<PCクエストノベル(4人)>


世界を創造せし音〜クレモナーラ村〜

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 ■冒険者一覧■
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1962 / ティアリス・ガイラスト / 王女兼剣士 】
【 1948 / カルン・タラーニ / 旅人 】
【 1996 / ヴェルダ / 記録者 】
【 2067 / 琉雨(るう) / 召還士兼学者見習い 】

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【本日は晴天なり】

 ある日のクレモナーラ村はその日のイベントを祝福する様。雲ひとつ無い蒼い空、風はそよそよと心地よく吹き、穏やかな昼下がり――文句なしに晴天。
 小さな村ではあったが、楽器の名産地として名を馳せるクレモナーラ村に訪れる者はけして少なくない。
 音と光に満ち溢れた村の中を流れる澄んだ小川も、豊かに育つ緑の葉擦れも、それ一つが美しい音色を奏でる楽器そのものだ。

ティアリス:「――うん、やっぱりイイ音だわ」
ヴェルダ :「確かに、噂に聞くだけはある」

 クレモナーラ村を訪れた四人の女達が、楽器屋の一つで満足そうに頷いていた。

カルン  :「わ、これちっちゃくて可愛いよ〜」
ティアリス:「どれ?……ってコレ、本当に楽器なのかしら?」
店主   :「あぁ、それですか。そうです。ソレでも一応楽器なのですよ」

 調度奥から出てきた店主が、疑問に首を傾げたティアリスに応えた。

店主   :「初めて見る顔ですな?――今回は観光で?」

 カルンの手から小さな小さな、親指の爪ほどのヴァイオリンを受け取ると、老人は目元の皺を深くした。微笑む顔がどこまでも優しげなモノに変わる。

琉雨   :「ええ、そうなんです。この村の楽器には、以前から興味があったものですから」
店主   :「それは光栄ですな」
カルン  :「それより、ソレが楽器っていう事はこれも楽器なの??」
店主   :「そうですよ。これはそのピアノと対になっていてですな……ある高名な造り手が、妖精族の為に長い歳月をかけて作ったものなのです。何度も何度も試行錯誤を尽くした結果、小さくても美しい音を紡ぐ名器になったわけですな」

 微かに頬を紅潮させる店主は弁舌を振るうべく、四人を代わる代わるに見据えながら。

店主   :「この村の歴史をご存知で?楽器の名産地として名も高く、多くの音楽家・職人を輩出して来ましたが――それ以上に、古器の収集に力を入れている事は?」
ヴェルダ :「古器?」
店主   :「そうですとも。かくいう私の店の地下室にもですな、この世に幾つとない素晴らしいモノが眠っているわけでしてな」

 自慢げに言葉を紡ぎ続ける店主に、四人は肩を竦めた。生憎、店主の楽器自慢には興味がない。それより自分達の目で見て、感じて、楽しみたいものだ。
 そんな風に四人が、どうやって話を切り上げようかと考えていた時だった。

娘    :「こらこら、お父さん。お客さん困ってるわよ」

 それはまさに救世主。

娘    :「まったく。――ごめんなさいね、皆さん。ウチの父ったらいつもこうで困っちゃう……」
店主   :「こら!!お前何のつもりだ。これからイイ所――」
娘    :「誰がお父さんの話なんて聞きたいってのよ!!もう!!とにかく、ここは私に任せて。今日の準備、あるんでしょ?」
店主   :「しかしだな……」
娘    :「いいから、とにかく行くの!!」

 娘らしき赤髪の少女が慣れた手つきで、店主を奥の部屋へと押し込むとバタンと扉を閉め切った。その奥から一度店主のモノと思しき怒声が響いたが、それもやがて小五月蝿い足音と一緒に遠のく。

娘    :「本当に、ごめんなさい。気にせず店内を見てやって」

 娘の微笑みに、四人はハッと我に返る。

ティアリス:「あ、え、ええ」
カルン  :「うんうん、そうします」

 自身の手が止まっていた事に何故だか戸惑ってしまう。娘がそんな二人を、にこやかに見守っている。

ティアリス:「と、とにかく。ちょっと試しに弾いてもいいかしら?」
娘    :「えぇ、ご自由にどうぞ」
ヴェルダ :「ならば、私はコレを」
琉雨   :「じゃあ、私は……」
カルン  :「あたしは、歌うね♪」

 ティアリスが漆器のバイオリンを、ヴェルダが金色に輝くフルートを、琉雨が、店内の日当たりのいい位置に座した黒光りするピアノに指を乗せる。
 ゆっくりと、呼吸を合わせて、三つの楽器が音を重ねる。
 それは、昼下がりにはぴったりの軽やかな曲だった。

娘    :「……まぁ……」

 娘の唇から恍惚のため息が漏れる。
 三人が奏でる音に、明るく澄んだカルンの声――それは限りなく完成に近い、偽りのない技巧を忍ばせていた。
 娘がそんな風に、紡がれる曲を夢見心地で聞いていた所。

ガタン ――ドタドタドタ バタン!!!!

 騒々しく、奥の部屋への入り口が開かれた。

娘    :「――と、ぉさん!!!!」

 肩を荒く上下する店主、怒りに真っ赤になる娘、そして何事かと思わず演奏を止めた4人。
 店主は額の汗を拭いながら、爛々と輝く瞳で言った。

店主   :「キミ達、今日の演奏会に出てみないかね!!?」


【イベントの準備】

 店主の話はこうだ。
 二月に一度開かれる、クレモナーラ村演奏会。今回その演奏会を取り仕切る店主には、一つの杞憂があるという。
 それは、バンドの一つが出場を辞退した事。ソレ一つが抜けても支障ないと言えばそうなのだが、モノ足りなさを感じる事もまた確か。それを客達が感じないとも思えない。

ティアリス:「――そういう事なら、いいんじゃないかしら?」
カルン  :「うん、おもしろそうだし、私も賛成〜」
ヴェルダ :「それもまた、一興だな」

 快く応じる言葉に、店主の顔がパッと綻びる。
 ただ一人、乗り気な三人とは打って変わって……。

琉雨   :「本気ですか?」

 密やかに呟いた琉雨の言葉は、喜びに打ちひしがれる店主の耳には届かない。眉間に僅かな皺を寄せる琉雨はあまり乗り気でないようだ。

カルン  :「琉雨、嫌なの?今日は特に重要な用事があったわけでもないし、いいかと思ったんだけど」
琉雨   :「……いえ、皆さんが良いのでしたら良いんです。ただ――いえ、何でもないです」
ティアリス:「それじゃ、楽器を決めなきゃね」

 四人は数多く在る楽器を物色しながら、あれこれと相談を繰り広げる。
 何時の間にやら店主と娘の姿が消えているが、それには気がつかなかった。
 それぞれが得意な楽器――バイオリン・フルート・ピアノ――店に並ぶソレらはどれもこれも素晴らしいものだったが、三人はどこか物足りなさを禁じえない。

ウェルダ :「まあコレぐらいで妥協するか」

 ため息と共に、先程音を奏でたフルートを見つめるウェルダ。それに三人も頷く。

ティアリス:「しょうがないわね。それでも私は、コレで最高の演奏をするだけだけど」
カルン  :「楽しめればいいじゃない。んね?」
琉雨   :「問題があるとすれば、店主がコレを外に出す事を許してくれれば、ですけれど」

 三つの楽器は、間違いなくこの店の最上品。特にピアノに置いては綺麗に磨かれ、その立ち姿だけで人を魅了する。いくら演奏会の為といってもそれだけのモノを、店外に出せるかどうか。
 しかしそれも、取り越し苦労に終わる。
 奥の部屋に消えていたらしい店主と娘が、大事そうに何かを抱え、現れたのだ。

店主   :「何、そんな心配は要りませんよ」

 布に包まれたモノをゆっくりと解く店主は、誇らしげに。出し惜しむように姿を現したソレに、四人は息を飲んだ。
 目を奪われる。全ての思考を絡め取る程に、それは美しいヴァイオリン。娘が抱くのは細くしなやかなフルート。光沢を放つそれらは、誰の目にも明らかな――世界に幾つとない名器であった。

店主   :「これはですな。先程申していたように、店の地下室に眠っていた古器でして。文字通り、眠っておったのですよ。そもそもわしの祖父が村の――すぐ近くのですな。深い洞穴から掘り出してきたものなのですがな……」
娘    :「はいはい、ストーップ!!」
店主   :「お前、またっ」
娘    :「とにかくどういう事かいうと、今日の演奏会で、良かったらコレを使っていただけないかと」

 店主を可愛そうなくらい無視する娘は、にっこりと微笑んで、フルートをヴェルダに差し出した。

娘    :「どうせこのままじゃずっと眠りっ放しで、それこそ宝の持ち腐れというヤツだもの」
ティアリス:「そ、それは嬉しいけれど………」
ヴェルダ :「高級すぎて躊躇われるな」
娘    :「何言ってるんですか!!それに、このヴァイオリンとフルート、それからピアノもあるんですよ?同じ洞穴から発見されてどうやら作者も同じという見解なんです!!ソレを持つ店と貴方達が出会ったのも、運命に違いないですもん!!これはもう、何が何でも使っていただかないとっ」
琉雨   :「ピアノまで!!?」
店主   :「そうですとも!!遠慮なさらず使ってくだされ。ピアノも、舞台に運ばせていただきますしな」

 嬉々とした表情で店主が言う。
 ティアリスはおずおずといった体で店主の手からヴァイオリンを受け取ると、躊躇いがちに弦を爪弾いてみた。
 零れた音はどこまでも優美に、耳朶の奥に浸透してゆく。

カルン  :「……ねえ、お言葉に甘えて、使わせてもらおうよ……」
ヴェルダ :「これだけの品、奏でられる機会は滅多にないだろうよ。私はぜひ、使わせていただこう」
ティアリス:「そうね……。うん、そうするわ」
店主   :「では、決まりですな」

 店主が両手を叩き、陶然とする四人を現実に呼び戻した。


【世界を想像せし音】

 ティアリス達4人の演奏は、会の最後を飾る。晴れ渡る空の下、村の大公園の中心に位置する舞台を囲む人の群れ――様々な音楽に、人々の興奮は最高潮に達していた。
 太陽が中天から滑り落ち、刻々と夕闇が迫ってくる。家々の屋根の向こうから紅に染まる空は、何時も通りの村の風景。
 まるで嫉妬するような太陽の光を一心に受け、舞台に佇むピアノが最後の演奏者を待ちながら、漆黒の身を晒している。

 そして待ちに待ったとばかりに、一際高い歓声が響く。

 舞台の袖から現れた四人の女。
 ふわりと緩んだ麦色の長い髪を爽やかな風に揺らし、紅の瞳に高貴な誇り高さをのぞかせるのはティアリス。細くしなやかな腕が鋭利な剣を繰り出す姿を、一体誰が想像出来よう。
 銀糸のような細い髪と大きな黒曜石の瞳が、笑顔を更に愛らしく見せるカルン。その笑顔の底に隠された寂莫たる想いに、人は気づく術さえ持たない。
 三眼族たる美しい女、ヴェルダの深い炎を宿した瞳。記録者として各地を旅する彼女の知識に、舌を巻くものも少なくない。
 そして人形のような整然とした美しさを持つ、琉雨。漆黒の瞳が優しげな印象を与え、どこかアンバランスさを感じるが――それ故に目を逸らせない。
 彼女達の内情を知るよしもないが、その奥底を垣間見た様な気がして、人々は気圧された。
 そんな中、彼女達は一礼し、おもむろに音を奏で始めた。
 
 わあぁああ!!

 初めは、その歓声は彼女達の持つ美しい古器に向けられる。
 そして波紋を広げるように、静寂が辺りを占める。耳に心地よく響く曲想は物悲しくもあり、懐かしくもあった。人が誰でも一度は過ごす幼少時、そんな頃を思い起こさせる。
 紅色の空に、家路を辿る幼子の笑い声。家々から流れくる夕食の匂い。空高く上ってゆく白い煙。風がさらりと吹き過ぎる様。それは暖かな情景だ。
 鮮やかな景色を想像させるその演奏には、ティアリス達の非凡な才が発揮されていた。
 だがそれ以上に――。

 ……羽?
 ――天使?
 天使だよ!!

 叫んだのは誰だったのか。
 見上げた先から純白の翼を羽ばたかせ、天上の者が降りてくる。光の筋を辿る姿はどこまでも美しく神々しい。
 目を擦る。だが変わらず光の使いはそこに在る。

 四人の奏でる音は、天使を迎える聖歌。
 その奇跡を引き起こした存在に、人々はゆっくりと気づき始めていた。
 舞台の上空を舞う天使達が、それこそが、鮮やかに想像されただけの存在だと。幻だと。
 カルンの歌が止み、曲想が変わる。
 その瞬間、視界を埋める光に天使達が飲まれていった。

 景色を生む楽器。
 それを奏でる、確かな技術を持った者。

 その二つが揃ってこその美しい幻。

 光に瞑目していたはずの視界が晴れた時、人々はどこまでも広がる草原の只中に在った。
 舞台のあったはずの場所に四人の姿は無く、ただ空から降ってくるような美しい音色――澄んだ声――それだけが世界の全て。
 雄大な景色に人は、ただ静かに微笑んだ。


【それは、幻という名の……】

 観客の目が、あるはずの無い幻を追っている間、クレモナーラ村の舞台の上の四人もまた、聞こえぬ筈の声を聞いていた。
 

 我ら 古に生まれし幻という名
 我ら 世界を創造せし幻という名

 世がまだ一つだった時代

 我ら 世界を創造せし音色奏で
 我ら 夢を与えし幻という名

 四つの夢幻が奏でしは
 古き良き時代 
 今も懐かしき世界

 我ら 四つは幻という名
 我ら揃いて 世界を照らす

 我ら揃いて 世界を造る……


 やがて頭に響く声は止み、それまで縛られるように奏で続けた音は、ゆるやかにゆるやかに……終幕。
 弾き手が魅了された楽器は物言わぬ、ただの楽器。
 呆然とその手のモノを眺め続ける彼女達に、幻想から覚醒した観客の、世界を揺るがすような拍手が鳴り響いたが、彼女達は夢見心地。
 鳴り止まぬ拍手と歓声の中、いつまでもいつまでも……彼女達は立ち尽くした。


【四つの夢幻のその在処】

ティアリス:「――我ら世界を創造せし幻という名――ねぇ……」

 店主に乞われてクレモナーラ村に留まる四人の、夜はまだ終わらない。人々の歓喜も覚めやらぬ、夜を徹しての演奏会。
 店内に並べられた今日の奇跡達を眺めながら、ティアリスがため息と共に言う。
 その古の器の価値は、それを奏でた自分達が良くわかる。

ヴェルダ :「世界が一つだった時代とは、な。遥か昔の、真実名器という事か」
琉雨   :「そんな素晴らしき品が、洞穴に眠っていたというのも気になりますけど……。それより気になるのは――」

 チラリと視線を向ける先には、カルンと、奇妙な形の花瓶。

ティアリス:「四つの夢幻も……あぁなっては形無しねぇ」

 声と共に脳裏を過ぎったのは、楽器とは信じがたいモノ。それを何と呼んでいいのか、彼女らにはわからない。その奏で方も知らない。
 四つの夢幻の一つは、何とも形容しがたい。
 むしろ、楽器とは到底思えない。

カルン  :「わかるんだけどね……」

 四人の唇から深い吐息が漏れる。

 陶器のようなすべらかな白、筒状のそれにはところどころ突起があるが、吹楽器の様に穴があるわけでもない。
 筒の片側に、花が一本させるかさせないかの小さな穴――良く言っても花瓶。
 花瓶になれなかったモノ。
 そんな印象しか持てないソレ。



 世界を創造せし夢幻の名器は、今はもう――オブジェだった。



 FIN


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初めまして、ライターのなちと申します。今回はご指名ありがとうございました!!にも関わらず、遅れての納品申し訳ありません。

依頼文以外の発注は初めてで、とても緊張しながら書かせていただきました。想像と妄想(おい)の産物ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
ご意見等ございましたら、ぜひお寄せ下さい。これからの参考にしたく思います。
またどこかでお会い出来たら嬉しいです。それでは、今回本当にありがとうございました!!