＜PCシチュエーションノベル（グループ３）＞
【 tricolore 】
「おいしいお茶のみながら、甘いものとか食べたいですね」
「可愛くてふかふかのぬいぐるみとか、見るのもいいと思います」
「だったら、一緒に街に行きましょう！」
唐突……ではない。話の流れがそんな感じではあった。だから、言い出すのならば彼女だったのだろう。だから、話をしていた他の二人も、不信に思うこと一つなく、二つ返事で賛同した。
「はい！」
「じゃあきまり！ 今から早速行くわよ！」
かくて。
月杜鏡稀、ティアリス・ガイラスト、琉雨の三人は、街へと飛び出したのであった。
ふとしたきっかけで出会った三人。長い付き合いがあるわけではないが、友情が深まるのに時間が要らないとは、まさに彼女たちのことを言うのだろう。どこからどう見ても、姉妹のような仲のよさ。
今日も、天気のよさに誘われて、三人仲良くショッピング。
鏡稀はまだ、この世界にきて日が浅い。彼女にこの街の案内もかねて、楽しい時間をすごそうという提案をだしたのは、ティアリスだ。
「とは言ったものの、さてさて……どこを巡る？ ねえ、けーき。何みたい？」
「やはり……お店を見てまわりたいです」
「お店と言ってもいろいろありますよね。食べものやさんとか、雑貨屋さんとか、洋服屋さんとか……」
ぱっと表情を明るくしたティアリスが、一つ手を叩いて
「いいわ！ とことん案内しましょ。そうしたら、その中に目当てのところもきっとあるでしょ」
「それはいいですね」
琉雨もまた微笑みをを見せて――ティアリスとは違い、やわらかい雰囲気をかもし出すもの――何度も首をうなずかせる。
そのたびに桜色をした髪が揺れ、まるで髪までも喜んでいるのかと錯覚する。
そんな二人に心から深い感謝を覚え、優しい気持ちになると、鏡稀も「はい」と賛成を示し、歩き出した二人についていった。
その手にしっかりと、真っ白な日傘を握って。
◇ ◇ ◇
大通りにある、威勢のいい親父が看板の八百屋。
「そこのお嬢ちゃんたち！ ちょっとくだものなんか見ていかないかい？」
かけられた声に反応し、店に歩み寄ったのは鏡稀。「ちょっと待って！」と止めようと思ったが、一足遅かった。
ここの八百屋の親父は、一度捕まると長い。だから、無視して通ろうと思っていたのだが、鏡稀がまんまと誘われてしまった。
でも、店に並ぶ野菜たちを見るのも悪くはない。
新鮮で、色や形が一つとして同じもののない野菜やくだものたちが、自分を買ってと主張するように輝かさせている。
「まぁ……これは……？」
「お！ 嬢ちゃん目が高いね。それは今日取れたての、ここらへんの名物さ」
「とてもおいしそうですわ。それに、かわいらしい形」
ほんのりと微笑む鏡稀の笑顔に、思わず見とれる看板親父。
その、どこか神秘的とさえいえる彼女の微笑みが、商売魂を心に宿した親父に、こんな台詞を言わせるのだった。
「……よ、よかったら、持って行ってくれ！ きっとそいつも、嬢ちゃんに食べられたいって思ってる！」
少々離れたところで見ていたティアリスと琉雨は、目を点にして、聞こえた台詞を疑ったが。
「あら、いいのですか？」
「いいって、いいって！ ぜひ食ってくれよ！」
ちゃっかり袋に入れてもらっている鏡稀の様子から、現実なのだと思い知らされる。
「ティア、琉雨さん、いただいてしまいました」
「よ、よかったじゃない」
「ええ。すごいです！ 鏡稀姉さま。素敵な微笑みでした」
それは悪用すると、悪魔の微笑みと言うんだよ。
喉元まででかかった言葉は、さすがに飲み込んだティアリスだった。
◇ ◇ ◇
ファッション店が立ち並ぶ通り。
「きゃぁ。鏡稀姉さま、お似合いです！」
「そうかしら……？」
「はい！ 大変かわいらしい。ですよね、ティアさん」
「……そうね。たしかに、似合ってるわ」
店のディスプレイに飾ってあった、黒と白のコントラストを基調にし、レースがふんだんに使用されているドレスは、鏡稀に本当に良く似合っていた。それはもう、お店の人がびっくりするぐらいに。
どうも、デザインをした本人がその場にいたらしく、感動して、あれこれ小物まで着飾ってくれたのだ。鏡稀は今、完全に着せ替え人形になっていた。
「ここまで、ゴスロリファッションが不自然に見えない人、始めてみたわよ」
ポツリとつぶやくティアリス。しかし、そんなつぶやきを吹き飛ばす琉雨の楽しそうな声。
ティアリスはふと、左手に見えた白いレースの何かを手に取り広げてみると、それはかわいらしいエプロンだった。
あら、これも似合いそうじゃない。
今まで遠目から着せ替えを見ていたティアリスだったが、そのエプロンを手に更衣室に近づいた。
「ねえねえ、けーき。これなんかどう？」
「エプロン……ですか？」
「それもかわいいですね」
終始微笑みを浮かべている琉雨の、かわいい、という言葉にぴくっと反応を見せ、「それじゃ、着てみますね」とティアリスからエプロンを受け取ると、ドアを閉めて着替えを始めた。
「それにしても、本当に鏡稀姉さまはかわいらしい服がお似合いですね」
「そうね。さっぱりした服装よりも、ああやってレースとかついていたほうがイメージにあってるわね」
「ティアさんもどうですか？ 着てみると、お似合いになるかもしれませんよ」
「いい。わたしはいいよ」
琉雨のとんでもない発言に、慌ててかぶりを振る。その間に着替えが終わったらしく、更衣室のドアが静かに開かれた。
「どう……ですか？」
思わず息をのむ二人。そして、店員。
果たして――その姿は……
「……ご、ごめん、けーき。はっきり言ってもいい？」
「え？ 何をですか？」
「それじゃ……メイド……」
確かに似合っているのだが、あまりに、ある種の男性陣が喜びそうな格好だったため、すぐに脱ぐことを薦めたティアリスだった。
本人は気に入っていたようだが、とりあえず、その格好で街は歩かないほうがいい。変な勧誘に引っかかりそうだ。
◇ ◇ ◇
雑貨屋やおもちゃ屋などが多く立ち並び、子どもが多い通り。
そのうちの一つの店を周り、外に出たとき。
「ティアさん、次はどこに行きましょうか？」
「そうね…あそこのお店はどうかしら？」
多分この通りが、鏡稀の一番好きな場所だろう。かわいいものや綺麗なものに目がない鏡稀は、ディスプレイに飾られているぬいぐるみや小物をみただけで、目を輝かせている。
だから
「きっと触ったらふかふかだと思います……あれは……」
彼女は二人がどの店に入ろうか話している間に、ふらふらと自分だけで行動してしまっていた。
「鏡稀姉さまは何処に……」
琉雨がついさっきまで右に居たはずの鏡稀に行きたいところを聞こうと、視線を向けるが、すでにそこに姿はない。
「ティ……ティアさんっ、いませんっ！」
「えっ！」
「鏡稀姉さま、どこかへ行ってしまいました！」
「な、何に誘われたのかしら？ それっぽいのあった？」
もちろん、それっぽいというのは、彼女が好きそうなものという意味だ。
「いえ、それっぽいのがありすぎて、検討がつきません」
「こ、困ったなぁ……」
大通りの左右に立ち並ぶ店の一軒いっけんを訪ねていたら、多分日が暮れてしまうし、訪ねている間に次の店に移動されてしまう可能性も高い。
だったら、真ん中辺りに立って、店から出てくる彼女を捕まえるしかない。
「あ！ ティアさん、いました！ 日傘があそこに見えます！」
「あれは間違いない！ すぐに行きましょ」
「はい！」
二人が見えた白い日傘を目指して駆け寄ると、日傘の中にいるはずの鏡稀の姿が――
「く、くま……？」
に変わっていた。
「けーき？ そ、その巨大なクマ、どうしたの？」
恐るおそる、ティアリスが声をかけると、クマが――いや、クマの後ろに完全に隠れてしまっている鏡稀が言った。
「可愛かったので……つれて帰ろうと思いまして」
「……もうちょっと、小さいの、なかったの？」
「この大きさが、一番可愛かったんです」
「……そう」
人の買い物だ。とやかく言う資格はないが、あまりにでかい。
だって、鏡稀がすっぽり隠れてしまっているのだ。日傘の中に入っているのはクマじゃないかと思ってしまうほどに。
「でも、かわいらしいですよ。このクマさん。このつぶらな瞳の感じがとっても」
「そうですよね。この目が本当に可愛いんですよ。じっと見つめると、きらきら輝いて、私に買ってほしいって言ってたんです」
「……呼ばれちゃった、のね」
琉雨と鏡稀の「クマ可愛い談義」が続く中、合流した三人と一クマは、大通りを歩き始めたのだった。
◇ ◇ ◇
スイーツがおいしいと評判のカフェテラス。
「ふぅ。ずいぶん見て回ったわね」
「そうですね」
「大収穫でした」
四人がけの席に三人で腰をおろし、一つ空いている席にクマを座らせる。注文をとりにきたウエイトレスが、クマを見て少々驚いているように見えたのは、気のせいではないだろう。
「さ、注文どうする？」
「それじゃあ、私はグランベリーのミルクレープで」
甘酸っぱく仕上げてあるミルクレープは、甘すぎるものが苦手な琉雨にぴったりのスイーツ。
「飲みものは、アイスティーのストレートでお願いします」
「はい。かしこまりました」
「私は、白桃のレアチーズケーキと、アイスのキャラメルマキアート」
ここのお勧めケーキの一つが、この白桃のレアチーズケーキだ。ふんだんに使われた白桃と、臭みのないレアチーズケーキがうまいぐらいにマッチしている。
「けーきはどうする？」
「たくさんあって迷ってしまいますね……では、スペシャルシューケーキと、アイスカフェモカにシナモンパウダーを追加してください」
シュークリームのシューを少々クッキー状に焼いたものに、様々な果物やクリームで飾り付けをした大変女性に人気のケーキである。パフェのような感覚で、目も楽しませてくれる。
「あ、それおいしいんだよ」
「そうなのですか？」
「最近雑誌で紹介されてさ、すごい人気なんだって。私も食べたんだけど、おいしかった」
「その雑誌、私もみました」
「お二人が注文したケーキも、おいしそうですね。ここには、よくいらっしゃるんですか？」
この店は店内と外に席がわかれていて、外の席はちょうど大きな木の木陰になるように設置されている。今日のような強い日差しの下ではものを食べようという気持ちにならないが、このような木陰でなら、木漏れ日も気持ちよく、ちょうど風の通り道にも鳴っているようで心地よい。
三人が座ったのは、もちろん、人気がある木陰の席だ。
「買い物ついでにお茶ってのは、パターンね。琉雨は？」
「私も、回数としては多くないですが、近くに来たときはよったりします」
「そうなのですか」
そんな会話をしている間に、注文した飲みものが運ばれてきて、続いてケーキもテーブルに並べられた。
三つのケーキと飲みものが並ぶと、一気にテーブルの上が華やぐ。
「それじゃ、いただきまーす！」
「いただきます」
「いただきます」
三人がケーキを一口ずつ口に運ぶと、一気に幸せそうな笑顔が浮かぶ。
「おいしい！」
「はい。おいしいです」
「……とっても」
お互いのケーキを味見したり、他愛もない話をしたり。
やわらかな午後の日差しを受けた店内で、三人の幸せな時間が流れていく。
「また、三人で出かけようか」
「はい！ ぜひ誘ってください」
「まだまだ……見て回っていないお店もありますしね」
「よし、決まり。また、一緒に出かけよう！」
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ライターより。
はじめまして。この度は発注ありがとうございました！
ライターの山崎あすなと申します。遅くなってしまって、大変申し訳ありません。
女性三人の買い物風景ということで、かわいらしさやほのぼの感を追求して見ました。
仲良しな三人の、楽しそうな雰囲気が出ていればいいなと、思います。
それでは失礼します。
また、お会いできることを、心より願っております。
山崎あすな 拝
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