<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


戦士の誇り

0.依頼

「ぐっくそぉ……」
 杖代わりにした剣を持つ手から、力が抜けて行く。そのまま地面に倒れ伏し男は意識を失った。
 意識を失う直前、ぼんやりとした視界に、ねじくれた角と大振りの剣を見上げながら……


 初めは簡単な依頼だと思った。ああ、そうさ。どうせその辺の野盗が村人を襲ってるって話だろう?そう高をくくって行ったんだ。
 ちょっとは腕に自信があったさ。そりゃそうだろ?冒険者として4年も彼方此方を仲間と歩き渡ったんだ、それなりの腕は有るさ。
 だけど――全然歯が立たなかった。そいつの強さは、俺達の予想を遥かに超えて強かった。
 一人また一人と倒されていく中で、俺もまた夢中で剣を振るったさ。あっさり弾かれて、伸びて来た腕の一撃でこの様だけどな……まあ、それでも命があっただけマシだろうな……
 でもな、絶対にあいつはゆるさねぇ……あいつだけは俺の手で倒してやる!


「ずっと、それだけを言っていました。あいつは俺が倒すんだって……」
 黒山羊亭に訪れた、女性は『何でも屋ギルド』のマスターで有る男と話している。
 話の内容は、数週間前に起こったとある事件から始まり、現在に至っている。
 数週間前にとある村が謎の連中に襲撃を受けた、その連中の排除を依頼して来ていたのは知っている。そして、その時冒険者に依頼を出したのは他ならぬ、マスターなのだ。
「そうか、あいつが単身な……」
「どうかお願いします。あの人を助けて下さい。どうか……」
 その時、冒険者達は返り討ちに合った。唯一の生き残りが、この女性の恋人で有るのだが、その男が先日行方を晦ました。
「分かった。まだ奴等はのさばってるらしいしな、その依頼も引き受けよう」
「有り難う御座います」
 深々と頭を下げる女性に、マスターは微笑むと振り返り言う。
「誰か、行ってくれる奴は居ないか?」


1.追跡

 小高い丘の上に、6人の人物が立っている。その眼下には、焼け落ちた家々の跡があった。
「やれやれ、折角遊ぼうと思ってたのに、行き成り仕事かい?塵、それはあんまりなんじゃない?」
 おどけた態度で、頭より短い角を生やした白槍牙 蒼瞑(はくそうが そうめい)は隣に居る無数の傷跡のある男、刀伯 塵(とうはく じん)を見詰めた。
「うっせぇ、こう言う時しかお前は役に立たんだろうが」
 蒼瞑を一瞥し、塵は再び眼下を見下ろす。そんな塵の態度に、蒼瞑は肩を竦ませ眼下を見た。
「・・・・あの時と同じ敵・・・・と思って良いのでしょうけど・・・・あの人は無事でしょうか・・・・?」
 呟く様に言ったのは、星祈師 叶(ほしにいのりし かない)だ。尖った耳が特徴的である。
「此処からでは、確認出来ませんね。それに、あいつ等がここにまだ居るとも限りませんし……」
 隣に立つ、アイラス・サーリアスは苦渋の色をその顔に浮かべ眼鏡を上げる。
「おうおうおう!どぅちにしたって此処に居たってしょうがねぇのは確かだろ?とっとと動こうや」
 ガリガリと頭を掻きながら、2mを超える長身のオーマ・シュヴァルツはニィッと不敵な笑みを浮かべ言う。
「そうだね。取り敢えずは、その人を探しませんか?そしたらきっとそいつ等とも会うでしょうし」
「きぃぃ〜」
 オーマの言葉に頷きながら、フィーリ・メンフィスは肩に乗った子竜のジークを撫でながら笑顔で言った。
「じゃ、移動しよっか?足取りだと、どうやら南に移動してるみたいだから、そっちに行けば良いんじゃないかと思うけどね」
 蒼瞑の言葉に、残る5人は頷くとその場を後にした……

「はぁ……はぁ……くそ!!」
 男の剣を持つ腕からは、血が滴り最早まともに持つ事もままならない様に見える。その体にも、決して軽くない傷が見て取れるが、男は剣を正眼に構え目の前の異形を睨みつけていた。
「おい、そろそろ殺っちまえよ。とっとと次に行きてぇんだ」
 若干苛立った声で痩身の異形が、男の相手をしている大柄な異形に声を掛ける。
「分かったよ。ったく、てめぇはせっかちだな」
 此方も何処か苛立った様な表情を見せ、痩身の異形へと視線を向けた。その機を、男は見逃しては居ない!
「うあぉぉぉぉ!!」
 吼え駆ける男!一気に間合いが詰まる!そして!!
 ブン!!!
「なっ!?」
 一瞬の隙を突いた突き……自分が出来る最高の一撃だと思っていた。だが、それは容易く交わされた……
「良い攻撃だがな……おめぇの技はもう見切ってんだ。じゃあな……」
 振り上げられた大柄な異形の大剣に、日の光が反射する……
『此処までか……へっ……やっぱ駄目かぁ……』
 剣が、振り下ろされる!男は、刹那目を閉じた。
 ギィィィン!!!
 金属と金属が激しくぶつかり合う音が響き渡り、男はハッと目を開く。
「やれやれ、間一髪って奴だね♪」
 男の目の前には、全身を見た事も無い鎧に包んだ一人の男が槍で大柄な異形の剣を受け止め立っていた……


2.接触

「何だ!?てめぇらは!!」
 痩身の異形の張り上げた声に男が後ろを振り返れば、そこには他にも5人の姿があった。
「何だって言われてもなぁ、そこの男を助ける様に言われただけだぜ俺たちゃ。まっついでにてめぇらも倒して来てくれって言われちゃ居るけどな」
 オーマは、不敵に言い放つ。
「倒す?俺達をか?はっ、そいつは無理な話だな」
 さも可笑しそうに笑みを見せる大柄な異形に、フィーリが応える。
「無理かどうかは、やってみなければ分からん」
 獣頭の異形が、徐に座っていた場所から立ち上がる。その様を見て、残りの異形の表情が引き締まる。
「おい、畝威。こいつ等、結構やりやがるのか?」
 畝威と呼ばれた、獣頭の異形は痩身の異形を見詰め静かに頷いた。
「俺達の力量が分かるって事は、あいつ結構やりやがるな……」
 塵のその表情が引き締まる。
「塵さん・・・・気をつけて・・・・」
 叶が心配気にその横顔を見上げると、その視線に気付いたのか塵は笑みを見せ叶の頭を撫でた。
「兎に角、まずは彼の安全を確保しましょう。その役目は僕が」
 アイラスがその腰に下げてある釵を構える。
「じゃ、宜しく〜♪」
 蒼瞑は片手で男をアイラスの居る方へと突き飛ばすと、受けていた剣を弾いた。
「ちっ!折角の獲物だったのによ!」
 間合いを取りながらぼやく大柄な異形。
「てめぇがちんたらやってっからだ、火屡」
「うっせぇよ、紫嗚」
 応えた火屡が見やれば、紫嗚もまたその手に二本の小太刀を既に構えていた。
「あっあんた等は?」
 アイラスにその身を支えられ、男は戸惑いながら聞いた。
「言ったろ?頼まれたんだよ、お前の恋人からよ。助けてやってくれってな」
「無茶にも程があるぞ。せめて一太刀って気持ちはわからんでもないが、闇雲に突っ込むだけが能じゃない。仮に直接手を下せなくても、最後まで見届けるのも生き残った奴の務めだからな……」
 オーマと塵は言いながら、オーマはその手に大型の銃器を塵は『霊虎伯』を構える。
「俺は、戦えればそれで良いから。止めが指したいなら、譲ってあげますよ」
 フィーリが腰から剣を抜き、魔力を付与し構えながら男に言った。
「所で・・・・貴方の名前は?僕達、聞いてくるの忘れちゃって・・・・」
 叶が気恥ずかしそうに男に問う。
「あっああ、ウィル……ウィル・ラーガスだ」
「じゃ、始めるとしようか♪」
 蒼瞑が言うか否か、その身が輝き始める。叶が、その周囲に結界を張ると同時、無数の式神が現れた!「太極四天陣!!」
 力強い、叶の言葉に呼応し、式神が一斉に異形へと目掛けて向かって行った……


3.攻防

「うあぁぁぁぁ!!……ってあれ?」
 結界の中、無数に飛来する式神の群れが、自分にも襲って来るのではないかとウィルは叫び眼を閉じていたが、式神達は叶の意思に従い、敵のみへとその攻撃を浴びせていた。
「ウィルさん!こっちへ!!」
 アイラスがウィルの手を引き、安全な場所へと移動する。
「へっ!便利な力だな!」
 言うが早いか、オーマが火屡と呼ばれた異形に銃器を向け、引き金を引いた!
 バララララララララララララ……!!
 激しい銃音と共に、バラバラと薬莢が地面へと落ちて行く!
「くっ!?ぐあぁぁぉぉ!!!」
 雄叫びを上げながら、式神とオーマの銃撃を大剣で凌ぐ火屡の技量は凄まじいの一言だが、やはり手数の違いが差を生んだかその身には幾つ物傷が出来始めていた。
「火屡!?ちぃ!!」
 痩身の異形――紫嗚が火屡を救うべく一気に疾る!!が、その目の前に不意に影が現れた!
「お前の相手は俺がしてやる!」
 下方から一気に切り上げる斬撃!フィーリが何時の間にか間合いを詰めていた!辛うじて身を捻りその一撃を交わす紫嗚に、フィーリはニヤリと笑みを浮かべた。
「って事で、おめぇの相手は俺だ」
 獣頭の異形――畝威の前には塵が立つ!叶の太極四天陣より一瞬早く逃れた畝威を塵は見逃さなかったのだ。
 油断無く『霊虎伯』を構える塵を見詰め、畝威もまた構えを取った。やや半身にゆったりと構えたその構えには隙が無く、どうやらこの中では一番の手馴れだと塵は見て取った。
「……ヒュッ!!」
 一呼吸!それだけで間合いが一気に詰まる!眼前に迫った畝威は塵の顔面目掛け、その拳を振るう!それを首だけ動かし交わすと、塵は刀を引き一気に突く!!
 ヒョッ!!
 風を切る音だけが、二人の間に鳴った。そして、再び間合いが開く。二人の頬には一筋の切り傷……ツゥっと一筋血が流れて行く。
『こりゃ、援護してる余裕はねぇかもな』
 塵の眼に、険しい物が浮かんでいた。

「行くよぉ!!」
 淡い光を発しながら、蒼瞑が槍を構えて地を滑る様に火屡へと向かい……そして激突!
「ぐっ!!くぉぁああ!!」
「へ〜私の震撃を止めるなんて、流石と言うべきかな?じゃ、これはどうだい?」
 次の瞬間、蒼瞑が手に持った槍を地面へと突き立てた!
「はぁぁぁぁぁ!!!地裂陣!!!!!」
 裂帛の気合と共に、槍へと大地が纏わり付き覆い始める!
「妙な技ばかり使いやがって!!」
 その隙を突こうと火屡が横薙ぎに大剣を薙ごうとした瞬間!
「がっ!!」
 一瞬早く蒼瞑が振り上げた槍の穂先に付着した岩石が火屡を打った!
「ほらほら〜ぼ〜っとしてる暇は無いよ〜♪」
 何処か楽しげに蒼瞑が槍を振り回せば、付着した岩石が火屡へと襲い掛かる!
「おらおら!!こっちも忘れてんじゃねぇぞ!!」
 オーマが何時の間にか間合いを詰め、異常とも言える大きさの銃器を火屡へと叩き込んだ!
 ギャイィ!!
 その一撃を火屡は黙って受け止める。その身には、蒼瞑が繰り出す岩石の衝撃が絶えず降りかかっているにも拘らず、火屡は微動だにせず震えていた。が、次の瞬間!
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!!」
 オーマの銃器を弾き、蒼瞑の岩石をその手で握りつぶし、火屡が吼える!そして、その手に持った大剣に蒼い炎が灯る!
「蒼連斬!!」
 振り下ろした大剣から、一条の蒼い炎が迸る!機動を見切り、交わす蒼瞑とオーマ!だが、炎はそれだけでは終わらない!!
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 立て続けに、火屡は炎を辺り構わず乱射する!幾筋物炎の軌跡に二人は翻弄され交わす事しか出来なくなる!
「そこよぉ!!」
 不意に、火屡の腕が一気に伸びてくる!その手には、大剣!狙うは蒼瞑!!
「蒼瞑!!」
 グァシャ!!!
 オーマの声と鈍い音が、辺りに響いた……

 フィーリが右から回り込もうとすれば、紫嗚はすかさず間合いを取るべく移動する。こんなやり取りが、既に数回、紫嗚は笑みを浮かべると、吼え声を上げた!
 一般人を硬直させる声である。一瞬、フィーリの体がピクリと止まる!その隙だけで紫嗚には十分、一気に間合いを詰め右の小太刀の斬撃を繰り出す!
「はっはぁ!!貰った!!」
 ヒュオン!
 空を切る音そして……紫嗚が間合いを取っていた。
「てめぇ……効いてねぇのか!?」
「ああ、効かないな」
 ブンと剣を一振りすれば、剣についていた血が飛沫く。見れば、紫嗚の右腕が切り落とされていた。
 取ったと思ったあの瞬間、瞬時に生まれた殺気を感じなければ、紫嗚は既に息絶えていた。下方から来た剣閃は、鋭く閃き未だ残身していた紫嗚の腕を切り落としたのだ。
「片腕で何処まで持つかな?」
 フィーリが剣を構え、一気に間合いを詰める!苦渋の表情を浮かべながら、迎え撃つ紫嗚!右から左から、フィーリの剣刃は容赦なく襲い掛かる!交わし、いなすが鋭い剣閃全てを受け切れず、その身に傷跡が増して行く!
「くそったれぇ!!」
 不意に叫ぶと、紫嗚は間合いを取ろうと後退する!追撃しようとするフィーリは不意に、身を左へと捻る!その横を、紫嗚の腕が掠め過ぎて行く!
 一瞬止まった動きに、紫嗚はフィーリ目掛けて再び疾駆する!
「影覇七死点!」
 力強い叶の言葉に呼応し、三十枚程の符が一気にその力を解放する!雷撃が炎撃が紫嗚に向かい襲い来る!
「なっ!?くっそぉ!!」
 迫り来るそれらを、交わしいなす紫嗚だが、フィーリとの距離はまだある!だが、視線をそちらにやればそこにフィーリの姿が無い!
「何処を見てる?」
 不意に現れる、フィーリの気配!それは、紫嗚の後ろ!
「ちぃ!!」
 振り向くより一瞬早く、空気を切り裂く気配!焦りの表情を見せる紫嗚!
「馬鹿やろ!殺すんじゃねぇ!!」
 不意に聞こえたオーマの言葉に、フィーリの切っ先が鈍る!
「双影撃!!」
 その機を逃さず、振り向き様に紫嗚は左の小太刀を横薙ぎに切りつける!
「くっ!?」
 何とかそれを受け止めるフィーリ!
「終わりだ!!」
 その声は、フィーリの背後から聞こえた!一撃目をわざと受けさせ、その隙に後方へと瞬時に移動する武技、双影撃……紫嗚の左の小太刀が突きを放つ!
「死ねぇ!!」
 ズブュ!!
 肉を貫く、鈍い音をフィーリは聞いた……


4.刹那

「おおぉぉぉ!!」
「……!!」
 交錯する塵と畝威!振り下ろした刀を、畝威は交わし左の蹴りを頭部へ放つが、塵はそれを右腕で受け刀を横薙ぎに薙ぐ!畝威はほんの少し後退しただけでその一撃を交わす!だが、その刀が不意に止まると塵は突きを繰り出した!
「せいぃ!」
 ヒュォ!!
 空を掠める音が聞こえた!だが、塵の手には手応えが無い。
「……」
 その腹に少しだけの血を滲ませて、畝威は塵から間合いを取っていた。
「あれを交わしやがるのか……やっぱやりやがるなぁ」
 一人ごちる塵の頬を汗が一筋流れて行く。
 間合いを取らず離さず戦おうとした塵では有ったが、相手の力量は塵が思うより遥かに高かった。繰り出される月天剣舞を尽く交わし、懐に潜り込む畝威に塵は翻弄されていた。せめて掴ませまいと、闇雲に刀を振るうのでは無く、突きや連斬等で牽制するがやはり決定打には欠けた。
『ちっくしょう。これじゃ天命剣ぶちかませる余裕があったもんじゃねぇ』
 相手の隙を伺いながらの戦いは、予想以上に消耗が激しい。一瞬の勝負で全てが決まる……塵の顔が否応無く引き締まり、塵は刀を右下方に構えた。畝威もまた、その気配を感じ取ったかゆっくりと深く構えを取る。
 周囲の斬撃の音が急速に遠くなった感覚の中、塵の眼は畝威のみを見詰める。二人の間に、暫し緊張による静寂が満ちる……
 グァシャ!!!
 激しい衝撃音が合図と成る!
 塵が!畝威が疾る!間合いが一気に詰まり、塵の間合い!右下方から塵は一気に切り上げる斬撃を見舞うが、畝威は疾りながら身を捻りそれを交わすとその勢いのまま左の回し蹴りを!勢いの乗った回し蹴りは先程の蹴りとは比べ物にならない位の速度で塵のわき腹を打つ!
「ぐっ!?」
 傾ぐ塵の体!が、塵は徐にその足を左手で掴むと、刀を持った右手に力を込める!
「喰らえ!心眼天命剣!!」
 振り下ろす刹那、足を離し青白い気を纏った刀に添え、全力で振り下ろす!体勢の崩れた畝威に交わす術は無く、初めてその顔が歪む!
 その時!
「馬鹿やろ!殺すんじゃねぇ!!」
 オーマの声が響き、一瞬塵の切っ先が鈍る!
 ザシュ!!
「ちぃ!!なんだってんだ!!」
 一瞬の切っ先の鈍りにより、畝威はまだ立っていた……その身に大きな傷を残しながらも……

「す、すげぇ……」
 アイラスの護衛の下、ウィルは呆然とへたり込みそれらの戦いを見詰めている。繰り広げられている攻防は、最早手が出せない程の物に成っていた。
「これほどまでとは……下手な動きは禁物ですね……」
 ぼやいたアイラスの表情は、険しい。
 相手に伸縮自在な四肢がある以上、下手に動けば此方が狙われかねない。ウィルの気持ちを考えれば、止めをとも思うが最早その次元ではなく、迂闊な行動は相手にとっては好機、此方にとっては不利である。そういう意味では、ウィルを抑えておく事……これがアイラスの、皆への援護として有効であろう事は明白だった。油断無く釵を構えたままなのは、何時攻撃が来ても良い様にとの配慮だ。
 グァシャ!!
 激しい衝音が当たりに響き渡る!
「蒼瞑さん!?」
 アイラスとウィルが見守る中、蒼瞑の体に大剣が突き立っている!
「あっあの野郎!!」
 ウィルが立ち上がり、駆け出した!
「ウィルさん!?」
 一瞬の事に気を取られ、アイラスはウィルを抑える事を忘れていた。怪我をしているにも拘らず、ウィルはかなりの速度で駆ける!その動きに、火屡が反応する!火屡の左腕が伸び、真っ直ぐにウィルへと!
「くっ!?」
 アイラスが、口の中でモゴモゴと何やら口走った瞬間、その速度が一気に加速する!ウィルとの距離は一気に無くなり、ウィルを押し退け釵を構える!
 ザグァ!!
「くぅぅぅ!?」
「ぐはぁぁぁあ!!」
 弾き飛ばされ転がるアイラスと叫ぶ火屡。火屡のその手には一つの穴が穿たれている。火屡の攻撃を受けた瞬間、アイラスは右の釵を受け止めに、左の釵をその上から手に向かい突き出したのだ!右で受け止めたその威力が、そのまま左に受け止められ自然と釵は火屡の手を穿つ!一瞬の機知は、防御と攻撃を同時に行っていた。
「あんた、大丈夫か!?」
 ウィルが心配気に寄って来る。
「だっ大丈夫です……それより、下手に動かないで下さい……」
 衝撃に右腕が痺れ、転がった影響で意識が判然としないが、アイラスは立ち上がるとヨロリと釵を構える。
「馬鹿やろ!殺すんじゃねぇ!!」
 同時に上がったオーマの声が、アイラスの意識を引き戻した……


5.生死

「効かないねぇ♪」
 その声に、はっとした様に火屡は蒼瞑を見詰めた。手応えは有ったが、その刃は蒼瞑の鎧を貫けずに居た。
「ばっ馬鹿な!?」
「びびらせやがってよぉ」
 火屡は驚愕に眼を見開き、オーマは安堵に顔を緩める。
「危なかったけどね〜間に合って良かった♪」
 ニッコリとした笑顔で蒼瞑は言うと、ポンポンと鎧を叩く。
「私の力でね〜一切の攻撃を通さない鎧に成るんだよこれ?」
 そして、再び槍を構えた。
「じゃ、そろそろ終わろうか?」
 はっと驚愕から覚めた火屡の目の前には既に蒼瞑の槍!
「馬鹿やろ!殺すんじゃねぇ!!」
 ドス!!
「何で?」
 振り返りオーマを見詰める蒼瞑の手の中の槍は、火屡の頭部を貫通していた……

「なっ何だこりゃ!?」
 手応えは確かに有った。だが、紫嗚の目の前に有るのは一匹の巨大な蜘蛛……
「式蜘蛛・・・・間に合って良かった・・・・」
 微笑を浮かべた叶に、フィーリはクスリと笑むと紫嗚を正面に見据える。
「惜しかったな」
「くそぉぉ!!」
 逆上した紫嗚は、左手に持った小太刀を振りかざす!
 ヒュッ!!
 空を切り裂く音がした……
「かっ!?……」
 ドサ……
 紫嗚の頭が地面に落ちたのを確認せず、フィーリは振り向き剣をヒュッと振り血を振ると鞘に収める。
「助かったよ、叶」
「いいえ……」
 二人は視線を合わせ、同時に微笑んだ……

 滴る血が、その傷の深さを物語る。そんな畝威を見詰める塵は、油断無く刀を構えていた。その時、二つの気配が消える。
「どうやら、おめぇ一人らしいな」
「……」
 その塵の言葉に、畝威に苦渋の様な表情が浮かぶ。その瞳には、何かを決した光があった。
 畝威が、ゆっくりと深く構える……
「その傷でやろうってのか?見上げた根性だな」
 言いながら、塵も迎え撃つ為に正眼に構える。
 一瞬の静寂……畝威が動いた!地面に向かい拳を突き刺す!
「……地牙槍!」
 言葉と共に、塵の背後の地面が隆起したかと思うと弾け飛ぶ!
「なっ!?」
 振り向けば、塵目掛けて一本の大地の槍が襲い来る!
「くぉ!?」
 ギィィィィン!!
 辛うじて塵はそれを受け止める!それと同時に塵は再び畝威に向こうと振り返った!だが、そこに畝威の姿は既に無かった……

「1人逃しちまったか……」
「そうですね・・・・」
「しょうがないよねぇ」
 塵の呟きに叶と蒼瞑が応える。
「アイラスさん、大丈夫ですか?」
「ええ、何とか怪我はしてません」
 フィーリは子竜のジークを撫でながら、アイラスを心配気に見詰めていた。
「何で殺しちまうんだ!!同じ命じゃねぇか!」
 そんな中、オーマは2つの遺体を前に拳を地面に叩き突けた。
「死んで当然だ!こいつ等は俺の仲間を殺したんだぞ!?何の罪の無い人達まで殺してんだ!!当然の報いだ!!」
 オーマの背後から、語気を荒げウィルは言う。ウィルにとっては自分で敵が打てない事が悔やみなのだ。その敵に対して、同じ命だと言うオーマの言葉は届かない。
「それでも、他に手があんだろうがよ!!殺さねぇ手がよ!!」
 ギリッと噛み締めたオーマの唇から、血が滴る。悔しさと無力感にその背中が啼いていた。その姿を見て、ウィルは「チッ」と舌打ちすると歩き出す。そんな二人を見詰める5人は、何処か困惑した表情を浮かべていた。
「命……守るべき物も命……けれど、倒す物も命……どうすれば良いんでしょうね……」
 アイラスが呟いた一言に、帰って来る言葉は無かった……





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1649 / アイラス・サーリアス / 男 / 19歳 / 軽戦士

1112 / フィーリ・メンフィス / 男 / 18歳 / 魔導剣士

1354 / 星祈師・叶 / 男 / 17歳 / 陰陽師

1528 / 刀伯・塵 / 男 / 30歳 / 剣匠

2254 / 白槍牙・蒼瞑 / 男 / 34歳 / 元鎧剣士(今遊び人)

1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳 / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り

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■         ライター通信          ■
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 どうも!凪 蒼真です!

 塵さん、アイラスさん、フィーリさん、叶さんお久しぶりです♪

 オーマさん、蒼瞑さん、初めまして♪

 この度は戦士の誇り、御参加頂き有難う御座います。
 100%戦闘依頼でしたので、内容はほぼ戦闘描写のみに成っております。戦闘のみと言うのは初の試みでしたので色々苦労もしましたが、御満足頂ければ幸いです。
 また、皆様のプレイングを見た結果、十分に考慮し書き上げたつもりですが、至らない点等あろうかと思います。御意見・御感想など御座いましたら是非、お聞かせ下さい。今後の励みにさせて頂きます。(礼) 
 今回の話しのテーマは、ずばり誇りだった訳ですが……結果としてこういう形に成りました。生きるが誇りか?死すが誇りか?この辺りは人それぞれ感じ方が違うのだなぁと改めて感じさせて頂きました。本当に良い勉強になり、感謝致しております♪
 さて、敵が1人逃げておりますが、これはまたの機会に伸ばしたいと思います。その折には、皆様がどの様なプレイングをなさるのか、楽しみにさせて頂きます♪

 それでは、今回はこの辺で、またお会いしましょう♪