<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


■古い館の幽霊騒動?■

<事の始まり>
「奇妙なことが起こるんです」
 カウンタ越しに他愛もない話をしていた女性が、ふとルディアに話を持ち出した。
「奇妙な?」
「えぇ。先ほども話した通り、私たち家族は最近街外れの古い館に越して来たのですが、最初の頃は何もなかったんです。けれど……ここ数日、夜な夜な誰かが泣いているような声がして……」
 よっぽど怖いのか、その女性は両手で顔を覆った。
 いつの間にか話に耳を傾けていた冒険者達も心配そうに見ている。
「……主人は、聞こえないというのですが……子供には聞こえるそうで……、怖くて怖くて……」
「その奇妙なことを解決すればいいんですね?」
 ルディアは女性にハンカチを渡しながら、そう訊ねた。
「はい……」
 頷きながら、渡されたハンカチで目元を拭ってから、女性は顔を上げる。
「申し送れました、私、リリィと申します。その……相手がどのようなものか分からないのですが、もし解決してくださる方が居れば、お礼はします。どうかよろしくお願いします」


<情報収集>
 正午頃から屋敷を訪れたメイとアイラス・サーリアスは応接室へと通されていた。
 向かいにはリリィを始め、夫のマルスと娘のマリィが座っている。
「事を解決するために来てくれたと聞きました。ありがとう」
 マルスが挨拶をしつつ頭を下げると、メイとアイラスも礼を返した。
「いえ、私たちでお力になれるとよいのですが……それで、このお屋敷の前の持ち主さんのこととかはご存知でしょうか?」
 まずは情報収集から、と考えたメイが早速話を切り出す。
 すると、マルスの顔が曇った。
「ここは元々、私の父の屋敷だったんです」
 そのマルスの隣から、リリィが代わりに答えた。彼女の表情もまた、曇っていた。
「彼女の父が亡くなったため、このまま取り壊されるのも淋しいものがあると、私たちが引っ越してきたんだよ」
「そう、なのですか……」
 そのまま黙ってしまったリリィの代わりにマルスが説明を加える。
 これで、前の持ち主を当たってみることは不可能となった。

「それでは、その泣き声について訊きたいのですが……」
「泣き声はね、夕方から夜にかけて聞こえるの。場所は、いつもバラバラ」
 メイが更に訊ねると、二人の間に座っていたマリィがそう答えた。
「夕方で、特定の場所がありませんか」
 メイの隣でずっと聞いていたアイラスもマリィの言葉を繰り返し、そして考え込んだ。
「一部屋ずつ当たるしかないのでしょうか?」
「そうなりますね。ガーディ様、屋敷内を廻らせてもらってもよろしいでしょうか?」
 メイはリリィとマルスから了承を得ると、早速アイラスと屋敷内を見て廻ることにした。その二人を「案内するー」とマリィがついてくることになった。


<探索、そして遭遇>
 2人はマリィの案内のもと、最近声を聞いたという食堂を見てみることにした。
 綺麗に片付いていて、テーブルの中央には花なども飾ってあり、幽霊が出るような感じではない。
「こちらではどのようなときに?」
「夕ご飯のとき、かな……とっても、哀しそうな声で泣いてたの」
 マリィは思い出しながら、少し悲しそうな顔をする。

 次に案内されたのは、玄関を含むエントランス。
 ここでは、主人が帰宅する時間の前後に聞こえてくることがあるらしい。

 月が出始める時間に聞こえてきたというのは中庭。聞こえてきた日は空気が澄んでいて、星が綺麗に輝いていたと、話してくれた。
 そして、寝る時間頃に聞こえるのは決まって寝室だと言う。
「ここまで話を聞く限り、亡くなった方に近い存在の方の幽霊なのかもしれませんね……」
 最後に覗かせてもらった寝室の窓から外を見やりつつ、アイラスは呟いた。
 窓から見える空はすっかり赤みを帯びている。
 しばし3人が外を眺めていると、ふいに悲しそうな泣き声が聞こえてきた。
 すかさず後ろを振り向くと、ベッドの上に女の子が座って顔を覆うようにして泣いている姿が見えてきた。
 次第に実体化されていくその姿は、ヒトよりかなり小さく、そして背中に蝶のような形で透き通った羽を生やしている。
「妖、精……?」
 マリィが呟くとその女の子の肩がびくっと震えた。そして顔を覆っていた手を離して、おずおずと顔を上げる。
「私のことが、見えるの……?」
 鈴が鳴るかのようなか細い声で女の子が問い掛けてくる。
「うん」
「見えますね」
「あたしにも見えます」
 3人がそれぞれ答えると女の子はその羽を動かして、目の前まで飛んできた。
「見えるのなら、お願いがあるのっ」


<妖精ユーリのお願い>
 女の子はやはり妖精で、ユーリと名乗った。
 この屋敷に以前住んでいた主人――リリィの父とは知り合いで、一人淋しく暮らしていた彼を「おじいちゃん」と呼んで、慕っていたという。
 今までどんなに泣いていても、姿が見えないことから気付いてもらえず、それに対しても淋しくて、泣いていたらしい。
「おじいちゃんが亡くなってから、アタシ、ずっと淋しくて……おじいちゃんは戻ってこないけど、おじいちゃんとの思い出の残るこの家で、このままずっと暮らしたいの。住まわせてもらえないかな?」
 ユーリの願いを聞いた後、メイとアイラスは黙り込んだ。
 こればっかりはガーディ一家との問題であって、2人が決定するわけにはいかない。
 マリィはというと、お友達が増えると喜んでいる。
「階下に降りて、マルスさんとリリィさんに話しましょう」
「そうですね。ご家族でのお話し合いが必要かと……」
 2人はマリィとユーリを連れて、応接室へと降りていった。


<新しい家族>
 ちゃんと実体化したユーリの姿は、泣き声の聞こえなかったマルスにも見えるようで、事情を話すことは難しくはなかった。
 一通りの事情を聞くと、リリィが1つの話をし始めた。
 半ば勘当されるかのように家を出て結婚していたリリィは、ここ数年の父のことを知らず、それを知っていて、尚且つ父が亡くなるまで一緒に暮らしてくれていたユーリに感謝の気持ちも込めて、一緒に暮らしたいと思うと語る。
 マルスもそういうことなら……と、2人はユーリを快く迎えてくれた。

「お願い、叶ってよかったですね」
「皆様と仲よく暮らしてください」
 アイラスとメイの2人は屋敷の門のところまで見送りに出てくれたユーリにそれぞれ言葉をかけた。
「うん。2人もありがとう♪ よかったらまた遊びに来てよ」
 ユーリが嬉しそうな笑顔で返す。
「お邪魔でなければ是非」
「それでは失礼します」
 先に一礼して帰途に着いたアイラスの後をメイはユーリに向かって手を振ってから慌てておいかけた。

 ガーディ一家を幽霊が居るのかと騒がせた1人の心優しき妖精は、その後、一家と仲よく暮らしたという。


【終】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1063/メイ        /女性/13歳/戦天使見習い】
【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト】

NPC
【――/マルス・ガーディ  /男性/38歳/館の主人】
【――/リリィ・ガーディ  /女性/32歳/館の婦人】
【――/マリィ・ガーディ  /女性/ 5歳/子供】
【――/ユーリ       /女性/??/妖精】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせいたしました。
 初のご参加ありがとうございました。

 今回の騒動の正体は、慕っていた方が亡くなって泣いていた女の子の妖精にしてみました。
 『夏=オバケ』というのも捨てがたかったのですが、少し期待を外れるコースで……。
 いかがだったでしょうか?

 また機会があれば、出会えることを願ってます。
 それでは、繰り返しますが、ありがとうございました。

  暁ゆか