<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
Alter ego
街を歩く。
いつもの風景と、いつもの、街並み。
ただ、違うとすれば―――
すれ違いざま、懐かしい他者の存在を認識する事、だろうか?
「―――おや?」
「―――あれ?」
振り返り、御互いを見合う、四つの瞳。
どれ位、久しぶりに逢うだろう?と考えるが、どうも定かではないような気がして二人は互いへと歩を進め、肩を叩きあった。
「久しぶり……だねえ?」
「多分ね。ねえ、和龍は今から何処へ行くの?」
「あ? んー、いつも通り、ぷらぷらしようと思ってたんだけどなぁ……どーよ、一緒に街でも歩くか?」
その言葉におかしそうにマーシャは笑い声を上げる。
くすくす、くすくす。
笑うたび、彼女の髪飾りが揺れ、髪が僅かな音を立て、艶を放つ。
それに合わせて手に持つ、銀の鳥篭と兎のルゥも揺れる。
賑やかな、けれど不思議な光景。
なのに誰も不思議と思わないのは――マーシャの愛らしい雰囲気があるからこそに、他ならない。
「"いつも通り"って、私が知らないのにそう言うんだ? んー、でもそうだね。一緒に街でも歩いて…美味しいものとか綺麗なもの、見せてくれる?」
「知らなくても解るだろ?」
和龍は、それだけ言うと、マーシャへと抱きつき、抱え上げた。
僅かに、マーシャの目線が和龍より高くなり見下ろす形になる。
久しぶりな筈なのに変わる事がない互いの姿を互いの瞳だけが、意識だけが認識していた。
マーシャは笑い声の代わりに和龍の頬に触れる。
そして和龍は。
「では、行きましょうかお嬢さん?」
と、いつも呼ぶように"マーシャ"とは呼び捨てずに言うと。
「ね、ねえ、和龍? なら、先に私を降ろすのが礼儀なんじゃないかなあっ?!」
力の限り、触れられた頬を思い切り、抓られ―――
「痛たたた……!! おい、そんなに抓ると落とすぞ…って、本当に痛いっつーのに!」
路上には、和龍の声だけが、ただ響いた。
微笑ましそうに笑う通行人の声が、いやに――聴覚を、刺激する。
+
「やっぱ美味いモンってのは身近にあるもんだよな♪」
抓られた頬が紅さを残したまま和龍は、買ったものをマーシャへと差し出す。
歩いて食べるに手頃な大きさ。
アルマ通りを抜けた所にある路上のパン売りから買った、捻りパン。
シナモンとカカオパウダーの二種類あり、焼きたての細長いパンにかかったシナモンもカカオも柔らかな匂いを発し、食欲を思い出させた。
鳥篭を片手に持ち、パンをもう片方の手に。
マーシャが和龍から貰ったのは、シナモン味だったのか齧るだけで口の中に甘さとシナモンの味が広がってゆき、
「…ねえ、そっちのも一口頂戴?」
「あん? 構わないけど、それならマーシャのも一口な?」
「うん♪」
お互いがお互いのパンを差し出しあい、ぱくり。
……傍から見れば恋人同士にしか見えない行為だが、実際は遠からず近からず、お互い深入りしていない…と言う、とても微妙な関係で。
別に恋人同士になるのも悪くは無いのかも知れない。
だが、そうなれば。
どうにも今の関係より違う何かへと変わってしまいそうで。
お互いに、――――面倒臭い。
面倒臭い、等と言ったら全世界の恋人たちからハリセンでツッコミを貰いそうな…、いや、ブーイングを一斉に浴びそうな気がするのだが、変わってしまうのなら、いっそ、何も無い方が面倒は少ない。
――――おかしい事でも何でもない、筈だ。
今、在るものを、失うことを思えば。
+
歩いていると、不思議と様々なことを考える。
一人であろうと、二人であろうと、それは何時でも同じだ。
一緒にパンを食べながら歩いていると、同時に歩を止めた場所があった。
似た者同士だから言わずとも止まる場所は解る。
いいや、解ると言う言葉は少しばかり語弊があるだろうか?
何の言葉を交わす事が無くても、喩え、歩いていて深い考えに陥る時であろうとも、見ていて美しいと思う物、癒されるような気がする物は同じで、交わす言葉さえ必要は無かった。
繊細なレース細工、細かな模様は機械ではなく手作業で丹念に丹念に繰り返し作られていったことだろう。
二人が立ち止まった店の軒先は、服ではなく、インテリアとして売られているレース細工を取り扱う店のようだったがテーブルクロスと言い、カーテンと言い、どれもが一点ものの貴重さ、美しさを示していた。
本当に良い物と言うのは、どの場所に置いても光を放つ。
「細工物に関しては、綺麗な物が多いな……この世界は。意外と言うべきか、らしいと言うべきか…どちらだと思う?」
「職人さんが一杯いるもの。自分たちの手で作れる美しい物が如何程の物になるか、知りたい人が多いから」
だから美しい物が多いの。
言い切らない内に、マーシャは再び和龍から、抱きっ、と抱きつかれ。
「ホ〜ント、利口だなあ? マーシャは♪」
「褒め言葉として受け取っておくけど……でも、別に褒める時だって抱きつかなくても良いんじゃ?」
「ま、ま、そんな冷たいこと言うなって」
「冷たいんじゃなくて、言葉尻より何より"上!"って言う感じの和龍の態度に素直に喜べないって言うか……」
にぃっこり。
華の様な笑みを浮かべて、マーシャは腕の中からすり抜け店の中へと入る。
追いかけるように、だが傍から見ると、そうとは見えずに和龍も、店内へと入り扉を閉める。
「あんまり高くないのだったら買ってやるよ」
そう、後ろ姿に言いながら。
「本当? ああ、けど直前になって気が変ったって言うのはナシね?」
「――善処、しましょう?」
久しぶりの感覚だ――と、先に入っているマーシャも、後から入ってきた和龍も思う。
こうして二人で何かを見ること、選ぶ相手を見ること、買ってくれる相手を見ること。
――先ほどのように、街で二人、何かを食べながら歩くことも。
一緒にいると居心地が良いから、特に何を考えることも無く会話が出来て、楽。
誰にとっても本当に様々な所に在る人たち、時に出会える、この偶然を心の底から。
「「今日、偶然にでも逢えて面白かった」」
呟くでもなく、心の中で言うでもなく、互いの顔を見合わせながら。
まるで、もう一人の自分を見るように、マーシャは柔らかな白糸で作られたレースのリボンを、そっと和龍に差し出した。
・End・
+ライター通信+
和龍様、マーシャ様、初めまして(^^)
今回こちらのお話を担当させて頂きました秋月 奏と申します。
お二人とも本当に素敵なPCさんで、発注を貰うたびに、いつも私は
「こんな素敵なPCさんを私が書いて良いのだろうか」と悩むのですが、
僅かばかり、遊んでくださって良いと言うお言葉を頂き、肩の力を抜いて書く事が出来ました。
本当に有難うございます<(_ _)>
あと、この話につけさせていただいたタイトルですがラテン語で「アルテール・エゴ」、もう一人の自分、
と言う意味を持つ言葉だったりします。
発注文を読ませて頂いて、何処となく似た者同士であるお二人は、性別や年齢、職種を超えて
そう言う物があるのではないか、と思ったからなのですが……お二人の掛相の会話は書いていて
とても楽しかった物の一つです、本当に本当にご発注、有難うございました!!
それでは、また、何処かにて出逢えることを祈りつつ……。
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