<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
ピクニックへ行こう!
それは晴天の続いた気持ちの良い週末のある日。
「この分ですと明日もきっと一日晴れですね」
空に広がる美しい夕焼けを眺めて、和紗永遠はなんとはなしに呟いた。その台詞を隣で聞いていた、サフィール・ヌーベルリュンヌこと、サフィはふいとピクニックに行きたいな、なんて考えた。
「ねえねえ、永遠さん……明日、空いてる?」
「空いてますけど……どうしたんですか、急に」
唐突な問いに少々驚きながらも、永遠は返事をかえす。
途端、
「ピクニックに行こう!」
きらきらと輝く瞳で、サフィはとびっきりの笑顔で宣言した。
――こうして唐突に決まったピクニックのため、二人は急遽台所へと向かった。
「んー……やっぱり、サンドイッチかなあ」
にこにこと楽しげな様子で食材を確認するサフィの様子に、永遠は少々不安を抱いていた。
永遠は直接には知らないが、人から聞いた話によると、サフィは料理音痴であるらしいのだ。
「そうですね。時間もあまりありませんし」
空には綺麗な夕焼けがあり、太陽はもうそろそろ地平線の向こうに沈むだろう。明日朝からピクニックに行こうと思うなら、あまり凝った物を作れる時間はない。
サンドイッチならば多少の料理下手でもなんとかなるだろうし、時間もかからずちょうど良いだろう。
「よおしっ、がんばろーねっ」
可愛らしいフリル満載のアリス服も手伝って、にこりと笑うサフィの姿は人形のよう。微笑ましいその笑顔に永遠も静かに微笑み返して頷いた。
「ええ」
さて。
サンドイッチを作る手順は、そう多くはない。
パンの間に具を挟んで適当な形に――場合によってはパンの耳も――切る。
それだけだ。
店が閉まらぬうちにと手早く二人で食材を買いに出て、卵や野菜も一通り揃え。台所に並んだ調理器具と食材を前に、サフィはぐっとガッツポーズで気合を入れた。
貴族の娘であり、料理に慣れないサフィの手つきは非常に危なっかしかった。
「んーっと…………」
包丁を手にまずパンの耳を切ろうとしているらしいのだが、その手の動きが非常に怖い。
「サフィさん、指先を伸ばしていたら危ないですよ」
「えっ!?」
言われて慌てて、添えていた左手の指先をくるんっと折った。
「これで良い?」
「はい」
それでもサフィは決して不器用というわけではなったので、永遠の手ほどきもあり、なんとかパンの準備を進めていく。
ゆっくりゆっくりパンを切り続け、30分後。
「これでぜーんぶっ」
「お疲れ様です」
「次は具を挟めばいいんだよね?」
こくんと首を傾げて確認してきたサフィの可愛らしい仕草についつい笑みを浮かべて、永遠はそっと微笑み頷いた。
具として用意したのは卵とハムと野菜が少し。
「火には気をつけてくださいね」
ゆで卵を作ろうとしているサフィに告げると、サフィは自信満々に、
「まっかせといて、大丈夫っ!」
そんなことを言って笑った。確かに見ている限り、そう恐ろしいことはしていない。
サフィがいったいどんな味付けをするやらかなり気にしていた永遠だが、これなら大丈夫かと、ほっと安心の息を吐く。
しかし――。
楽しげに歌を歌いながら卵のからを剥き、できたゆで卵を細かく切って。
それからハムと一緒に卵をパンに挟む――その時。
「え?」
何か、不思議な物を見たような気がした。
「あの、サフィさん……?」
「はぁい?」
きょんっと振り返ったサフィの手には、何故か、酢。
「そのお酢は何に使うんですか?」
「ええ? サンドイッチの隠し味だよぉ」
なにやら照れたように言って、ぱんっと軽く永遠の背を叩く。
「美味しそうでしょ?」
「あ」
今ならまだ止められる――と思ったのだが、サフィの行動は思ったよりも早かった。……油断していた永遠が悪いのか。
すでに、酢入りサンドイッチは完成していた。
いや。
「それからねー、こっちは豆板醤入りで、こっちは果汁100%メロンジュース味のサンドイッチ!」
「………………」
酢入りサンドイッチどころではなかった。
いったいどういう思考のもとにそんな味付けにしているのかとてもとても気になるところではあるが、本当に美味しく作っているつもりのサフィに直接それを聞くのも躊躇われた。
次々に披露される、豪快な味付けのサンドイッチたちの説明を聞きながら、さすがの永遠もくらりと眩暈を覚える。
一緒に、ピクニックに行く予定。
ということはつまり、おそらく自分もあのサンドイッチを食べることになるのだろう。
話には聞いていたのに、甘く見ていた永遠が悪いのか。
甘党も平伏すケーキや辛党も逃げ出すカレーが得意とは聞いていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。
「あ、そーだ。叔父様も誘って良い?」
にこにこと極上の笑みで楽しそうに笑うサフィの問いに、永遠は頷くことしかできなかった。
完成したロシアンサンドイッチをバスケットに詰めながら、思う。
明日のピクニックが、どうか無事に済みますように――と。
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