<PCクエストノベル(2人)>


夏の想い出〜ミニ変化の洞窟〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

 ■1854/シノン・ルースティーン/神官見習い
 ■1805/スラッシュ/探索士

【助力探求者】
 なし

【その他登場人物】
 孤児院の子供達
 仔猫5匹

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■□■ 

『夢みたいって思わせるような幸せな想い出作ってあげなくちゃね』
 そう思いながらシノン・ルースティーンは孤児院の子供達と一緒に出かける夏の旅行計画を練っていた。
 もう何日も前からシノンは何処に行くのにも地図を片手だ。
 食事の前に唸りながら良い場所を考え、孤児院でも子供達にまとわりつかれながらも地図を眺める。
 同行者はシノンの兄貴分であるスラッシュと、そしてこの計画のメインである孤児院の子供達。
 これはかなりの人数での移動になる。迷子にならないとも限らないし注意が必要だろう。

シノン:「うーん、やっぱりここかなぁ」

 地図の上に書かれた文字は『ミニ変化の洞窟』。
 スラッシュは肌が弱いため日の光に直接当たるのは余り良くないということもシノンの頭にはある。
 そしてお金も余りかけることは出来ない。
 お金をかけずに、素敵な想い出を作ることが出来る場所。子供達が心の底から楽しいと思える場所。
 んー、とシノンが机の上に顔を乗せて唸ると、隣にやってきた仔猫が、にゃー、と声を上げる。

シノン:「ココがいいの?」
仔猫:「にゃーにゃー」

 まるで頷いているかのように声をあげる仔猫にシノンは柔らかな笑みを向ける。

シノン:「そっか。ココかぁ」

 そう呟いて、シノンは隣で一緒に地図を覗き込んでいるスラッシュに尋ねた。

シノン:「兄貴、どう思う?」

 シノンの問いかけにスラッシュは小さく頷き言う。

スラッシュ:「変わったところ、という点では一番だからな……それに、迷子になる心配も…そうしないで済むだろう…」
シノン:「そうだよねっ。よしっ!それじゃココに決めたっ!」

 場所を決めたらあとは早かった。
 子供達を集めて話をし、当日の当番を決める。
 朝は何時に起きて誰がお弁当を作るのか、湖で泳ぐ際に使うゴムボートは誰が用意するのか等々。
 子供達はそのピクニックに強い興味を示し、瞳を輝かせた。
 あっという間に役も決まり、子供達は仔猫を抱いて口々に言う。

子供:「ねぇねぇ、もちろんこの子達も一緒だよねっ!」

 先ほどシノンは孤児院の子供達に、ココにいる全員皆一緒に行くんだよっ、と告げたのだ。
 もちろん、子供達の『全員』の枠の中には仔猫たちも入っている。
 それは至極当然の結果なのだが、シノンはそこまで考えてはいなかった。

シノン:「あぁっ!そうだった!仔猫たちも一緒にいくんだよね。そっか。そうだよね。置いてけぼりは淋しいし」

 よぉーし、とシノンは気合いを入れ、子供達を見渡す。
 やはりここに居る全員が欠けてしまってはいけないのだ。全員で一緒に楽しんでこなければ意味がない。
 にっこりと微笑んでシノンは子供達に告げる。

シノン:「それじゃ改めて。ココにいる全員で楽しんでこようねっ」
子供達:「うんっ。楽しみーっ!」

 子供達の笑顔が溢れる。
 その笑顔を見ているのがシノンは大好きだった。
 スラッシュもそんな子供達と嬉しそうなシノンの様子を眺め、小さく微笑む。
 その笑みは誰に見られることはなかったが、スラッシュの胸の中で温かな温もりとなって蓄積される。
 こうして、シノンとスラッシュ主催のピクニックが決行されることとなったのだった。


■□■

 当日。
 子供達はいつもよりも早く起き出して、お弁当係になっていない子供たちも一緒にお弁当を作り始める。

シノン:「えーっとね、そうじゃなくてこう。……そうそう。もう少し強めに……うん、上出来」
子供:「できたーっ!ボク、あとコレも挟むんだっ!」
シノン:「えぇぇぇっ!ちょっとそれは無理じゃないかなぁ」

 苦笑しながらシノンは子供が持つ大きなスイカを眺める。
 サンドイッチにスイカはどうだろう。

子供:「きっと美味しいって!ね?」

 他の子供達に賛同を求めるが、誰一人として賛同する者は居ない。

シノン:「ねぇ、それは別に持っていこうよ。…そうだ!そのスイカを湖に冷やしておいて、後で皆でスイカ割りをするのはどうかな」
子供:「スイカ割り?」

 スイカ割りを知らないのか子供達は首を傾げる。

シノン:「そうだよっ。目隠しして、木の棒で回りの声を頼りにスイカめがけて木の棒を振り下ろすの。それで割れるか割れないかを皆で競争するんだよ」
子供:「面白そうっ!それやる!じゃ、これ袋に入れてくる!」
シノン:「うん。そうしよう。兄貴袋ある?」
スラッシュ:「あぁ。……ほら、これに入れて」
子供:「スイカ割りっ!スイカ割りっ!」

 そう言いながら、スラッシュが広げた袋に子供はスイカをころんと入れる。
 スラッシュに、えへへへー、と嬉しそうに子供は笑いかける。
 ぽん、とスラッシュは子供の頭を撫でてやりながら告げる。

スラッシュ:「俺が責任もって持っていってやるからな…」
子供:「うんっ!」

 大きく頷いて子供はまたお弁当作りに専念し始めた。


 お弁当も出来上がり、仔猫用のミルクもしっかりと持つ。
 シノンはいつものウルギ神官の正装ではなく、大きな麦わら帽子を被り、白のサンドレスを着てピクニック気分は十分のようだった。
 やはり神官服では子供達と同等の立場では遊べない様な気がするのだろう。
 遊び道具やスイカを詰めた袋を担いだスラッシュをシノンは振り返った。

シノン:「兄貴、準備出来たー?」
スラッシュ:「あぁ、大丈夫だ。……行くか?」

 まだ陽の光は強くない。
 しかし移動中はどうしても陽の光に晒されてしまう。スラッシュはしっかりと布を纏い、外に出る準備は万端だった。

シノン:「うん。それじゃ、ミニ変化の洞窟へしゅっぱーつ!」
子供:「れっつごー!」
仔猫:「にゃー!」

 シノンに合わせて子供と仔猫が声を上げる。
 街の出口まで誰が一番早いか競争ー、とシノンが叫ぶと子供達は一斉に駆け出す。
 シノンも負けじと子供達と一緒に走り出した。
 シノンと足の速い子供の接戦が繰り広げられている。

スラッシュ:「辿り着くまでにバテてないといいがな……」

 苦笑しながらスラッシュはその後を追う。
 そんなスラッシュの足下でのんびりと歩いている仔猫が一声鳴いた。


■□■

シノン:「うわぁ、ここがミニ変化の洞窟なんだ」
スラッシュ:「そうらしい。この洞窟を抜けると皆ミニサイズだ」
子供:「ボク達ちっちゃくなっちゃうの?赤ちゃん?」

 心配そうな声を出す子供たち。
 シノンは驚かせようと今まで、内緒、と言って子供達に内容を教えていなかったのだ。
 不安げな表情を浮かべる子供達をシノンは笑い飛ばし安心させてやる。

シノン:「大丈夫だよっ!赤ちゃんに戻っちゃう訳じゃなくて、皆が小人サイズになっちゃうだけだから」

 どの位かな、とスラッシュに尋ねるシノン。
 スラッシュは首を傾げつつも、大体このくらいじゃないか、と目の前に立つ子供の半分のサイズを示す。

子供:「そんなにちっちゃくなっちゃうの?凄いねー!」
子供:「元に戻れる???」
スラッシュ:「大丈夫だ。こっちに戻ってくる時には元通りになっている…」
シノン:「ほらね。あとはね、中にはたっくさん絵があるんだって。あたし見てみたかったんだよね」

 突撃ー!、とシノンは先頭を切って洞窟へと向かう。
 その後を子供達が元気に駆けていく。
 迷子になる心配など何処にもなかった。皆、同じものを目指して走っていっているのだから。
 スラッシュは太陽の光の眩しさではなく、その楽しそうな光景に目を細めた。


 洞窟の中に入るとやはり薄暗く灯りが点っているだけで、ここのウリでもある自慢の壁画もよく見えない。
 じーっと、シノンは壁を見つめるのだがやはり何が描かれているのかよく分からなかった。
 そこへスラッシュが追いついて、輝石を取り出し洞窟内を照らす。
 そこには壁一杯に絵が描かれているのが見て取れた。
 描かれているその絵全てが呪術的効果を持つものなのだろう。
 効力が洞窟を抜けると発動するような形になっているようだった。
 その壁画に軽く触れてみると、その部分が青白く光った。
 仄かに感じられる呪の力。
 子供達は下の方にある壁画に触れ、そしてその部分が青白く光るのを試してみては笑っている。
 シノンがやっていることと全く同じだ。

スラッシュ:「思考回路は同じ様だな」
シノン:「やっぱ楽しむっていったらこういうことでしょ?ほら、兄貴もやってみて!」

 シノンはスラッシュの手を取り、思い切り壁に手を押しつける。
 触れた部分が青白く光り、スラッシュの白い肌を染め上げる。

シノン:「ほらっ!楽しいでしょ。これ他の色もあったらいいのにね」

 そう言いながらシノンがつま先立ちになって上の方を触ると、ピンクの光が揺らめいた。


シノン:「あれ?上の方はピンクだよ」

 首を傾げながら呟かれたその言葉に子供達は一生懸命飛び上がって触ろうとする。
 しかしシノンよりも低い子供達がそこまで届くわけはなく。
 それでもなお飛び上がる子供をひょいとスラッシュは抱え上げ肩車をしてやる。

子供:「うわー!ピンクだ!あたしもあたしもー!」

 子供達が一斉にスラッシュの元へと群がる。
 余りの勢いに少しだけ驚いた様子のスラッシュを眺め、シノンは楽しそうに声を上げて笑った。

スラッシュ:「順番だぞ…」
子供:「はーい!ボク次ー!」
子供:「次は私だよ!」

 スラッシュの目の前にそうして一列に子供達の列が出来上がった。
 その最後にシノンもちゃっかり並んで子供と一緒に壁画を触り揺れる光を楽しんでいた。


 そんな事をしながら一行は洞窟の最後につく。

シノン:「ここを出たらミニサイズだねっ!よぉーし、まずはあたしが!」
仔猫:「にゃーん」

 シノンがその一歩を踏み出そうとした時、三匹の仔猫がとてとてと洞窟を出て行ってしまった。
 そして洞窟を出た途端、きゅっ、と縮まった身体。
 子供達から歓声が上がる。
 仔猫たちは何が起こったのか解らないらしく、にゃーんにゃーん、と皆を呼ぶ。
 残っていた二匹の仔猫も呼ばれるままに走っていく。
 その仔猫たちもミニサイズ。
 子供達は顔を見合わせると、笑顔を浮かべ一目散に洞窟の外へと飛び出した。

子供:「ミニサイズー!」

 洞窟から出た途端、ぽんっ、と三等身になってしまう身体。
 着ている服も全て一緒にミニサイズへと変わっている。

シノン:「湖だーっ!兄貴、泳いできていい?」
スラッシュ:「気をつけてな…」
シノン:「うんっ!」

 シノンは子供達と一緒に服の下に着てきていた水着になると、簡単な準備運動をしてから飛び込む。
 綺麗な弧を描き水の中に吸い込まれるシノンに、子供達は拍手を送る。
 スラッシュは木陰に腰掛けながらそんな様子を眺めていた。

子供:「ねぇねぇ、どうやるの?どうやったらそうできる?」
シノン:「えっとね、かたちはこうね……その場で勢いよく弾みをつけて手の先から水の中に潜る感じかな」

 そのまま落ちると痛いから気をつけてね、と教えてやると子供達は皆一斉に同じ事をし始める。
 中には怖いらしく湖の淵に腰掛けてからゆっくりと入る子供もいた。
 そこへ駆けていきシノンは一緒に湖に潜り手を引いてやる。
 子供達は自由に湖の中で泳ぎ回り、泳げない子もシノンと一緒に水遊びを楽しんでいた。
 暫く遊んでいたシノンだったが、スラッシュの元へと戻りニッコリと笑う。

シノン:「兄貴っ!一緒にスイカ割りしようよ」
スラッシュ:「それじゃ用意するか?」
シノン:「するっ。えーと、棒きれとスイカと…目隠しする布でいいかな?」
スラッシュ:「あぁ…その袋の中に入ってる」

 スラッシュに指示された袋の中から一式を取りだしたシノンは、鼻歌を歌いながら用意をする。

シノン:「スイカ割りするよーっ!皆でじゃんけんだからね!」

 もちろん兄貴も、とシノンはスラッシュに告げる。
 苦笑しながらスラッシュは頷いて、子供達と一緒にじゃんけんをする。

シノン:「あたし一番〜!お手本をみせてあげるからっ」

 割れるかな〜、とシノンはウキウキと目隠しをする。
 そして棒を構えて回りの声を待つ。
 その間にスラッシュは子供達に簡単に説明する。右だ左だ真っ直ぐだ、と本当の中に時々嘘を交えて相手を翻弄するのだと。

スラッシュ:「右だな……」
子供:「違うよー、真っ直ぐだよ」
子供:「シノンおねーちゃん、もうちょっと後ろだよ」
子供:「駄目駄目、もうちょっと左だってば」
シノン:「どれが本当なんだろう……えぇい、それじゃこの言葉を信じるからっ!」

 シノンは、えいっ、と真っ直ぐ前に進み棒を振り下ろした。
 ざくっ、と棒は地面に突き刺さる。

シノン:「うわっ!やられた」
子供:「えへへへー。次はボクだもん」

 まんまと引っかかったシノンに満足げな子供。シノンは本当に悔しそうだ。
 子供に目隠しをしてやり、棒を持たせてやる。

シノン:「思いきり叩かないと割れないからね」
子供:「うんっ!」

 そしてまた左右から声がかかり、スイカ割り第二弾が開始される。
 しかしまたしてもスイカは割れない。
 がっくりと肩を落とし、子供は次の番の子供と交代する。

シノン:「どんどん行くよー」
子供:「はーい」

 こうしてぐるぐると子供達に順番が回り、最後の最後にスラッシュの番が来た。

シノン:「これで割れなかったらあたしの番だねっ」
スラッシュ:「そうだな……」

 意気込んでいるシノンを前にスラッシュは目隠しをする。
 そして棒を持って立ち上がった。

シノン:「兄貴、もっと前だよー」
子供:「もっと前で右なの」
子供:「もう少し左かも」
子供:「違うってばもっともっと後ろ」

 たくさんの声に導かれながらスラッシュは棒を振り下ろす。
 ぱかり、とスイカは綺麗に二つに割れた。

シノン:「わわっ!割れちゃった」
子供:「すごーい!おにーちゃんすごーい!」

 スイカを割ったスラッシュは一躍ヒーローの座を手にした。
 やはり最後に決めるのはスラッシュだったようだ。
 そのスイカを全員に分けて食べ終えると、一行は楽しかった湖を後にした。


■□■

 孤児院に戻ってきたシノンは始終笑顔だった。
 孤児院に戻ってきてからはシノンはお姉さん役に戻り、子供達をお風呂に入れたり、寝かしつけたりと忙しく動き回っている。
 スラッシュもある程度手伝っているものの、シノンの働きぶりには目を見張るものがあった。
 自分もあれだけ昼間はしゃいでいたのだから疲れているはずなのに、そんなそぶりは見せずに動き回る。

シノン:「ほらほら、皆ベッドに入った?今日はきっとぐっすり眠れるよ」
子供:「今日はとっても楽しかった!あのね、あのね、すっごい楽しい夢見れると思うんだ」
子供:「きっとね、昼間の夢を見るんだっ」
子供:「洞窟の絵もね、すっごい綺麗だったの」
シノン:「そうだねっ。あたしもすっごい楽しかった。また皆で行けると良いね」
子供:「うんっ!おねーちゃんありがとう」
シノン:「こっちこそ」

 にっこりと微笑みながらシノンは子供達の寝室の扉を閉じた。
 その時にはシノンの顔に本当に幸せそうな笑みが浮かんでいた。

 戻ってきたシノンにスラッシュが尋ねる。

スラッシュ:「何か飲むか…?」
シノン:「うん。暖かいのがいいな」
スラッシュ:「分かった……」

 シノンはテーブルについて、スラッシュが飲み物を持ってきてくれるのを待つ。
 しかし、瞼はゆっくりと降りてきてそのままシノンはテーブルに突っ伏して寝てしまった。
 すーっ、と小さな寝息を立てながらシノンは夢の中だ。
 スラッシュは湯気が立つカップを持ってそのシノンの様子を見て静かに微笑む。
 シノンの顔には笑みが浮かんでいた。
 夢の中でも子供達と一緒に楽しんでいるのかもしれない。
 ことん、とシノンの目の前にカップを置いたスラッシュは、さらり、とシノンの頭を撫でる。

スラッシュ:「お疲れ様……」

 そう言いながらスラッシュは隣に腰掛け、自分の為に入れてきた温かな液体をそっと口に運んだ。
 窓から見える星空には柔らかな色を投げかけている月があった。
 明日も孤児院には元気な声が響くに違いない。
 こうして皆の胸に温かな気持ちを残して夏の小さな旅行は終わりを迎えたのだった。