<PCクエストノベル(1人)>


音楽の祭典にて〜クレモナーラ村〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2161/グルルゴルン/戦士】

【助力探求者】
【カレン・ヴイオルド/吟遊詩人】

【その他登場人物】
青年A・B

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 それは、春。
 全てが萌える季節に、グルルゴルンは1人の女性と出会った。
???:「やあ、こんにちは。君もクレモナーラに向かうのかい?」
 たまたま足を向けていた方向に、その女性の言う場所があるらしい。
グルルゴルン:「そこに、何かあるのか?」
 あまりに自然に声をかけてきた彼女を警戒することも忘れ、グルルゴルンはそのまま問い掛けていた。
 女性は彼がたまたま同じ方向へ歩いていたことに気付いたらしい。にこりと笑って自らの名をカレンと名乗り、
カレン:「これから、音楽祭があるんだ」
 そう、とても楽しげに言った。良く見れば背負っている旅人の荷袋のようなものとは別に、大事そうに皮袋に包まれた何かを胸元にかけている。名を語られれば返さねばならない、と律儀に自らも名乗ると、聞きなれない言葉に興味を抱いて口を開く。
グルルゴルン:「…オンガクサイ?」
カレン:「そう」
 こくり、と一度頷いて、足を止める事無くのんびりと歩いていく彼女の後を、会話を続けるために付いていくリザードマン。自然、彼の足もその方向へ向いていることになる。
グルルゴルン:「それは…なんだ?」
 カレンが少し足の速度を緩め、そしてちらと彼を見上げた。
カレン:「音楽の祭典だよ。年に一度のね」
 そのまま、また少しの間歩く。
グルルゴルン:「オンガクとやらの祭りなんだな」
カレン:「…音楽を知らない?そうだね、音楽は音を楽しむもの…だよ」
グルルゴルン:「…戦いの雄叫びや、求愛の咆哮とは違うものなのか?あれも、音だが…」
 カレンはその言葉に一度目を見開き、そして…小さく笑いかけ。
カレン:「それなら、君もおいで。音楽を知るいい機会だ」
 そう言うと足を早めた。ごくさり気ない調子で、相手が隣に移動するのを勧めながら。

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 クレモナーラの村は、村の入り口へ行くまでもなく、楽しげなさざめきと心を揺り動かすような曲が響いていた。
 まるで村全体が楽器にでもなったかのような様子を見て、カレンが嬉しそうに笑みを浮かべながら目を細める。
カレン:「こっちだよ。私も参加するんだ」
 言われるままに付いていくと、色とりどりの布を身に纏った人々がくるくると音に合わせて回転している場所があった。思わず目を丸くして見るグルルゴルン。
カレン:「退屈なら帰ってもいいけれど、気に入ったらゆっくりしておいでよ」
 そう言いながら、知り合いらしい人々と笑顔で話し出すカレン。それからグルルゴルンへ笑みを浮かべて手でひらひらと合図し、
カレン:「これが、楽器。――これから歌わせてもらうね」
 楽しげに言い、荷物を足元に置くと胸元にかけていた袋から、グルルゴルンには酷く不思議な形の何か――竪琴を取り出して、待機していた楽団の傍へと行った。傍らに立ち、すっと表情を引き締めると長い指先でおもむろに竪琴を奏で始める。
 その音が合図だったらしく、後ろの楽団が彼女の演奏に合わせ演奏を開始した。
カレン:「――――、――――」
 開いた唇から、会話していた時には想像も出来ない、朗々とした歌声が流れ始め。それに合わせるように、周囲も少しずつ唱和していく。
 それは、今までに聴いた事もない、不思議なものだった。
 聞き惚れている、と言った方がいいのだろう。ぴくりとも身動きせず、目はまっすぐに楽団を射て彫像の如くいるグルルゴルンは、そのまま尚曲が変化するまで動く事も出来ずにいた。
グルルゴルン:「…?」
 リズムが変化し、速度が上がる。――と、今までうっとりと聞き惚れていた周りの幾人かが楽しげに手を取り、ペアを組んで踊りだす。先程見た回転していた人々を思い出し、ただ回っていたのではなく『音楽』を聴いてそういう動きをするものなのだと気付いた。良く見れば、きちんと音楽のリズムやメロディに合わせ動いているようで、気付けば自らの尻尾がぱたぱたと地面を打っていた。動かずにいた彼の尻尾が突如地面を叩き始めたことでぎょっとした周りの人々も、その打ち方がきちんとリズムに合わせていることに気付くとにっこりと笑いかけ。逆にそれに合わせるように手拍子が次第に増えていく。
 すんなりと。
 グルルゴルンは『音楽』を受け入れ、そして――
 楽しそうに、踊りの輪の中へと飛び込んでいた。突如入ってきた1人のリザードマンに一瞬ざわめくものの、足踏みと尻尾の動きは…戦うために鍛えた身体は、こうしたリズムに対しても非常に柔軟に対応し、きちんとリズムを取り無意識にアレンジを加えながら実に楽しそうに踊っていた。
 喝采にも、彼を真似て一緒に踊りだした周囲に気付く様子も無く。
グルルゴルン:「――これが、音で楽しむと言うことか。なかなか良いものだな」
 自然、ぐるる…と喉が鳴る。
 楽しげな歌声、音楽、そしてその場の雰囲気を盛り上げている人々の笑い声。

???:「――いい加減にしろ!!!」

 それを破ったのは、1人の怒声だった。
 ギィィン!
 金属と金属の合わさる音。怒号、そして悲鳴。
 一瞬で静まり返ったその場に立ち尽くすグルルゴルン。
 それは、彼が慣れ親しんだ戦いの『音楽』だった――はずだった。
 なのに、何故だろうか…まるで聞いた事のない音のように、耳障りなものにしか聞こえず。
グルルゴルン:「……」
 顔をしかめ、この歓迎せざる客たちのいる方向へ鋭い視線を向けているカレンに、一度ちらっと目をやり、近寄っていく。
カレン:「こんな日にまで、喧嘩することはないだろうに」
 ぽつりと呟くその声に表情は無い。いや、寧ろ無理やり表情を消し去ったような声の低さがあった。
グルルゴルン:「あれは、何なんだ?」
カレン:「……酔っ払い…なら、いいんだろうけどね…」
 溜息を付くところを見ると、カレンも知っている相手なのかもしれない。何だろうと思いつつ近寄っていくと、2人の青年が組み付かんばかりにして睨み合っていた。その2人は、確か楽団の中で演奏していたようだったが…そう思いながらそれぞれが手にしている『武器』を見て、グルルゴルンの目がすっと半眼になる。
 ――それは、金属には違いなかったが――2人が不器用に構えていたものは、たくさん穴の空いた細長い管だったのだ。彼らが演奏しているのを見たばかりだった彼には、それが武器ではなく楽器であることが分かっていた。
青年A:「俺のどこが下手だってんだこの野郎!」
青年B:「ふざけんな、そんなへろへろの演奏で客が喜ぶとでも思ってんのか!」
 きぃぃぃん、ぶつかる度に金属の管が澄んだ音を立てる。何度か打ち合わせ、幾度かは互いに避けきれず肩や腕にその管が食い込み…少しずつ様相が変わっていく様が見て取れた。青年たちも、手に持った楽器も。
 ――ガツン!
 何度目だったろうか。
 澄んだ音色の中に、別の音が混じったのは。

青年A:「!?」
青年B:「な…っ、なんだ…?」
 管から伝わる痺れに腕を押える青年。その2人が見たのは、遠巻きに2人を見ている人々の中で、ずかずかと進み出てきていた1人の――リザードマンの姿だった。
 しかも、手に握った、石の嵌った棍棒は2人に向けて伸ばされていて。そのリザードマンが自分たちの楽器を棍棒で叩いたのだと気付いた青年も、そして回りもざわっ…とどよめきを上げた。
 周りにいた人々の誰かが悲鳴を上げる。どうやら、本物の武器を持ったリザードマンが何をするか分からず怯えている様子で。言葉も無く立ち竦んでいる2人の青年に向き直ろうとしたグルルゴルンがじろりと周囲を一瞥すると、外からの声に答える様子は無く2人の傍へと近づいていく。
青年B:「う…あ、あ…な、なんだよ…そんなの、当たったら怪我するだろうが…」
 ようやく声を絞り出した青年にも睨みを利かせながら、また一歩近づき。
グルルゴルン:「――何をしている」
 その一言に、きょとんとした顔をする2人。
グルルゴルン:「楽器を武器にして何をしようとしている!」
 本気の声だった。
 ついさっき、怒鳴りあっていた青年たちの比ではない、本気で怒った声が2人をビクッと震え上がらせ、縮こまらせる。
 未だ険しい目付きのまま、焼け付きそうならんらんとした瞳で睨むと、グルルゴルンが再び口を開いた。
グルルゴルン:「おまえたちは音楽家などではない」
青年A:「なっ!?」
 グルルゴルンの、暴言とも取れる言葉に気色ばむ2人。その視線をものともせず、再び口を開く。
グルルゴルン:「楽器は音楽家の相棒だろう?戦士が武器を使うのと同じく、楽器を使うのだろう?」
 振り回すためではなく――そう言外に含ませて、怒った声でグルルゴルンが訊ねる。その、無表情にしか見えない顔がずいと近づけば2人共怯えたように後ずさり。
グルルゴルン:「音楽家なら、音楽で戦えばいい。――そんなことも分からないのか」
青年A:「………」
青年B:「………」
グルルゴルン:「それだけだ」
 あっさりと腕を下ろすと、うつむいている2人を放ってぷいと踵を返し人垣を抜けた。その外にはカレンが待っていて、中断していた音楽を演奏するよう、促していた。
 間もなく、先程の喧嘩を一掃するような賑やかな曲が、少しばかり残っていたわだかまりをも吹き飛ばし、人々は再び陽気な顔を空へ浮かべて踊り始めた。
 その場には――あの2人の姿は見えなかったけれど。

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カレン:「おつかれさま。どうだった?あの村は」
グルルゴルン:「うむ。面白かった」
カレン:「年に一度の祭典だからね。…彼らみたいに先走る者もいるんだ」
グルルゴルン:「そうか。勿体無いな、それは」
カレン:「勿体無い?」
グルルゴルン:「そうだろう?俺も島で大会に出た事があるが、その日ばかりは他の何も考えられなかった。一身に習い覚えた技を繰り返していたものだ。そういうものじゃないのか?」
カレン:「ふふ。あの説教はなかなか良かったよ」
グルルゴルン:「俺にはあれが精一杯だからな。難しい事は苦手だ」
カレン:「彼らには良い教訓になったさ」
 くすっ、と小さな声で笑い。それから顔を上げて少し声の調子を変えた。
カレン:「――これから行く当てはあるの?」
グルルゴルン:「いや、特に無い」
 ぶんぶんと首を振る彼を上から下まで眺め、
カレン:「それなら…聖都に来ない?」
 何か思いついたようで、楽しそうな口調になってグルルゴルンへ語りかけ。その言葉に含まれる何かを感じ取ったかぐるりと首を回して彼女を見る。
グルルゴルン:「――戦えるか?」
 カレンがちょっと微笑んで、そうだね、と呟く。
カレン:「ちょっとした揉め事から犯罪まで、困った人たちが助けを求めてくるんだ。そこなら、君が望むような強い相手も出て来ると思うよ」
グルルゴルン:「そうか。俺の力を試せるならどこでもいいぞ」
 嬉しそうに――と言ってもカレンにはまだグルルゴルンの表情を見分ける術は持っていなかったが、その声と今は腰に収められた棍棒の握りにそっと触れる様子を見ればよく分かり、微笑ましいと感じたのかゆったりとした笑みを浮かべ。
カレン:「いつか、君の物語を歌いたいね」
 自らの得物…グルルゴルンに言わせればそう言う言い方になる竪琴が包まれた皮袋を軽く撫で、闇せまる時刻の草原を歩いていく。
グルルゴルン:「おう」
 短く答え、グルルゴルンがカレンを見つめ。少ししてから口を開く。
グルルゴルン:「お前の『音楽』なら、俺が聞いても満足行くだろうな」
 昼間のカレンの歌声を思い出し、少しばかりあの時のステップを繰り返して楽しそうに目を細める。初体験だった『音楽』は、彼にとって良い経験になったようだった。

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ライター通信
初めまして。今回の注文ありがとうございます。
ほのぼのしたお話をとのことでしたので、音楽祭の一部を切り抜いた形で書かせて頂きましたがいかがでしたでしょうか?気に入っていただければ良いのですが。
またのご利用をお待ちしています。
ありがとうございました。
間垣久実