<PCクエストノベル(2人)>
遠い過去〜ウィンショーの双塔〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
【2080/シェラ・シュヴァルツ/特務捜査官&地獄の番犬(オーマ談) 】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
銀髪の青年
ガーゴイル
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シェラ:「へぇ…良い眺めじゃないか。ここに、そんな妙なモノがあるとはねぇ」
オーマ:「何も無かったら遅れたりしねぇよ」
楽しげに塔を見上げる女性と、どこか疲れたような顔の男性。
傷がまだ痛むのかひりひりする頬を撫でていたオーマが、それでも鋭い目を塔へと向けた。
オーマ:「答え…か」
*****
ウィンショーの双塔へ伝説のアイテムを探しにやって来たのはついこの間だと言うのに、ずっと過去のような気さえする。そんな思いを抱きつつ、オーマはシェラを案内してこの塔へと再び訪れていた。
塔の中で起こった不思議な現象。オーマをからかうように現れた、銀髪の青年。
そして――求められた『答え』。
あの日、帰る途中で考え込みすぎてしまったために愛妻シェラの夕食の時刻に大幅に遅れ、これ以上ない笑顔と巨大な鎌に盛大なお迎えを受けたオーマは、記憶が途切れる直前までシェラの尋問に答え続けていた。
その結果――
シェラ:「何してるんだい?こんな所でぐずぐずしていても始まらないだろう?」
シェラ自身も興味を示し、今日この場へと案内する羽目になったのだった。
オーマ:「今回は何が出るのか…お楽しみってわけだな」
ふぅっとひとつ息を吐き出したオーマがにっと笑い、一足先に塔の入り口へとたどり着いたシェラの後を追う。
シェラ:「…やっぱり、開かないねぇ。オーマ、あんたはそっち頼むよ」
オーマ:「おう」
2人でそれぞれの入り口に立ち、扉へ手をかける。
今回も、ぎぃ、と小さな音を立てて、扉が来訪者を中へと誘い入れた。――体が入りきる瞬間、2人の頭だけがひょいと外へ出て、互いに目と目を見交わす。
言葉も無く。だが、それだけで十分だった。
*****
オーマ:「まーた…いい眺めだなこれは」
ひゅぅ、小さく口笛を吹いて下から上まで見上げる。
――前に見た時よりも、『気』も風景も濃さを増して目の前に広がっていた。前回はかろうじてあった床の細い道さえ、今回はどろりとした何かで覆われている。
じゃきん。
音も無く出現させた巨大な銃を片腕で軽々と持ち上げ、息をするのも苦しい室内へと勢い良く足を踏み出した。
―――――!…!……!!!
オーマ:「歓迎ありがとよ…それじゃ、今日もいっちょ行きますか」
一斉にオーマの気に呼応して伸び上がった世界へ向けて。
*****
シェラ:「ハァッ」
ぎぃぃぃぃぃ!
灰色の石で囲まれた世界に満ちる色は、シェラの衣――流れる赤い髪を一際際立たせる金の輝き。
シェラ:「甘いねぇ…そんな雑魚であたしをどうにか出来るとでも思ったのかい?」
――そして、床へ、壁へ広がっていく魔物たちの骸。
オーマに聞いていた世界とは随分違う、ありきたりの塔にしか見えない内部は、魔物の巣のような状態だった。シェラの言うように雑魚ではあるが、数が問題で。大して広くもない空間を見事なまでに蹂躙する鎌の刃がみるみるうちに魔物の体液で染まっていく。尤も時折手首を返して払うだけで新品同様の輝きを取り戻すのだが…。
シェラ:「しつっこいねぇ」
嫌そうな顔ではなくそう言い放ったシェラが、ダンッと床に反動を付けて飛び上がると、空から襲いかかって来た巨大な蝙蝠を切り払いざまに上への階段へと降り立った。
シェラ:「追いかけっこと行こうじゃないか?――かかって来な!」
歯切れの良い啖呵を飛ばすと同時にカツカツと硬いヒールを飛ばしながら走り出す。上へ――八階層を越える場まで。
炎を吐き出す犬や、どうやって入って来たのか人喰い巨人の姿まであり、いつの間にかそれらの飛沫でシェラの白い頬や首筋にも、赤い飛沫がかかるようになっていた。ちぃ…と途中でそれに気付いて渋い顔をする。
シェラ:「避けたつもりだったんだけどねえ――汚されちまったよ…」
つ…と滴る飛沫がぽたりと服へと落ち、瞬間すっと目を細める。
シェラ:「――行くよ?」
その場にいた魔物たちが最後に聞いたのは、そんな、ごく静かな声だった。
*****
きぃ、と音を立てながら、扉がゆっくり開いていく。
そこからひょいと顔を出したのは、返り血を浴びて壮絶な顔になっているシェラ。
――長い廊下の向こうで、人待ち顔に立っている人影を見つけ、返り血よりも尚赤い唇を僅かほころばせて肩を竦める。
シェラ:「おやおや。早かったじゃないか。こっちは足止めが多くてねぇ」
ぶん、ともう一度鎌を振ると、『銀髪のオーマ』へと通路の端から近づいていく。
シェラ:「そっちはどうだったい?――悔しいねぇ。負けてるとは思っていなかったんだけどさ。まあ今日はあんたが2度目だったし、分はそっちにあるんだから――」
カツ…。
シェラの足が、途中で止まる。
銀髪のオーマの笑顔が気に障ったのか――それとも、その手の中に抱えたまま真っ直ぐ前に照準を合わせている巨大な銃に気付いたためか。
――ドォン…ッ!
シェラが足を止めたまさに直後。
その手の銃が、火を噴いた。
*****
青年:「……やるねぇ」
硝煙がふわりと浮かび、そして消えた後。
シェラの足元にスライスされた弾丸がいくつも転がっていた。
シェラ:「――あんたが、オーマの偽物かい」
青年:「ニセモノ?…どっちがだ?」
にっこりと、イロモノ師には相応しくないような爽やかな笑顔を見せる青年。照準はぴたりとシェラの額へ向けられたまま。
対するシェラも、鎌を後ろ手にし、笑みを見せているものの警戒は一切解いていない。
青年:「もしかしたら、俺が『オーマ』だったかもしれないのにな」
赤い瞳が、シェラを射る。
その手にある物騒な『おもちゃ』はシェラにまっすぐ照準を合わせていると言うのに。
――彼の目は、何故か酷く穏やかに見えた。
シェラ:「はっ…何を言っているんだか。あんたが誰であろうとあんたは『オーマ』じゃないのさ――あいつが生きている世界を、あんたはほんのひとカケラでも知っているのかい?」
返すシェラの口調も、軽口を叩くようで…内容は棘を含んでいたが。
青年:「おまえこそ、あいつの何を知ってる?」
シェラ:「………」
青年:「俺様にあっさりと後ろを取られるような無様な姿になっちまったあいつの――何を知ってるって?」
赤いのに…その瞳が氷の如き冷たさを相手に向ける。
それは、
シェラが初めて会った時のオーマに酷似していた。
オーマ:「ああ、そうだな。俺様はお前にすら後ろを取られるようになっちまった」
がちり。
青年の頭の後ろで、突きつけられた銃の撃鉄が起こされた振動が頭へと直接伝わった。
青年:「――なんだ…意外に早かったな」
オーマ:「ああ、あれ。熱烈歓迎過ぎてモテモテだったんだが結局お互いの性格の不一致と言う事でお別れ言って来たのさ。最後の抱擁でちぃっと時間くっちまったがな」
ごりごりと青年の後頭部に銃口を捻じ込みながらオーマが笑う。
青年:「浮気性は治らねぇなぁ」
オーマ:「何を言う。浮気は男の甲斐性だろう?あぁ?」
シェラ:「ああ…そうかい。覚えておくよ今の台詞は」
オーマ:「撤回する忘れてくれ」
目の前にシェラがいる事を忘れていたとは思えないのだが、一言挟んだ言葉には即答し。それから引き金に指をかける。
オーマ:「おまえさんのせいで怒られそうだったじゃねえかよ」
青年:「俺のせいにすんなっつーの。てめえが撒いた種だろ?」
すっとオーマが目を細めた。まるで、友人に対する時のような穏やかな目になり。
かちり――起こしていた撃鉄を戻して、にやりと笑う。
オーマ:「そろそろ戻ったらどうだ。…あんまりこの辺うろちょろしてると本気で封印しちまうぞ?」
青年:「何言いやがる。それがおまえの仕事だろうが」
そう言いながらも溜息と共に肩を竦め、銃を仕舞う青年。相変わらず警戒は解かないままのシェラににこりと笑いかけ、
青年:「惜しかったな。あんたの『オーマ』は取り込まれずに済んだらしい」
くるりと踵を返し、オーマの来た扉へと歩いていく。その途中でオーマとすれ違い、
青年:「いつの間にそんな甘ちゃんになっちまったんだ」
囁いて――扉へと、消える。それはまさに消えると言った言い方が相応しく、歩いた様子も無く、銀の髪が宙へ溶けて消えた。
瞬間、オーマがぱちぱちっと瞬きをする。
シェラ:「…なんなんだいアレは」
オーマ:「何…昔の悪戯の名残さ」
シェラ:「――知ってたのかい…?」
シェラが鎌を前に出そうとするのを見て苦笑いし、ゆっくりと首を振る。
オーマ:「思い出したんだよ。ウォズの『海』に呑まれてな」
詳しい事は言うつもりが無いのか、それだけ告げて中央の扉へと近寄る。軽く片眉を上げたシェラがその後に付き。
オーマ:「気にすんな。別に隠し子とかそんなんじゃねえよ。ただ…多分な。アレは、昔俺が会った事のあるウォズだ――俺が…助けちまった、な」
ぴたりと2人で扉に手を合わせ――オーマが前を向いてそう呟くと、すぐ隣にいるシェラへと目を向けて…小さく、微笑んだ。
*****
ガーゴイル:「それが、お主の答えか――」
前に会った時から1ミリたりとも動いていないのではないか、と思うくらい全く同じ位置に立っていた男が、2人が入るなり呟く。
オーマ:「ああん?どう言うことだ。俺は答えてねえぞ」
ガーゴイル:「この塔の中のことならば大抵分かる。それと…お主に渡した羽根。それでずっと観せてもらっていた」
オーマ:「盗聴に覗きか。趣味良くねえぞ?」
懐から黒い羽根を取り出し、指先でくるくると廻しながらにやりと笑いかける。
ガーゴイル:「趣味ではない」
あくまで真面目に答える男が、2人へと等分に目を向ける。
ガーゴイル:「答えは出た…ならば。我も答えようぞ」
オーマ:「おう。待ってました」
シェラ:「…本気かい…あんたたちは」
半分以上諦めた声のシェラが、やれやれと首を振って巨大な鎌をとんと床に付ける。
ガーゴイル:「末席で良い。それ以外は望まぬ」
オーマ:「なぁに、遠慮すんなって。――ようこそ、イロモノ腹黒親父連盟に」
シェラ:「はぁ〜あ」
あからさまなシェラの溜息にもめげず。いや、聞いていながら聞こえないふりをし。
オーマが満面の笑みを浮かべて黒服の男の肩をわしっと掴んだ。
オーマ:「…っとっと。忘れる所だった。ところでなぁ…伝説の宝があるっていうんだが本当か?」
男が、その言葉を聞いて、仮面の内からオーマへ真っ直ぐ視線を注いだ。
ガーゴイル:「宝か。伝説の品…には違いないが。本当に良いのだな?」
オーマ:「おうともさ。何かい?それがこの世の終わりを見せるモノだって構やしないさ。それにそういうのも楽しいだろう?」
シェラ:「オーマ、何であたしに意識を向けながら言っているんだい?」
しゅっ。
刃の輝きが無駄に宙を舞い、黒い髪数本を道連れにする。
オーマ:「ななななんでもないさ気のせいだよハニィ☆」
何が自分の身に起こったのか察知したオーマがそれ以上動かないように気をつけつつ、無理やりガーゴイルへと視線を戻した。その目を待っていたように、再び口を開く男。
ガーゴイル:「想いを具現化させる装置だ」
オーマ:「…あ?何だって?」
ガーゴイル:「言った通りだ。これは使う者の『想い』を具現化させる品で……ただし、『大切な者』にしか使えない」
そして。
ほんの少しだけ遠い目をして。
ガーゴイル:「一言忠告しておこう。夫婦仲を円満にしていたければ、この品は使わぬ事だ。相手をどう思うかで、発露するか…何が出るかが変わるのだからな」
ガーゴイルが、涼しい顔でオーマを見る。
心底相手を思いやっていなければ発現することのないモノ…となれば、出なかった場合、そして出たとしても『想い』を具現化するというあやふやなものが出てしまえば…そう思えば普通は使えないし使いたくもないだろう。
但し。
それは相手が目の前で鎌を持って『にっこり』と笑みを浮かべていない場合に限る。
シェラ:「どうしたんだい、オーマ?」
オーマ:「あ…いやその」
シェラ:「まさかとは思うけどさ」
真赤な唇がにぃ…と笑みの形に吊り上がり。オーマが一歩身体を引こうとした瞬間、首の後ろがすぅっと冷たくなった。――見れば、シェラの手が長い柄をオーマの後ろへ伸ばしていて。何とか踏みとどまったものの、そのまま勢いに任せて後ろへ下がれば、首にかかった冷たさは『熱さ』へとすぐに変わってしまっただろう。
シェラ:「お宝を前にすごすごと引き下がろうってんじゃないだろうね?あたしの目の前でさぁ?」
ぴたぴた、と良く研ぎ澄まされた刃がうなじに当たる。
オーマ:「お、おォ、勿論じゃねぇか?愛ってのを山のように持ち合わせている俺様だぜ、シェラ1人の分くらいなんとでも…」
シェラ:「――出なかったら。考えさせてもらうとしようよ…『色々』とね」
オーマ:「誠心誠意尽くさせていただきます。――おうっ、ガーゴイルの旦那ッ、やってやろうーじゃねエかッ」
シェラに背を向けて大股でずかずかと黒衣の男へと近づいていくオーマ。半分以上自棄なのか、時折声が裏返るのを仮面の中から静かに見つめ。
ガーゴイル:「良いのだな」
オーマ:「おうともよっ」
――ふっ、と。
ガーゴイルが苦笑を漏らしたように聞こえた。
*****
ガーゴイル:「これが『宝』だ。使い方は人それぞれ…だから助言はせぬ」
すっと一歩引いた、その足元にそれはあった。
踏めば隠れてしまうくらいの大きさの円。その中には、オーマが見てもかなり複雑な式を使った魔法の文字が細かく刻まれていた。かなり細かな条件付けがされているようだが、それでもそこから噴出そうとしている『力』はかなりのもので。
神妙な顔をして足を踏み入れたオーマが、赤い目をゆっくりと開き、そして閉じた。
オーマ:「…こんなものを守護していたのか」
ガーゴイル:「それが我の役目だからな」
塔を構成する要素。
塔の中に仕掛けられている全てのもの。
…それらが、この一点に集約されている。
確かにガーゴイルが言うように、この塔へと訪れる者たちの動向を『観』るのは容易そうだった。
そして、あのウォズの世界が…オーマ自身を核として滲み出て来ていたと言う事も分かった。いや、想像は付いていたのだから、確認を取ったようなものだったが。
オーマの髪が、ふわ…と下からの風に押されるように持ち上がった。それは風ではなく、下から…二つの塔から吹き上げる『力』の発露だったのだが。
シェラ:「……」
くるくると巨大な鎌を指先で回転させていたシェラが、すっと鎌を止めてかつんと柄を床に付ける。その目は、オーマの閉じた瞳へと静かに向けられていた。
*****
――それよりも、少し前。
オーマ:「わぶっ!?」
キリの無い、ウォズとしての形すら保てない塊が、次々とオーマへ襲い掛かってくる。
ただし、その動きはオーマを『敵』としては見ておらず…。
オーマ:「こいつら…喰う、つもりか…っ」
アメーバ状の『ウォズ』の波を幾度もかわした…そう思った次の瞬間。
すぐ脇で待機していたもう1つの波に、頭から呑まれていた。
…何故だかその時頭をよぎったのは、細かく思い返すことも難しい遥か前。
終わりを迎えるウォズ…いつものように封じてしまう筈だったそれに、何を思ったか自らの血を僅かに与え、そのことを取っ掛りに『癒し』を行った事を。
その時の、人型ウォズの顔は、どうしても思い出せなかったが…。
オーマ:「(――そうか)」
取り込んだものの、喰らい付く場が見つからずうねっているウォズに抱かれていた手に、巨大な愛用の品が浮かび。
オーマ:「(あいつ――だったのか)」
『ウォズ』の中から、光が――弾けた。
*****
…オーマが、ふっと目を開いた。夢を見ていたようなその眼差しが、ぐるりと周囲を見回して…シェラへと向けられた時にぴたりと止まる。
――ほんの少し。
その口元が、ほころんだように見えた。
パァッ、と光がオーマの手の中に満ちる。
普段オーマが行使する『力』とは異質なモノが、オーマの手の中で――産声を上げた。
オーマ:「……ほぅ…」
光が徐々に薄れ、オーマが自分の手の中を見つめ小さな声を上げる。
シェラ:「…どうしたんだい?」
その場に立ったまま、シェラがオーマに問うた。その声に顔を上げ、大きな口をにやりと笑みの形に引き上げる。
オーマ:「なんだと思う?」
『場』を離れ、シェラの目の前に立ち…手をすっと彼女へと近づける。ちかり、と手の中に小さな光が見えた気がしたが…シェラは見もせずにオーマの目に強い光を当てていた。
そして。
オーマ:「ふむ…悪くねぇな」
髪に何かが触れ、シェラが手を当てる。ひやりとした冷たい手触りがあり、何かと思うシェラの目の前にオーマの手の平から生まれた丸い鏡があった。
手の中には…真黒な薔薇。
――いや。
良く見れば、それは黒ではなく――赤。それも、黒としか見えないくらい赤い…色。
明るい赤の髪にしっとりと咲いたその花は、細かなラメ状に散りばめられた透明な石を嵌め込んだ金属の髪飾りだった。簪のような作りで、取り出してみると髪に差し込まれていた部分は枝葉の模様が細かく刻み込まれていた。朝露を模したつもりなのか、花の裏に隠れるように、小さな真珠が1つ控えめに輝いていた。
*****
シェラ:「ほらほら、さっさと歩く」
オーマ:「そんなに急ぐ事はねぇだろうに。家に帰っても愛しい俺様が待っているワケじゃなし」
シェラ:「今日は気分がいいもんでね。たまには豪勢に…」
オーマ:「おっ。皆でどこか繰り出すか?」
シェラ:「何言ってるんだい?あたしがこの腕にヨリをかけて豪勢な晩ご飯を作ってあげようって言ってるんじゃないのさ。感謝おしよ?」
一瞬の、沈黙の後。
オーマ:「………なあ、シェラ」
オーマの顔が、シェラに見えない場所でめまぐるしく変化する。
それはシェラが何?と振り向くまでは続けられていたが、シェラの顔が動くなりいつもの…いや、いつもの顔に戻そうとした直前の顔が、にこりと笑いかける。
オーマ:「たまには、その…」
シェラ:「なんだい?」
オーマ:「俺が作るよ。あいつらにも協力させてだな…ぱーっとやってみないか?」
シェラがふぅん?と小さく笑いながらオーマを下から見上げ、にぃ…っと口元に弧を描く。
シェラ:「――まあ。今日は騙されてあげようかね」
オーマ:「何言ってる。いつ俺が騙したよ?」
シェラ:「おや。このボーヤには記憶力ってモノが無いと見えるね…そうかい。それならあたしにも良い考えがあるんだが」
しゃきん、と空気さえ切れそうな刃の輝きに、たらりとオーマの背を冷や汗が流れ落ちた。ぎぎぎっ、ときしむような音を立てながら無理やり大きな笑みを浮かべ、そーっと鎌の柄を遠くへと指先で押しやる。
そして、互いににこりと笑いあった。
どこか白々しく見えるそれは、ぴりぴりとした空気を含んで…その周囲から音も無く虫や小動物が逃げ去っていく。
だが…その、生き物が去っていく地面では、2人の影が仲良く寄り添っているように見え。
シェラの髪には、さり気なく薔薇の花が咲き誇っていた。
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ライター通信
「MIRROR MIRROR」の後編に当たる物語です。前回からすぐの発注、ありがとうございました。
オーマPCは何度か書かせていただきましたが、奥さんの方は初めてでした。如何でしたでしょうか?
また、別のお話でお会いできるのを楽しみにしています。
お2人での参加、どうもありがとうございました。
間垣久実
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