<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


生への渇望


------<オープニング>--------------------------------------

「最近、墓が掘り返されてるって話聞いた事があるかい?」

 エスメラルダが酒の入ったグラスを片手にそんな事を告げる。
 確かに最近そのような噂をあちこちで聞く。
 その噂話はここから北に暫く行った地域が発生源だった。
 しかし話はそれだけに留まらなかった。
 先ほど入ってきた新しい情報はそれがただの金品強奪のためではないと告げている。

「ただ掘り返されてるだけなら、金品強奪のための……と話はつきそうだけど、本人が居なくなっているっていうんだからね。しかも金品はなくなっている様子はない。そしてさっき日が暮れると同時に一つの村が襲われた」
「………生ける屍……アンデットか……」
 ビンゴ、とエスメラルダは大きな、そしてやるせない表情を浮かべる。
「感情がなくなっちまってるアイツラは生きている者達への憧れ、そして憎しみという想いだけに囚われている。ずっと抜け出せない悪夢にね」
 だからせめてひと思いに……、と呟いてエスメラルダは悔しそうに爪を噛んだ。
「そんなに遠い村じゃない。この街にやってくるのも時間の問題。彼らを安息という名の眠りにつかせてやってほしいんだよ。この地に繋ぎ止められた枷を外してやってくれないかね」
 そう言って、エスメラルダはぐるりと当たりを見渡した。 


------<ぺんぎん☆パラダイス>--------------------------------------

 黒山羊亭に入ってきたのはいつもと同じように穏やかでほんわかとした笑みを湛えた玉響夜日吉だった。
 思わず目を奪われる。
「おや、随分可愛らしいお客様だねぇ」
 エスメラルダが日吉を歓迎し、自分の方へ来るように告げる。
 日吉の後から聞き慣れない、ぺたぺたという音を響かせてついてくる物体に気づいたエスメラルダは思わず日吉の後ろを覗き込む。
 そこには一生懸命に日吉の半歩後ろをぺたぺたとついてきている温泉ぺんぎんの明渡の姿があった。
「ぺんぎん???」
「はい」
 にこやかな笑みを浮かべ日吉は頷く。
 日吉はくるりと振り返り、明渡を抱き上げ微笑む。
「温泉ぺんぎんの明渡と申します」
「あぁ、そうかい。仲が良いようでなによりだ」
「はい。仲良しです」
 おっとりとそう告げる日吉にエスメラルダはたじたじだ。
 どうも日吉のペースに飲まれてしまいまったりと話をしてしまいそうになる。
 縁側でお茶を飲みながら井戸端会議、のような。
「まぁ、いいよ。さぁそこにでも座って楽しんでいってくれれば」
 酒場だけどね、とエスメラルダは告げ再びアンデットの話を始める。

 その言葉に日吉は興味を示す。
 日吉はアンデットとは縁があり、そして何より死者の眠りを妨げるということをする人物がいることが許せなかった。
 久しく戦場を離れ、まったりとした日々を送っていた日吉だったが、その話を聞いては動かないわけにはいかない。
 そして日吉はエスメラルダに声をかける。

「それは今日のことですか?」
「ん?あぁ、そうだよ。今日の夕刻襲われたそうだ」
 日吉は考えるそぶりを見せ、そしてエスメラルダに言う。
「その依頼、私にも手伝わせて頂けないでしょうか」
「は?あんたが?戦えるのかい?アンデット相手に」
「はい」
 変わらぬ柔らかい笑みで日吉は頷く。
 エスメラルダは日吉が戦えるとはその時点では思っていなかった。
 しかし日吉が嘘を付いているとも思えない。
 真っ直ぐで澱みのない瞳をエスメラルダに向けてくる日吉。ついでに明渡も一緒に。
「危険だということは承知しております。しかし、戦巫女としても赦せませんし」
「そこまで言うならお願いしようじゃないか」
 エスメラルダは微笑む。
 その時、横からオーマが現れ素早くエスメラルダの元に近づき詳細を尋ねた。
 エスメラルダは首を力なく振りながら言う。
「もう奴らが来るまで時間がないってことくらいだろうね。死んだ者をまた葬るっていうのもおかしな話だけれど」
「んじゃ、行くか。腹黒同盟のトップ3がいりゃ、どうってことねぇだろ。彷徨ってる奴らの先導をキッチリしっかり取ってやらねぇと」
「そうですね。…村の人が心配ですし。未だに助けを求めている方が居るかもしれませんし」
 アイラスもオーマの言葉に同意をし立ち上がる。
 ルイも恭しくエスメラルダに一礼すると、にこりと微笑み告げる。
「わたくしも微力ながらお手伝いさせて頂きたいと思います。世界は異なれど此処はソイルマスターとしましても放ってはおけませんね…何処まで力が及びますかは定かではありませんが―…」
「そうかい。そう言ってくれるとありがたい。他にもさっき何名か出て行ったから……現地で協力して頂戴。ところでオーマ、あんた一体何で行くつもりだい?」
「んぁ?この間エスメラルダのこと乗せてやったみたいに…でっけぇぇ…って、ん?」
 途中まで聞いたエスメラルダは、隣に立つ美しい女性を三人に紹介する。笑顔に癒されるようだ。腹黒さが全く感じられない。
「村まで行くのなら一緒に連れて行っておくれ」
「玉響夜日吉と申します。死者の眠りの妨げは戦巫女としても赦せません。戦の場は久しく離れておりましたが……参ります」
「勇ましい嬢ちゃんだな。よし、俺が乗っけていってやろうじゃねぇか。んじゃ、さっさと向かおうぜ」
 日吉は振り返り、自分の後ろをぺたぺたと歩いてくる明渡をエスメラルダへと預ける。
「戻ってくるまでここにいてくださいね」
 柔らかく微笑んだ日吉に明渡は、ぴしっ、と手を挙げ応える。
 頷いて日吉はオーマ達の出て行った扉を同じようにくぐった。


------<墓地にて>--------------------------------------

 翼のある巨大な銀色の獅子が空に舞う。
 綺麗な月の出ている夜だった。
 何処かの街がアンデットに襲われているとはとても思えないほどに。
 翼をはためかせ、四人はアンデットに襲われたという村へと向かう。
「ゾンビはどこを破壊すればよいのでしょうか?やはり頭でしょうか?部位を狙うことにさほどの意味がないようなら四肢から破壊するのが良いでしょうね。ゾンビさんがどのような方たちだったのかは知りませんが、現在はただの骸、効率よく破壊していきましょう」
 そう告げるアイラスに、ルイがほんの数ミリ傾いた眼鏡をキッチリと直しつつ言う。
「骸……その想いが故に己が道、己が存在を見失い…更にその身を闇へと沈めている彼等の様な存在は感情が無いのではありません…ある意味で申しますれば生在りし者以上にその「心」は儚く脆く純粋で…そして強いのですよ。それがまた人ならざるモノでもあるのです」
「その方々を弄ぶようなことをした、墓地を荒らした人物の方も対処すべきかと。やはり根を絶ちませんと」
「根を断つ。そうですね。原因も調べたいところです。しかし破壊するのでなければどのように?」
『導いてやるのさ。がっちり魂を捕まえてな。殺すのなんざ簡単だが、救ってやるのはなかなかな』
 脳裏に直接響くオーマの声。
 その時、日吉は眼下を眺めていたが、あっ、と声を上げる。
 無数の金色に光るものを発見したのだ。
 禍々しい闇の光。
 そして日吉はある場所を指さしながら告げる。
「あの、私を今の墓地のところで降ろして頂けますか?」
「墓地?」
 はい、と日吉は頷き自分がすべき事を述べる。
「魂鎮めの舞を舞わせて頂きたいと思います。魂を清め、アンデットを浄化しこれ以上動き回ることのないようにして差し上げたいと」
『要はその迷える魂を導いてやるって事だな』
「はい。殺めるのではなく浄化し元の世界へと帰って頂くのです。アンデット化を阻止する効果もありますから」
 にこやかに告げる日吉をオーマは墓地の付近で降ろしてやる。
『一人で大丈夫か?嬢ちゃん』
「はい。後で村の方へと合流致しますので」
 ありがとうございました、と日吉は微笑み、ぺこりとお辞儀をすると墓地に向けて歩き出した。


 日吉は左右から迫ってくる金色の光に気づき歩みを止める。
「目覚めてしまったのですね」
 眠りを妨げられた死者が怒りを持つのは当たり前だ。
 そして、どうにも出来ない生への渇望と生きる人間への負の感情。
 そればかりが彼らの中には溢れ、願うのは生きた人間の血肉。
 浅ましい生物へと姿を変えてしまった者達と日吉は扇を手にし向かい合う。

「……参ります」

 全ての迷える魂に導きを。
 再び目覚めることのない静寂へと。
 慈愛の心を込め、日吉は魂鎮めの舞を緩やかに舞う。
 袖を翻し、艶やかにそして力強く。
 左から右へ上から下へ、そして斜めへと宙に軌跡を描きながら扇が日吉と共に闇夜に浮かび上がる。
 月明かりを浴び、その姿はまるで月の化身であるかのように光輝いていた。
 扇から放たれる波動は周りに集まったアンデットへと飛び、そしてその一人一人を絡め取るようにして広がっていく。
 その距離は日吉を中心とし約半径80メートルほど。
 一度その波動を受けた者は二度とアンデット化することはない。
 今も日吉を襲おうと押し寄せてきたアンデットは全て、闇の呪いの象徴である青黒い肌から土気色へと変わり浄化されていた。
 既に動き回る金色の光はない。

 あちこちに散らばる散らばった死体を避け、日吉は墓地へと向かう。
 そんなに広くない墓地は一度舞っただけで全てのアンデットは浄化されてしまったようだ。
 そこで日吉はこの事件を引き起こした者の手がかりを探る。
 墓地を荒らし死者の眠りを覚ます者はろくな人物ではない。
 いつもほんわかおっとりとしている日吉だったが、やはり許せないことはある。
 その一つが今回のような一件だった。
 なんとしても二度とこのような事がないように、元を絶たなければならない。
 小さな手がかりでも良いから日吉は見つけたいと願う。

 墓地に入り込んだ日吉はすぐに小さな足跡を発見した。
 その足跡は全ての墓の側についている。
 日吉は手を空に翳した。
 空中には何もない。
 しかし次の瞬間、日吉の差し出した手に一羽の梟が留まる。
「こんばんは。私に教えて欲しいことがあるのです」
 微笑んだ日吉の言葉を理解しているのか梟が一声鳴く。
 日吉は『自然の友』という力を使い梟と会話を成立させていた。
 優しい梟は必死に何事か思い出そうとしているようだったが、なかなか思い出すことが出来ないでいるようだ。
「そうですか……今日は誰も……あの足跡は分かります?」
 日吉は先ほどから気になっている小さな足跡を指さし尋ねる。
 明らかに最近ついた足跡だった。
「既にありましたか。分かりました。どうもありがとうございます」
 日吉が再び空に手を伸ばすと、梟はそのまま飛び去っていく。
 昼間に付けられたものなのだろうか。
 昼間であれば梟は見ているはずがない。
「愉快犯かあるいは……『生』ではなく『死』の側に在るものの仕業でしょうか」
 ぽつり、と日吉は呟きぐるりと墓地を回ってみる。
 しかしその足跡以外には気になる点は見つからない。
 ただ、墓の中が全て空っぽということ以外。
 日吉はとりあえず皆と合流することにし、墓場を後にした。


「何処がいいですかねぇ……」
 そんな事を呟きながら村の入口付近をアイラスと一人の少女が手を繋ぎ歩いていた。
 日吉はそれを見つけ、首を傾げながらアイラスに尋ねる。
「その方は?」
 少女を目にし、日吉は先ほど見つけた足跡のことを思い出す。
 丁度少女と同じ位の足の大きさではないだろうか。
 しかしアイラスの話ではアンデットに襲われていたという。
 それならば違うのかもしれない。あの墓場についていた子供の足跡は、墓から抜け出したアンデットのものなのだろう。
「墓地の方からはこちらにアンデットが向かうことは無いと思います。そしてこの付近は全て捕獲されたのとのこと。とはいえ、安全とは言えませんし。もしかしたら一緒にいる方が一番安全かもしれません」
 日吉のにっこりと微笑んだ笑顔を見て少女は少し落ち着いたようだった。
「一緒に行きましょう」
 日吉の言葉を聞いて、少女はアイラスの手をきゅうと握り頷く。
「しかし……いえ、そうですね、僕たちが護ればいいんですから」
 アイラスも結局その意見に賛同し、元来た道を戻る。
 奥へと進む中、あちこちからのそりと進む影。少女の手を握っているアイラスを見て日吉が申し出る。
「ここは私が…」
 日吉が扇を持ち遠くから迫り来るアンデットに向けてそれを翻す。
 緩やかに艶やかに舞うその姿は他人を魅了する。髪と肌の白さが際だち夜空に映える。しかしその舞いは魂を鎮める浄化の舞い。
 扇から放たれた波動はそのままアンデットを捕らえそのまま浄化させる。
 日吉の半径の数十メートル先に見えていたアンデットも全て浄化されたようだった。
 アイラスと手を繋ぐ少女に変化はない。もし、少女がアンデットなのだとしたら日吉の真後ろにいた少女にも舞いの効果はあったはずだ。
 それが全くないのはアンデットではないということだろう。
「行きましょう」
 にこり、と微笑んだ日吉が二人を呼ぶ。
 遠くにオーマとルイの姿も見えている。
 少女を連れ、アイラスと日吉は村の中央へと歩を進めた。


------<闇の中の真実>--------------------------------------

 動いている全てのアンデットを浄化、そして捕獲完了する。
 全員が村の中央に集まってきていた。
 先ほどまで白狼の姿だった疾風はいつもの姿に戻り、変わり果てた村をぐるりと見渡す。
 火の勢いはだんだんと収まってきていた。すぐに鎮火するだろう。

 助けることが出来たのは結局十人だった。
 生き残った者達の話では、アンデットが村を襲ったその時点で村人はその村人たち十人を残し、全て喰われてしまったのだという。
「十人ですか……」
 数を数えていたアイラスが首を傾げる。
「十一人の間違いではありませんか?」
「いや……俺たちだけが隠れてたんだ……子供らは皆で遊びに出かけていたからそのまんまやられちまった……」
「それでは……こちらの子は一体?」
 日吉がアイラスの隣に立つ先ほど助けた少女に目を向け告げる。
 日吉は先ほど墓地で見つけた小さな靴の足跡を再び思い出す。それは丁度この少女位の大きさだった。
 見つからぬように扇に手をかけ、日吉はその少女に照準を合わせる。
 静かな静寂が満ちる。
 まるでその場の刻が止まったかのようだった。
 助かった男が告げる。

「そんなガキはうちの村にはいねぇ…」

 じっ、と皆の視線がその少女に注がれた。
 くすり、と少女が笑う。

「なんだ、つまんないの」
 あーぁ、と残念そうに少女は呟きそのまま羽もないのに宙に舞う。
 せっかくオモチャ出来たと思ったのに、とくすくす笑い闇に融けていく。
 それを日吉がくるりと舞いながら、魂鎮めの舞をくらわせる。先ほども少女はそれを受けても傷が付くことはなかった。だから先ほども見逃してしまったのだ。日吉の魂鎮めの舞は半径80メートルほど全体にその効力が放たれるというもの。それでも平気だったのだからとすっかり安心してしまっていた。
 日吉の攻撃と同時にオーマの銃口も火を噴く。
 しかし日吉の攻撃もオーマの銃も全く効果がなかった。
 透け始めた少女の身体は闇に完全に融け、全く浄化される気配がない。

「まったねー。…闇はアタシの領域。死はアタシの源…ちょーっと今回はこっちが全滅させられちゃったけど。次はアタシが勝つよ?」
 その時はこの姿じゃないと思うけど、と高笑いが闇の中から聞こえてくる。
 それは四方から聞こえてくるようで、場所の特定すら出来ない。
「あの子が今回の原因の……」
 日吉はぎゅっと手を握りしめる。
 見つけていたのにそれを目の前の子供と結びつけられなかった。
 そして日吉は死者の魂を愚弄するような行為に憤りを感じる。
「申し訳ありません。手がかりはあちこちに鏤められていたはずなのに」
 そう謝罪する日吉を責める者は誰もいない。
 自分たちも気づくことなく、そして今もまんまと逃げられてしまったのだから。

 まだ笑い声は聞こえている。
 フィーリは敵に逃げられたことで胸の中に不思議と満ちるもやもやとしたものを打ち払うべく、必要なくなった聖水の入ったビンを地面に叩き付けた。
 するとそこにのたうち回る少女の姿が現れる。
 すかさず逃げられないように、ルイは呼び出した蛇の霊で少女をグルグル巻きにしてしまった。
「おぅおぅ、ちょーっとヤリ過ぎじゃねぇかね」
 訳があるなら聞いてやる、とオーマが言うが少女は首を振る。
「苦しい……苦しい……」
「……あなたよりももっと酷い苦しみを味わった方々がたくさん居ります。それともあなたもまた、闇を流離う者なのですか」
 疾風の瞳は哀しみに満ちていた。
「死ねないんだ……長生きとかそういうんじゃなくずっと同じ死を生かされている。死がアタシで闇の中がアタシの世界。道はない。ずっと同じ場所を回っているだけ」
 苦しくてつまらないんだ、と少女は苦しみながら呟く。
 すると身だしなみを完璧に整えたルイが少女に一礼し告げた。
「わたくしで良ければあなたを導くことが出来ます。死があなたということならば、死人とも考えられます。ループを抜け出したいとお思いですか?」
 ルイの問いかけに少女は頷く。
 この自分の中だけの世界を壊してくれるのなら、と。
 繰り返される時は要らない。変化のない毎日は要らない。

 それならば……、とルイは先ほど集めたアンデット牢の前へと皆を集める。
 そしてその中に少女を入れた。
 牢といっても霊魂軍団で出来た牢だ。天井はない。
 西に傾いた月の光が微かにその牢の中を照らす。彼らを照らす最後の月の光。

「ちょーっと待った。俺様のビックでイロモノな技を餞別代わりにくれてやるよ。特別サービス一気にズガーン☆と一発な」
 そう言って具現能力の応用で悪夢ではない夢をアンデットと少女に見せる事に成功するオーマ。
 終わらない悪夢の中で見た夢を忘れてしまう位のとびきりの夢を。

 そしてルイの掲げた二本の杖の先がぽうっと色を放つ。片方は蒼、そしてもう片方は紅。
 それぞれの色を放つ杖を宙に向け、先ほどと同じように魔法陣のようなものを描いていく。
 二色の魔法陣のようなものが絡み合い、そして淡い光を放ち始める。
 それは柔らかく神々しいまでに美しい。
 牢の中に入っていた者達の身体から光り放つ球体が出てきては、その宙に浮かぶ魔法陣のようなものに吸い込まれていく。
 まるで蛍が浮かんでいるようにそれは綺麗だった。
「次に目覚めた時は、きっと深い闇ではなく輝く光の下でしょう。それまで暫し‥おやすみなさい」
 先ほどと同じ哀しい目をした疾風がそう呟く。
 その時、何処からか可愛らしい歌声が響いてくる。
 焼けた家の塀に腰掛けたルーセルミィだった。
 軽く瞳を閉じ、浸るように歌い続ける。
 その隣には塀に寄りかかったフィーリが立っていた。
 そのルーセルミィの声に少女は反応する。

「……知っている……」
「この地方の子守歌だってー」
 ジークがフィーリの肩に留まったまま告げる。
「子守歌……」
「もしかしたらお前さん、昔はこの土地で暮らしていたのかもな」
「懐かしい……」
「よかったですね」
「心穏やかにお休み下さい」
 日吉は瞳を閉じる少女に微笑みながら優しく告げる。

 少女は導かれるままに意識を手放す。
 再びこの地に戻ってこれることを願いながら。

 少女の身体から出てきた光る球はルイの導きの元、迷うことなく浄化された。
 歌い終わったルーセルミィが小さな溜息を吐き、登り始めた太陽を眺める。
「これがキミたちにできるボクの精一杯。ゴメンね…」
 呟いた言葉は朝焼けに溶ける。

 日吉はゆっくりと昇る朝日を眺めていた。
 夕方に世界はリセットされ、そしてまた新たな一日が今この瞬間に始まる。
 静まりかえった村に温かな光が満ち、それはまるで全てを浄化していくような温かな希望に満ちた光。
 全ての者達に喜びと安らぎを。
 日吉はほのぼのとした見る者に安らぎを与える笑みを浮かべ、新しい始まりを見つめていた。



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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1112/フィーリ・メンフィス/男性/18歳/魔導剣士
●1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト
●1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り
●2085/ルイ/男性/25歳/ソイルマスター&腹黒同盟ナンバー3(強制)
●1582/玉響夜・日吉/女性/21歳/戦巫女
●2181/天護・疾風/男性/27歳/封護
●1411/ルーセルミィ/男性/12歳/神官戦士(兼 酒場の給仕)

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■□■ライター通信■□■
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初めまして、夕凪沙久夜です。
この度はアンデット退治にご参加頂きありがとうございます。

日吉さんと共に明渡さんも一緒に行って貰おうかと思いましたが、ペタペタと可愛い姿で墓地を歩いていて穴に嵌ってしまったらどうしようと思い、エスメラルダに預けてみました。
勝手なコトして大変申し訳ありません。
そして、能力の発動あのような描写で良かったのか…不安いっぱいでございますが、少しでも近いものになっていればと思います。
墓地探索はお一人でしたので、キーキャラになっております。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

ありがとうございました!