回はありがとうございました。

星合の夜に皆様にも幸せが訪れますように。