<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


星夜の七夕祭り


------<オープニング>--------------------------------------

「たのもー!」

 どかどかっ、と物凄い音がして黒山羊亭の扉はぶち破られた。
 そこには、よっこらせ、と太く長い竹をもった冥夜が、にゃはっ、と笑顔を浮かべながら立っている。
「ちょっと!何が『たのもー』よ!今度は何処の国に感化されてるの。しかもいきなり店壊さないでくれる?おまけになんだい、それは!」
 エスメラルダが竹を指さしながら冥夜にまくし立てると、それをずるずると引きずったまま冥夜は黒山羊亭へと入ってきた。
「外に置けばいいだろう、外に!」
「えー、だって説明しなきゃ駄目じゃないの?最近七夕っていうものがあるって知ってさ、それをここでやっちゃおうって思ったわけ。んで、一生懸命竹を探してきたんだ」
「七夕って……あれかい?一年に一度恋人が会えるとかいうお伽話みたいな……」
「うん。でもそんな会えるとか会えないとかはどうでも良くって、七夕をダシに騒ごうって思っただけなんだけど。でもせっかくだから雰囲気だけでも味わいたいじゃん。だから竹。これにほら短冊だっけ?願い事とか考えて括り付けて皆のさらし者にしちゃえーとか」
 楽しみ楽しみ、となんだか笑顔で恐ろしいことを言っている冥夜。
 はぁ、と冥夜の言葉にエスメラルダは頭を抱える。
「あんたと話してるとだんだん具合が悪くなってくるのは気のせいかしらね」
 ぽんぽん、と今まで黙っていたジークフリートがエスメラルダの肩を叩く。
「仕方ないんですよ、冥夜は台風みたいな子ですから」
「ん?あ、ジークも居たんだ。もっちろんジークも参加だよね」
 にたり、とジークに気づいた冥夜は笑みを浮かべると、竹をほったらかしにしジークの腕に絡みつく。
「えっ……ボクも…参加……なんですか?」
「当たり前じゃん。もち、エスメラルダもだから。だって主催だもん」
「え?ちょっと……黒山羊亭主催?」
「そだよ。だってここが夜一番人が集まるんだもん。それと……話にちなんで7/7に開催ね。さぁって何人集まるかなぁ……」
 早速張り紙張り紙ー、と冥夜は他の人物の意見を聞くこともなく、鞄の中から紙を取りだし勝手に参加者募集のチラシを書き始めたのだった。


------<愛の家族劇場>--------------------------------------

 音の流れに身を任せる時間。
 それらはゆっくりとサモン・シュヴァルツの意識を柔らかく包み込んでいく。
 サモンを取り囲んでいる意識が音楽に溶け、そして緩やかな流れで霧散する。
 その音の中にいるのがサモンは好きだった。
 たくさんの想いが込められた歌詞と曲。
 話す言葉を介して告げられるよりももっと強い想いが溢れている。
 心を揺さぶる響きがある。

 しかしその音楽だけが響く静寂を破った者が居た。
 思い切り家のドアを開け放ったオーマは、サモンの姿を見つけると駆け寄りその隣に、どかっ、と腰を下ろす。
 それだけでもサモンの機嫌を損ねるのには十分だったのだが、オーマは胸元から一枚の紙を取り出すとそれをサモンに見せまくし立てた。
「おぅ、ちょっと話があるんだがな。この七夕祭りに行ってみようっていう気はねぇか?そりゃぁもうドッキドキで胸ワクワク桃源郷が広がってるハズなんだがね。七夕にゃ色々伝説もある様だが、何処ぞの御国の伝説がとある所に伝わってよ、そこに古来からあった水の神さんを迎える行事と合わさったのが始まりってかね。大昔に比べりゃその形態も相当に簡略化されちまったみてぇだがよ、民間信仰の中じゃ七夕が祓いも兼ねてたらしいぜ。まぁ、その歴史たるや長くも深ぇアレだが今となっちゃぁ、男と女のイロモノドリームラヴロマンスの象徴ってヤツだよなぁ?どうだ、一緒に行く気は……」
 オーマがサモンを誘ったところで、ぶわっとサモンの背後に広がるただならぬ気配を纏った美しき銀色の龍。
 それらはサモンの意思によってオーマへと狙いを定めると、間髪入れずにその力を叩き付けた。
 しかしサモンも屋内だという認識はあった為、多少手加減していた。多少手加減したところで、威力は半減するところまではいかない。
 まさかこの様なタイミングで攻撃されると思っていなかったオーマは、受け身を取る事もなくそのまま床の上を転がり戸口まで吹っ飛ばされる。
 扉に激突したところでその身体は止まった。

「……………煩いよ…………邪魔……しないで」
 そして何事もなかったかのように瞳を閉じ、サモンは流れる音楽に身を委ねる。
 ピクピクと動くオーマだったが、次の瞬間、戸口を開け入ってきた人物に思い切り脳天直撃で蹴りを入れられ、そのまま追い打ちをかけるように踏みつけられる。
 おや、なんだそこにいたのかい、という声が聞こえサモンは瞳を開けた。

「………おかえり……」
 戸口にいたのは自分の母親だった。
 その母親はオーマを踏みつけたまま嫣然と微笑む。
 なんかあったのかい、と聞かれサモンは母親にオーマが持ってきた紙を指し示した。
 行ってきたらいいじゃないか、と言われサモンは首を振る。
「………「七夕」……?……別に…興味無いし………どうでもいいよ…。て…言うかさ…何で僕が………しかもあいつと一緒に………………」
 いいからいっといで、とまだ何か言いたげなサモンの頭をくしゃくしゃに掻き回して、楽しんでくるといい、と告げた。


------<ソーン風七夕祭り>--------------------------------------

 七夕当日の夜、黒山羊亭に各々が準備した七夕飾りを持ち寄り参加者が集まった。

 目の前で知人と話しているオーマの影でサモンは初めて訪れた黒山羊亭を静かに観察していた。
 人々の賑わいは統一性はないものの、楽しげでたくさんの想いが溢れている。
「………すごい………ね……」
 ぽつり、と呟いたサモンは以前『羽兎』で顔を合わせた人物を発見しそちらに視線を向けた。
 その瞬間、オーマに突然抱き寄せられサモンは迷うことなく回し蹴りをオーマに喰らわせている。
 相変わらず間髪入れずに攻撃を喰らわせるため、オーマは防ぎようが無くそのまま吹っ飛ぶ。
 ニヤニヤと笑みを浮かべた葉子がオーマの元に飛んでいくのを見ながら、再びサモンはリースと羽ウサギのみるくに目を向けた。
 するとリースもサモンに気づいたのか、ヒラヒラと手を振りながらやってくる。
「こんばんは、サモンも七夕祭りに来たんだね」
 ニッコリとサモンに微笑みかけたリースは、みるくもご挨拶、と肩に留まっているみるくに声をかける。
 みるくはふよふよと飛び、サモンの肩の上に留まると、みゅう、と一声鳴いた。
「………こんばん……は……」
 リースとみるくに微かな笑みを浮かべたサモンは小さく告げる。
「今日は楽しもうね。なんかね、色々美味しいものあるみたいだし楽しみにしてたんだ」
 そこへ突然現れる賑やかな人物。
「あーっ!新しい子発見!コンバンハ、アタシ冥夜。えーっと……よろしくね!」
「……よろしく……」
「あ、冥夜。あのね、サモンはオーマの娘さんなの」
 リースが言葉少ないサモンのフォローをして冥夜にサモンを紹介する。
「え?師匠の?そうなんだ、アタシ師匠に弟子入りしてるんだー。師匠すっごい強いよねー」
「……オーマに………?……やめた……方が……いい……」
 一瞬ぎこちない表情を浮かべたサモンは冥夜に告げる。
「ん?そなの?……でもいーや。師匠面白いし」
 くるん、とその場で一回転すると、今日は楽しもうねー、と告げ冥夜は慌ただしく葉子とオーマの元に駆けていく。
「………強い……想い……」
 サモンはちらりと冥夜の方を向き、肩に留まるみるくをそっと撫でた。

 それから冥夜はまるで自分が主催であるかのようにてきぱきと指示し人々を上へと上げる。
「葉子ちゃんとジークはここで皆の誘導お願いね。んで、リースとサモンは上で待ってて。あたしと疾風とエスメラルダは一緒にここで飾り作り」
「オーケーオーケー。んじゃ、また後で会いまショ」
 ひらりひらりと手を振る葉子に見送られながら、リースとサモンとオーマは黒山羊亭を後にした。

「……どうして……ここに……?」
 サモンは隣を歩くリースに尋ねる。オーマは既に竹を持って他の場所へと消えている。
「何がかな?どうしてって……サモンと一緒にここにいる事?」
 小さく頷くサモンにリースは全開の笑顔を浮かべる。
「それは仲良くなりたいからだよ」
 真っ直ぐなリースの言葉にサモンははっとしたように一瞬目を見開く。
「……仲良く………」
「あたしはサモンと仲良くなりたいな。たくさんお話ししたいし。……七夕祭りが終わってもまた一緒に遊ぼうよ」
 ね、とリースが笑うと、未だサモンの肩の上に乗っているみるくが、みゅう、と賛同するように鳴いた。
 リースとみるくを見てサモンは小さく頷くとうっすらと頬を赤らめた。
「良かったー。それじゃこれからもよろしくね」
 リースの笑顔はサモンの心に小さな暖かさを与えた。

 そんな話をしているとエスメラルダ達が上がってくる。
 そして目の前に現れた踊り子の衣装を着た魅惑的なレピアを見つけたエスメラルダが声を上げた。
 二人は楽しそうに会話をしていたが、やがて人々の中心で踊り始める。

 まるで競い合うかのように激しく、そして情熱的にリズムを刻む。
 外に出てきたリース達はその二人の踊りを見つめ、うっとりとする。
 言葉にはならないその思いが二人の踊りから溢れてくるようだった。

「……すごい………ね……」
「うん、こんなに近くで見た事無かったからちょっとびっくり」
 レピアとエスメラルダの踊りは場を盛り上げ、そして熱狂の渦に巻き込んでいく。
「たいしたもんだ」
 いつの間にか戻ってきていたオーマも感嘆の溜息を吐く。
 オーマの隣にやってきた葉子に視線を向けたサモンだったが、気にした様子もなく再び踊りに魅入る。
 しかしすぐにその踊りは終わりを告げ、小さな溜息を吐いた。
 するとオーマが皆に声をかける。
「なんだかようこの奴が呼んでるみてぇだぞ。食い物もあったみてぇだから行くのが吉かね」
「そうですね、いってみましょう」
 疾風の言葉に頷いて、全員葉子の待つテーブルへと歩き出した。

 やってきた参加者達に葉子はお茶を振る舞うと楽しげに鼻歌を歌い出す。
「美味しい……」
 それぞれがそのお茶とお茶菓子に舌鼓をうつ。
「それはドウモ。ところで、冥夜ちゃん。短冊と飾りは?」
「あーっ!忘れてた!早速飾ろう、飾ろう!メインイベントだし」
 冥夜の言葉でそれぞれが持ってきたものをテーブルの上に並べ始める。
 そして冥夜はまだなにも書かれていない短冊を乗せる。
「それじゃ短冊書きたい人は書いて、飾り付ける人は飾り付けてね〜」
 アタシは短冊ー、と冥夜は紙を手にする。
 オーマとリースとレピアと葉子が短冊組で、サモンとルーセルミィと疾風とジークフリートとエスメラルダが飾り組だった。
 短冊を書こうとしないサモンに、オーマはサモン用に持ってきた「どきどきうっふん☆レディへの道解体真書」を手渡す。
「ほら、サモン。これをだな、あの竹に気合いを入れて飾り付ければお前もしっかりレディへの道が開けるハズだ…ってか、いきなり親父の胸トキメキスマートレディ計画を消しやがるのかっ!」
 サモンの手に乗った瞬間、それはあっという間に具現能力で消滅する。
「………オーマ……の……いらない……こっちが……いい……」
 そう言ってサモンは母親に持たせられた、犬・獅子・龍の三匹が仲睦まじそうにしている掌サイズのクリスタル細工を、きゅっ、と握りしめ竹の前へと歩いていった。

 ルーセルミィは手にクリスマスツリーに飾るキラキラとしたモールを手にし、それを見つめる疾風とジークフリートと何やら話し込んでいた。ちらりとサモンもそちらを眺めるがすぐに竹へと視線を移した。

 サモンは目の前の竹を仰ぎ見る。
 それは高く空にまで届きそうにも思えた。
「星が綺麗な晩だね」
 サモンの隣にエスメラルダが立つ。
「……綺麗……?」
 首を傾げてサモンはエスメラルダを見た。
「あぁ、降ってきそうな星空だよ。こういうのをあんたたちの世界では『綺麗』って言わないのかしらね」
 くすり、と微笑んだエスメラルダに何かを考え込むような表情を浮かべたサモンはぽつりと呟く。
「……違わ……ない………かも……しれ……ない……」
「だったら素直に綺麗でいいじゃないか。ま、一括りにしたくないって気持ちも分かるけどね」
 さぁてと、とエスメラルダは持っているてるてる坊主を枝に付け始める。
「たくさん作ったからね、せっかくだから全部飾ってしまおうか」
 何が楽しいのかエスメラルダは笑顔を浮かべながらそれらを括り付ける。
「あんたはどんなものを持ってきたんだい?」
 エスメラルダに尋ねられてサモンは少し躊躇った後、クリスタル細工を手の上に乗せて見せた。
「これこそ『綺麗』じゃないか。微笑ましい感じでいいねぇ。まるで親子みたいだ」
「……親……子……」
 その言葉を反復しながらクリスタル細工を眺める。
 母親の持たせたクリスタル細工はそのような意味があったのだろうか、と。
「さぁ、早く飾り付けてしまいな。あっちの連中がやってきたら場所なんてなくなっちまうよ」
 サモンは小さく頷いて手前の枝に括り付けようと手を伸ばした。
 しかし背が小さすぎてその枝まで届かない。
 飾らなくてもいいか、とサモンがそのクリスタル細工を仕舞おうとした時、上から声が降ってきた。
「私でよろしければお手伝い致しましょうか?」
 柔らかい声にサモンは顔をあげる。疾風が優しい笑みを称えて立っていた。
「………いい………」
 ふるふる、と小さく首を振るサモンに疾風は言う。
「せっかく持ってきたものですから付けた方が良いと思いますよ。その飾りを付けたらこの竹も喜ぶでしょう」
 竹を見上げるサモンに疾風はなおも続ける。
「こういうものは自分で付けた方が良いかもしれませんね」
 お手伝いしますよ?、ともう一度尋ねられサモンは暫く考え込んでいたが頷いた。
「それでは……失礼します」
 ひょいっ、とサモンの身体を軽々と抱え上げた疾風は近くの枝へと近づける。
 驚いた様子のサモンは身を固くするが、なおも柔らかな笑みを崩さない疾風を見ておずおずと手を伸ばし、クリスタル細工を枝に飾り付けた。
「できましたね」
 失礼しました、と疾風はゆっくりとサモンをおろしてやる。
「……ありが……とう……」
「いいえ、どういたしまして」
 くすり、と疾風は満足そうに微笑んだ。

 短冊を書き終えた人々が竹の方へと集まってきた。
 しかし何時の間にやら、ジークフリートがルーセルミィと同じ織姫姿になっていて、結んでいた髪の毛も下ろされていた。
「どうしたのー?ジーク、女装趣味?」
「あの……これは……」
 困惑顔のジークフリートの代わりにルーセルミィが自慢げに胸を張って告げる。
「ボクとよーこちゃんの合作。…ね?」
「俺様髪フェチーv」
 さらりとしたジークフリートの髪の毛を一束取り、軽くそれにキスをする葉子。
「サラサラ最高だよねーv」
 葉子とルーセルミィは結託して楽しんでいたらしい。
 エスメラルダも楽しそうに眺めている。
「いいんです、ボクは……」
 はぁ、と溜息を吐いたジークフリートだったが飾り付けられていく竹を見て楽しそうだ。
 そんなジークフリートとルーセルミィに忍び寄る魔の手。
「おぅおぅ、そこ二人そんなに俺様の同盟に入りたかったか。そうかそうか。俺は来るものは拒まず、何があってもでっかい親父の包容力で受け止めてやっからよ。どうだ、お前さん方をいつでも『イロモノ変身同盟』に歓迎するぜ」
 今から飾り付けようとする『腹黒同盟パンフ』と『男と女のイロモノ色恋沙汰腹黒親父大辞典』を手にしたオーマが二人に詰め寄る。
「えー、それってちょっとねぇ……それにイロモノってどういうこと?」
「そうですね、イロモノっていうのは……」
 イロモノという言葉に少々不服そうなルーセルミィとジークフリート。
「まぁ、何時でも大歓迎って事だ。さてと、これ飾ったら一発派手に行くとするか」
 途中まで聞いていたサモンだったが、ついて行けないとそのまま皆に背を向けて歩いていこうとする。
 それをみるくに呼ばれ歩みを止める。
 みゅう、と鳴いたミルクはサモンの服を軽く口で引っ張りリースの方へと連れて行こうとする。
「あぁ、駄目だってば。ごめんね」
 みるくをサモンから引き離すとリースは謝る。
「………別に……でも……良い子……」
「うん、ありがとう。みるくもサモンの事が好きって言ってるよ」
 ほら、とリースが手を離すとみるくはサモンの肩に乗り頬をすり寄せた。
「……くすぐったい……」
 小さな笑みがサモンの顔に浮かぶのを見てリースは微笑んだ。
 そしてサモンに告げる。
「これ付けてきたいんだけど一緒に行こう?」
 クリスマスの飾りのモールを持ったリースを見てサモンは頷く。
「良かった。ちょっと一人で飾り付けるの淋しいって思ってたから」
 そして竹に飾られたたくさんの飾りを見てリースは声を上げる。
「あっ!あたしと同じ考えの人がいた!なんだ、間違ってなかったんだ」
 よかったー、とリースはほっとしたように声をあげて枝に飾りと、そして短冊を括り付けた。


------<フィナーレ>--------------------------------------

「さぁってと、仕上げにやっぱりここは花火といくか」
「いいですね、風情があって」
 疾風がそれに賛同すると皆も頷く。
「こうやってだなぁ……そうだ、少し離れてろよ」
 ひょいといつもの具現能力で愛用の大きな銃器を取り出すと、ニヤリ、と笑みを浮かべたオーマは、皆が離れたのを確認すると星空へと一発撃ち込んだ。
 夜空に咲く大きな花。
 初めのうちは光が空に流れる美しい花火だったのだが、途中から何やら雲行きが怪しくなる。

「………恥………かかせ……ないで……くれる………死にたい……?」
 サモンの周りに冷徹なる空気が張りつめる。
 夜空には『親父道万歳!腹黒同盟&イロモノ変身同盟加入者大募集中!』という文字が。
「……ダ・ン・ナ?大募集しすぎじゃネェ?」
「全く……」
「凄い凝った花火です……ね」
「ねぇねぇ、どういう仕掛け?」
「あの……あれがイロモノというものなのでしょうか……」
「オーマ……相変わらずやること派手だね」
「師匠カッコいいーっ!」
「初めて見る仕掛けだね」
 様々な反応を見せる面々。
 そしてヤケに満足げなオーマ。
「よし、気分乗ったついでにここは一つ空の散歩といってみるか」
 全員まとめて遊覧飛行と洒落込もうじゃねぇか、とオーマはあっという間に巨大な銀色の獅子に変身すると皆の前に伏せる。
「ほらほらさっさと乗りやがれ。天の川までひとっ飛びだ」
「すっごいーい!なにコレなにコレ!師匠いつも大きいのに更に大きくなっちゃったよ」
 ほぅ、と冥夜は感嘆の溜息を漏らす。
「んじゃ、乗り込みますか」
 どこまでもマイペースなオーマに乗せられ、向かう先は空の旅。

 葉子とジークフリートと疾風は先にオーマの背に乗り、下から上がってくる皆をオーマの背へと引き上げる。
「ルーセちゃん、飛んだ方が早かったカネ」
 うーん、と葉子が言うと、いいのいいの、とルーセは葉子の手を掴む。
「さぁ、お手をどうぞ」
 疾風はレピアとエスメラルダと同時に引き上げる。
「あら、ありがと」
 くすり、と二人は微笑みながら疾風の手を取る。
 ジークフリートはリースとサモンを一人ずつ引き上げた。
「すごいねー、あ。でもサモンは見慣れてる?」
「……さぁ……」
 素っ気ない返事だったが、初めてであった頃よりは仲良くなれている気がしてリースは嬉しくなる。
 全員がオーマの背に乗ると、しっかり掴まってろよ、と言いながらオーマは空へと舞い上がった。
 大きな翼が羽ばたきどんどん上昇していく。
 月も星も近くなったような気がして、皆は空を仰いだ。
 その時レピアが、あ、と声を上げる。
「竹を流してやらなくちゃ」
「そういうこともするんでしたね、そういえば」
 疾風は頷き、オーマに告げる。
「先に竹を流してから空の旅は如何でしょう」
 そこでオーマは大きく周りこんで竹のある所まで飛んでいく。そしてその竹を咥えると流れる川へとそれを流してやった。
 流れる川へとそれを流してやった。
 竹に飾られた短冊や飾りに込められた想い。
 それらはゆっくりと流れ、そして空へと昇る。
 皆はオーマの背の上からその流れていく様を眺める。

「んじゃ、行くぞ」
 そう言うと再び空へと舞うオーマ。
「んー、気持ちいい☆」
 ルーセルミィは見下ろす風景を見て声をあげる。空など何時でも飛べるが、こうやって自分で飛ばずに高い場所から見下ろすのはそんなに多くはない。
「織女し 船乗りすらし 真澄鏡 清き月夜に雲起ちわたる…年に一度しか逢えなかったら俺なら他の女に乗り換え…の前に愛想尽かされそ」
 うひゃひゃ、と笑う葉子にルーセルミィが言う。
「えー、大丈夫だよ。ボクならそんなことないから♪」
「それはまた嬉しいネ」
 うんうん、と頷く葉子。

 レピアはバランス良く背の上で立ち上がると、リースとサモンと冥夜とエスメラルダを踊りへと誘う。
「まだまだ物足りない……踊りましょう」
「えぇっ。でも落ちちゃったら……」
 リースが声を上げるとレピアが言った。
「平気。こうやって抱きしめててあげるから」
 近くにいた冥夜を抱きしめ身体を密着したまま踊り出す。
 まんざらでもない様子で冥夜もレピアの踊りに合わせて踊り始めた。
「そうねぇ、落ちてもあそこに飛べる人たちいるし、大丈夫でしょ。それに空の上での踊りなんて滅多に出来ないわよ」
 エスメラルダもサモンとリースの手を取り踊り出す。

「皆さん、元気ですねぇ」
「でもこうして眺めていると幸せだなぁと感じますね」
 まったりとそんな光景を眺めている疾風とジークフリート。
 ジークフリートはその踊りにあわせるように歌を歌い始める。
 それは夜空に響いた。
 引きずられるように踊っていたサモンは、その手をそっと外しジークフリートの傍へとやってきて座る。
「どうしました?」
「………歌………続けて………」
 首を傾げたジークフリートだったが、すぐに歌を紡ぎ始める。
 その横でサモンは膝を抱えそっと瞳を閉じた。


 その騒ぎは夜明けまで続き、陽の光が世に溢れ始める。
 するとレピアはゆっくりと石化していき、ついには灰色の石像に変わってしまった。
「えっ……レピア?」
 今まで一緒に踊っていた冥夜はレピアに駆け寄る。
「あぁ、レピアはねこういう体質なの。……冥夜ちゃんとレピアの事連れて行ってくれるわよね」
「うん。もちろん。でも今日は楽しかった」
 満足そうに頷く冥夜。
 周りの面々も楽しんだようだ。
「また来年もやりたいね」
 えへへ、と笑った冥夜の笑顔につられ、皆小さな微笑みを浮かべた。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り
●2181/天護・疾風/男性/27歳/封護
●1125/リース・エルーシア/女性/17歳/言霊師
●1353/葉子・S・ミルノルソルン/男性/156歳/悪魔業+紅茶屋バイト
●2079/サモン・シュヴァルツ/女性/13歳/ヴァンサー
●1926/レピア・浮桜/女性/23歳/傾国の踊り子
●1411/ルーセルミィ/男性/12歳/神官戦士(兼 酒場の給仕)

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■□■ライター通信■□■
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初めまして、こんにちは。夕凪沙久夜です。
この度は七夕祭りにご参加いただきアリガトウございます。

研究に研究を重ねたのですが、まだまだ未熟な点が多々ありまして。
如何でしたでしょうか。
お友達もちらほら出来たかと思うのですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
うちの冥夜は結構気に入ってると思います。あんまり今回関われませんでしたが。
お父さんをびしばし攻撃してしまったのですが、まだあれでも優しい方ですよね?多分。(笑)

これからも今後のご活躍応援しております。
またいつかお会いできることを祈って。
ありがとうございました。