<PCクエストノベル(1人)>


ぬくもり〜サンカの隠里〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1879 / リラ・サファト / 不明】

【その他登場人物】
【NPC/ エスメラルダ】
【NPC/ グアドルース・ロード】
【NPC/ サンカの織物師】

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 何時の日も。
 何時の時でも。

 糸を織り、織っては返し、長さ見て。

 君と辿ると願えばこそ。




リラ:「……織物?」
エスメラルダ:「そう。これがまた、綺麗らしくて……何でも、その織物の模様には、持つ人の幸せを祈る意味が込められてるとか……」

 きっと身につけた人は幸福になれるんでしょうね。
 何処か寂しげな呟きになりながら、エスメラルダは微笑う。
 昼下がりのまだ客らしい客も居ない…黒山羊亭。
 少し、お買い物の散歩がてらに寄ったリラ・サファトは、姉妹のように思っている女主人のエスメラルダに、その話を聞き、紫の瞳を輝かせた。
 本来なら大事な人に一番にあげたい所だが……。

リラ:「ええっと、その織物ってやっぱり…高いんでしょうね」
エスメラルダ:「値段についての噂までは聞かないけど……多分高いんじゃないかしらね? ああ、でも……綺麗だから女性が好んで身につけるとは…聞いたような」
リラ:「女性かあ……やはり男性が身につけるよりは、つけやすいって事も有りますもんね…うん」

 差し出された桃のジュースを一口飲みながら、リラは、にっこり微笑んだ。

リラ:「(……決めた、トラちゃんにあげよう♪)」

 小さい織物でも構わない。
 もし、その織物でリボンがあるなら、それが一番の希望だけれど――小さな小さな、掌にすっぽり入るような茶虎縞の仔猫。
 その子に飾れる美しいものがあるなら、一人で出かけられる事も怖くない、かも知れない。

エスメラルダ:「ふふ、何か幸せそうに笑っているけれど……見てきたくなったのかしら?」
リラ:「はい。見て来て……つい先日、エスメラルダさんにも見せましたよね? 茶虎…トラちゃんの為に買って来ようかなって」
エスメラルダ:「ああ、あの小ちゃい猫……つけた所を見れるのを楽しみにしたい所だけれど……多分、貴方一人じゃ行けないと思うの」
リラ:「どうしてですか?」

 きょと、とリラは微かな瞬きを繰り返す。
 グラスの中に入ってる氷が溶けて、汗をかき――エスメラルダは、リラの問いかけに極上の笑みを向けた。

エスメラルダ:「それはね、行き先がサンカの隠里だからよ。ね? 一人じゃ、まず無理でしょう?」
リラ:「……で、でも……」

 行きたいんです。
 と、リラがエスメラルダに掴みかかるような勢いで、言おうとした時、やけに視界が暗くなった。
 確かに薄暗い店内ではあるけれど――、此処まで暗くなる事は無かった筈なのに、と思い、顔を灯りの方へ向けると。
 銀髪、赤瞳の整った容貌と、がっしりとした体躯を持つ青年が、立っていた。





リラ:「あ、あの……?」
エスメラルダ:「怯える必要はないわよ、この人が居れば無事にサンカに辿りつけれるから」
リラ:「………?」

 戸惑いの気配を感じたのか青年が、ホンの僅か微笑む。
 僅かながらの微笑なのに、雰囲気が変わったように見え、リラも笑みを返す事が出来た。

リラ:「すいません、お名前を伺っても良いでしょうか」
青年:「グアドルース・ロード。今話に出た、サンカへの道先案内人…とでも思えばいい」

 ぱちくり。
 ぱちくり、と。
 意味を考えるように何度も何度も瞬きと首を傾げるのを繰り返して。
 漸く、何を言ってくれているのか解り、口に手をあてる。
 驚きの為と喜びの為に。

リラ:「と言う事は、もしかして…連れて行って、下さるんですか?」
エスメラルダ:「この話を聞いたら貴方の場合、梃子でも動かないと思ったから。先に頼んでおいたのよ」
リラ:「……っ」

 どうしよう、お礼を言った方がいいのだろうか。
 それとも―――
エスメラルダ:「もし、お礼を言いたいと考えてるのなら…そうね、織物で飾られた茶虎ちゃん?を見せてくれる事が一番のお礼よ」
 考えを見透かされたようなエスメラルダの言葉に、リラは「はい」と嬉しそうにグアドルースへと駆け寄る。
 話に聞き、見たいと望んだ織物を見にいく為に――サンカの隠れ里ヘ、渡るべく。




 そうして。
 次の日、明け方早くにリラと自分自身を「道先案内人」と言ったグアドルースは、黒山羊亭の脇、彼が用意してきた小さな馬車へと乗る。
 狭い道を通るので余り、大人数は連れて行けない、だが、今回は一人だから余裕だな、と彼は笑いながらも。
時折、陰のある表情を、見せた。
 が、大体は一人で行こうとしているリラを気遣ってか、僅かながら話してくれたりもした。


グアドルース:「そう言えば…先ほど"茶虎"と聞こえたが何のことだ?」
リラ:「仔猫です。まだ掌に乗るくらいに小さくて……とってもとっても可愛いんですよ?」
グアドルース:「ほう……で、その猫の為に織物を、と言う訳だな」
リラ:「はい……可笑しい、でしょうか……?」

 グアドルースに問い掛けると言うより、更にリラ自身へ言葉を落とすように、俯きながら言葉を落とす。
 がたがた、鈍い音を立て馬車は、揺れ、景色も同様に揺れる。

 リラには、母親との想い出が殆ど無い。
 それは、何故なのか考えると寂しくなるし、また何時も不在がちな父親の思い出と重なってしまうので、あまり考えないようにしている。
 だが、だからこそ――、子供のように可愛がっている茶虎には幸せになって欲しいとも考えていたし、その為の努力は惜しまないとさえ、考えていた。

リラ:「(寂しい思いは出来るだけ、させないように)」

 誰も居ない、空間。
 無機質で動きの無い部屋、呼んでも届かない声。

 そう言う寂しさの詰まったものより、幸せに出来る何かがあると言うのなら、与えてあげたかった。
 誰か――、そう、記憶の隅に残る『誰か』にリラ自身が安心や様々な嬉しさを貰えていた様に。
 彼と同じようには勿論出来ないかもしれない、けれど、出来うる限りで。

グアドルース:「いや……可笑しくはないだろう。その猫に似合う、良い物があると良いな」
リラ:「はい♪ あ、それからお聞きしたかったんですが……」
グアドルース「何だ?」
リラ:「サンカの人は皆、グアドルースさんの様な姿なんですか?」
グアドルース:「ああ…女性はこの色合いだな、銀の髪に赤い瞳。男性は屈強な身体をもち――皆に共通するのは額中央にある、この角。色合いについては…少しばかり、俺は違うが」
リラ:「……でも、お綺麗だと想いますよ?」
グアドルース:「有難う。……サンカから出て来て、そう言われたのは初めてだ」
リラ:「何故、出たんですか?」
グアドルース:「さて…何故だったかな……だが、君も何時か気付くだろう。安穏とした中、まず自分が何の為に居るのかを。そうして狭い中より更に自分の見聞を広めようと願うことに」
リラ:「だから、なんですか……」
 納得が行ったのかリラが深く頷く。
グアドルース:「ん?」
リラ:「だからこそ、サンカの道先案内人――いいえ、サンカを知って貰うと共に、其処から、出てきたのでしょう?」
グアドルース:「……その通り。が、問題は山積み――長老は未だ反対しているし、だからこそ俺は中々戻れない……ほら、じきに辿り着く。見えるか? あの森に囲まれた小さな村奥……あれが、サンカの隠里だ」

 鬱蒼とした緑。
 一人で入れば迷子になるだろう同じ風景がただ、広がる。

 夏でさえ、生い茂るほどの緑たち。
 朝から馬車へと乗り、太陽が真上に昇る頃、リラはサンカへと辿り着いた。




 入り口から僅か、迷子になりそうな不安を抱え、リラは戸惑うように歩を進める。
 屈強な男性も、絵から抜け出たような美しさの女性も全て初めて見るもので、何処か不思議な感覚を受けながら、織物を織っているだろう人の事を聞き、更に奥へ。

 草を踏みしめるたびに、土の匂いが深くなり、今居る場所が自分にとって違う場所なのだという事を実感する。

リラ:「(砂漠とは、本当に違う……)」

 この前連れて行ってもらった、海とも違う。
 ざわざわ、ざわざわ。
 木の枝が揺れる音はまるで波に音にも似ているのに、何処とも違う。

 ざわざわ、ざわざわ。
 微かに吹くであろう風の中に、沢山の木々は答えるように音を返す。

 その中に。
 僅かながらに響く、音。

 カタン、カタン。
 カタ……、と何かを叩いてる音でも無い、不思議な音。
 目の前にある、家の前に行くと一層、その音は大きくなり……リラは、家の扉を二度三度、叩き、中へと入る。
 すると、リラの目に飛び込んできたのは大きな機織り機で。
 良く見ると一人の女性が一定のリズムで手を、動かしている。
 どうやら、音はこの機織り機から出ているらしい。

リラ:「こんにちは、あの……織物の話を聞いたんですが……」

 問いかけに、手を止めてくれたのだろう。
 音が止まり、今まで見てきた女性よりは若干年配の…だが人の好い笑みを浮かべた女性が、リラの近くへと寄り、頭を下げた。

織物師:「いらっしゃいませ。お客様、ですか……? 随分と久しぶりのお客様ですね」
リラ:「そうなんですか?」
織物師:「何と言っても隠里の所為もあるかと思うんですが……じかに買いに来る方は滅多に」
リラ:「そ、そうですよね……ええと、もし大丈夫なら少し見させていただいて良いですか?」
織物師:「どうぞ。此処の織物は、模様が特徴的でして、"何時、何時の世でも"を意味する織り模様が入ってます。…多分、良く身につけるのはその模様の意味する言葉を願う方が多いからでしょうね」
リラ:「……大事な人へと願うことは、皆同じですね」
織物師:「ええ、だからこそ願いを形にしたいとも思うのでしょう」

 リラは丁寧に、様々な種類の織物を見、その模様の美しさに溜息をつく。
 そして、リボンほどの長さがある織物を見つけると、どれが茶虎に似合う色か頭の中で考えた。

 柔らかな茶色の毛並み。
 にゃ♪と喜ぶように鳴く、声。
 掌に返してくれる、温かなぬくもり。
 可愛くて成長が日々楽しみな、大事な大事な仔猫。

 どの色合いが良いだろう…と、考えた時にシンプルな紺と白の織物があり。

リラ「(あ……こ、これにしようかな……でも女の子だし赤とか華やかな色も……)」

 捨てがたいかな……とも思いながら値札を見る。
 すると二つ買ったとしても、用意していた金額より遥かに安くて。
 なら、一つのみではなく…二つでも良いかもしれない、と結局、紺と赤の織物を持つと、織物師がにっこり、微笑んだ。

織物師:「大事な人にあげるのね?」
リラ:「はい……とっても、とっても幸せになって欲しい子に」
織物師:「願いが、叶うと良いわね。何時の時であろうとも、その人が幸福である様に」

 代金を渡すと何かのまじないだろうか、織物師は額の角に指を当てると、その指をトントン、と織物へと当て、手渡してくれ――、手に入れられた嬉しさも含めリラも満面の笑顔で、礼を返す。

 再び、外へ出ると、きょろきょろ、辺りを見渡し迷子にならないよう、来た筈の道を歩き……何度も何度も織物があった家を振り返る。

リラ:「(今度は、大事な人たちも一緒に連れて来ますね)」

 また、来たら。
 あの織物師は、再び微笑んでくれるだろうか。

 そして、そのまじないを、もう一度、見せてくれるだろうか……。

"何時、何時の世でも"

 優しい願いが込められた織物へと願う様に。





 振り返り振り返り、遠くなる場所を背に、入り口近くへ辿り着いた時、何やら見えるものがあった。
 隠里の入り口近く。
 馬車が、静かに、誰かを待つように。
 見覚えのある馬車に、リラは「あれ?」と小首を傾げた。
 そう言えば、確か此処には馬車で来たんだっけ…?と、考え、口に手をあてる。

リラ:「……すいません! お待たせしちゃって」

 グアドルースの馬車だ、と思い出した瞬間、慌てて馬車へと駆け寄り、乗る――、が。

グアドルース:「いや、時間の潰し方には慣れている……良い物が買えたようだな」

 と、言ってくれて。
 不思議とサンカの人は柔らかな人が多いのかもしれない――ふと、そんな風にリラは思いながら、包みを見せる。

リラ:「はい、思いの他安く買えて……二つ、お土産が出来たんです」
グアドルース:「それは何より…では急いで帰るか……今なら夕方には黒山羊亭へ辿り着けるだろう。…それとも自宅の方が良いかな?」
リラ:「…えっと、じゃあ自宅付近までお願いしても良いですか?」
グアドルース:「勿論。案内は帰りまで送ってこそ、だしな」

 馬車はゆっくり方向を帰ると、再び細い道の中を走り抜ける。
 多分、もう振り返っても隠里の姿は、良くは見えないかもしれない、だが、最後にもう一度だけ馬車から里を、見ると。

リラ:「(ああ、やっぱり……森に埋もれて……もう、見えない)」

 有るのはただ、木々ばかり。
 木々に寄せる、風が吹くばかり。

 その中で、受け取った包みをぎゅっと強く、掴む。

 買う事が出来、その商品を受け取った、ぬくもりと。
 家で待つ、穏やかなぬくもりへ想いを馳せながら。





・End・


+ライター通信+

こんにちは、いつもお世話になっております。
ライターの秋月 奏です。

リラさんが飼ってらっしゃる猫さんに織物の贈り物をと言うことで
この様なお話になりましたが如何でしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただける部分があればいいのですが(^^)
それと、色々とお任せして頂けて…本当に楽しく書かせて頂きました♪
NPCであるエスメラルダさんとは姉妹のような間柄と言うことで、
柔らかなリラさんだけに穏やかに会話しているのかも?と考え、
そういう風に書けてれば良いなあと思いつつ♪


それでは、今回はこの辺にて。
また、何処かで逢えます事を祈りつつ。