<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


星月夜

「星狩り?」
 白山羊亭の客達は訊きなれない言葉に首を傾げた。
「要は、花見の花が星になってるようなものです。星空を見ながら、お茶をしたいそうで」
 説明しつつ、ルディアに促されて客達の前に姿を現したのは10代半ばの少女。
 ユーキと名乗った少女は、自分が各地を旅し、星空を見ながら、その地の人と交流をしているという。
「そして……今回もこの街で、皆さんと交流を深めたくて……」
 俯きつつ、説明を終えたユーキは「いかがですか?」と、客達を誘った。

<お弁当作り>

「……花見のようなものなのか」
 星狩りの話を聞き、参加することにしたミリオーネ=ガルファは、一旦お気楽亭に帰ると、弁当の準備を始めた。
 サラダに唐揚げ、サンドイッチなどなど……。
 少し大きめの折を用意したつもりでもすぐに埋まって行く。
「こんなものか?」
 3つの折がいっぱいになり、それを手にまた白山羊亭へと足を向けた。

<星狩り開催>

 日も暮れかけ、参加者が揃ったところで、川の傍の拓けた場所へと向かった。
 あそこなら周りに建物がない分、街の中より星が見やすい。

 目的地に着く頃には辺りは薄暗くなっていて、一番星が東の空に輝いている。
 アイラスの提案で持ってきたシートを広げ、4人は各自用意した物と共にシートの上に座った。

「えっと、改めまして……ユーキと申します。今日は私の我侭に付き合ってくださり、ありがとうございます」
 アイラスとミリオーネとシヴァに向かってぺこりと一礼をし、ユーキが挨拶をする。
「僕はアイラスと言います。こちらこそ誘ってくださりありがとうございました」
「……俺はミリオーネだ。楽しめるといいな」
「シヴァです。こちらこそ、ありがとうございます」
 3人は笑みで、ユーキの挨拶に応えた。

 アイラスの軽食、シヴァのお菓子を広げ、ユーキが紅茶をカップに注いで3人に渡す。
 その頃には、辺りはすっかり真っ暗で、夜空一面の星が4人を見守るように輝いていた。

「こんばんは」
 ふいに4人の後方から、声がかけられた。少し驚きつつもユーキが振り返ると、そこには一人の女性――レピアが立っていた。
「飛び入りでごめんなさいね。レピア・浮桜よ。よろしくね」
 軽いステップで礼を取り、レピアが自己紹介をするとユーキたちも順に名乗る。
「それでは、改めて、星狩りしましょう?」
 レピアにもお茶を注ぎ、それを渡しながら、ユーキは再び笑顔で4人を見回した。
 4人も頷き返し、星狩りが開始された。

<星空の下でダンスを>

 早速踊り始めるレピアの姿に、ユーキは見入っていた。
 日の光の下で見ても綺麗だろうその踊り子衣装は、月や星の明かりに照らされて、踊りを更に鮮やかなものにする。
 踊りを披露したレピアは、ユーキの手を取って一緒に踊り始める。初めは困惑していたユーキも、ステップを教えてもらい、踊り慣れる頃には笑顔になっていた。
「あたしも世界各地を旅してたのよ」
 昼と夜の姿のこと、元に戻るための方法を探して各地を転々としてること、気にするでもなくあっけらかんと話すレピアに、ユーキはまた少し驚いていた。
 ユーキと踊り終わると、アイラスの手を取って踊り、シヴァ、ミリオーネ、そしてまたユーキ、と代わる代わる誘って一緒に踊った。

<お弁当を広げよう>

 一頻り踊り、月が西へ傾く頃、一旦休憩ということで、ミリオーネのお弁当を広げた。
「ふゎぁ……」
 弁当箱の中で所狭しと並ぶおかずにユーキは感嘆の声を上げる。
「おいしそうですね」
 その横でアイラスも素直な感想を述べた。
「それじゃあ早速」
「いただきます」
 レピアとシヴァが早速、唐揚げを頬張った。
 それを見てからユーキやアイラスも、サラダやサンドイッチを食べてみる。
「……どうだ?」
 沈黙する4人に、ミリオーネが問い掛ける……と同時に、
「おいしいわ」
「おいしいです」
「うん……おいしい」
「おいしいですね……」
 タイミングを見計らったかのように、4人の声が重なる。
 その偶然の出来事に、皆は笑った。

<静かな音色と星の物語>

 お弁当の後、アイラスがおもむろにハーモニカを取り出した。そして、それを演奏し始める。
 静かな音色がその場に響き渡った。
 ユーキたちは、その音色をBGMに、初めの頃より表情の変わった星空を見上げた。

「そういえば、少し日付が遡りますけど、この時期、星の物語がありますね……」
 ぽつりと呟いたアイラスに、4人の視線が集まった。
「あの、星の河を挟んだ2つの星の物語です。2つの星はそれは大層仲の良い恋仲だったのですが、あまりに仲が良すぎて互いの仕事をほったらかしに……。それに怒った父親が二人を河の対岸同士に引き離し、年に一度だけ逢うことが許されるようにしたんです。その日付が、少し遡る七夕の日。今回のように星を見ながら、笹という植物に飾りをしたり、短冊に願いを書いて吊るしたりするんです」
 そこまで話すと、アイラスに集中していた視線は、夜空の星の河に集まっていた。暫しそれを皆で眺める。
「寂しい恋人さんたちもいるんですね……」
「……そうだな」
 ぽつりぽつりと、そんな感想が聞こえたりした。

<星空の下の交流の理由>

「ひとつ聞いても宜しいでしょうか。あなたは何故、星狩りを通じて他の方の交流を深めようとしているのですか?」
 また暫く夜空を眺めていると、ふいにシヴァがユーキに質問を出した。
 ユーキは少しだけ困ったような笑顔になり、そして口を開く。
「星空を見てると落ち着けるんです。ほら……亡くなった方は星になって見守ってるって言う方もいるでしょう? 私のおばあさまも見てくれているのかなって……見守ってくれているところで、皆さんと仲良くしたいなって……。信じない人の方が多いかもしれませんけど」
 困ったような笑顔は話しているうちに照れくさそうな笑顔へと変わり、照れ隠しに空を見上げる。
「なるほど……。その話が本当ならば……遠い昔に亡くなった私の妻も……星になってるかもしれませんね……」
 聞こえるか否か、小さな声で呟いて、シヴァも空を見上げた。

<そして……>

 楽しい時間は瞬く間に過ぎ、東の空が少し明るくなってきた。
「それでは……少し早いですけど、お開きですね」
 ユーキはそう声をかけると共に、片付け始めた。4人もそれに倣い、片付け始めた。


 夜明けの白山羊亭。
 レピアの石化を見届けたユーキは、また次の街へと旅立った。

 星狩りの思い出を残して……。


【終】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1980/ミリオーネ=ガルファ/男性/23歳 /居酒屋『お気楽亭』コック】
【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳 /フィズィクル・アディプト】
【1758/シヴァ・サンサーラ /男性/666歳/死神】
【1926/レピア・浮桜    /女性/23歳 /傾国の踊り子】

NPC
【―/ユーキ/女/17歳/旅人】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、暁です。
 この度は、シナリオにご参加頂きありがとうございました。

 NPCが出張っちゃいましたけれど、何とか全員を出せた……ハズです。
 気に入っていただければ幸いってことで……(汗)

 4人の方の今後の働きに、ご活躍があることを――

  20040717 暁ゆか