<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


星夜の七夕祭り


------<オープニング>--------------------------------------

「たのもー!」

 どかどかっ、と物凄い音がして黒山羊亭の扉はぶち破られた。
 そこには、よっこらせ、と太く長い竹をもった冥夜が、にゃはっ、と笑顔を浮かべながら立っている。
「ちょっと!何が『たのもー』よ!今度は何処の国に感化されてるの。しかもいきなり店壊さないでくれる?おまけになんだい、それは!」
 エスメラルダが竹を指さしながら冥夜にまくし立てると、それをずるずると引きずったまま冥夜は黒山羊亭へと入ってきた。
「外に置けばいいだろう、外に!」
「えー、だって説明しなきゃ駄目じゃないの?最近七夕っていうものがあるって知ってさ、それをここでやっちゃおうって思ったわけ。んで、一生懸命竹を探してきたんだ」
「七夕って……あれかい?一年に一度恋人が会えるとかいうお伽話みたいな……」
「うん。でもそんな会えるとか会えないとかはどうでも良くって、七夕をダシに騒ごうって思っただけなんだけど。でもせっかくだから雰囲気だけでも味わいたいじゃん。だから竹。これにほら短冊だっけ?願い事とか考えて括り付けて皆のさらし者にしちゃえーとか」
 楽しみ楽しみ、となんだか笑顔で恐ろしいことを言っている冥夜。
 はぁ、と冥夜の言葉にエスメラルダは頭を抱える。
「あんたと話してるとだんだん具合が悪くなってくるのは気のせいかしらね」
 ぽんぽん、と今まで黙っていたジークフリートがエスメラルダの肩を叩く。
「仕方ないんですよ、冥夜は台風みたいな子ですから」
「ん?あ、ジークも居たんだ。もっちろんジークも参加だよね」
 にたり、とジークに気づいた冥夜は笑みを浮かべると、竹をほったらかしにしジークの腕に絡みつく。
「えっ……ボクも…参加……なんですか?」
「当たり前じゃん。もち、エスメラルダもだから。だって主催だもん」
「え?ちょっと……黒山羊亭主催?」
「そだよ。だってここが夜一番人が集まるんだもん。それと……話にちなんで7/7に開催ね。さぁって何人集まるかなぁ……」
 早速張り紙張り紙ー、と冥夜は他の人物の意見を聞くこともなく、鞄の中から紙を取りだし勝手に参加者募集のチラシを書き始めたのだった。


------<愛の家族劇場>--------------------------------------

「七夕祭りねぇ……また随分と楽しい事催すんじゃねぇか、エスメラルダ」
 誰かが持って行った張り紙を貼り直しているエスメラルダの背後から、ぬっと現れるオーマ・シュヴァルツ。
 気配など有りはしなかった。
 びくっ、と一瞬身体を強ばらせたエスメラルダだったが、それがオーマだと分かると不敵な笑みを浮かべ振り返る。
「ふふっ。あたしじゃないよ、計画したのは。そりゃぁもうあんたの弟子がね、竹持ってきて七夕をダシに騒ごうとか言い出してね………」
「弟子?なんだぁ?えーと、アイツか?それとも誰だ、弟子って言われてもナァ……あちこちに居すぎて名前で言ってもらわねぇと分からねぇな」
 頭を掻きながらオーマが言うと、エスメラルダはオーマにびしっと指を突き刺して告げた。
「弟子が分からない?あんたねぇ、弟子の行動くらい把握しておきなさいよ。これを計画したのは冥夜よ、冥夜。この間あんたに弟子入り志願してたでしょうが」
 名前を聞いてオーマは、あぁ、と声を上げる。
「なんだ、冥夜か。さっすが、俺の弟子。随分粋なはからい、そして気の利いた事するじゃねぇか。よしよし。これでまた俺様率いる腹黒同盟並びに親父道、そしてイロモノ変身同盟を堂々とアピールする機会が増えるってわけだ。こりゃ気合いを入れなきゃなんねぇな」
 うんうん、と満足そうに頷いているオーマに、エスメラルダは更に言う。
「その腹黒だかイロモノだかなんでも良いんだけど、もちろん弟子がしでかしたことは師匠がキッチリ責任持つわよねぇ。あの子何するか分からないからしっかりしてくれないと」
 あんたもかなり危険極まりないんだけど、とエスメラルダは告げオーマに手にしていた張り紙を一枚手渡した。
「あんたももちろん参加でいいわよね。不参加だなんて言ってご覧なさい、うちへの出入りは一切禁止させて貰うから」
 あたしはなんて言ったってここを牛耳ってるんだからその位、とエスメラルダは明後日の方を見ながら笑う。
「あ……いや、そのなんだ。……俺が悪いのか冥夜が悪いのか、随分キャラ違くねぇか?スペシャルハイテンションでネジが10本位吹っ飛びましたー的なものを感じるんだが。いやいや、ここは大人しく貰っておくべきだよな。よし、せっかくの祭りだしうちの可愛い娘でも連れてくるとするか」
 その言葉にエスメラルダは現実に引き戻されたのか、オーマを見つめた。
「あんた娘戻ってきたの?」
「戻ってきたんじゃなくてやっと再会したんだ。人聞きの悪い事言いなさんな。まるで俺がカミさんと娘に捨てられたみてぇに聞こえるじゃねぇか。俺とあいつらはもうラブラブ親子、いや、もうラブラブを通り越してグレイトな関係を築いているってもんよ。バーニングラブすぎて余りの愛の大きさに俺様たまに死にかける事もあるけどな。愛ってのは本当に深ぇもんなんだ」
「………あんたのその『愛』ってもんはどこか普通と違うような気も……まぁ、他人様の家庭に文句付けるわけじゃないけどさ」
「まぁ、見てろって。娘のサモン連れてきてしっかりマイスウィート☆デンジャラスレディな所を披露してやるからよ」
 ニィ、と笑うオーマ。
「デンジャラスって……なんか不安が残るけど。……じゃ、ちゃんとその日に必要なもの持ってきておくれよ」
「おぅ。任せとけ」
 オーマは張り紙を手に黒山羊亭を出て行った。


 家に戻るなりオーマは、音楽を聴いていた愛娘のサモン・シュヴァルツへと近づき、どかっとその隣に腰を下ろす。
 そしてエスメラルダから手渡された張り紙を見せると言った。
「おぅ、ちょっと話があるんだがな。この七夕祭りに行ってみようっていう気はねぇか?そりゃぁもうドッキドキで胸ワクワク桃源郷が広がってるハズなんだがね。七夕にゃ色々伝説もある様だが、何処ぞの御国の伝説がとある所に伝わってよ、そこに古来からあった水の神さんを迎える行事と合わさったのが始まりってかね。大昔に比べりゃその形態も相当に簡略化されちまったみてぇだがよ、民間信仰の中じゃ七夕が祓いも兼ねてたらしいぜ。まぁ、その歴史たるや長くも深ぇアレだが今となっちゃぁ、男と女のイロモノドリームラヴロマンスの象徴ってヤツだよなぁ?どうだ、一緒に行く気は……」
 オーマがサモンを誘ったところで、ぶわっとサモンの背後に広がるただならぬ気配を纏った美しき銀色の龍。
 それらはサモンの意思によってオーマへと狙いを定めると、間髪入れずにその力を叩き付けた。しかし屋内だという認識はあったのか少しは手加減したようだ。
 それでもまさかそこまで攻撃されると思っていなかったオーマは、受け身を取る事もなくそのまま床の上を転がり戸口まで吹っ飛ばされる。
 扉に激突したところでその身体は止まった。

「……………煩いよ…………邪魔……しないで」
 そして何事もなかったかのように瞳を閉じ、流れる音楽に身を委ねる娘サモンの姿をオーマは朧気に見つめる。
 更に説得を試みようとしたオーマだったが、次の瞬間、戸口を開け入ってきた人物に思い切り脳天直撃で蹴りを入れられ、そのまま追い打ちをかけるように踏みつけられる。
 おや、なんだそこにいたのかい、という声を遠くで聞きながら、オーマは静かに意識を手放した。


------<ソーン風七夕祭り>--------------------------------------

 七夕当日の夜、黒山羊亭に各々が準備した七夕飾りを持ち寄り参加者が集まった。

「なんだ、ようこ。お前さんも来たのか」
 ニヤッ、と笑みを浮かべたオーマに葉子も笑みで返す。
「旦那もイラッシャーイマセ。エスメラルダの頼みは俺様断れないカラネ」
「おぅおぅ、何時にも増してお熱い事だな。お前らほんとはデキて……ぐぁっ」
 うふふふー、と脇に現れたエスメラルダの肘がオーマの鳩尾に入る。
「なーに恐ろしい事言ってんのかしら?………で、楽しみにしてたんだけど娘さんは?」
「あーらら、旦那生きてる?ま、そう簡単にゃ死にはしないと思うケド……って、娘さん?」
 くるり、と振り返った葉子はエスメラルダに尋ねた。
 すると鳩尾を押さえたオーマが、『娘』という単語を聞いて、がばり、と身を起こし復活すると葉子の肩を叩く。
「おうとも。今日は娘を披露しに来たんだった。いやー、ここに連れてくるのにシュヴァルツ家愛の劇場『愛と希望の七夕大戦編』を繰り広げちまったんだが、そんなことは置いておくとしてコイツがうちの愛娘のサモンだ」
 がしっとオーマの後ろで興味なさそうに周りを眺めていたサモンを抱き寄せたオーマだったが、抱き寄せた瞬間にサモンに回し蹴りを喰らわされ吹っ飛ぶ。
「エーっと……オーマの旦那?」
 ふわり、と飛んだ葉子はオーマに近づくと、ひらひら、とオーマの目の前で手を振ってみせる。
「おぅ。娘の蹴りで吹っ飛ぶたぁ、俺とした事が情けねぇなぁ。アイツはちぃっとばかしシャイでアンニュイな奴なんだが、悪い奴じゃないんだ。本当にちぃとばかし愛情表現が痛いだけで……な」
 オーマは離れたところでリースと冥夜に捕まっているサモンを優しげな瞳で見つめながら笑う。
「そう?オーマの旦那を吹っ飛ばすなんてそうそう居ないんじゃナイ?」
 その言葉にオーマはがっくりと項垂れる。
「うちにはサモンよりも強力でビックでグラマーでビューティフォーな地獄の番犬如き人物が俺の事を待ってやがるのさ。そいつの愛情表現と来たらサモンの比じゃないんだが、そういうことは置いておいて。今日は七夕楽しみに来たんだ、七夕」
「んじゃ、竹持って折角ダカラ外に飾らネェ?地下にある黒山羊亭じゃ雰囲気出ナイし」
 その葉子の提案に地獄耳なのか駆けてきた冥夜が賛同する。
「おーっし!それじゃ竹持って外へレッツゴー!師匠、竹運んでくれる?葉子ちゃんはこっちこっちー」
 冥夜は葉子の手を掴むとエスメラルダの方へと連れて行った。
 よっこらせ、と竹を抱えたオーマは上に先に行っててと言われたリースとサモンと共に外に出る。
 空は晴れわたり、澄んだ夜空が広がっていた。
 抱えた竹を地面に思い切り突き刺すと、倒れてこないようにオーマはしっかりとその竹を支えるように近くの柵に縛り付けた。

 エスメラルダ達が黒山羊亭から出てきた時、遅れていたもう一人も着いたようだ。
 遠くから眺めていると二人で顔を見合わせ、そして踊り出す。
「たいしたもんだ」
 オーマはサモン達がいる場所まで歩いていき一緒にそれを眺めていた。
 暫くすると、黒山羊亭から出てきた葉子がオーマの隣に降り立った。
「もう終わっちゃう?」
「おぅおぅ、ようこ。なんだ美味そうなもん持って。…って、踊りの方はもうそろそろ終わるんじゃねぇかね」
 あら残念、と葉子は言いつつ大皿を外に出されたテーブルの上に乗せた。
 そしてオーマが答えたのと同時に二人の踊りが終わる。
 大歓声が夜のベルファ通りに響いた。
 ちらり、と葉子の方に目を走らせると手招きをしてオーマ達の事を呼んでいる。
「なんだかようこの奴が呼んでるみてぇだぞ。食い物もあったみてぇだから行くのが吉かね」
「そうですね、いってみましょう」
 疾風の言葉に頷いて、全員葉子の待つテーブルへと歩き出した。

 やってきた参加者達に葉子はお茶を振る舞うと楽しげに鼻歌を歌い出す。
「美味しい……」
 それぞれがそのお茶とお茶菓子に舌鼓をうつ。
「それはドウモ。ところで、冥夜ちゃん。短冊と飾りは?」
「あーっ!忘れてた!早速飾ろう、飾ろう!メインイベントだし」
 冥夜の言葉でそれぞれが持ってきたものをテーブルの上に並べ始める。
 そして冥夜はまだなにも書かれていない短冊を乗せる。
「それじゃ短冊書きたい人は書いて、飾り付ける人は飾り付けてね〜」
 アタシは短冊ー、と冥夜は紙を手にする。
 オーマとリースとレピアと葉子が短冊組で、サモンとルーセルミィと疾風とジークフリートとエスメラルダが飾り組だった。
 短冊を書こうとしないサモンに、オーマはサモン用に持ってきた「どきどきうっふん☆レディへの道解体真書」を手渡す。
「ほら、サモン。これをだな、あの竹に気合いを入れて飾り付ければお前もしっかりレディへの道が開けるハズだ…ってか、いきなり親父の胸トキメキスマートレディ計画を消しやがるのかっ!」
 サモンの手に乗った瞬間、それはあっという間に具現能力で消滅する。
「………オーマ……の……いらない……こっちが……いい……」
 そう言ってサモンは母親に持たせられた、犬・獅子・龍の三匹が仲睦まじそうにしている掌サイズのクリスタル細工を、きゅっ、と握りしめ竹の前へと歩いていった。
 はぁ、とオーマは溜息を吐く。
「俺の娘にイロモノを求めるのはいけねぇことなのかねぇ」
 ニヤニヤとした笑みを浮かべた葉子が、ポンポン、とオーマの方を慰めるように軽く叩いた。


「短冊は悪魔が書いてもネ?ま、一応。『商売繁盛・千客万来』ってね」
 スラスラっと書いてしまうと葉子はさっさと飾り組の方へと向かっていく。
「んじゃ、俺は『「全て」の在りしモノが腹黒イロモノ万歳ただただ幸せにある事』だな」
 よーし完璧、と満足そうに頷いたオーマはリースの願い事を見つめニヤリと微笑む。
「なんだ、リースはやっぱりそれか」
「えー、ちょっと後ろから見てないでよ、恥ずかしいから。でも……やっぱりあたしは『たくさん友達が出来ますように』かな」
「そうだよね、友達は大事だと思うよ」
 にっこりと微笑みを浮かべたレピアがリースに言う。
「そうだよねっ!あたしもそう思うんだっ」
 レピアはなんて書いたの?、とリースが尋ねると、ぺらりとレピアは短冊を見せる。
「えーと、『ソーンでずっと踊っていられますように』か。うん、あたしもそう願ってるよっ」
「ありがとう。ねぇ、これ飾り終わったら一緒に踊りましょう?冥夜も一緒に」
「うんっ!……って、冥夜は書き終わった?」
 リースが隣に座る冥夜の短冊を覗き込み、小さい文字でびっしりと何かが書かれているのを見て声を上げた。
「えっ……ちょっと細かくて読めないよ。それ全部願い事なの?」
「そ。だって一つになんて絞れなかったんだもんー」
「でもそれはちょっと織り姫も彦星も見えないんじゃないかな」
 レピアが苦笑しながら冥夜に告げると、暫く考えていた冥夜はもう一枚短冊を取り、『幸せになりますように』とだけ書いた。
「これで何が起こっても幸せいっぱい冥夜ちゃん!ダネ」
 リースとレピアは顔を見合わせて笑い出す。
「よくできました」
 ぎゅうっ、とレピアは冥夜の事を抱きしめ、豊満な胸で冥夜を包み込むと額に小さなキスを贈った。

 短冊を書き終えた人々は竹の方へと集まっていく。
 しかし何時の間にやら、ジークフリートがルーセルミィと同じ織姫姿になっていて、結んでいた髪の毛も下ろされていた。
「どうしたのー?ジーク、女装趣味?」
「あの……これは……」
 困惑顔のジークフリートの代わりにルーセルミィが自慢げに胸を張って告げる。
「ボクとよーこちゃんの合作。…ね?」
「俺様髪フェチーv」
 さらりとしたジークフリートの髪の毛を一束取り、軽くそれにキスをする葉子。
「サラサラ最高だよねーv」
 葉子とルーセルミィは結託して楽しんでいたらしい。
 エスメラルダも楽しそうに眺めている。
「いいんです、ボクは……」
 はぁ、と溜息を吐いたジークフリートだったが飾り付けられていく竹を見て楽しそうだ。
 そんなジークフリートとルーセルミィに忍び寄る魔の手。
「おぅおぅ、そこ二人そんなに俺様の同盟に入りたかったか。そうかそうか。俺は来るものは拒まず、何があってもでっかい親父の包容力で受け止めてやっからよ。どうだ、お前さん方をいつでも『イロモノ変身同盟』に歓迎するぜ」
 今から飾り付けようとする『腹黒同盟パンフ』と『男と女のイロモノ色恋沙汰腹黒親父大辞典』を手にしたオーマが二人に詰め寄る。
「えー、それってちょっとねぇ……それにイロモノってどういうこと?」
「そうですね、イロモノっていうのは……」
 イロモノという言葉に少々不服そうなルーセルミィとジークフリート。
「まぁ、何時でも大歓迎って事だ。さてと、これ飾ったら一発派手に行くとするか」
「師匠ーっ!これ、上の方に付けて上の方に」
 自分の飾りを付けてしまったオーマに、ばふっ、と抱きついた冥夜は自分の短冊を手渡し叫ぶ。
「おぅよ。まかせとけ。ところで冥夜、なんか見たいリクエストはあるか?せっかくの七夕だ。親父パワーで願い事の一つでも叶えてやるぜ」
「親父パワー?師匠なんだかすごいのも持ってるんだね。…見たいもの?うーん、そだな。
今日はいいや。だってこんなに楽しいし。それに具現化だっけ?あれで見せて貰うより師匠の笑顔見てる方が良いなぁ」
 ニッコリ、と冥夜が微笑んでオーマに言う。
 これはきっと冥夜のお返しだ。以前プレゼントは笑顔で良いと言われた時の。
「そうかそうか。そっちの方が良いか。それじゃぁ、今日の俺の笑顔を心ゆくまで堪能しとけ。さいっこうの笑みを見せてやるからよ」
「おーっ!そういうことなら任せておいてよね」
 ふふん、と得意気な表情を浮かべた冥夜はオーマの結んでくれている短冊を見上げた。


------<フィナーレ>--------------------------------------

「さぁってと、仕上げにやっぱりここは花火といくか」
「いいですね、風情があって」
 疾風がそれに賛同すると皆も頷く。
「こうやってだなぁ……そうだ、少し離れてろよ」
 ひょいといつもの具現能力で愛用の大きな銃器を取り出すと、ニヤリ、と笑みを浮かべたオーマは、皆が離れたのを確認すると星空へと一発撃ち込んだ。
 夜空に咲く大きな花。
 初めのうちは光が空に流れる美しい花火だったのだが、途中から何やら雲行きが怪しくなる。

「………恥………かかせ……ないで……くれる………死にたい……?」
 サモンの周りに冷徹なる空気が張りつめる。
 夜空には『親父道万歳!腹黒同盟&イロモノ変身同盟加入者大募集中!』という文字が。
「……ダ・ン・ナ?大募集しすぎじゃネェ?」
「全く……」
「凄い凝った花火です……ね」
「ねぇねぇ、どういう仕掛け?」
「あの……あれがイロモノというものなのでしょうか……」
「オーマ……相変わらずやること派手だね」
「師匠カッコいいーっ!」
「初めて見る仕掛けだね」
 様々な反応を見せる面々。
 そしてヤケに満足げなオーマ。
「よし、気分乗ったついでにここは一つ空の散歩といってみるか」
 全員まとめて遊覧飛行と洒落込もうじゃねぇか、とオーマはあっという間に巨大な銀色の獅子に変身すると皆の前に伏せる。
「ほらほらさっさと乗りやがれ。天の川までひとっ飛びだ」
「すっごいーい!なにコレなにコレ!師匠いつも大きいのに更に大きくなっちゃったよ」
 ほぅ、と冥夜は感嘆の溜息を漏らす。
「んじゃ、乗り込みますか」
 どこまでもマイペースなオーマに乗せられ、向かう先は空の旅。

 葉子とジークフリートと疾風は先にオーマの背に乗り、下から上がってくる皆をオーマの背へと引き上げる。
「ルーセちゃん、飛んだ方が早かったカネ」
 うーん、と葉子が言うと、いいのいいの、とルーセは葉子の手を掴む。
「さぁ、お手をどうぞ」
 疾風はレピアとエスメラルダと同時に引き上げる。
「あら、ありがと」
 くすり、と二人は微笑みながら疾風の手を取る。
 ジークフリートはリースとサモンを一人ずつ引き上げた。
「すごいねー、あ。でもサモンは見慣れてる?」
「……さぁ……」
 素っ気ない返事だったが、初めてであった頃よりは仲良くなれている気がしてリースは嬉しくなる。
 全員がオーマの背に乗ると、しっかり掴まってろよ、と言いながらオーマは空へと舞い上がった。
 大きな翼が羽ばたきどんどん上昇していく。
 月も星も近くなったような気がして、皆は空を仰いだ。
 その時レピアが、あ、と声を上げる。
「竹を流してやらなくちゃ」
「そういうこともするんでしたね、そういえば」
 疾風は頷き、オーマに告げる。
「先に竹を流してから空の旅は如何でしょう」
 そこでオーマは大きく周りこんで竹のある所まで飛んでいく。そしてその竹を咥えると流れる川へとそれを流してやった。
 竹に飾られた短冊や飾りに込められた想い。
 それらはゆっくりと流れ、そして空へと昇る。

「んじゃ、行くぞ」
 そう言うと再び空へと舞うオーマ。
「んー、気持ちいい☆」
 ルーセルミィは見下ろす風景を見て声をあげる。空など何時でも飛べるが、こうやって自分で飛ばずに高い場所から見下ろすのはそんなに多くはない。
「織女し 船乗りすらし 真澄鏡 清き月夜に雲起ちわたる…年に一度しか逢えなかったら俺なら他の女に乗り換え…の前に愛想尽かされそ」
 うひゃひゃ、と笑う葉子にルーセルミィが言う。
「えー、大丈夫だよ。ボクならそんなことないから♪」
「それはまた嬉しいネ」
 うんうん、と頷く葉子。

 レピアはバランス良く背の上で立ち上がると、リースとサモンと冥夜とエスメラルダを踊りへと誘う。
「まだまだ物足りない……踊りましょう」
「えぇっ。でも落ちちゃったら……」
 リースが声を上げるとレピアが言った。
「平気。こうやって抱きしめててあげるから」
 近くにいた冥夜を抱きしめ身体を密着したまま踊り出す。
 まんざらでもない様子で冥夜もレピアの踊りに合わせて踊り始めた。
「そうねぇ、落ちてもあそこに飛べる人たちいるし、大丈夫でしょ。それに空の上での踊りなんて滅多に出来ないわよ」
 エスメラルダもサモンとリースの手を取り踊り出す。

「皆さん、元気ですねぇ」
「でもこうして眺めていると幸せだなぁと感じますね」
 まったりとそんな光景を眺めている疾風とジークフリート。
 ジークフリートはその踊りにあわせるように歌を歌い始める。
 それは夜空に響いた。
 引きずられるように踊っていたサモンは、その手をそっと外しジークフリートの傍へとやってきて座る。
「どうしました?」
「………歌………続けて………」
 首を傾げたジークフリートだったが、すぐに歌を紡ぎ始める。
 その横でサモンは膝を抱えそっと瞳を閉じた。


 その騒ぎは夜明けまで続き、陽の光が世に溢れ始める。
 するとレピアはゆっくりと石化していき、ついには灰色の石像に変わってしまった。
「えっ……レピア?」
 今まで一緒に踊っていた冥夜はレピアに駆け寄る。
「あぁ、レピアはねこういう体質なの。……冥夜ちゃんとレピアの事連れて行ってくれるわよね」
「うん。もちろん。でも今日は楽しかった」
 満足そうに頷く冥夜。
 周りの面々も楽しんだようだ。
「また来年もやりたいね」
 えへへ、と笑った冥夜の笑顔につられ、皆小さな微笑みを浮かべた。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り
●2181/天護・疾風/男性/27歳/封護
●1125/リース・エルーシア/女性/17歳/言霊師
●1353/葉子・S・ミルノルソルン/男性/156歳/悪魔業+紅茶屋バイト
●2079/サモン・シュヴァルツ/女性/13歳/ヴァンサー
●1926/レピア・浮桜/女性/23歳/傾国の踊り子
●1411/ルーセルミィ/男性/12歳/神官戦士(兼 酒場の給仕)

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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。夕凪沙久夜です。
この度は七夕祭りにご参加いただきアリガトウございます。

皆を連れて空の旅。
最後にこれもってこられるとは思ってませんでした。(笑)
おかげさまで地上での七夕祭りと空での七夕祭りを楽しむ事が出来ました。
ありがとうございます。
花火も親父色満載でしたでしょうか?
どうも今回やられキャラになってしまっているのですが、楽しんで頂ければ幸いです。

これからも今後のご活躍応援しております。
オーマさんにはまたしてもたくさんお申し込み頂いているので、そちらでも親父イロモノなんでも混ぜ込んだものをお届けしたいと思いますのでおまちくださいませ。
ありがとうございました。