<PCクエストノベル(2人)>


新しい朝を迎える為に 〜強王の迷宮〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

 ■2152/オルト・ジャスティン/宿屋の亭主
 ■1112/フィーリ・メンフィス/魔導剣士

【助力探求者】
 なし

【その他登場人物】
 フレイ(火蜥蜴)
 ジーク(風龍)
 不死王レイド

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■□■ 

 晴れわたった空。
 そこに夏の照りつけるような日差しはなく、何処か秋の気配を映したような穏やかな空が広がっていた。
 オルト・ジャスティンは最後の客を見送ると店の入り口に『本日休業』の看板をぶら下げた。

オルト:「これで良し」

 そう呟いてオルトは店の中へと入りいそいそと支度を始める。
 今日は以前から計画していた事を実行する予定なのだ。

オルト:「久々の冒険になるな」
フレイ:「ジー」

 オルトの言葉に足下から嬉しそうな声を上げたのは火蜥蜴のフレイだった。
 以前からの相棒であるフレイは久々の冒険が楽しみのようだった。
 もちろん、楽しみにしているのはフレイだけではなく計画を立てたオルト自身もだったが。
 冒険を引退し暫く経ったが、『冒険王』の異名を取ったこともあるほど、冒険に精通しているオルト。
 現役の頃に比べ多少勘は鈍っているかもしれないが、それでも長年積み重ねた経験がオルトにはある。
 きっと今回の冒険も楽に何事もなく終わるに違いない、とオルトは思っていた。

 今日オルトが向かおうとしているのは、同じドワーフである強王が造ったという『強王の迷宮』と呼ばれるものだった。
 迷宮の建築形式にオルトは興味があった。
 その建築形式についてたくさんの書物が出ていたが、できれば自分の目で見てきたい、と今日の冒険を考えたのだ。
 ただその迷宮は地下3階までは強王が造ったものだったが、それより下は元からあった迷宮だという。
 そこには不死の王であるヴァンパイアが封印されていたらしいが、強王が無理矢理作り上げた迷宮のせいで復活してしまったというのだ。しかしその復活したと言われるヴァンパイアは行方知れずとなっている。

オルト:「ヴァンパイアなど出てこなければいいがな」
フレイ:「ジー」

 頷きながらフレイが同意の声を上げる。
 こうしてオルトはフレイと共に、強王の迷宮へと足を向けたのだった。


■□■

ジーク:「ねぇねぇ、フィーリ。ほんっとーにまた行くの?」
フィーリ:「暇つぶし」

 そうフィーリ・メンフィスは肩口で騒ぎ立てる風龍のジークに返す。

ジーク:「えぇっ。でもこの間は皆が居たからなんとかあの変な球を倒せたけど、今度は一人なんだよ」
フィーリ:「ジークもいるよ」

 はい、とフィーリはまだ何か話そうとするジークの口に肉を放り込んだ。
 口を開けた瞬間に肉を放り込まれジークはもぐもぐと大人しく肉を咀嚼する。食いしん坊のジークは肉の誘惑には勝てなかった。
 そして口を開こうとする度に、フィーリに食べ物を突っ込まれ言葉を発する暇がない。

フィーリ:「それじゃ、お腹も一杯になったことだし。行こうか」
ジーク:「うんっ!……はっ!えっとフィーリ考え直そうよぅ」

 勢いで頷いてしまってからジークは再びフィーリに考え直すよう告げる。
 しかしフィーリは聞く耳を持たず、さっさと荷物を持って強王の迷宮へと向かったのだった。
 フィーリは二度ほど強王の迷宮へと足を運んでいる。
 しかし二回とも不死の王レイドには出会えなかったのだ。
 最近特に暇をもてあましていたフィーリは、不死の王レイドの存在を思い出し再び強王の迷宮へと向かおうと思いついた。
 会えたらラッキー。それで更に戦うことが出来れば大満足。それ位のノリである。
 危険だとかそういう感覚はフィーリの中に存在していなかった。
 ただ、戦えれば良い。その思いだけが強くある。
 フィーリは強王の迷宮に足を踏み入れるのになんの躊躇いもなかった。
 そしてわざわざ不死の王レイドに出会いやすいように夜に迷宮に着く時間を選んでいる辺り確信犯だった。

ジーク:「フィーリ、止めようよぅ……ねぇってばぁ」

 悲痛なジークの声が迷宮への入口へと立ったフィーリの頭に降ってくる。
 それを敢えて無視しフィーリは中へと足を踏み入れたのだった。


■□■

 オルトが強王の迷宮に着いた時、空には既に夕闇が迫っていた。
 ヴァンパイアやモンスターに会いたくないというのであれば昼間来た方が良いのだが、前日の客を見送ってからとなるとやはり昼過ぎに出ることになり着く頃には夕方になってしまう。
 オルトとフレイは強王の迷宮へと足を踏み入れる。夜目の利くオルトに灯りは不要だった。
 今のところは何も出てくる様子はなく、ただ静かな空間が広がっているだけだ。
 ドワーフというのは手先が器用なことでも有名で、オルトの歩いていく通路の壁には見事な装飾が施されている。

オルト:「なかなかのもんだな」
フレイ:「ジー」

 トラップというトラップもなく、少々拍子抜けしたオルトだったが迷宮の建築の探索にはもってこいだった。
 じっくりと心ゆくまで見ることが出来、何より邪魔をされることがない。
 オルトは見事なまでの装飾と建築技術に感心しながら歩を進める。
 地下に行くに連れて、その装飾は複雑さを極めた。
 本でみるのとはやはり違う。
 何事も自分の目で確かめ、そしてそれを堪能する。
 それが冒険の醍醐味であり、自らの探究心を満足させる為の唯一の方法だとオルトは思う。

 通路の隅の方に小悪魔達が身を潜めていたが、オルトとフレイに攻撃を仕掛けてくることはなかった。
 攻撃を仕掛けてこないのであれば、戦う必要もない。
 オルトはそれらを無視し、誰にも邪魔されることなくそれを堪能出来るのは本当に嬉しいことだと、どんどん奥へと向かっていった。

 そしてオルトがやってきたのは地下三階。
 ここで強王の造った迷宮は終わりを告げる。
 あとは初めからあったと言われるヴァンパイアの迷宮。
 そちらにオルトは用はなかった。
 オルトは帰りも細工を堪能しながらいこう、と思いくるりときびすを返したが更なる地下への階段の方から悲鳴のような声が聞こえてくるのに気がづいた。

オルト:「先客でもいたか…」
フレイ:「ジー?」

 しかしそれがどことなく聞いたことのある声にも思え、オルトは首を傾げた。
 最近来た客の声だろうか。
 そうも思ったが、懐かしい、という気持ちがピッタリの思いが溢れてきて首を振った。

オルト:「いや、これは……でもまさか此処にいるわけが……」

 そこまで考えオルトは戻ろうとする足をぴたりと止めた。
 オルトが思い浮かべたのは一人と一匹。
 ずっとこの世界に来てから探していた自分の息子とその相棒である仔ドラゴンのことだった。
 こんなところに居るわけがない、と思いたかったが好戦的で暇なことが大嫌いな息子の事だ。暇つぶしにこんなところに来ていても可笑しくはない。

オルト:「行ってみるか」

 そう呟いてオルトは再び下層へと続く階段を降り始める。
 やっと探していた息子に会えるかもしれないという期待が胸に満ちる。
 怪我をしていなければ良いが、とオルトは心配そうに眉を顰めた。
 息子のこととなるとついオルトは熱くなってしまうのだった。
 流石にこちらはヴァンパイアが封印されていたということだけあり、闇が深い。
 あちこちから様子を窺うような視線を痛いほどに感じる。
 しかしそれらが襲ってくる気配はなかった。

オルト:「なんだか気分が悪ぃな」

 ただ見られているという感覚がどうにも落ち着かない。
 しかし先に進むオルトの耳に届く聞き覚えのある声。それはだんだんと近くなってきているようだった。
 そしてその声の中に探し求めていた人物の名前を聞き取り、オルトは安心したような笑みを浮かべる。

ジーク:「ねぇねぇ、フィーリってばぁー。もう帰ろうよぅ。たくさん襲ってくるしねぇってばー!」
フィーリ:「それじゃ、ジークだけ帰っていいよ。俺はまだ進むから」
ジーク:「やだー!だってフィーリ居ない方が怖いもん」

 相変わらずの二人がそこにいた。
 オルトは思わず目を細めてその光景を見つめる。
 やっと見つけた、とオルトは元気そうな息子の姿を見て喜んだ。
 何処も怪我をしていなかった。元気そうで、以前と変わらない息子の姿にオルトはほっと溜息を吐く。
 その溜息が聞こえたのか、フィーリとジークは振り向いた。

フィーリ:「…………」
ジーク:「あーっ!!!」

 オルトとフレイを見て無言のままのフィーリと、大声を上げて飛んでくるジーク。
 ものすごい勢いで飛びついてきたジークをオルトはしっかりと受け止めながら言う。

オルト:「フィーリもジークも元気そうだな。…何よりだ」
フレイ:「ジーv」

 オルトは喜びを隠し、冷静に声をかける。
 本当ならば大騒ぎしたいところなのだが、オルトの性格上それは無理だった。照れ屋で感情を表に表すのが苦手なのだ。
 それでも再会を嬉しいと思う気持ちに嘘はない。
 ずっとこうして出会えることを心待ちにしていたのだから。
 以前と同じように一緒に暮らすこと。
 それがオルトが望んでいたことだった。
 オルトのぽっかりと空いた心の空白部分が埋まっていくような気がする。
 元あるべき所にものがしっくりと収まった感覚。
 そしてようやくフィーリが口を開く。
 フィーリはフィーリで自分の中に生まれた思いがどういったものなのか理解出来ていないため、微妙な表情でオルトと向かい合う。しかし何処か胸が温かくなるような感覚を感じていて悪い気はしない。

フィーリ:「……父さん、久しぶり」
オルト:「あぁ…久しぶりだな。…ところでフィーリ、今日は一体どうしてこんなところに来てるんだ?」
フィーリ:「暇つぶしに不死王レイドと戦おうと思って」

 オルトは頭を抱えたくなる。
 ただの暇つぶしに不死王レイドと戦おうと思って単身此処にやってくる人物などソーン広しといえども、自分の息子以外に居ないのではないかと。
 相変わらずの無鉄砲ぶりだった。

ジーク:「一生懸命引き留めてるのにフィーリ全然聞いてくれないんだよ」
フレイ:「ジー」

 項垂れるジークの事を慰めるつもりなのか、フレイがピシピシと尻尾でジークの背を叩く。
 ありがと、とジークはフレイに告げていたから慰めにはなっているのだろう。
 オルトは息子を置いてまさか帰るわけにはいかなかった。
 これも運命、そして導きか、とオルトは息子についていくことを決める。
 オルトが、帰るぞ、と一言言えばフィ−リも諦めて一緒に帰ってくるだろうことは分かっていた。
 しかし息子との再会をこうして冒険という形で心に刻んでおくことも悪くないことに思えたのだ。

オルト:「……行くんじゃねぇのか?」

 その言葉にジークは、びくり、と身体を震わせてオルトを見上げた。
 オルトなら止めて帰ると言うと思ったのだ。それなのに正反対の言葉がオルトの口から出てくるとは。
 半泣き状態でジークはオルトの服を引っ張る。

ジーク:「帰ろうよぅ…二人でも危険だってばぁー」
オルト:「行くのか行かねぇのか…どっちだ?」
フィーリ:「行きます」
フレイ:「ジー」

 フィーリを先頭にオルトとフレイは歩き出す。その後をジークも渋々とついていったのだった。


■□■

 どこからともなくゴロンゴロンという音が聞こえてきたかと思うと黒い大きな球体が前方に現れた。

ジーク:「来ちゃったよ!わわわわっ」
オルト:「これは…黒い恐怖だったな」
フィーリ:「父さん、俺が……」

 フィーリが鋭い突きを黒い恐怖へと与える。
 物理攻撃を与えれば砕ける脆い球体。
 タイミング良く間合いに入ってしまえばなんということはなかった。
 フィーリの剣が突き刺さるとあっという間に球体は砕け散り、その場に光る屑となり散らばった。

オルト:「あと二体だったか…」

 残るは白い恐怖と灰色の恐怖が残っていた。
 しかしフィーリは魔法を叩き付けあっという間に白い恐怖も倒してしまう。
 トラップというトラップはオルトが先に気づき指示を出すため、それに一行は引っかかることもない。
 冒険王の異名は嘘ではなかった。
 オルトはこうして息子と共に冒険を堪能出来ることを嬉しく思う。
 たとえ血が繋がっていなくても、オルトにとってフィーリはかけがえのない家族であり、息子なのだから。

 そんな事を思っていると、曲がり角の先から変な音が響いてくる。
 白い恐怖が発していた音にも似ている。
 ぶよぶよとしたものが弾むような音。

オルト:「灰色の恐怖だな」
フィーリ:「物理攻撃と魔法攻撃を一緒に叩き付けないといけません」

 フィーリが単身突っ込もうとするのをオルトが止めた。

オルト:「一緒に戦った方が有利だ」

 オルトは久々に武器を手にし灰色の恐怖と向かい合う。
 フィーリは自分一人で灰色の恐怖に魔法と物理攻撃を叩き付けるつもりでいた。
 自分が先に描いた魔法陣から飛ばした攻撃に合わせて斬りつける予定だったのだ。
 しかしオルトが一緒に戦うという。
 それならば、とフィーリは空中に魔法陣を描く。
 それは光を放ちフィーリから注がれる魔力を溜め込んでいく。
 その時、曲がり角から灰色の恐怖が飛び出してきた。
 オルトは灰色の恐怖へと駆ける。

オルト:「今だ」

 その声を聞いてフィーリは魔法を発動する。
 溜め込んだ魔力が一気に解放され灰色の恐怖へと何本もの光の筋となり真っ直ぐに飛んで行く。
 そしてオルトの攻撃とフィーリの魔法攻撃が同時に灰色の恐怖へと叩き付けられた。
 ドンっ、という鈍い音と共にその身体の中に全ての魔法が突き刺さる。
 オルトが引き抜いたと同時に灰色の恐怖の形は跡形もなく消え去った。


 その時、身を凍らせるような気配がその空間に満ちた。

ジーク:「あれ!あれっ!」
フィーリ:「不死の王レイド……やっと見つけた」

 フィーリは宙に浮かぶその人物を見てにたりと笑う。
 三度目の正直で出会うことが出来たのだ。

レイド:「力が欲しくなったか……」
フィーリ:「力?そんなものは要らない。ただ戦いたかっただけだから」

 そう告げ、フィーリは間合いを詰め攻撃を放った。
 しかしレイドは、すっ、と一瞬にして別の場所へと移動してしまう。
 何もない空間にフィーリの放った攻撃が当たり音を立てて壁が崩れ落ちた。

レイド:「戦うために来たか……それも良かろう……だが、我はもう行かねば」
オルト:「夜が明けるんだな」
フィーリ:「……っ!」

 タイムリミットだった。
 レイドはヴァンパイア。夜の間しか動けない。地下である此処まで陽の光が届くことは少ないが、身を危険に晒すことを良しとはしなかった。

レイド:「灰色の恐怖を倒し、此処まで来る其方等は見込みがある。また闇の濃い時に来るがよい……歓迎しよう。我が僕達にもよく伝えておく」

 レイドの姿が濃い霧となり霧散する。
 追いかけようとしたフィ−リをオルトが止めた。

オルト:「今日の所は引き上げるぞ。また……一緒に来ればいい」
フィーリ:「……はい」
ジーク:「怖かったねぇ…レイドってあんな奴だったんだ……」
フレイ:「ジー」

 ブルブルと身を震わせてジークはフィーリの肩に舞い降りる。

オルト:「さて、帰るとするか。俺たちの家にな」

 ソーンでまた新しい朝が生まれる。
 そして再会を果たしたこの親子達の間にも。

ジーク:「お腹空いたー!ごはんごはんっ」
フレイ:「ジー」
オルト:「あぁ、家に帰ったら急いで飯を作ってやる。俺も流石に腹が減ったしな」
フィーリ:「ジークの食いしん坊……」
ジーク:「だってー、お腹空いたんだもんっ」

 フィーリもお腹空いたでしょ、とジークが耳元で告げるとフィーリは、ぐいっ、とジークを引き離す。

フィーリ:「そうだね。疲れちゃったからジークを乗せられないな」
ジーク:「えぇっ。やだー、やだー。フィーリの意地悪ー」

 そうして賑やかな一行は光の満ちる世界へと戻っていく。
 新たな朝を迎えるために。