<PCクエストノベル(3人)>


水の都の乙女達…アクアーネ村…

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1854/ シノン ・ルースティーン/神官見習い】
【 1879 / リラ・サファト / 不明 】
【 1962 / ティアリス・ガイラスト / 王女兼剣士 】

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○アクアーネ村

春から夏にかけてその村の人口は急激に増加する。
それは、村に多くの観光客がやってくるからだ。
エルザードに程近く、普通の旅人の足でもさほど苦労せずにやってこれるお手軽な旅行地。
他のエリアとの中間点の役割りも持つため、基本的に客は一年を通じて途切れない。
だが、この時期に急増するには訳がある。

『この村以上に夏を美しく楽しめる場所は他にはないぜ!』

村人は自慢そうにそういう。観光客もそれに頷く。
溢れるような美しい水と、それに映し出される木々や町並み、緩やかで静かな時間を紡ぐゴンドラ。
甘い水の香りと空気は、夏の一時をこれ以上ないほど優雅に彩ってくれる。それが理由だ。

水の都 アクアーネ 人々に愛されるこの村はそう呼ばれている。

○夏を楽しむ三人娘

シノン「やっほー! リラ! ティア姉さん、こっちこっち!」

緑の髪の少女が手を振った。揺れるゴンドラの舳先から前へと。
本来なら返事が帰るはずのない水の上から控えめな返事と、元気な返事が彼女の元に返る。

リラ「やっほー! …です。シノンさん」
ティアリス「ハーイ! シノン。こっちも気持ちい〜わよ」

青い髪の少女の乗ったゴンドラが右斜め前の水路からゆらりと現れた。
左奥の建物の影から出てきたゴンドラからは、太陽の光を弾いた女性の金の髪が光る。
彼女達の乗った三隻のゴンドラは、水の三叉路をゆっくりとすれ違い、交差していく。

シノン「じゃあ、あと一回りしたらさっきのところでね♪」
リラ「わかりました。お待ちしていますわ」
ティアリス「了解! じゃあ、あとでねえ!」

手を振るうちに彼女達の姿はまた建物の影に消えていった。
シノンと呼ばれた少女はゴンドラにコロン、背を付け空を見上げた。
澄み切った青い空。水の色を映すのか。空の色を映すのか。
頬を撫でる風さえも水色に染まっているようで風を司どる神の神官(見習い)は目を閉じて静かに微笑んだ。

シノン「いいなあ、このアクアーネ村って」


誰が言い出したのか忘れたが、三人で遊びにいこうという話が出たのは少し前だった。
ティアリスが用事で家に戻る、そんな話もあったから、その前に。
少しだけ急いで彼女達は計画を立ててここにやってきたのだ。

ティアリス「う〜ん! 楽しかった。ここは、ホントにいいところね」
リラ「こんな、ステキなところに来られるなんて、凄く嬉しいです」

ティアリスは軽い足取りでゴンドラを降りた。伸びをする自分の髪を風が軽くくすぐっていくのも不思議に心地よい。
一方よろめきながら地面を踏んだリラだったが、その頬は喜びに輝いていた。

リラ「流れる水、透き通っててとっても綺麗でした。それに、私が迷子にならずに観光できるなんて」

何故か、どんなに、どんなに努力しても、常に迷子になってしまうリラにとってはちゃんと目的地にたどり着き、観光しているだけでもかなりな快挙なのだ。
自分自身に感動して水を眺めるリラの背を、軽くて、でも強い手がポーンと叩いた。

シノン「な〜に言ってんの。お楽しみはこれからだってば。折角来たんだから、一杯遊ばなきゃ。さっ!行こ!ほら、ティア姉さんも早く早く!」
リラ「あっ。待ってください。シノンさん」

ずるずるずる。引き摺られるようにして引っ張られていく少女と、手招きしながら引っ張っていく少女を見つめながら、ティアはフウと息をついた。

ティアリス「シノンはいっつも元気ねえ。解ったわ〜。今行く。 そうね、せっかくだもの。私も楽しまなくっちゃね」

上質の革靴の踵の音を石畳に軽く立てながら、ティアリスは遠ざかろうとする二人の姿が消えないうちに後をおいかけて行った。


○女の子の楽しみ その1 甘くて美味しいもの

女が三人よると姦しいと書く。
アクアーネの路地を三人で歩く少女達の周囲は文字通り賑やかだった。

シノン「ねえ、ちょっとどこかでお茶しようよ!」
ティアリス「いいわね。丁度、喉も渇いてきたし」
リラ「私も賛成です。ちょっと冷たいものが欲しいですね」
シノン「あ、そうだ!さっき、この街の地図貰ったんだった。この紙に確か、名物で美味しいゼリーのお店が…っと…あった!こっち!」

懐から折りたたんだ紙を一枚取り出すとシノンは周囲と紙を見比べ、一人走り出した。

リラ「待ってください、シノンさん。」
ティアリス「ちょっとピッチ早いわよ。まあ、シノンらしいけど。行きましょう。」

二人が笑いながら追いかけ、いくつか角を曲がると可愛いベルの付いた扉があった。赤い屋根の可愛い店。
シノンはその前に佇む。

シノン「ここだって! さ、早く入ろう」
ティアリス「いい感じのお店ね。あら? リラ?」
シノン「どうしたの? リラ、早く入ろう?」

中に入ろうとした彼女達は、ふと、自分達が二人であるということに気付き後ろを振り返る。
そこ動きを止めていたリラ。彼女は憧れの眼差しで見つめていた。
ちなみに彼女見つめているのはお店ではない。テン・点・テン 視線の先には‥

シノン「? アタシ?」
リラ「凄いです。地図を見てちゃんと目的地にたどり着けるなんて。シノンさん」
シノン「えっ? そう? なんか照れるなあ」
ティアリス「クスッ。もう! リラさんもシノンもなあんて可愛いの!!」
シノン&リラ「「えっ?」」

シノン、リラの順番で少女達の頬が赤みを帯びる

ティアリス「ほらほら、ここは私がおごってあげるから、早く中に入りましょ」

右手にティア、左手にシノンの肩を抱き、男だったら両手に花?ね。と笑いかけるティアリスに腕の中の少女達は照れくさそうに微笑んだ。

水路が見える窓際に3人は席を取った。
壁にはアクアーネの風景や、水に沈む遺跡の絵が飾られているが、日に煌く水の都の美しさにはかなわない。
外と絵を見比べながら冷たい飲み物を喉に通すうち、店員が小さな音をたててテーブルの上に注文の品を置いた。

店員「当店、そしてアクアーネ名物 水の都の誘い、でございます」
ティアリス「綺麗ね〜。見て御覧なさいよ。二人とも。青いゼリーの中にフルーツで建物が刻んであるわ」
リラ「本当ですね。食べるのがもったいないです」
シノン「でも、早く食べたいね。どんな味かな?」
店員「どうぞ、ごゆっくり」
シノン・リラ・ティアリス「「「いっただきま〜す」」」

三本の長いスプーンが蒼いゼリーをすくい、それぞれの朱色と、桃色と紅色の唇へと運ぶ。

シノン「これ!すっごい美味しい!サッパリしていて、でもあんまり甘さがしつこくなくて!」
リラ「幸せです。おいしすぎて〜」
ティアリス「フルーツの味が凄く引き立ってるわね。これは王宮のパーティに出しても恥ずかしくない味だわ」

それからしばしテーブルは沈黙が支配した。ほんの少しの時間だったが。理由は…言うまでもない。

シノン「ああ、美味しかった」
リラ「本当に美味しかったです」
ティアリス「うん、満足満足。で、これからどうする?」

ティアリスの言葉にシノンがはーい!と手を上げた。

シノン「お買い物!ゴンドラの上から見た露天に綺麗なアクセサリーとかいっぱい売ってたもの」
リラ「私も見てみたいです。お店」
ティアリス「OK、OK!じゃあ、お買い物にしゅっぱーつ!!」

ウインクしながらティアリスは一番に席を立つ。二人も頷いて同時に席から立ち上がって店を出る。
ちなみにテーブルの上に置かれた請求書は、シノンが手に取る前に、ちゃんとティアリスが握っていた。


○女の子の楽しみ その2 キレイでかわいいもの

アクアーネの商店街は大きな運河の流れを足元に置く橋の上にあった。
水路中心の町並みだが、歩道や住居を中心とした歩道や橋もたくさんある。
橋と言ってもエルザードや、普通の街や村のそれと比べれば棒と丸太くらいの差がありそれを見るものは驚くと言う。
まだ多くの古い遺跡が水に沈むこの村では、遺跡を守るためにも水の中に干渉せずに村を作る技術が必要だった、とはこの村の観光案内の語り部も教えてくれる伝説であるが、今の彼女達にはそのような話はあんまり意味がなかった。

シノン「見てよ。水上のゴンドラにもお店がある」
リラ「水の上と、歩道の上。どっちがお店が多いか解りませんね」
ティアリス「う〜ん、流石、水の都。あ、アクセサリーのお店発見!」

夏で増えた観光客と、商店街で買い物をする人々の賑わいで、この辺では歩くのが少し大変になってきた。

シノン「迷子になると大変だから、手を繋ご!しっかり掴まっててね。リラ」
リラ「は、はい!」

差し出されたシノンの手を照れくさそうに握って、リラは彼女のあとを歩く。
ティアリスはというと、反対側から黙ってシノンの手を取っていた。

ティアリス「放しちゃダメよ。シノン♪」
シノン「ティア…姉さん」

ティアリス「…ほら、見て。あのお店の細工良いわよ」
リラ「あの、こっちのお店見てもいいですか?リボンがとってもいい色なんです」
店員A「おっ! 目が高いね。これはフォーナブルーって言ってこの村でしか出ない色で…」
店員B「この髪飾りなんかはどうかな?お嬢さんの黄金の髪にはこの赤い石の花なんて似あいそうだけどな」
シノン「いい!これ、ティア姉さんにぴったりじゃない?」
ティアリス「そうかしら、ちょっと地味な気がするわ。リラさん、このドレス当ててみましょうよ。うん!とっても似合う!」
リラ「あの、ちょっと派手じゃあ?」

呼び込みの店員達の声に時に逆らい、時に従って足を止め、三人は店を見て回る。
いくつめかの店の軒をくぐった時、ふとシノンが二人に向かい合った。

シノン「ねえ、この街に来た記念に皆でお揃いのアクセサリー買わない?」
リラ「良いですね。それ。私も欲しいです」
ティアリス「いいアイデアだわ。私も、…欲しいし…」
リラ「?どうしたんです?ティアリスさん?」
ティアリス「なんでもないわよ。さ、選びましょ!」

シノン「ティア姉…」

ティアリス「私たちにお揃いのお土産が欲しいんですけど、何かいいのないかしら?」

美少女三人の来店に、小太りの店員は嬉しそうに手を揉んだ。愛想笑いではなく満面の笑みだ。

店員C「ああ、それならこれなんかどうだい?虹色水晶の指輪だよ。花の形をしていて可愛いだろう?虹色水晶はこのアクアーネの特産なんだ。この水に映る光が結晶したって言われてるんだぜ」
リラ「さっきのゼリーみたいに透き通っていますね。凄くキレイです」
シノン「確かにステキだけど…。私、指輪はちょっとパス」
ティアリス「シノン?」

彼女が浮かべた表情はほんの一瞬で割れて消えた。明るい表情を浮かべるシノンの言葉に、ティアリスはそうね、と同意して花の様な笑みで店員に笑いかけた。

ティアリス「女の子の指はトクベツなの。他に何かいいのはないかしら?」
店員C「そりゃあ、そうだ。こいつは失礼。じゃ、こんなのはどうだい? 同じ虹色水晶のイヤリング。ティアドロップの形は珍しいんだぜ」
リラ「ティア・ドロップ。まるで、涙を凍らせたみたいですね」
シノン「でも、何だか暖かい色 優しい涙だね」
ティアリス「じゃあ、これにしましょうか?」
店員C「毎度!!」

友の手と、三人お揃いのケースに入れてもらったイヤリングを彼女達はそっと握り締めて彼女達は静かに商店街から離れていった。

○…そして三人一緒

アクアーネの村の外れには大河がある。
ルクエンドの地下水脈から、アクアーネを通って流れる水は海へと流れていく。アクアーネの終着点だ。
喧騒から静かに離れた三人は川を見ながら静かに暮れようとする夕日を見つめていた。
リラは一人、靴を脱ぐと足を水につけていた。歩きつかれていた足に初夏の水は最高に気持ちよかった。

リラ「シノンさん、ティアリスさん、一緒に遊びませんか?」
シノン「うん、あとで! ちょっと待ってて!」

子供のように歓声をあげるリラに手を振りながら、シノンは太陽と、川に映る光、そして…隣に座る姉を見つめた。
姉のような…大切な人。彼女は膝を伸ばしながら川の彼方を見つめている。
視線の向こうに遠く見えるのは…エルザード。

シノン「ティア姉さん。何か、考えてるの?」
ティアリス「別に、大したことじゃないわ。ただ、いつまで続くのかなって思っただけ。この楽しい日々が」

それ以上は口にせずティアリスは川と夕日を見つめていた。シノンには、なんとなく解る。ティアリスの言葉の意味が。
少女が、女性へとなったとき、考えなければならなくなること。いつまでも、子供のままではいられない。
だが…

シノン「ティア姉さん。あれを見て。川の水。あれは今この時だって同じじゃないよ。ずっと変わり続け流れ続けてる」
ティアリス「シノン?」
シノン「でもさ、遺跡が水に沈んだ昔からここに変わらず流れてるんだよ。それとおんなじ。何かが変わったって本当に大切なことは変わらないよ。あたしも、姉さんも、きっと…兄貴もね」

あんまり達者な言葉でも、的確なアドバイスでもなかったかもしれない。でも、ティアリスにはなんとなく解る。シノンの言葉の意味が。

ティアリス「くすっ、流石神官見習いね。説教が上手いわ。」
シノン「わーい!神官らしいなんて褒められたのはじめて〜♪」
ティアリス「そんなこと誰も言ってないわよ」
シノン「そんな〜〜」

わざと、頬っぺたを膨らませ怒ったまねをするシノンを瞳に映したティアリスは音楽的な声で笑い始める。
笑い声を聞いて、まるで鏡に映したようにシノンも笑った。風のように爽やかな声で。

リラ「シノンさ〜ん、ティアリスさ〜ん、遊びましょ〜」
シノン「今度こそ今行く〜。ティア姉さん行こう!」
ティアリス「そうね、遊びましょっか!」

二人はお互いの手をしっかりと握り合って、駆け出した。
靴を川辺に放り投げて…。

リラ「冷たくていい気持ちですよ〜」
シノン「ホントね。涼しいし、最高!」
ティアリス「ちょっと、シノン!水かけないでよ!イヤリング落ちちゃうわ」

明るい乙女たちの笑い声に、虹色の光に、ふと足を止めた青年がいた。
彼女達は知らなかったけれど。

シノン「ああ、楽しかった。そろそろ、帰ろうか?あたしが帰ったら特製のチャイを入れてあげるよ。」
リラ「ありがとうございます。ちょっと冷えちゃいましたからね」

シノンの明るい誘いに丁寧にお辞儀をしたリアは、ふと後ろを振り返った。
落ちる夕日を水が弾いて石造りの白い建物を虹色に染める。

リラ「また、来れるといいですね」
ティアリス「そうね、また、三人一緒にね」

彼女達は帰り行く。虹色の欠片を耳に。虹色の思いを心に。


今、アクアーネの村の喫茶店には一枚の絵が飾られている。
遺跡の絵や、水路の絵の脇に、飾られているのは水と戯れる乙女達の笑顔の瞬間。
緑と青と、金の少女達の幸せな笑みが、お客の心を今も微笑ませている事を、彼女達は…知らない。

それは、乙女達の幸せの記憶。
これから何が起きようとも消えず、いつも心に灯りをともす幸せの思い出。