<PCクエストノベル(4人)>


ソーン全国サイコロの旅 〜第8夜〜

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 1184 / バンジョー 玉三郎 / 男
            / 魔皇 / 40 / 映画監督 】
【 1185 / バンジョー 英二 / 男
              / 魔皇 / 30 / 俳優 】
【 1333 / 熟死乃 / 男
 / ナイトノワール / 43 / ディレクター兼カメラマン 】
【 1334 / 不死叢 / 男
 / フェアリーテイル / 37 / ディレクター兼ナレーター 】

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●前枠〜前回までのあらすじ【0】
 どこかの串焼き屋台前――。
 ナイトノワールの逢魔・熟死乃は串焼き屋台を画面奥に据え、ビデオカメラを回し始めていた。
 そこへ画面右より魔皇であるバンジョー兄弟の兄・玉三郎が画面手前にすっと入り込んでくる。
玉三郎:「こんばんは、バンジョー玉三郎です。ソーン全国サイコロの旅も、ついに第8夜を迎えました」
 挨拶をし、そのまま玉三郎はこれまでのあらすじについて触れ始めた。
玉三郎:「えー、我々黄金の楽器を求めてこれまであちこちと回って参りました。移動に継ぐ移動で、ご覧の通り着実に我々はやられております」
 と言って、玉三郎はやれやれといった様子で首をぐるんと回す。気のせいか、玉三郎の両目が酷く充血していた。
玉三郎:「さすがにこれはいかんということで、海人の村・フェデラではチャンスタイムが設定され、不肖わたくし玉三郎がサイコロを振ったのですが――」
 天を仰ぎ、一瞬タメを作る玉三郎。
玉三郎:「――残念ながらチャンスタイムを活かすことが出来ず、我々は底無しのヴォー沼へ向かうことになってしまいました」
英二:「梅は〜♪」
 その時、画面奥の串焼き屋台前に左から魔皇であるバンジョー兄弟の弟・英二が何やら歌いながらすっと入り込んできた。
 その姿は何故か和服――言うなれば若旦那姿で、手には扇子、口の回りから顎にかけては青ヒゲのようなメイクを施していた。
英二:「底無しのヴォー沼には多数のお宝が眠っているそうどすえ〜。もしかしたら、黄金の楽器もあるかもしれまへんな〜」
 カメラの方を向き、広げた扇子で軽くパタパタと扇ぎながら言い放つ英二。
玉三郎:「さあ、我々に奇跡が起こるのでしょうか。それではソーン全国サイコロの旅、第8夜スタートです」
英二:「もっとも過酷な1日、スタートしますえ〜」
 英二はそう言うと、串焼き屋台から肉の串焼きを1本取って、串焼き屋台の親父に何やらゼスチャーを見せてから画面左へフレームアウトしてしまった。
 すると、串焼き屋台の親父が屋台を出て玉三郎の方へやってきて、トントンと玉三郎の肩を叩いた。
玉三郎:「はいっ?」
屋台の親父:「串焼きの代金」
 すっと手を差し出す屋台の親父。
玉三郎:「は?」
屋台の親父:「さっき、向こうに居る番頭から代金をもらってくれって言われたんだよ」
玉三郎:「はあ……」
 何か納得いかない様子ながらも、言われた通り代金を支払おうとする玉三郎。それを見ながら、げらっげらっと笑うのはフェアリーテイルの逢魔・不死叢であった。
不死叢:「うひゃひゃひゃひゃ! いやぁ、さすがは若旦那ですなぁ……ひゃひゃひゃ! 支払いは共の者という訳ですなぁ」
 それでは本編スタート――。

●イメージひっくり返り【1】
 新たな行き先である底無しのヴォー沼は、海人の村・フェデラから見てかなり南方にあった。一行は馬車や馬を休みなく乗り継いで底無しのヴォー沼を目指した。
 その結果、一行が底無しのヴォー沼に到着したのは3日後の朝のことであった。沼をバックに熟死乃のカメラの前に立つバンジョー兄弟。
玉三郎:「さて。我々、ようやく底無しのヴォー沼にやって参りました」
英二:「今回、今までで一番長い移動だったんでないかい?」
玉三郎:「いやあ、遠かったし、長かった」
英二:「けど、どうせ使われてるのなんかほんの一瞬なんだ。下手すりゃ1秒もないぞ? お茶の間の皆さん、本番は移動してる時なんだよぉ?」
玉三郎:「まあそれはそれとして、見てください、後ろに広がるこの沼を」
 と言い、玉三郎が沼を指し示した。沼の色はどんよりとして、中はろくすっぽ見えやしない。さすが『底無し』と言われる沼である。
英二:「いやぁ、これはまた凄いですねぇ」
 感嘆する英二。けれども視線はちらちらと、周囲に向いていた。
玉三郎:「おや、どうしました? 何だかそわそわしてるようですけど」
英二:「あのねぇ。僕ねぇ、底無し沼って聞いたから、『ああ、さぞかし寂しい場所なんだなぁ』って思ってたの」
玉三郎:「はいはい、よく分かります」
英二:「けどさぁ、来てみて僕ぁ驚いたね」
玉三郎:「ほほう、それはまたどうしてですか?」
 何やらしらじらしい口調の玉三郎。
英二:「うーん、これは見てもらった方が早いかなぁ。どうだい、不死叢くん?」
 苦笑いを浮かべる英二。
不死叢:「そらぁ見てもらった方がいいでしょうなぁ」
英二:「熟死ーもいいかい?」
熟死乃:「いいよぉ」
 熟死乃はそう答えると、カメラを右へ大きくパーンした。そして映し出されたのは寂し気な森などではなく、何と多く軒を並べる屋台という光景であった。
英二:「ここ、どっかのお祭り会場かい?」
 バンジョー兄弟がカメラの前に移動してきた。
不死叢:「ですなぁ。露店があるとはありましたが、ここまでとは驚きですなぁ」
 『ソーン観光ガイドマップ』をカメラの前にすっと出す不死叢。たちまちバンジョー兄弟が映らなくなる。
英二:「おいおい、不死叢くん。それじゃあ僕たちが映んないじゃないかぁ?」
不死叢:「おお、それは失礼しました魔皇様」
 慌てて『ソーン観光ガイドマップ』を引っ込める不死叢。再度カメラに映るバンジョー兄弟。
玉三郎:「しかし、何でここまで屋台があるんでしょうねえ?」
 素朴な疑問を口にする玉三郎。確かに、単なる底無し沼であるならばこんなに屋台が数あるはずもない。
不死叢:「何でもですなぁ、沼の下に多数のお宝が眠っているらしいんですよぉ。それで実際に生還した人も居るようで、そういう人たちが集まってきたんですなぁ。人が集まれば当然のことながら、その人たち相手に商売する人も来るという訳なんでしょうなぁ」
玉三郎:「はあはあ、なるほど。言われてみれば、食べ物の屋台だけでなく、武器やら何やらを売っている屋台もちらほらと……」
 屋台を見回す玉三郎。基本的な装備であれば、ここの屋台だけで十分に事足りそうであった。
英二:「で、僕らはここで何するんだい?」
不死叢:「ま、ま。それを説明する前に、まずは腹ごしらえをしましょう。腹が減っては戦が出来ぬと申しますし。それに見てください、美味しそうな物を売ってる屋台も多いですよぉ」
英二:「うん、不死叢くん。それは正しいね。僕らは食べ物にはうるさいよぉ?」
玉三郎:「移動が移動ですからねえ」
 英二の言葉にうんうんと頷く玉三郎。
不死叢:「『食事くらいはいいもん食わせろ、この野郎』ということですな?」
英二:「よーく分かってるじゃないか、不死叢くん。だったら、とっとと食わせなさいよぉ。食わせろよぉ、ヒゲ」
不死叢:「お、何だ? スズムシが飯の前に一戦やらかす気か?」
玉三郎:「まあまあまあまあ」
 危うく罵り合いが始まりそうな所を、玉三郎が割って入った。
玉三郎:「さて、お茶の間の皆さんには、空腹だと人間がいかに醜くなるか見ていただいた訳ですが」
英二:「うん、そうだね兄さん。いやぁ、危なかった。醜い姿を見せる所だったよ」
不死叢:「危ない所でしたなぁ。では……そろそろ屋台の方へ」
 上手く不死叢がまとめた所で、一行は屋台の食べ物に舌鼓を打つことになったのだった。
 数ある食べ物の屋台の中で、一行が一番お気に入りだったのは、串焼きの屋台であった。肉やら魚やら野菜やらを串に刺して、焼いて売っているのである。
玉三郎:「この肉はジューシーですねえ。噛むと口の中に肉汁が……」
不死叢:「この肉うめぇ!」
英二:「素材の本来持つ味を活かしてるっていうのかな……」
不死叢:「うめぇってこれ! もう1本食べていいかい?」
玉三郎:「塩だけで十分美味しくて……」
不死叢:「ほんっとうめぇなぁ!!」
英二:「うるさいよっ!!」
 度重なる不死叢の感想に、英二がぷちっと切れて叫んだ。
英二:「おいヒゲ。俺たちがいいコメントしてんだろぉ? 君の声の方が、俺たちのコメントより大きいんだよっ!!」
不死叢:「だってうめぇんだもん。こないだのエビチリとかシーフードパスタとは雲泥の差だよ?」
英二:「ほぉ、そうかい。よーし分かった。おい熟死ー、V止めろぉ。僕ぁ今から、このヒゲをやっつけてやるんだぁ。パスタで首締めてやるから覚悟しろよぉ」
 ……とまあ、ちょっとした諍いはあったものの、一行は屋台の美味しい食べ物で腹を満たしたのであった。

●泳げバンジョー兄弟【2】
 屋台での食事後、再び沼を背にして熟死乃のカメラの前に立つバンジョー兄弟。
玉三郎:「我々無事に食事を終えました」
英二:「非常に満足でぇ、ございます」
 さすが美味しい食事後、2人の顔に精気が戻ってきていた。
不死叢:「お2人とも、満腹のようですなぁ」
英二:「そうだね、お腹は膨らんだね」
玉三郎:「ちょっと腹ごなしに運動でもしたい気分ですね」
 腹をさすりながら、何気なく言い放つ玉三郎。それを聞き、不死叢がすかさず言った。
不死叢:「おや、今何とおっしゃいましたか、玉三郎魔皇様?」
玉三郎:「は? だから、腹ごなしに運動でも……」
不死叢:「さすがですなぁ。実は用意してあります」
玉三郎:「え? 用意してあるんですか?」
不死叢:「こちらです!」
 そう言い、不死叢はバンジョー兄弟に海パンを差し出した。
英二:「えーと、不死叢くんだったっけ?」
不死叢:「はい、不死叢ですよぉ」
英二:「これは何?」
不死叢:「海パンですが、何か?」
英二:「海パンは分かるけど、これで何しろっていうんだい? まさか、底無し沼で泳げって言うんじゃないだろうねぇ」
不死叢:「そのまさかです」
英二:「そんなの無理に決まってんだろぉ! 底がないんだぞ? 潜ったら一完の終わりじゃないかぁ!」
不死叢:「大丈夫です。ロープで身体を縛り付けて潜ってもらいますから。合図があれば、僕らが引っ張り上げます」
英二:「君の大丈夫は全然大丈夫じゃないんだよぉ! それに息はどうすんだよ! そんなに長く潜れねぇぞ!」
玉三郎:「あれ? フェデラで『水中呼吸薬』と『ふやけ防止の塗り薬』買い占めてなかったっけ?」
 英二が必死に抗議する中、思い出さなくてもいいことを思い出す玉三郎。
英二:「あっ……」
 瞬く間に、英二がしまったといった表情を見せた。
英二:「……何で買い占めたんだろ、俺……」
 後悔先に立たずとはまさにこのことである。
 そして――およそ20分後。
不死叢:「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
 不死叢の大爆笑の中、海パン1枚となったバンジョー兄弟がカメラの前に戻ってきた。もちろん『水中呼吸薬』と『ふやけ防止の塗り薬』は使用済みである。
英二:「はい、どうもぉ。バンジョー改め海パン兄弟の弟、英二でぇございます」
玉三郎:「同じく海パン兄弟の兄、玉三郎でございます」
不死叢:「かっ、改名したんですかっ!? ひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
英二:「当たり前だろぉ。この姿のどこにバンジョーあるんだよ。バンジョーなんかかけらもありゃしねぇ」
玉三郎:「いや、別に僕はこの格好でバンジョー持ったっていいよ?」
不死叢:「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
英二:「捕まるよぉっ!」
不死叢:「ひゃひゃっ……と、ともかく潜ってもらいましょう……うひゃひゃひゃ……」
英二:「どっちが先だい?」
不死叢:「そっ、そりゃあ当然若い人から……ひゃひゃひゃ……」
 という訳で、英二が先に潜ることとなった。
 ロープを身体にぐるぐると縛り付け、準備完了の英二。どんどんと胸を叩いて心臓マッサージをするのはお約束。
英二:「いいかい、僕が合図したらすぐに引っ張ってくれよぉ」
不死叢:「分かってますよぉ。僕らはビシッと引き上げますからぁ」
英二:「……なーんか信用出来ねぇんだよなぁ」
 そう言い残し、英二はドボンと沼へ飛び込んでいった。長い長いロープが、するすると沼の中へ入ってゆく。ロープの端を木に括り付けていなければ、全部入ってしまうのではと思えるほどであった。
不死叢:「では我々は休憩しながら合図を待つとしましょう」
 すると真っ先にカメラの位置が下がった。熟死乃が座ってしまったのである。
玉三郎:「これ今、足しか映ってませんよね?」
 玉三郎が確かめるように言う。その通り、カメラには玉三郎の足しか映っていなかった。
 英二が沼に入って3時間ほど経ったろうか。待っている一同がうつらうつらしていると、くいくいっと沼の中からロープが引っ張られた。英二の合図だ。
玉三郎:「お、合図が来ましたね」
不死叢:「じゃあ引っ張り上げましょうかぁ。熟死乃くん、そろそろ引き上げるから起きて下さい」
熟死乃:「…………」
 だが不死叢が声をかけても、熟死乃の返事はない。
不死叢:「熟死乃くん?」
熟死乃:「……あっ」
 再度名を呼ばれ、短くつぶやく熟死乃。明らかに寝ていたようだ。そして起きた熟死乃を加え、3人で英二を引っ張り上げた。
英二:「合図したらすぐ引っ張れよ!」
 引っ張り上げられた英二が開口一番叫んだ。それもそのはず、合図してから実際に引っ張り上げられるまで多少間があったのだから。
不死叢:「すみません、熟死乃くん寝てました」
英二:「熟死乃くん寝てたんですかぁ!?」
玉三郎:「ええ、熟死乃くん寝てました」
熟死乃:「ごめん、寝てた」
英二:「……熟死ーじゃあ仕方ないかなぁ」
 渋い顔ながらも、何とか怒りを抑える英二。
不死叢:「英二魔皇様。中はどうでしたか?」
 肝心の話を英二に振る不死叢。単に中に入って終わりという訳ではないのだ。
英二:「なーんも見えません。さすが底無しだと、この身体でひしひしと感じました」
 なるほど、視界は非常によくないらしい。つまり、障害物があっても即座に対応するのは難しいようだ。
不死叢:「では、次は玉三郎魔皇様に潜ってもらいましょう」
英二:「あのねぇ、あちこち触った感じ、木が沈んでたりするから。結構危険です」
 自らの実感を伝える英二。ロープがそんな木にでも引っかかったら一大事であろう。
玉三郎:「それでは行ってきます」
 先程の英二同様ロープを身体にぐるぐると縛り付けた玉三郎は、ドボンと沼へ飛び込んでいった。やはりするすると、長い長いロープが沼の中へ入ってゆく。
 残された3人はまた待ちへ入る。そして4時間ちょっと経った頃である。くいくいっと中からロープが引っ張られたのは。玉三郎が合図したのだ。
英二:「熟死ー、起きてるかい?」
不死叢:「熟死乃くん、起きてますか?」
 英二と不死叢、2人同時に言い放つ。
熟死乃:「起きてるって」
 熟死乃が起きていることが分かって、まずは一安心。3人は玉三郎を引っ張り上げるべく、ロープを握り締めた。
 ゆっくりとゆっくりとロープを引っ張り上げてゆく3人。少しして、がくんとロープが止まった。
不死叢:「おや?」
英二:「不死叢くん、今何か変な手応えなかったかい?」
不死叢:「言われてみればそうですなぁ」
熟死乃:「ボクも感じたぞ、不死叢くん」
 首を傾げながら、引っ張り上げるのを再開する3人。ところが、ロープがびくとも動かない。
不死叢:「おや、動きませんなぁ……」
熟死乃:「こら、木にでも引っかかったんじゃないかい?」
英二:「木に引っかかったって……あっ、くいくい合図が来てます! ロープは生きてます!」
不死叢:「まああれです。薬の効果は1日持つようですから、時間をかけてでも何とかしましょう。まだ4時間ほどですしなぁ」
 のんびりと時間をかけて、このアクシデントを解消しようと考えるディレクター・不死叢。しかし、もう1人のディレクターである熟死乃が英二を指差してこんなことを言った。
熟死乃:「けど、不死叢くん。その前にこの人が3時間以上潜ってたろ?」
不死叢:「あっ」
英二:「おい、そうだよ! 俺の3時間単純に足しても、もう7時間経ってんだよ! 諸々加えたら8時間になるぞ!? だいたいあの薬、本当に1日も持つのか!?」
 慌て出す英二。言っていることはもっともであった。
不死叢:「何とかしませんとなぁ……」
 結局ここから2時間近く何とかしようと試みていたが、3人だけでは限界があると感じ、屋台の人たちにも手伝ってもらい、どうにか玉三郎を引っ張り上げることに成功したのだった。
玉三郎:「……合図したのに……」
 引っ張り上げられた後、非常にくたびれた表情で玉三郎がぽつりつぶやいたのがとても哀しく印象的であった……。

●底無しのヴォー沼決戦〜第8の選択【3】
玉三郎:「こんなとこ、とっとと脱出しましょう」
 目を酷く充血させ、全身ずぶ濡れの海パン1枚の姿で言い放つ玉三郎。ようやくのサイコロタイムだ。
不死叢:「ではこれを」
 そう言い、不死叢が行き先の書かれた羊皮紙を英二に手渡した。英二ももちろん海パン1枚の姿である。
英二:「第8の選択……って、おい! 正気か不死叢くん!?」
 英二は目を剥き、驚いた様子で不死叢に確認した。
不死叢:「正気ですよぉ。早く読んでください」
玉三郎:「ど、どんな行き先なんですかっ?」
 玉三郎にしてみれば、気が気ではない。これ以上とんでもない行き先があるというのだろうか?
英二:「えー、第8の選択!
 1! 大蜘蛛の住処・クーガ湿地帯!
 2! 目指せ機械文明・機獣遺跡!
 3! 今度こそ探索・強王の迷宮!
 4! アンデッドうようよ・ムンゲの地下墓地!
 5! 時空に挑め・ダルダロスの黒夜塔!
 6! 楽器の名産地・クレモナーラ村!」玉三郎:「はあっ!?」
 今度は玉三郎が目を剥いた。
玉三郎:「無理無理っ、出ないって!」
英二:「この人、5/6が出せないんだぞ? 1/6なんか出せる訳ないだろぉ!」
 口々に不死叢に抗議する玉三郎と英二。
不死叢:「これを振り払わなきゃ、一生ダメ人間がついて回りますよ? いいんですかぁ?」
 そう言われてしまっては、返す言葉などありゃしない。ややあって、玉三郎が決心した様子で言った。
玉三郎:「分かりました。この1投に、全てをかけてみたいと思います。僕が振ります!」
不死叢:「お願いします!」
 サイコロを玉三郎に手渡す不死叢。玉三郎がそれをぎゅっと握り締めた。
玉三郎:「それではサイコロ第8投……いきます!」
英二:「何が出るかな、何が出るかな!」
 いつものごとく踊る英二を横目に、玉三郎が勢いよくサイコロを振った。熟死乃のカメラが転がるサイコロを追いかけ――止まった。
 出た目は6。6といえば……。
英二:「クレモナーラ村じゃないかいっ?」
不死叢:「そうだよぉっ、クレモナーラ村だよぉっ!!」
英二:「兄さん、出たよぉっ!! 兄さんはもうダメ人間なんかじゃないよぉっ!!」
 狂喜乱舞の英二と不死叢。しかしサイコロを振った当人である玉三郎は、呆然として放心状態であった。きっと今までのことが脳裏に浮かんできているのだろう。
玉三郎:「…………」
 自分でも信じられないといった様子の玉三郎。今までの酷い出目を思えば、それも当然かもしれない。
不死叢:「じゃ、じゃ、じゃあっ、行きますよぉっ! いよいよクレモナーラ村です!!」
 かくて一行は、楽器の名産地・クレモナーラ村へついに向かうこととなったのだった――。

●後枠〜次回予告?【4】
 底無しのヴォー沼の串焼き屋台前――。
 玉三郎が熟死乃の回すカメラの前に立っていた。
玉三郎:「さあっ、ついに我々は楽器の名産地であるクレモナーラ村に行くことになりましたっ! もうダメ人間なんかじゃありませんっ!!」
 玉三郎は両手を大きく上げ、意気揚々と言い放った。よほど嬉しかったに違いない。
玉三郎:「クレモナーラ村で我々は、目的の黄金の楽器を探し出すことが出来るのでしょうか? 次回、乞うご期待です!!」
 そう言って後枠を締めようとする玉三郎。そこへひょっこり若旦那姿の英二が、カメラの前に顔を出した。アップになる英二。
英二:「何やら、終わりが見えてきたような気がしますえ〜」
 さて、それが本当になるかどうかを知るのは、サイコロの神様のみである――。

【ソーン全国サイコロの旅 〜第8夜〜 おしまい】