<PCクエストノベル(1人)>


材料を求めて〜ヴォミットの鍋〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ /医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

【その他登場人物】

【NPC/ ゴズ】
【NPC/ レンド】
【NPC/ ウォズ】

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オーマ:「ここがヴォミットの鍋ねぇ……」
 成る程、噂通りのところだなと辺りを見回しつつ、オーマは村の入り口へと歩みを進めていく。
 ここはヴォミットの鍋と呼ばれる、有毒の瘴気に囲まれたヴォミットゴブリンたちの住む村である。大昔にここで死んだ竜の死骸が朽ちていくと共に毒気を帯び始め、その毒気は大地へと浸透していき……森に住んでいた大半の動植物を死に追いやった。だが、毒に適応しわずかに生き残ったものが今、竜の頭蓋に溜まった雨から毒薬を作り、売りながらここで生活している。
 オーマがヴォミット村に来たのにはもちろん理由がある。ここでの目的はもちろん、竜の頭蓋に溜まった雨の入手、そしてヴォミットに生える異形の植物の採取をするためだ。だが、最終的な目的は、一般人対ウォズ用護身茶開発の研究を成功させることである。現在採取済みの対ウォズ用護身茶の材料は、人面草、大蜘蛛の糸、だ。
 腹黒イロモノ親父オーラ全開でざっかざっかと村の入り口へ歩いていくと、門のところに居た村人がくるりと、何かを感じて振り返った。
村人:「んー?あんた客かい?よくもまぁこんなところまで来たもんだ」
オーマ:「おうよ!俺の研究を成功させるためにゃ竜の頭蓋に溜まった雨が必要なもんでね」
 すっかり変わり果てて、もはや元の種族が何であったのか。全く想像もつかない容姿の村人は、ご苦労さんだね〜と呆れ顔をした。
村人:「こんな僻地まで来なくとも、闇市場で取引されてんだろうに」
 その言葉を聞いたオーマは、甘いねぇとにやりと笑みをうかべた。
オーマ:「闇市場ってーのは何を掴まされるかわかんねぇからよ。ちゃんとした本物のやつをどーんと手に入れようと思ったらここに来んのが一番だろ?」
村人:「なるほどねぇ。そりゃそーだ」
 客人の言い分を聞いた村人はくくくっと笑い声をあげると、オーマの顔を見あげて言った。
村人:「お前さん気に入ったよ。良かったら村を案内してやるぜ?名は何て言うんだい?俺はゴズっていうんだが」
オーマ:「そりゃありがてぇな。頼んだぜゴズ。俺はオーマだ」
 にっと笑ったオーマは差し出された手を握り返しながら言った。
ゴズ:「さーて、オーマ。どっから見てく?いきなり竜の頭蓋に行くのも良いがね」
オーマ:「そうだねぇ。じゃあここのみに生息してる植物を教えてもらえねぇか?」
ゴズ:「ここにのみ生息してる植物?一体何に使うんだい?」
オーマ:「おう!それはな」
待ってました!とばかりにオーマはにやりと笑みをうかべると、自分がなぜ竜の頭蓋に溜まった雨が必要か、その植物の使い道はなどを説明して聞かせた。
オーマ:「……って訳でよ。材料集めに奔走してるってぇわけだ」
ゴズ:「成る程ねぇ。お前さん見かけによらず努力家だな」
 オーマから詳細を聞いたゴズは、ふむふむと頷くと、おっと声をあげた。
ゴズ:「丁度あそこにいるのが植物に詳しいやつだ」
 話しながら二人が歩いていくと、ゴズと同じ様な姿形をした村人、五〜六人の集団が見えてきた。
 ゴズがおーいと手を振ると、その集団の何人かが振り向いて二人の方を向いた。
村人:「お!ゴズじゃん。お前がこの時間に村の入り口にいないってことは面白いことでもみつけたな?」
ゴズ:「まあな。面白そうな客人が来たから案内してるところさ」
村人:「ふーん、客人ねぇ。ん?そういえば隣に居るのは誰だ?」
 二人がその集団に向って歩いて行くと、そのメンバーたちは興味深げに声をかけてきた。どうやらゴズの友人のようだ。
ゴズ:「この人が客人のオーマだ。竜の頭蓋の雨を取りに来たんだってよ」
村人:「うわ……そりゃまたご苦労さんなこって」
村人:「わざわざ有毒な瘴気が立ち込めてるところに武装して出てこなくても……って、あんた武装してないじゃん!」
村人:「本当だ……大丈夫なのか!?」
わらわらとオーマの周りを取り囲み、見上げながら慌てて問う村人。有毒な瘴気が立ち込めているここへ完全防護服無しで訪れた客なんて今までに見たことが無い、それは自殺行為に等しい、と。
 だが、そこは常識を覆してしまうオーマである。
オーマ:「おうよ!こんな瘴気ぐらいで俺が倒れるかってね」
豪快に笑みをうかべながら言い、村人たちの目を丸くさせた。
 それを集団の近くで話をしていた他の村人たちも聞いていたのか、驚いて遠巻きながらオーマの方に視線を向けだした。
ゴズ:「な?面白い客だろ?それよりレンド!オーマがここの植物を知りたいらしいから教えてやってくれねーか?」
レンド:「ここの植物について?ああ、任せとけ!例え日が落ちてもしゃべり続ける自信があるぜ」
 ゴズの呼びかけに、背が高めの細身体型の村人が嬉しそうにオーマの前に出てきた。
レンド:「ここじゃ植物のことを語っても聞いてくれるやつはいないからねぇ。こういう人が来てくれるの待ってたよ」
オーマ:「そりゃ助かる。じゃあゆっくり話を聞こうかねぇ。でもその前によ」
 レンドのありがたい申し出にじゃあ早速、と言いかけたオーマであったが。その前に、と言葉を切ると、周りを見回したオーマは笑顔をうかべつつ、目の前にある物を大量に具現化してドサリと置いた。
オーマ:「これだけの人が集まってるんだしねぇ。これを配っとかなきゃ王室公認腹黒同盟総帥の名が泣くってな」
 そう言うが早く。オーマは直々に、村人たちに次々とパンフレットを手渡し配っていく。腹黒営業スマイルはもちろん忘れずに。
村人:「どれどれ……」
 なんとなくパンフレットを受け取ってしまった村人たちは、訳が分からないながらも中をパラパラとめくりだした。
 そんな村人たちの光景を、パンフレットを配り終えた腹黒同盟総帥もといオーマは満足そうに眺めた。
オーマ:「うむうむ。日々の精進が明日への第一歩ってな。良い光景だねぇ」
 だが、その一見平和そうに見えた光景は次の瞬間。一人の叫び声によって崩れることになった。
村人:「きゃーっ!だ、誰か……!?」
オーマ:「!?」
 突然の悲鳴に、オーマは声のした方向にばっと顔を向けた。なんだかとてつもない……妙な予感が全身を駆け巡る。胸にもやもやとしたものが立ち込めているような……そんな落ち着かない感覚。この感覚はまさか……!
 その感覚を感じとった瞬間。オーマはゴズへと振り向いた。
ゴズ:「なんだ!?あの方向は……竜の頭蓋がある方だ」
オーマ:「ゴズ、竜の頭蓋に案内してくれねぇか?出来るだけ最短距離でだ!」
ゴズ:「あ、あぁ……こっちだ」
 オーマの雰囲気がさっきとは打って変わり、何かぴりっとした危険な感じをさせるものになったことを肌で感じ取ったゴズは、慌ててオーマを手招きすると民家の間をぬって走り始めた。。
ゴズ:「ちょっと狭いかもしれねぇがここが一番の近道だ」
オーマ:「あぁ、助かる」
 民家の間を駆け抜けること数十秒。二人は竜の頭蓋のある広場へと到着した。
オーマ:「ちっ。やっぱりお前さんだったか」
ゴズ:「!? なんだ!?」
 二人が目撃したのは……竜の頭蓋の上に不気味に立つ、人のような姿の、人では無いもの。全身が黒、というよりは闇に包まれ……まるで影が人型を成したようなものであった。
 その不気味な人のようなものは、オーマのヴァンサーとしての気配を察知したのかオーマのほうへ身体を向けると、白く浮かび出た口をにやりと笑ませた。
ウォズ:「我ハ……我ラノ敵トナルモノヲ排除スル……我ハ再ビコノ地ニ降リ立ツノダ……!」
オーマ:「物騒なこと言ってやがる。こいつぁ大昔に朽ちた竜の思念と具現同化しちまってるのか」
 ウォズの笑みにオーマは溜息混じりに首を振ると、手に自分の相棒である身の丈以上の銃を具現化し、ガシャリと構えた。
オーマ:「まずはこれでも喰らいやがれっ!」
 照準を合わせるとほぼ同時に、オーマはウォズに向って連続射撃をし始めた。狙いはウォズの頭部、身体部だ。
 弾は正確にウォズ目掛けて飛んでいった。オーマの腕に狂いはない。だが……
オーマ:「やっぱり避けやがるか」
自分に向ってくる弾に身体を向けたウォズは、にぃっと不気味に口を歪めた。まるで、オーマの攻撃などお見通し、と嘲笑っているかのように。
 ウォズが不気味な笑みをうかべた瞬間。その背中に、ばさぁっと大きな、蝙蝠のような羽が姿を現し……軽々と銃弾を避けて空中へと飛びたった。
ゴズ:「オーマ!あれは一体何だっていうんだ?」
オーマ:「あいつぁウォズっていう異形のもんさ。元は俺たちの同族だがな……」
 ウォズの行動に鋭い眼差しを向けながら、オーマは驚いて口早に問ってくるゴズに言った。
オーマ:「さっき茶の話をしたときに言ってたやつがコイツだ」
ゴズ:「こいつがか!?」
オーマ:「おうよ。俺の攻撃以外効かねぇ厄介なやつだ。だからよ。ゴズたちは危なくねぇ所に避難しててくれ」
ゴズ:「あ、あぁ……」
 オーマにそう言われたゴズは近くにいた村人たちに口早に状況を説明すると、周辺にいた村人たちを連れてすぐにこの場を離れていった。
オーマ:「さぁて。そろそろ本気を出そうかねぇ」
 辺りに人の気配が無くなったことを確認したオーマは、にっと笑みをうかべると同時にその姿を銀髪赤目の青年へと変えた。本来の血を解放するために。
 しばらくオーマの様子を窺っていたウォズであったが……青年へと姿を変えたオーマを見るなり、手と思しき部分をすっと鎌に変えた。そして……空中から急降下を始めるとオーマ目掛けて鎌を振り下ろしてきた。
ウォズ:「我ヲ消サントスルモノニハ死アルノミ……!」
オーマ:「その想いの呪縛から解き放ってやるよ」
 ウォズの攻撃を大袈裟すぎるぐらいに高く跳躍してかわしたオーマは、ウォズを見てにっと笑みをうかべると、空中で再度姿を変貌させた。今度は……本来の血を解放した後にのみ変えられる姿に。
 艶の良い銀の毛を風に揺らしながら、巨大な翼を持った獅子に変化したオーマはウォズに鋭い視線を送りながら言った。
オーマ:「お前さんを封印することでな」


オーマ:「ありがとよレンド。日が昇ってからも語らせちまってよ」
レンド:「いいや、久々に話す相手がいて楽しかったさ。まだ語り足りないんだが……まぁ後の知識はオーマには今のところ要らないようだし。またここに来たときにでもゆっくり話すことにするさ」
 翌日。オーマは昨日の夜から今日の朝にかけてレンドからヴォミット村の植物について語り明かし貫徹状態だったものの……いつもと調子は変わらず。
オーマ:「おうよ!そんときはよろしく頼むぜ」
満足そうな表情をうかべているが、どこか眠たげな雰囲気を漂わせるレンドの背中を元気良く、バシっと叩いた。
オーマ:「こっちでもあの花の研究してみるけどよ。何かわかったら連絡くれねぇか?そしたらここまですっ飛んで来るからよ」
レンド:「あ、あぁ……わかったよ……」
 豪快に笑いながらなおも背中を叩かれそうになったレンドは、オーマの一撃がかなり痛かったのかすかさずゴズの後ろへ逃げて、うんうんと頷いた。
 二人の話に出ているあの花とは何のことか?というと。それはウォズをオーマの内に封印した際になぜか一斉に咲いた、大きい紫色の花のことである。一花弁がオーマの手二個分はあるという巨大さだ。
 現在、竜の頭蓋はこの植物の蔓が至るところに絡まっている。たった一晩たっただけなのに、だ。この植物の勢いは民家にまで及ぶのではないかと村人は心配したが……その必要は無かったらしい。なぜならその植物は竜の頭蓋、竜の頭蓋周辺でしか生えなかったからである。
オーマ:「ゴズもありがとよ。また来たときに案内頼んだぜ」
ゴズ:「ああ、任せとけ!オーマならいつでも歓迎だ。首を長くして待ってるぜ」
 また来ると約束を取り付けると、オーマはヒラヒラと手を振ってヴォミット村に背を向けて歩き出した。得たものの多さに自然と笑みがうかべながら。
 こうしてオーマはヴォミット村で竜の頭蓋に溜まった雨、竜の頭蓋にだけ開く花、そして友人……と、たくさんの土産を得て帰路についたのであった。


 ◆ライター通信◆
  こんにちは!いつもありがとうございます!月波龍です。
  初のクエストということでかなり緊張しました……。
 
  ウォズにはいろいろな形体がありましたので始めはどういうものにしようか
  どう書いていこうか戸惑いましたが……こうして無事に書き終えることが
  できてほっとしています。
  ご満足いただけたら光栄に思います。
  では、また機会がありましたらよろしくお願いします。