<PCクエストノベル(5人)>


眠る空島

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1649/アイラス・サーリアス(あいらす・さーりあす) /フィズィクル・アディプト】
【 0812/シグルマ (しぐるま) /戦士】
【 1953/オーマ・シュヴァルツ (おーま・しゅう゛ぁるつ) /医者兼ガンナー(ヴァンサー)】
【 1378/フィセル・クゥ・レイシズ (ふぃせる・くぅ・れいしず) /魔法剣士】
【 1728/不安田 (ふあんだ) /暗殺拳士】


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前回の探索から数ヶ月が過ぎたある日。
ようやくアイラスは、もらった羊皮紙の解読を終えた。
小さく息を吐いて、羽ペンを机に置く。
この羊皮紙の解読が終わったら、落ちた空中都市ゼリンデアースの民が移り住んだと言われるダランディールへの道が開けるのではないか、そう思っていたのである。
果たして、その道は彼の前に開かれた。
ただし、困難を伴うものではあったのだが。
彼は羊皮紙を巻き取り、棚に収めると、解読した文書を記した数枚の紙だけを手に、自分の家を後にした。
この結果を待っている者たちが、これから向かう先にいるのである。


それから数日後、彼ら一行は大型の馬車に乗り、目的地と思しき場所に向かっていた。
馬車の中には、文書を目の前に、これからの冒険に思いを馳せる者たちがいた。


シグルマ:「古代語を訳すのは、大変だったんじゃねえか?」
アイラス:「そうですね・・・まあ、真実を闇の中に沈めるのも忍びないですから・・・」
オーマ:「空中都市か・・・俺は人工浮遊大陸にならお目にかかったことがあるんだがな・・・ま、この世界では、どういう原理で浮いてるのかには興味があるってもんよ」
フィセル:「・・・」
アイラス:「どうかしましたか、フィセルさん」
フィセル:「いや・・・その国の過去を思う時、とても他人事とは思えん」
オーマ:「もしかしたら、今回の旅で見つかるかも知れねえぜ?」
フィセル:「何が?」
オーマ:「お前さんの探している何かが、よ」
フィセル:「そうだといいのだが・・・」
不安田:「まだ何にも見えないなあ・・・」
シグルマ:「そうだな・・・」


一向はそれぞれいろんな思いを胸に秘め、馬車の行くに任せている。
やがて、白い一面の砂に覆われた、殺風景な荒地に出た。
地平線しかないその場所で、アイラスは馬車を止めた。
5人は馬車を降り、アイラスの後に続いて少し歩を進める。


アイラス:「この辺でいいでしょう」
オーマ:「この辺って・・・どこもいっしょじゃねえか?」
アイラス:「ええ、実はこの砂のあるところなら、どこでもいいらしいんですよ」
不安田:「へえ〜、そうなんだ?」
アイラス:「『印を刻みし白い砂に手をかざせ 招かれたる者 光より速く彼の地へたどり着きたり』――――羊皮紙にはこう書かれていましたから」
シグルマ:「だが、今、『招かれたる者』って言ったな?俺たちは招かれてるのか?」
アイラス:「ええ、たぶん。そうでなければ、この羊皮紙を授けて下さったりしないでしょう」


アイラスは右手を地面にかざした。
すると、その手からゆっくりと青い光が、何かの像を刻みながら地面に降りて行き、真っ白な大地に奇妙な印を結んだ。
その瞬間。
5人は自分たちが何かの影に入ったのを悟った。
全員同時に空を仰ぐと、そこは巨大な大陸が支配していた。


フィセル:「あれか?」
アイラス:「その、ようですね・・・」
オーマ:「大きさは俺のよく知ってる大陸と変わらねえな」
不安田:「うわぁ〜おっきいなあ・・・!!」
シグルマ:「・・・問題は、あそこまでどう行くか、だな」
アイラス:「ああ、それなら問題ありませんよ。オーマさんがライオンになってくれるそうですから」
シグルマ:「ライオン?」
フィセル:「なるほどな・・・」
オーマ:「そんじゃ、ま、ご期待に応えるとするか!」


オーマの身体から光が生まれ、一瞬その姿が揺らいで銀髪赤目の青年の姿が見えたかと思うと、あっという間にその場には、翼のある銀色の獅子が現れた。
その巨躯に4人は飛び乗り、獅子と化したオーマは、勢いよく地面を蹴った。
数歩空を蹴り、息もつかぬ間に、オーマはその空中都市に降り立った。


不安田:「うわあ!!すごい!!!」
オーマ:「これはすげえなあ・・・!」
アイラス:「本当ですね・・・」
フィセル:「ああ、素晴らしい光景だ」
シグルマ:「これが、ダランディールか・・・」


一様に感心する彼らの目の前には、豊かな水とあふれかえるほどの新緑で覆われた、美しい都があった。
建物はすべて、虹色に輝く石で作られている。
鳥のささやきが聞こえ、せせらぎには魚の泳ぐ姿もあった。
それを目にし、アイラスは他の4人を振り返った。


アイラス:「実は、タイムリミットがあるんです」
フィセル:「タイムリミット?」
アイラス:「はい。この場所がこの世界に留まれるのは、たったの2刻。その間に、この都市に問いかけたいことがあれば、ご自由にどうぞ。ただし、今から2刻の後に、必ずこの場所へ戻って来て下さい。そうしないと、戻ることはおろか、生きることすら出来なくなりますよ」


アイラスの言葉に全員がうなずいた。
そして、各々、ダランディールに対して持っていた想いを、解放するためにその場を歩み去った。




アイラスは、ゼリンデアースの朽ち果てた姿とは対照的なこの都市を、のんびりと散歩することに決めていた。
先ほどから気付いてはいたのだが、この都市には、人の気配が全くない。
鳥や魚や、小動物は見て取れるのだが。
おそらく、と彼は思った。
おそらく、この都市ははるか昔に、人の住む場所ではなくなってしまっているのだろう。
これだけ豊富な自然に囲まれながら、それでも生きることを許されなくなった原因があるはずだった。
だが今回は、それを探るために来た訳ではない。
あくまでのんびり、それが目的だ。
アイラスは穏やかな日差しの下を、ゆったりと歩き始めた。
珍しい花、珍しい蝶、そして、かすかに日の光を染め上げる、虹色の壁。
それらを瞳の奥に焼き付けながら、この都市があるべき姿だった頃の栄光に、そっとそっと想いを馳せていた。





都市の中心部にある質素だが堅牢な城を目指したのは、フィセルだった。
滅びゆく種族である我が身に、少しでも未来を輝かせる文献があれば――――そう思い、真摯な面持ちで城へと向かう。
城の門は自然に開かれ、彼は高い塔を見上げた。
感嘆のため息が、知らずに漏れる。
そこには精巧な彫り物が一面に施されていた。
たぶん、この街を王都に選んだ時、自分たちの歩んできた道を忘れないよう、王がこの場所に歴史を刻み込んだにちがいない。
そして。
それと同時にわかったことがあった。
彫り物の中に現れる人々の背には大きな4枚の翼があったのだ。
有翼人――――道理で先ほどから、人間の住居としてはあり得ない高さに、入り口が多数見受けられた訳だ。
だが、この城の入り口は、地上にあった。
客人が有翼ではない場合を想定したのだろう。
フィセルがその前に立つと、音を立ててゆっくりと、その大きな木の扉が左右に開かれた。
中には無論、届かない高さに多数の扉が存在したが、何かが導いてくれたかのように、フィセルはひとつの道を進んでいた。
不思議と迷わなかった。
やがて、堅牢な樫の木で出来た扉にたどり着き、彼はそこを開けた。
中はやはり、図書館であった。
天まで届くような高さにまで、本が棚に積まれている。
崩れそうになっている羊皮紙もあったが、大多数の本は紐で綴じられていた。
かび臭い空気の中、フィセルは棚の間を歩き始める。
今日のこの一日を、自分たちの未来の活路のために使おうと、心に決めて。




オーマは、他の4人と別れた後、都市の中心部を外れて、別の道を歩き始めていた。
彼の目的は、今は亡き王との対面にある。
何らかの形で、出会うことが出来れば、そう思っていた。
先ほど、この都市に入る前に、上空から全貌を垣間見て、その場所はわかっていた。
獅子の時と大きさがちがうので、距離は正確にはつかめないが、それでも方角が合っていさえすればそのうち着くだろう。
彼にも、妻と娘がいる。
いつもはその圧倒的な威力と存在感に押され気味なオーマであるが、彼女たちを想う気持ちは誰にも負けはしない。
だからこそ、娘をたったひとりで、湖の底に置き去りにしなければいけなかった、父親としての王の思いを、どこかで分かち合いたかったのである。
この場所は、彼にはどこか懐かしさが感じられた。
彼のいた世界にも同じような人工浮遊大陸が存在する。
だが、この都市はなぜか、人の作った物の持つ、独特なオーラが感じられなかった。
もしかしたら、自然物なのかも知れない、とオーマは思った。
もしそうなら、その構造についても興味があるのだが。
やがて、道は細く、一本だけとなり、周囲の木の数もだんだんと増えていった。
こんもりとした、小さな森のような場所に、足だけが誘われる。
空気が深緑に洗われ、気分が少しだけ穏やかになった。
歩くうちに、水の湧き出る音がして、前方の右手に小さな泉を見つけた。
オーマは泉に近付き、喉を潤して、手を清めた。
ふと見上げると、湧き出た水の内側に何か文字が揺らめいている。
オーマはじっと、その碑文を見つめた。
『廟を訪れし者よ 我が深い悲しみと慈しみの如何ばかりかを知り その胸に刻み賜え』
やっぱりそうなんだな、とオーマは思った。
死の近付く娘を残して、ひとり安穏と生きていけるはずがない。
彼はまだ遠くに見える白い質素な建物を見晴るかし、右手に拳を握りしめた。




虹色の建物が林立する街中を、どっしりとした足取りでシグルマは歩いていた。
最初に入った時に感じたとおり、この都市には人の気配はない。
既に、廃墟となっているのだろう。
自然も水も豊富なため、人間よりも動物たちの楽園になりつつある。
この高さだ、誰からも攻撃は受けないのだろう。
平和に暮らしたい者には最高の場所だ。
不意にシグルマはあることに気付いて、看板の出ている建物に入ってみることにした。
空気を押すより簡単に、その扉は開いて彼を受け入れた。
正解だ。
そこは見るからに酒場だった。
椅子やテーブルは、少し乱れて置かれてはいたが、カウンターの奥に樽がいくつも残っていた。
残念だが、期待した吟遊詩人はいなそうだ。
それでも、未知の酒が味わえるのなら、それも一興だろう。
カウンターの裏にあった大ジョッキに、樽の栓を抜いて、なみなみと中身をついだ。
鮮やかな緋の、芳醇な香りが嗅覚を襲う。
今までに知らない、濃厚なぶどうの香りだった。
シグルマはあっという間に一杯をあおる。
続けて、二杯、三杯と、いつもの調子でジョッキを傾けた。
もう十杯目を数えた時だったか、ふと、カウンターの隅に置かれた、あるものに気付いた。
シグルマはジョッキを置いて、それに近寄った。
とても小さな、宝石で飾られた、それはオルゴールだった。
そっと、蓋を開ける。
真珠がこぼれるような音が、いくつもあふれては、風に溶けていく。
聞いたことはないが、うつくしい曲だった。
シグルマは元のところに座り直して、ジョッキを手にした。
いつの間にか、口元に笑みが広がる。
歌声よりも心にしみる、繊細なその曲が、酒の肴になり始めていた。




不安田は、短いふわりとした黒髪を風になびかせながら、弾むような足取りで街の郊外へと向かっていた。
目指すは、遠目にも気になる、大きな一本の木が真ん中に立っている、小高い丘だった。
その周りはその木よりも低い木々で囲まれていて、さながら小さな森のようだった。
昼寝には恰好の場所だと、彼は思っていた。
彼の素性を感じているのかいないのか、小さな動物たちが喜んで足にまとわりついてくる。
そして、彼の服の裾を引っぱっては、森の奥へと案内してくれた。
彼らは、久々に会った人の気配がうれしいのか、途中途中でいろいろな木の実を拾っては、彼に差し出してくれた。
そのことだけでも、この都市に住んでいた人たちと、この動物たちがどれだけやさしい関係を築いていたのかを教えてくれる。
甘い甘い、みずみずしい果物をかじりながら、不安田はやがて、ややひらけた場所に出た。
動物たちは、ある木に向かって一斉に鳴き、不安田をそちらの方へと引っ張った。
少しよろけそうになりながら、不安田は導かれるままに、その木の方へと歩いて行く。
彼の背丈の5倍はある木だった。
遠くから見た時は低い木々の集まりだと思っていたのだが、実際にはどれもこれも、とても高い木ばかりだった。
そのある枝のところに、たくさんの小動物が登って行く。
そして、その枝の近くで、不安田を呼び寄せるように、鳴き散らした。
少しだけ首をかしげながら、不安田はその木に登ってみた。
何があるのだろう。
やがて、木漏れ日がその枝の先にあるものを、きらきらとした光で教えてくれた。
虹色の細い糸で作られた、ハンモックがあるのだ。
向こう側の大きい木の枝に、ハンモックの先が縛り付けてある。
彼が気付いたのを感じたのだろう、小動物たちはどこか得意げな顔で、ハンモックの上で跳ね回った。
下から見上げたら、まるで空気の上に寝ているかのように見えることだろう。
木の間から吹き抜ける風が、心地良く彼の頬をくすぐる。
小動物たちに囲まれて、彼はハンモックに横になって目を閉じた。
風はやさしくやさしく、彼に涼を与えていた。





アイラスは手のひらの印が少しずつ消え始めていることに気付いていた。
そろそろ時間なのだろう。
彼は途中の軒先で、丈夫な皮袋を見つけ、珍しい花や果実をその中に収めていた。
地上にはないそれらの植物の薬効を、確認したかったのだ。
彼らしい収穫と言えるだろう。
やがて、他の4人が戻って来た。
それぞれが満ち足りた表情をしていた。


アイラス:「みなさん、何かを得ることが出来たみたいですね」
シグルマ:「ああ」
フィセル:「有意義な時間を過ごせたな」
オーマ:「・・・俺もな」
不安田:「よく寝たぁ・・・」
アイラス:「それでは、そろそろ下界に降りましょう。風が、変わり始めましたから」


彼らは都市の入り口である門まで歩いた。
そこを出たところで、オーマが、銀色の巨大な獅子の姿になる。
その背に乗り込んで、彼らははるか雲の下に見える彼らの世界を見やった。
宙を一蹴りして、オーマは斬りつけるような風の中、斜めに地上を目指した。
アイラスは手のひらを見、それから後ろを振り返る。
ゆっくり、ゆっくりと、空中都市の姿は薄れていく。
それに呼応するように、手のひらの印も。
(また、いつか・・・)
彼らの胸に、同じ思いが灯った。
いつか、自分たちと同じように、彼の地への扉を開ける者が現れるかも知れない。
そして、あの悲しい王の物語と、美しい都を胸に、この世界に帰って来ることだろう。
なぜ滅んだのか――――フィセルも詳細は知ることが出来なかった。
だが、長い長い時の中で、彼らはその滅びを受け入れることにしたのだった。
それは、決して亡き王女の呪いではなかった。
それだけが救いだと、誰もが思う。
そして、これからは。
時の狭間を漂って、穏やかな時間を過ごしていけばいいのだ、誰にも汚されることなく。
その平和を、彼らは祈ってやまなかった。


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ライター通信

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こんにちは、藤沢麗(ふじさわ・れい)です。
大変お待たせいたしました。
アイラスさん、オーマさん、シグルマさんは前回からのご参加、ありがとうございました!
フィセルさんと不安田さんは初めましてですね!
このたびは、「眠る空島」への冒険、お疲れ様でした!
それぞれの方の、この都市での散策の模様を綴らせて頂きましたが、
いかがでしたでしょうか?
誰にも侵されずに眠っている過去の都市でしたが、
まだまだたくさんの秘密も眠っていそうですね。
この都市への道はまた、閉ざされてしまいましたが、
いつか再び、戻って来ることもあるかも知れません。
その時はまた、ゆっくりと探検してくださいね。


それでは、また未来の依頼にて、ご縁がありましたら、ぜひご参加下さいませ。
この度は、ご依頼、本当にありがとうございました。