<PCクエストノベル(1人)>


MIRROR MIRROR〜ウィンショーの双塔〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
銀髪の青年

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 ウィンショーの双塔。
 『宝』の噂を聞き付け、やって来る者は後を絶たない。だが、それも堅固な二つの塔から成る『門』と守護する『鍵』たるガーゴイル…それらに護られ、大抵の者は途中で投げ出してしまう。
 そんな中、長い足をのーんびりと動かしてやってきた1人の男の姿があった。
オーマ:「ふふぅん?ここか…俺様の求めるお宝があるっていう噂の塔は」
 八階層から成るという噂を裏打ちするような高さの塔は、下は完全に独立した塔でそれぞれに入り口があり、上を見上げればその双塔を繋ぐ細い橋のようなものが見える。実際には橋ではなく通路なのだろうが、下から見るだけでは確認することは出来なかった。
オーマ:「ん〜〜。いっそヘンシーン☆でもして上に上がっちまうって手もあるんだろうが…いや、それじゃ入れねぇな」
 ちらちらと見上げるその目は言葉とは裏腹に鋭く、塔に入り込めるような窓が無いことを見て取って肩を竦める長身の男。

*****

 どこから流れてきた噂なのか分からないのだが、この塔の上には伝説の『どっきり桃色オメガ腹黒イロモノ親父アイテム』という物があるらしい。普段からイロモノ親父宣言と腹黒同盟への勧誘を怠らない自称親父道師範のオーマに取っては、噂が真実であろうがデマであろうが、とにかく行かなければならないと奮起する理由には十分だった。
オーマ:「さってと」
 塔の入り口に手を掛け――ようとしたその時。
???:「おぉっと。待ちな」
 静かな声が、オーマの背にかかった。
 直後。

 ――ッギィィィン!!!

 にやりと――目の前で笑うは、銀髪…赤目の、人を見下したような笑みを浮かべつつ見つめて来る青年。それに対峙し、いつの間に出したか細身の銀色に輝くナイフを青年の鳩尾に躊躇無く滑り込ませたオーマが同じく赤い瞳をすぅと細める。
 青年の手にも、同じ形のナイフがあり。あっさりとそれで攻撃を避けてもう一度にやりと笑うと、手の中でくるくるとナイフを回転させながら一歩だけ身を引いた。十分すぎる攻撃範囲内と分かって、それ以上動く気は無いようで。
 …鏡と鏡。
 片方には普段の姿を。もう片方には真の姿を映し出し…その歪んだ『鏡』へと向かい、オーマは静かにナイフを消し去り、
オーマ:「ウォズが…俺の姿に似せて何をするつもりだ?」
 その頃には浮かべる余裕すら出来た笑みを相手と同じくにやりと笑いかけてみせる。
青年:「いやぁ?――この塔のオタカラってやつを拝ませてもらおうと思ってるだけさ?おまえじゃなく、俺がな」
オーマ:「はぁん。おまえさんも噂を聞いて来たクチかい。――ってなぁに言ってやがるよ俺様に出会ってタダで済むとでも思ってんのかおい。さっさと封印、され、ちまえっっ」
 がしゃりと持ち上げたのは、ライフル並の長さの銃。ただし、銃口の太さは半端ではなく、望遠レンズを取り付けているのでは、と思わせる程。
 ドンッ、――ドン、ドン!
 相手が受身の姿勢を取るのを許さず、間髪入れず数発相手の位置へと打ち込んでいく。――ィィン…塔の壁でで共鳴したか、小さな耳鳴りがそこに残った。
青年:「おうおう…丈夫な塔だねぇ。全弾喰らったってのにダメージまるで受けてねえ」
オーマ:「!」
 のんびりした声が真後ろから聞こえて来る。振り向く間とて無く。
 ずん、と痺れるような痛みを感じて不覚にも膝を突いた。

*****

???:「おい。おっさん」
 げしっと蹴られて意識を取り戻すと、上からの声に目を開ける。
 逆光に遮られた顔の表情は窺えないが、銀髪と――ついさっき聞いたばかりの声に一気に覚醒し、思い切り身体を起こす。
 直後、オーマの目に星が飛んだ。
青年:「ぐわっ」
 腰を屈めてオーマに声を掛けた青年と、いきなり身体を起こしたオーマと。
 急に何故だか痛みが走った頭を2人が押え、その場で呻く。
青年:「〜〜〜ってーな、何しやがんだクソ親父!」
オーマ:「んーなトコで王子様みたく覗き込んでるそっちが悪ぃんだろうが…」
 涙目の2人が、しゃがんだり起きかけたりといった不自由な姿勢のまま睨み合う。
青年:「――まあ、いい。起きろよ」
 やがて、少し赤くなった額を擦りながら、ウォズであることを隠そうともしない青年が立ち上がり、オーマへと手を差し出した。考えるまでもなくその手を受け取ったオーマが、よいせと身体を起こして服に付いた砂埃をぱたぱたと払う。その間に身体のチェックを行うが、首筋に衝撃を受けたようでまだじわりと痛みが残る他は目立った外傷は無いようだった。日の位置から見てもそれほど長い間気を失っていたわけでもないらしい。
オーマ:「どういった風の吹き回しだ?」
青年:「……」
 黙ったまま顎を塔にしゃくる青年。軽く首を傾げつつオーマが片方の扉に再び手を掛ける――と。
青年:「ちっ。やっぱ開かねぇか」
 鍵が掛かっている様子もない――第一、鍵穴が見えないのに扉はがっちりと閉まって動きそうにない。
オーマ:「おまえさん…これで俺を起こしたな」
青年:「塔に入る資格が『人間』にあるってんなら、俺たち2人共ハズレだろうがな」
 やーれやれ。
 そんな言葉を呟きながらその場を立ち去ろうとする青年に、
オーマ:「待てよ。もうひとつ試してねぇことがあるだろ?」
青年:「はぁん?――おいおい。待てよ。俺たちは敵同士なんだぜ?つーかそんなんで開いちまったらその後もお付き合いしなきゃならねぇんだろ?」
オーマ:「いいじゃねえかい…それとも、そういうのはご不満か?」
 しばし。
 2人が、互いの目を見交わす。
青年:「――しょうがねえな。じじいの道楽に付き合ってやるか」
 がしがしと頭を掻き回しながら青年が言い。
青年:「上、あがれたら…さっきの続きと行こうか。一戦目は俺様の勝ちだがな」
 もう片方の扉に触れながら、青年がオーマへと不敵な笑みを浮かべる。
オーマ:「おうとも。親父パワーを舐めるなよ?」
 にんまりと楽しそうに笑うオーマと青年が一瞬だけ目を見合わせ。
 そして、扉が2人を迎え入れた。

*****

オーマ:「噂とは随分違うもんだな」
青年:「ああ」
 塔の内部に一歩踏み出したオーマが見たものは、極彩色に染め上げられた世界だった。
 混ざりにくい絵の具を全色搾り出して叩きつければこの場の雰囲気の一部は再現できるだろうか。禍々しさと清々しさを併せ持つその場からは、オーマの身体すら引き裂きかねないだけの『力』が溢れかえっている。
 それは、混沌。
 それは――坩堝。
オーマ:「って待て。なんでおまえの声が聞こえるんだ」
青年:「それは俺の台詞だ。せっかく離れられたと思ったのにこれじゃ寄り添って歩いてんのと変わらねぇじゃねえか」
オーマ:「気味悪いこと言うな」
 ふ、と目の前にもうひとつの世界が浮かぶ。オーマの視点とは少し違う位置から見た、同じように極彩色の世界。
青年:「俺の『目』は見えたか?」
オーマ:「ああ…リンクしているようだな。俺様の目はこんな感じだ」
 ほんの少しだけ集中する。
青年:「同じだな…趣味悪いのも共有かよ」
オーマ:「おう、何言ってやがるよ。おまえさんなら居心地いいだろうに」
青年:「………」
オーマ:「ここは『揺りかご』だ。規模は小さいがな」
 あたり一面、ウォズの気配しかない。
 いや――それは気配と言う生易しいモノではなく。
青年:「ママンっつって甘えるような年はとっくに過ぎたさ――」
 じゃきん、シンクロしているかのように互いの腕に威容を誇る長さの、黒光りしている銃を具現化させる。
オーマ:「それじゃ、派手に行くぜぇ…っ」
 ズドォン!
 花火を打ち上げるように、産まれたてのウォズを極彩色の世界へ叩き込み。
 それを合図として2人はそれぞれの塔の中を駆け出した。

*****

 どのくらい進んだだろうか。
 階段と見れば駆け上がり、侵入者避けの罠が見当たらないのを訝しがりながらも、次から次へと現れるウォズを跳ね除けて先へ進む。
 景気良く上がる互いの銃声は、だがしかしウォズを怯ませるには到らず、進めば進むだけ敵が現れると言う状況にまでなって来ていた。
オーマ:「キリねぇな」
青年:「全くだ。あんたのしつこさと同じくらいじゃないのか」
オーマ:「言ってくれるね」
 足元に絡み付こうと上半身だけを出現させたウォズを蹴り倒し、ふ、と鼻先で笑う。
オーマ:「だが甘いな――親父道っつーのはしつこさがあって一人前なんだよ」
 その言葉に応えは無く、ただ蹴りを送ったのか数発の衝撃音だけがオーマの耳に届いた。
オーマ:「しかしお前、よくあんな簡単に同類倒せるな?仲間じゃねぇのかい?」
青年:「俺たちに仲間なんざいやしねぇさ。いたとしても互いに利用する身――そうだろ?」
 青年の声はからかいを含んでいるように聞こえた。傍にいなくても、おそらくにやりと笑っただろうと言うのが分かる。
オーマ:「…まあな…」
 ここはどのくらいの高さなのだろう。
 もう階段を登った回数など数えてはいない。半分はとうに過ぎているだろうと思いながらも、窓も無く壁も床も一面が鮮やかな色の泥のようなもので覆われており、しかもそこから発する気の強さもあってはっきりした位置が計れないままで。
 目で見える誕生の瞬間を、時間を逆回しするように産まれたてのそれらを銃や手足で元の色の中へ無理やり押し込んで先へ先へと進む。泥の中へ叩き込まれたそれは、去り際ちらと見ると周りから押し寄せる泥に飲み込まれるようにして消えていったのが分かった。どうやら、この場では消滅というものは無く、例え泥から離れたそれを完膚なきまでに破壊しても再び泥が飲み込んでいくらしい。封印する手間を惜しんで…と言うよりこの数では塔ごと封印した方が早いようなものだったからほとんどは放置し、あるものは破壊し、あるものは泥へ押し込んで先へ先へと進んでいるのだが…。
 ――ちくりと。
 何かが、棘になってオーマの何処かを刺している。それは傷にはいたらないものの、神経に障る痛みで。
 どうして痛みが走るようになったのか、原因は分からないまま。
 何かに追われるように、オーマは走り続けた。

*****

 どばぁぁん!
 同時に、全く同じ姿勢で木の扉を蹴り開けた2人が、通路の端と端で目を合わせた。
青年:「無事だったか」
 詰まらない、と続きそうな口調で、さらっと銀髪を揺らした青年が通路向こうで笑う。何故だか人懐っこい笑みに見えたが、扉を開けるまでの場と違い、この通路は緑色の絨毯が敷かれているきりでウォズの気配も無く…だからこそ、オーマには相手の言葉をはっきり聞き取れなかったし、どんな顔をしていたのかも分からなかった。
オーマ:「俺様がそう簡単にくたばるかよ。…にしても何だったんだかね、あの場は」
青年:「おまえが知らねぇものを俺が知るワケないだろう?」
 大きな武器を手にしたまま、ゆったりとした足取りで通路の端から互いに近寄って行く。丁度真ん中にもう1つ扉があり…そこにこそ、2人がそれぞれ自分のものにしようとしている伝説のアイテムがある、筈だった。
オーマ:「で…ここも2人で仲良く開かねぇと開かないのかねえ」
青年:「躊躇う前に試してみればいいじゃねえか」
 ほれ、と言いつつ扉へ左手を置いて押してみるも開かず。
オーマ:「単に鍵かかってるんだったりしてな」
 言いながらオーマも扉へ右手を当てる――と。
 かちり、と。
 微かな音を立てて、鍵が開いた。
 ほんの少しだけ目を見交わして、ぎぃ、と2人で扉を押し開ける。

 一瞬、
 眩暈がした。

 色気も何もない小さな部屋が、ひとつ。
 その真ん中に…人影があった。
ガーゴイル:「……………」
 腕を組み、彫像の如く部屋の中に立っているその人物。
 噂では背に羽が生えている護人だというのだが…。
 全身黒に包み、面か兜か分からない、銀色に鈍く輝く顔を包むそれの後ろからは黒髪が流れ。背は見せていないが、黒い布の隙間から見える銀は鎧のような色をしていた。
 ふっ、とその目が開き、入ってきた2人を捉え――組んでいた腕をすっと下げて床に突き刺さっている剣の柄頭へと静かに手を置く。かしゃり、と伸ばされた手から現れた篭手からかすかな音がする。
ガーゴイル:「よくぞここまで。お主も宝が目当てか」
オーマ:「おうよ☆と言いたいところだが。それよりもおまえさんに用があるんだよ」
 黒尽くめの、年が良く分からない人物を上から下まで遠慮無しにじろじろ眺めていたオーマが実に嬉しそうににんまりとら笑いかけると、ごそごそと自分の懐から生暖かい紙束を取り出し。一歩一歩足早に歩を進めながら語り始める。
オーマ:「ふっふっふっ、今日こそ世界イロモノ化計画第一歩〜〜♪腹黒同盟入会案内を持って来たんだ、あんたが黙って頷いてくれりゃあこの塔もイロモノ腹黒同盟分館っつーことで色々特典たんまり家庭円満商売繁盛と来たもんださあ悪いようにはしないから了承の印をココにっ」
 ばさばさばさとパンフレットを広げ、自分でレイアウトを切ってちまちまと色を塗ったのか、とてもこの大柄な男が作ったとは思えない繊細な色彩とデザインの紙を目の前の男へと突きつける。
ガーゴイル:「…………」
 声から察するに男なのだろう――表情が分かる筈もない仮面からは相手の心まで透かしてしまいそうな黒々とした目しか見えず。
 柄頭に片手を残し、利き手ではないらしい手を伸ばしてそのパンフレットを受け取ると、オーマへひたりと目を注いだ。
オーマ:「どうだ?おまえさんも将来のためを思って入ってみないか?」
ガーゴイル:「…お主の答え次第だな」
オーマ:「答え?答えってななんだい?」
ガーゴイル:「ここに到るまでの答えだ。お主は試練を通って来た――その間に浮かんだ問いに答えは出たのか」
オーマ:「問いってのは…」
 あの場のことか、と聞き返そうとして、オーマはようやく気付いた。
 何故、オーマだけが問われているのか。
 何故、オーマだけが答えているのか。
 ――もう1人、部屋に入ってきた男がいたのではないのか――?
ガーゴイル:「答えを――さすれば我も答えよう。…オーマ・シュヴァルツ。悠久のヴァンサーよ」
 ばっと後ろを振り返る。
 入ってきた扉を――『2人』がそれぞれの手を押し当てて開いたその扉を。
 だが、背後にも、ましてやガーゴイルの後ろにも。
 あの銀髪の青年の姿は見当たらなかった。

*****

オーマ:「ふん。決着も付いてねぇってのに、逃げやがったな?俺様の姿だけ写して、あれだけ大口叩いておいて」
 くるりと首だけ振り返り、今は離れた双子の塔を見。
オーマ:「覚えとけよ?俺様が負けっ放しでいる訳はねぇんだからな?」
 …オーマは独り、聖都への道を歩いている。
 下りの塔は綺麗さっぱり何もなくなっていた。その代わり、罠があちこちにしつらえてあるのが見えた。この方が塔本来の姿だったのだろうと思えるくらい、それらはその場にしっくり馴染んでいた。
 正直宝のことなどどうでも良くなっていた。それよりも、問いかけが――そう。『2人』からの問いかけが胸に刺さったままで。
 結局オーマはその場で答えることが出来なかった。
ガーゴイル:『お主は試練を通って来た――その間に浮かんだ問いに答えは出たのか』
 その問いは、それ程難しい問いかけではなかった筈なのに。
 あの場が、自分以外では発生しないものだと気付いていたのに。
 それでも――。

青年:『俺たちに仲間なんざいやしねぇさ。いたとしても互いに利用する身――そうだろ?』

 ちくりと。
 再び、身体のどこかが疼く。
 『俺たち』と言ったその言葉の真意は……もしかしたら、青年と――オーマ自身のことを指していたのではないか、と…あの時一瞬でも思ってしまったがために。
 今では遠く離れてしまった、世界を、過去を…思い出してしまったがために。

青年:『おまえが知らねぇものを俺が知るワケないだろう?』
オーマ:「……俺が、答えを知っている、と?」
 あの『揺りかご』が生まれた訳を。
 2人でなければ開かなかった扉の訳を。

ガーゴイル:『答えられぬか…致し方あるまい。では、我も言わぬことにしよう。答えを見つけられたら、再び来るが良い。これはその印だ』
 その証は今、オーマの手の中にある。
 黒檀の如き黒さの、大きな風切り羽根が。


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ライター通信
お待たせしました。
えー…一応終わりはしましたが、あまり解決していないまま街へ戻る事になりました。申し訳ありません。
羽根についてですが、オーマ・シュヴァルツ個人宛てのアイテムですし、普通の鳥の羽根にしては珍しい大きさという以外には特に何も効果はありませんので、特別情報としては扱いません。名刺のようなものと思ってください。

今回、注文していただいてありがとうございました。
またお会いできることを楽しみにしています。
間垣久実