<PCクエストノベル(2人)>


音楽が生きる村 …クレモナーラ村…

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 2220/シャナ・ルースティン /旅人】
【 2221/ユシア・ルースティン /旅人】

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♪旅の始まり♪

聖獣界 ソーン 多くの冒険者、旅人たちが集う世界。

旅人たちはそれぞれの目的で旅をする。
ある者は王座を目指し、ある者は一攫千金を狙いダンジョンへと歩みを進める。
心躍る冒険、未知の世界を求めるものもいる。
だが、全ての者がそうであるとは限らない。
行き場無く流離う者。目的も無く漂う者。
彼らもまたこの地を行く。何かを求めて。誰かと共に。
どの世界でも変わらぬ太陽の下を…。

♪恋人達の旅立ち♪

ソーンの美しき都、エルザード
その街のどこかの宿のどこかのテーブル。
二人の旅人が向かい合って座っている。
まるで揃いの様な美しい黒髪の彼と、彼女。
彼女は目の前に座る青年に微笑みかけながらこう告げていた。

ユシア:ねえ、シャナ。クレナモーラ村に行ってみませんか?
シャナ:クレナモーラ村?

シャナと呼ばれた彼は、彼女の言葉から出たどこから仕入れたのか解らない、聞きなれない名の村に、ほんの少しだけ目を瞬かせ聞き返す。
元々、まだこの都に来て間もない彼らに知った名の方が少ないが。
シャナの言葉に彼女ええ、と頷くと嬉しそうに続けた。

ユシア:楽器が有名な村でいつでも音楽に溢れているそうです。とても楽しそうな村ですよね。
シャナ:音楽…か。そう言えばユシアは歌うのが好きだったな。

シャナは目の前のユシア、愛する妻を見つめ微笑んだ。そうだった。と思い返すと頬が緩む。
そう、昔からユシアは好きだった。歌うことが。音楽が。

ユシア:シャナだって、音楽は好きでしょう?だから、ね?

確かに、音楽は好きだった。自分にとってとても身近なものだったから。だが‥。今、自分がもっと好きなのは‥。
カタン!
軽い音を立て、椅子が動いた。立てかけてあった剣を取り彼は立ち上がる。

ユシア:シャナ?

立ち上がった彼を追う視線の前には、どこか硬く、でも優しい微笑が待っていた。

シャナ:行くのだろう?クレナモーラ村に。
ユシア:ええ!

耳飾りと一緒に髪を揺らして彼女も立ち上がる。心からの喜びを顔に浮かべ。

そうして、二人は歩き出した。肩を並べて。
この世界に来ての、最初の旅に…。

♪音楽が生きている村♪

村にやってきた若夫婦を最初に出迎えたのは竪琴の明るい音色だった。

ユシア:本当に音楽の村なんですね?音楽で出迎えを受けるなんて。

驚きと喜びで跳ね上がったユシアの声と拍手が耳に入ったのだろうか?木陰で竪琴を奏でていた吟遊詩人の若者は照れたように笑って顔を上げる。

吟遊詩人:ごめんなさい、別にあなた方や、お客を迎えるために奏でていた訳じゃないんです。竪琴の修理が上がってきたんで丁度調整に弾いていたんですよ。

あら、と、おや、という表情で顔を見合わせたユシアとシャナだったが、若者への拍手は止めなかった。
彼の腕は見事と言えるものだったからだ。最高級の音楽を聴き続け、耳の肥えている二人にしてみても‥。

ユシア:でも、ステキな演奏でしたわ。
シャナ:なかなかの腕前だ。

素直な賛辞と、拍手は吟遊詩人の最高の報酬。目の前の二人に優雅にお辞儀で答えると、改めて、と微笑んだ。

吟遊詩人:音楽の生きる村、クレナモーラにようこそ。この村はきっとお二方に幸せな時間を与えてくれるでしょう。良ければご案内しましょうか?

青年の言葉にシャナは、横をちらりと見ると首を横に降った。

シャナ:いや、いい。特に急ぎの目的があるわけではないから、ゆっくり歩きたい。
吟遊詩人:これはこれは。気が利かない真似を申し上げました。お邪魔をするのは野暮、というものですね。

旅なれた吟遊詩人の言葉の意味を知り、ユシアの頬が赤みを帯びる。

ユシア:あ、あの…この村には楽器を売っていますの?貴方のお持ちのようないい音色の…。

小さな囁くようなユシアの声に吟遊詩人は、もちろん、と優しい声で答えた。

吟遊詩人:春の祭りの頃においでになれば、驚かれたことでしょうね。露天に甘菓子や、料理のように楽器が並ぶ様は他では見られませんよ。今は、普通に数十件の楽器屋が軒を連ねているだけですけど。

ぷっ!自分の言葉に吹き出したのは多分、奥方の方だったろう、と吟遊詩人は思った。そしてその通りだった。
吹き出して笑うユシアを見ながら、だが、シャナも笑っていた。
数十件の楽器屋というのも普通は他所では見られない。少なくともソーンでも、かつての自分達の故郷だった国でも見たことは無い。

吟遊詩人:竪琴をお求めならオルムという職人の店がお勧めです。ですが、きっとどの店かで貴方だけの楽器が、出会いを待っていることでしょう。では、退散退散。

再び優美にお辞儀をした吟遊詩人はシャナにそう言うと笑いながら立ち去っていった。

シャナ:流石、というところかな?
ユシア:本当、ですわね。

いつの間にか彼女を守るように肩を抱いていたシャナの腕の中。ユシアは頬の赤みを消せないまま悪戯っぽく笑う吟遊詩人を見送った。
彼は、『シャナ』に言っていったのだ。
問いかけたユシアにではなく、竪琴を使うであろうシャナに。
剣を腰に帯びる剣を見ても、正確に使い手を見抜く。
音楽の村、恐るべし。


さっき別れた吟遊詩人はこう言っていた。
「音楽の生きる村」
と。二人は歩いているとそれが事実であることは簡単に知れる。
その証拠、最初の吟遊詩人と別れてからほんの僅か。瞬きもしない間に彼らはまた竪琴の音に包まれた。
街を流れる川の調べと、その竪琴の音がまるで合奏を奏でるかのように響き、心に流れ込んでくる。
その横を静かに通り過ぎて辻を曲がると、向こうからは小鳥のような横笛の可愛い音色が耳に飛び込んできた。
クィッ!クィッ!
青空に声を揃えて歌う雲雀の歌声と一緒に。
少し歩いた先の広場ではリュートを奏でた青年が風の歌を歌い、向こうでは肩に手風琴を乗せた少女が揺れる木々と一緒にリズムを取っている。
音楽を奏でる者、音に合わせて踊る者、見る者、聞く者の笑い声もまた音楽的で。音を楽しむ者がこの村で見えなくなることはほとんど無かった。
店を覗いても、知っている楽器、知らない楽器が山のようにあって見ていて飽きることは無かった。

シャナ:…本当に色々混ざった場所だな。楽器も音楽も。
ユシア:でも、楽しいところですわね。…ねえ、シャナ。お願いが…ありますの、聞いて頂けますか?

ユシアはシャナの手を引いた。
右に、左、音楽に向けて顔を動かしていたシャナは、視線を今度は僅かに下に落とす。

シャナ:お願い?なんだ?
ユシア:私たちも、楽器を買いませんか?久方ぶりにシャナの竪琴をお聞きしたいですわ。

甘えた訳でも、おねだりをした訳でもない。ただユシアはシャナに微笑む。この笑みに、シャナはひたすら弱かった。

シャナ:…いいだろう。丁度、そこに弦楽器の店があるようだ。
ユシア:うれしいですわ。ありがとうございます。

彼らは店に足を踏み入れた。
『オルムの店』

職人:ほお、いい指をしておるの。仕事に追われることの無い綺麗な指だ。お前さん、どこかいいとこの生まれかの?

竪琴が欲しい、入った店でシャナの指を見た職人は、一目でそう言ってのけた。
シャナも、ユシアも言葉を無くす。

職人:ふむ、じゃがこの指が本来弾く竪琴は決まっておる気がするがのお。
シャナ:昔はあった。だが、今は無い。
ユシア:失われてしまったのですわ。この地にやってきた時に。
職人:そうか?それはすまぬ事を言った。だから竪琴との出会いをお望みか…、なら、そうじゃな、これなどはどうだ?

少し考えると、職人は奥から一つの竪琴を持ってきた。
飾り気の無い、だが、しっかりとした作りのそれを受取るとシャナは軽い指先で弦を弾く。
しばらく友に触れていなかった指は、ほんの少し戸惑いながらも馴染んだ感覚を思い出し、動き始める。

シャナ:(故郷の物と‥良く似ている。)

音の伸び、弦の強さ。問題は何も無い。
いくつかの和音で音を合わせた後、彼は短い音楽を奏でる。
さっき、吟遊詩人が弾いていた曲をユシアに向けて。

職人:どうやら、そいつとあんたは相性がいいようだな。
シャナ:ああ、これを貰おう。
職人:大事にしてやってくれ。そこの娘さんの次に、で構わないからな。

財布から出した硬貨を受取るとシャナとユシアを見つめ、職人はにやりと笑う。
シャナは知らなかった。
彼が奏でた曲が、古い恋歌であることを。愛する人を抱きしめる‥小恋歌(マドリガル)


新しい竪琴を抱えたシャナは、ふと別の店に眼を留め横を歩く妻を見た。

シャナ:ユシアはいいのか?
ユシア:えっ?何がです?
シャナ:楽器が欲しくないのか?と言っている。ユシアも横笛が上手かったろうに…。

視線で彼が示す先には笛の専門店がある。
シャナの意図は解ったが…少し考えてユシアは首を縦に、ではなく横に動かした。

ユシア:まだ、いいですわ。無駄遣いはできませんし。
シャナ:そんなことは気にしなくてもいい。
ユシア:いいんです。その代わり聞かせてくださいな。シャナの竪琴を。私はそれだけで、幸せになれるんです。
シャナ:…解った。

苦笑して、妻の髪を軽く撫でたシャナは、ユシアの手をぶっきらぼうに取ると、ゆっくりと歩き出す。
彼の、合わせられた歩幅を感じながら、雑踏の中を歩くユシアの笑顔は幸せ色をしていた。


♪共に歩く者♪

日が、山の向こうに沈みかける頃。
村の外れの草の上に、二つの影が沈むのが見えた。
人が紡いだ音楽は、雑踏と共に少し遠くにある。今、彼らの側にあるのは夕闇色に染まりかけた西風と、それを受けて歌う草の音だけ。
寄り添う二つの影のうち一つが、かすかに動くと草と風の歌はしばし、場を譲った。
影の一つはシャナ。彼の紡ぎだす竪琴の音色に‥。

ユシア:…シャナ。

彼が紡ぎだす音色を、ユシアは良く知っていた。
子供の頃から、良く知っている、懐かしい…。
目を閉じて、そして立ちあがった。彼女の瞳と唇が開いた時、それは唱和を始める。竪琴の音色と共に。

ユシア:〜灯りがともる あなたの為に
    灯りがともる 私の為に
    私は、ここに あなたはここに
    確かにいるよと 教えてくれる
    何があろうと どこにいようと
    あなたと私が ここにいる
    生きて こうして 灯りがともる
    帰る場所はここにある
    それが 私の幸せ
    それが あなたの幸せ
    幸せは いつも 私の隣に
    幸せは いつも 貴方の隣に〜♪ 

音が緩やかに消え、ユシアが深く息をついたとき。空気もう夜の気配を湛えていた。
だが、まだお互いの姿は見える。
お互いの姿だけは見える。
二人は微笑んでいた。
ユシアは、優しく照れたように。
シャナは、他の誰も気付かないような微かな、でも確かな笑みで。
言葉はいらなかった。
それだけで‥十分だったから。

どちらからともなく、二人は手を差し伸べあい立ち上がった。
肩を並べ、手をつなぎ歩きだす二人を追うように歌い始めたのを彼らは気付いただろうか?
何が?
風が草が、水が、村の自然全てが‥歌い始める。
二人を祝福するかのように、甘く、優しく‥恋歌を‥。
ここはクレナモーラ村
音楽が生きている村。生きているもの全てが歌う村。


彼らは旅人、目的も無く歩き続ける定めの者。
彼らは行く。 愛するものと共に。

ユシア:一緒に歩いていきましょうね。ゆっくりでいいですから。
シャナ:俺から離れるな。必ずお前を守る。

そうして彼らは歩き始める。二人で、故郷から遠く離れた。
でも、どの世界でも変わらぬ、月と星の下を…。