<PCクエストノベル(5人)>
不死姫と幽霊騎士団
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 1962/ティアリス・ガイラスト /王女兼剣士】
【 1805/スラッシュ /探索士】
【 1985/エルバード・ウィッシュテン /元軍人、現在は旅人?】
【 2067/ 琉雨/召還士兼学者見習い】
【 2239/月杜鏡稀 /月巫女】
【その他登場人物】
【 名前 / クラス】
【通りすがりの不死姫/不死王】
【通りすがりの幽霊騎士団/不明】
【サラマンダーさん達/サラマンダー】
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1.肝試し
エルザードの南西に無数に広がっているルクエンドの地下水脈は、未だに全ての流れが判明しているわけでは無かった。
水脈の脇に走る洞窟も同様に道の通路が多く、そうした通路を探索する冒険者達は後を絶たなかった。
…が、特に新しい物を求めるのではなく、すでにルートが判明している通路を歩こうとする者達も居た。
ティア:「…というわけで、ここの通路にお化けが出るって噂だから、みんなで肝試しに行きましょう」
近所の王女兼剣士のティアリス・ガイラストと仲間達、合わせて5人だった。彼女達は2組に別れて洞窟を歩いてみようと話している。
琉雨:「お化けなんて、居るのかしら…」
エル:「そうだな、召還獣が居るんだし、お化けも居るんではないか? 多分…」
琉雨:「召還獣は理論的な存在です。契約に基づき、定められた事をしてくれます。
お化けなどという、わけのわからないモノと一緒にしないで下さい」
鏡稀:「似たようなモノだと…いえ、何でもありません」
召還士兼学者見習いの琉雨は、召還獣は信じるがお化けは信じていないらしい。エルと鏡稀は、その辺りの事にツッコミを入れている。
この三人が、洞窟に入るグループその1である。
ティアと、先程から黙っているスラッシュの二人がグループその2だった。
そうして、5人はルクエンドの地下水脈へと入っていった。
2.ティアとスラッシュ
しとしと、と、どこかで水が流れる音が聞こえる。
ルクエンドの水脈を流れる水の音だろう。
ティア:「ねえ、スラッシュ? 地面が、少し揺れてないかしら?」
ティアが、少し低い声で言った。
スラッシュ:「…水脈が…近いからな」
答えて、スラッシュは歩く。洞窟で感じる振動の原因も、やはりルクエンドの水脈の流れに違いなかった。
水脈の水は流れ、洞窟に音と振動を与えているのだ。
ただ、さすがのルクエンドの水脈も洞窟に光までは与えて居なかった。
洞窟を歩くティアとスラッシュが頼りにしているのは、スラッシュが灯しているカンテラの明かりだけだった。
ティア:「あんまり怖くはないわね。
水の流れる音も心地良いし、落ち着くわ」
きょろきょろと、小まめに辺りを見回しながらティアは言う。小さな物音にも敏感な様子だった。
それでも、彼女の言葉の半分は本気だった。静かに流れる水脈の音は、洞窟の恐怖を和らげていた。反面、洞窟の神秘さを増幅させるようでもあったが…
スラッシュ;「…じゃあ…今度は一人で来るといいよ…」
ティア:「そ、そうね、考えておくわ」
それから、スラッシュとティアは言葉も少なく歩いた。水脈の音だけが、静かに洞窟に響いている。
カツン、カツン。
しばらくすると、水の音に金属の足音が混じって聞こえてきた。
ティア:「ねえ、スラッシュ? 近くに鎧の騎士とか…居ないわよね」
スラッシュ:「何も…居ないな」
ティアとスラッシュは、足を止めた。
周りには何も居ない。足音だけが聞こえていた。
スラッシュは、持っていたペンダントに目をやった。魔法生物を感知して光るペンダントである。
ペンダントはランタンの灯りを受けて穏やかに光っている。何も感知してない。少なくとも、魔法生物は近所に居ないようだ。
金属の足音は、徐々に大きくなる。一つや二つではない。もっと大勢の足音だ。ティアとスラッシュは、この場を離れた方が良いと思い始めた。
だが、それよりも早く、金属の足音の主達は二人の前に姿を現した。
ゆらゆらと半透明な姿だったが、鎧を纏った彼等は騎士団のようだった。
ペンダントは輝かない。魔法生物ではない。
皆、この世のものとは思えない、恐怖に引きつったような顔をしている。幽霊に違いないと、ティアとスラッシュは思った。
ちなみに、幽霊の騎士団(?)が姿を現したのと、ティアが気絶したのは、ほぼ同時だった。
…どうする?
スラッシュは、ティアを支えながら幽霊の騎士団を見つめた。
2.エルと琉雨と鏡稀と琉雨
ティア達が幽霊の騎士団と出会った頃、他の三人も別の通路を歩いていた。
琉雨:「そろそろ、秋ですね」
エル:「ああ、涼しくなってきたな。幽霊も涼みに出てくるんじゃないか?」
鏡稀:「それは、関係無いと思います」
こちらのグループは大して怖がる様子も無く、世間話をしながら歩いている。
鏡稀:「幽霊とはちょっと違いますが、人に化けて惑わす、化け猫や化け狸のようなモノも居ます。
案外、そういった魔物が洞窟に紛れ込み、それを見た人が、お化けと勘違いしたのかも知れませんね」
琉雨:「それは、ありそうな話ですね」
鏡稀:「…ところで、お二人も少し目を閉じていて下さい。そして、5秒したら、目を開いて下さい。
このような事なら、私も出来ます」
と鏡稀が言うので、他の二人は目を閉じてみた。
5秒後、エルは目を開く。
エル:「おおぉ、琉雨がいっぱい!」
見ると、エルの周囲には琉雨が3人程居た。
琉雨A:「さて、エルさんに問題です」
琉雨B:「本物の琉雨は」
琉雨C:「どれだと思いますか?」
三人の琉雨は示し合わせたかのように、エルに問いかける。なかなか乗りが良い。
エル:「うむー、分身の術か。面白いな」
ぱっと見た感じ、エルにも見分けがつかなかった。
琉雨C:「分身の術?」
琉雨A:「そんなの知りませんが?」
琉雨B:「お、お化け!?」
琉雨AとCは、きょとんとしている。
琉雨Bは悲鳴を上げて硬直している。
どうやら、本物の琉雨、鏡稀が化けた琉雨、正体不明の琉雨。三人の琉雨が、ここに居るようだ。
エル:「まあ、一人増えても、大した問題じゃない。
とりあえず本物の琉雨を探すさ」
エルは、しかし、全く気にしていないようだ。
エル:「こういう時は…抱きしめてみて感触を調べるのが一番!」
まずは琉雨Aを抱きしめようとした。人数が増えた分、余計に抱きつけると喜んでいるのかもしれない。
手始めに琉雨Aに抱きつこうとしたが、
琉雨A:「セクシャルハラスメントは、いけません」
どこからともなく飛んできたウィンドスラッシュの刃が、エルを止めた。
エル:「わかった、鏡稀だな!」
多少血まみれになりながら、エルは言った。琉雨Aは何も答えない。
エル:「次は…こっちの琉雨だ!
大丈夫、怖くないよ!」
次に、エルは硬直している琉雨Bに抱きついた。
琉雨Bはしばらく硬直していたが、やがて正気に返ったらしく、
琉雨B「驚かさないで下さい!」
と、瞬時にサラマンダーを数体、呼び出した。
サラマンダーさん達:「シュゴー」
エルは程よく焦げた。
エル:「な、なるほど。本物の琉雨だな。じゃあ最後は君だ!」
エルは多少血まみれになり、程よく焦げながらも琉雨Cに抱きつこうとしたが、そのまますり抜けた。
琉雨C:「あ、私、実体無いんで、さわれないです。多分」
琉雨Cは言った。確かに、さわれなかった。
琉雨B:「お、お化け!」
と、混乱気味の琉雨Bは、琉雨Cにサラマンダーを放ったが、やはり何事も無いかのようにすり抜けた。
琉雨C:「はい、お化けです。結構前から、不死王やってます。」
琉雨Cは言った。
ともかく、こうして『抱きついて本物の琉雨を探そう作戦』は終わった。
不死王…リッチやアンデットキングの別名でも知られる魔物である。
高位の魔道士等が怨念を残して死んだり魔法を用いたりして、死後に転生する事があるらしいと、エルは聞いた事がある。
鏡稀:「じゃあ、不死王のお化けさん、良かったら、少し話を聞かせてもらえますか?」
琉雨C:「はい、良いですよー」
鏡稀がにっこり微笑んで尋ねると、不死王のお化け…不死姫は話を始めた。
小一時間が過ぎた。
なるほどー。
と話を聞き終えた三人は、そのまま洞窟の出口へと向かった。
4.幽霊騎士団と不死姫
ティアは、あっさり気絶している。
…どうする?
スラッシュは悩む。
目の前には幽霊の騎士団が居る。
幽霊騎士団達:「あわわ、すいません、すいません」
幽霊騎士団達は、平謝りをしている。幽霊騎士団は、やたら脅えているようだ。
…一体、どうすれば?
とりあえず、話は通じそうなので、スラッシュは幽霊騎士団達に話を聞いてみた。
幽霊騎士団達:「お恥ずかしい話ですが…」
幽霊騎士団達は話を始めた。
彼等は見た目通り、生前は騎士だったという。ただ、非常に臆病だった為に、仕えている姫の命令で、ルクエンドの水脈に肝試しに来たそうだ。
ティア:「き、肝試しの時に、何かあったのね?」
いつの間にか目を覚ましたティアが尋ねた。
幽霊騎士団達:「はい、何だか物音がしたんで、あわてて逃げたんですが、道に迷ってしまいまして…」
どうやら、そのまま迷って死んでしまったらしい。それから、肝試しを完遂出来なかった事が心残りで、夏になると、たまに彼等は彷徨っているそうだ。
幽霊騎士団達:「うぅ、今回も、あなた方を見かけて驚いてしまいました。
また修行のやり直しです…」
幽霊騎士団達は泣いている。
ティア:「そ、そうなの。次はがんばってね」
幽霊騎士団達「うぅ、ありがとうございます…」
幽霊騎士団達は、そのまま静かに去っていった。
スラッシュ:「…先へ…行こう」
ティア:「そ、そうね」
幽霊達が去っていった洞窟は、再びルクエンドの水の流れだけが静かに響いていた。
スラッシュとティアは、そのまま洞窟の出口まで行った。出口には、エル達が先に待っていた。
ティア:「な、何で、琉雨が二人居るのかしら?」
見れば、エルと琉雨と鏡稀と、さらにもう一人琉雨が居るように見える。何故か、エルは少し血まみれで焦げていた。
鏡稀:「触ってみると、よろしいですよ」
鏡稀が言うので、ティアは2人の琉雨に触れてみた。片一方の琉雨はもちろん不死姫なので、ティアの手のひらをすり抜けた。
不死姫:「あ、私、実体無いですから、さわれませんよ」
不死姫がティアに言った。
ティア:「おば…け?」
ティアは再び気を失った。
エル:「お、おい、大丈夫か」
エルがあわてて介抱している。
琉雨:「まあ、何と言いますか…」
琉雨は、不死姫から聞いた話をティアとスラッシュに伝えた。
不死姫は先ほどティア達があった騎士達が仕えていた姫だという。
不死姫:「私が肝試しに出した騎士さん達が、そのまま行方不明になっちゃったんで、ずーっと気になってたんです。
だから、私も死ぬ代わりに不死姫になって、しばらくこの世に居ようかなーと思ったんですね。
そしたら、何だかわからないけど、あの人達、まだ肝試しやってるです。
だから、終わるまで付き合おうかなーと」
不死姫は、くすくすと笑った。
スラッシュ:「…責任を感じて、見守っている…つもりなのか?」
不死姫:「いえいえー、そんな大そうなもんじゃないですからー」
不死姫は、パタパタと手を振ると、そろそろ洞窟に帰りますねー。と去っていった。
ティア:「良いお姫様かもしれないわね…」
いつの間にか目を覚ましたティアが言った。
エル:「俺は、お化けを見て、いきなり気絶する姫様も可愛くて良いがな」
エルは言って、バシっとティアに叩かれた。すでに、不死姫は洞窟に姿を消した。5人も洞窟を出た。
スラッシュ:「…ペンダント…不死姫の事は感じていた…」
スラッシュが、小さく呟いた。
魔法生物を感知するスラッシュのペンダントは、幽霊騎士団には何の反応も示さなかったが、不死姫の事は感じていた。
エル:「普通の生き物でも魔法生物でも無い、第三の存在ってヤツか。まあ、どうでも良いな」
幽霊騎士団は、結局どういう存在だったのだろうか?
まあ、どうでも良いか。と一行は思った。ただ一人、琉雨だけが色々考え込んでいた。
ティア:「とりあえず、エルザードに帰って花火でも見に行きましょうか」
ティアの意見に反論のある者は居なかった。
5人は、まだ夏が続いているエルザードへと足を向けた…
(完)
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