<PCクエストノベル(5人)>


スゥイート・シロップ 〜戦乙女の旅団〜

------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1125/リース・エルーシア /言霊師               】
【1649/アイラス・サーリアス/フィズィクル・アディプト      】
【1731/セフィス      /竜騎士               】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
【2155/ルーン・ルン    /ピルグリム・スティグマータ     】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】

マスター
レグラス
ミンティ

------------------------------------------------------------

 戦乙女の旅団と聞いて大抵の人間は何を連想するだろうか。
 噂に聞く、妙齢のキャラバンマスターの事だろうか。
 それとも、戦技に長けた戦乙女たちだろうか。
 あるいは交易で手に入れたと言われる、貴重な品々だろうか…。

***

 そろそろ秋の気配が見えても良さそうな、だがまだまだ夏真っ盛りな日差しの中、和気あいあいとした雰囲気でのんびりと歩を進めている5人の男女がだだっ広い草原を歩いている。
リース:「楽しみね。一体どんなものがあるのかな」
 今回の旅を提案した喫茶店の女主人であるリース・エルーシアがにこにこして隣にいる女性へ話し掛ける。その肩付近には、幻想的な、蝶に似た羽を持ったウサギ…のようなものがぱたぱたと飛びながら後に付いていた。
セフィス:「この時期ならやはり、春に各地で採取した薬草の調合品かしら。これから来年まで使うものだし、お医者様も居ないような場所では重宝されているのよ」
 それをごく当たり前のように、控えめながらも誇らしげに言うのは、そのキャラバン出身だと言う銀髪の女性。
アイラス:「楽しみですねぇ。噂通り色んな品があるのなら、きっと僕たちが喜ぶようなシロップもあるでしょうし」
 にこにこ、と人当たりの良い笑みを浮かべながら広々とした草原の何処にキャラバンが居るのかきょろきょろと興味深げに眺めていた青年、アイラス・サーリアスがその青い髪をさらっと揺らし、女性2人にそんな事を話し掛けて。
 戦乙女たちのキャラバンは、現在草原でキャンプを張っていると言う情報が入っていた。
ルーン:「イヤァ〜☆オレはシィルチャンとソフィアチャンのソバに居られるダケでもーオールオッケー☆なーか良くしようネン♪」
 そんな雰囲気にそぐわない、うひゃひゃひゃ、と品の無い笑い声を上げるのは、整った顔立ちとのギャップを見る度に起こさせる青年、ルーン・ルン。『名』を呼ばれた2人が曖昧な笑みを浮かべて互いの目を見交わす。
リース:「多分…あたしが『シィル』だと思う。語感も似てるし」
セフィス:「…私の方は?」
リース:「ふぃ?」
セフィス:「間違ってはいないけど、全然別人だわよそれじゃあ」
 どういう理由によってか、ルーンは決して他人を本名で呼ぼうとはしない。最初戸惑ったものの、大分慣れた今ではいきなり名を呼ばれない限りは大体分かるようにまでなっている。
 そこへ。
オーマ:「にしてもあちぃなぁ。旅団の方で氷用意してご一行様大歓迎、とかやってくれりゃ俺様も大感激のあまり旅団ごとイロモノ腹黒認定してやってもいいと思ってんだが」
アイラス:「――ちょっと、どうでしょうねそれは」
セフィス:「オーマ様。それは如何なる理由によってのものでしょうか?」
 すっ。
 セフィスの透き通るような目に一瞬鋭い光が差す。
オーマ:「おう。そりゃやっぱりイロモノ親父師範としてはだな。より一層の努力と共にこの崇高な目的を広く世に知らしめないとだな――」
セフィス:「戯言もほどほどになさいませ。マスターまで腹黒だのイロモノだの言われてはたまりませんわ」
 決して口には出さなかったが、その目はこれ以上面倒な事を言うようであれば、竜を呼んででも阻止してやろうと言う気概がはっきりと見えた。
リース:「まあまあ、セフィスもあんまり目くじら立てないで。せっかくの帰郷なんだから、ね?」
セフィス:「そ、それはそうだけど…」
ルーン:「ひゃひゃひゃ☆そーそー、俺と一緒に素敵な夢見てサ、嫌なコトはぱぁぁっ♪あモチロンシールちゃんも一緒になー♪」
 夏の陽気そのもののようなルーンは、楽しげににぃっと笑い、出発時から変わらないポジション――2人の女性どちらにもすぐ手が届く位置に陣取りながらご機嫌だった。

 今日の目的は、キャラバンを見に行くと言うものもあるが…主な目的はひとつ。
 かき氷のシロップを…それも、エルザードでは見つかりそうも無い珍しいものを探しに行く事だった。
 暑い夏だからこその提案かもしれず、その提案にそれぞれがそれぞれの興味を抱いて今日ここへとやって来たのだった。

セフィス:「――見つけた…」
 そこから更に日が少々移動するまで歩いた先に、テントのようなものが見えて、セフィスが小さな声でそう呟くと、ほっとしたように口元を綻ばせる。
リース:「あれが…キャラバンなのね」
 こく、と前方にひたと目を据えたまま動かさないセフィスが頷き、そしてリースたちは目を輝かせながら、幾人もの人々が生活している、いくつも見えるテントへと足早に向かっていった。

***

オーマ:「ほぅ…なかなか、楽しそうだな」
 自然、案内役になったセフィスが先に立って歩く中を、興味深げに眺める皆。時折セフィスの顔を見かけた知り合いらしい女の子たちがにこっと屈託の無い笑顔を向けて、それから後にぞろぞろと続いている4人に好奇心旺盛な表情を見せた。
アイラス:「雰囲気は悪くないですね」
 数人が楽々横になれそうな大きさのテントも、そこから漂う生活臭も、街では決して味わう事の出来ないもののように見え。常に日の光を受けて生活しているからか、目に映る人々は一様に肌が浅黒く、そしてしなやかだった。
 噂通り、と言うのか。
 目に付く人のほとんどが女性で、男性もいるにはいるが数が少ない事も影響してかどことなく影が薄く。そして対照的に女性たちは皆活き活きとした顔で機敏に動き回っていた。
ルーン:「かーイイ子だらけだねソフアチャン。後でショー会してクレるよねっ♪しかーもオトコはダメダメ…テコトハ俺の1人勝ちかよ☆」
セフィス:「ルーン様、仲間の紹介は後程いたします。…まずはマスターに挨拶をしに行きますから」
 はしゃぎながら女の子の品定めをしているルーンをやんわりと止め、そのまま迷わずひとつのテントへと足を向けた。どうやらテントごとに複雑な模様が描かれているのだが、その模様によってあるルールがあるらしい。
セフィス:「マスター。セフィスです…友人たちを連れて、久しぶりにお顔を拝見しに参りました」
 ぽすぽす、とテント前を拳で軽く叩いて、中に声を掛ける。
???:「――お入りなさい」
 若々しい…それでいて、何か円熟味のある雰囲気を漂わせた声が、テントの布を通して朗々と響き渡った。
セフィス:「失礼します」
リース:「こんにちは…」
 緊張した声のリースが少し裏返った声を出して小さく咳払いし、それからようやくキャラバンマスターと呼ばれる噂の女性を見て、驚いたように目を丸くした。
マスター:「お帰りなさい、セフィス。…外の世界は、貴女にとって良いもののようね」
セフィス:「――そう、ですね。ここの生活を懐かしく思う事もありますが…自分の力を試す事の出来る、外は、私にとって非常に有効なものでした」
 頭を垂れ、地面に敷いた敷物の上に跪いたセフィスが、ふわりとした衣装で胡座をかいている女性…妙齢とは聞いていたが、見る者によっては少女にしか見えないその女性へと献身の意を示している。
マスター:「さあさあ、挨拶はもう良いわ。そちらの方たちは?それと…今日は何を?」
 客人にはいつもこうなのか、にこにこと上機嫌な様子で1人1人にじっとその深みのある視線を注ぎ、最後にセフィスへと視線を戻した。こくっと頷いたセフィスが皆へ楽に座るように言い、テントの中、思い思いの格好で床に座る皆を確認した後で、
セフィス:「今日は、かき氷のシロップを探しに来ました」
マスター:「あらあら。かき氷?いいわねー。暑いのよね、ここも。でも氷が無いのよね…」
 ぱあぁっ、と。
 年相応?な目の輝きを見せたマスターが、次第にしょぼんと肩を落として呟く。それは確かにそうだろう。雨が降ることはあるだろうが、今は夏真っ盛り。氷などそうそう有る物ではない。
リース:「あのぅ…」
 そこへ、おずおずとリースが声をかけた。心持ち、身を乗り出すようにして。
リース:「あたし、何なら雪、降らせるよ?季節が違うから、いっぱいの雪ってことは無理だろうけど、皆が食べる氷を作るくらいなら――きゃっ」
 小さな悲鳴は、驚きのためだった。悠然と座っているように見えたそのマスターが急に勢い良く身を乗り出してがしっ!とリースの手を両手で掴んだのだ。
マスター:「ホント?」
リース:「え?う、うん。ほんとほんと。美味しいシロップが手に入ったらそれで食べようって思ってたくらいだし…」
マスター:「セフィス、レグラスとミンティを呼んできて」
 リースの手を握ったまま、マスターがきっと顔を上げてセフィスを呼ぶ。こくんと頷いたセフィスがその場を立ち、
ルーン:「俺も混ぜてくんねーカナぁ☆シィンちゃんの柔らかソーな手をこうぎゅーっとネ、ぎゅーっと」
 その様子を酷く羨ましげに見ているルーンの声と、その言葉につられてくっくっと楽しげに喉を鳴らすオーマの声だけがテント内に響いていた。
 やがて、ぱたぱたと元気の良い足音が響き。
???:「マスター、お呼びですか?」
???:「なぁにぃ?緊急事態?」
 セフィスとそう年が離れていなさそうな、若い2人の女性がテントへと顔を出した。
マスター:「客人たちが、氷を提供してくれるそうなの。だから皆に配るくらいのシロップを至急探し出してちょうだい」
???:「それは緊急事態だわぁ…ちょっとストック見てくるね、レグラス」
レグラス:「あ、待ってミンティ。マスター、失礼しました」
 来た早々に再びぱたぱたと足音高く戻って行く2人。
マスター:「何か希望があれば彼女たちに言ってみてね。この時期に氷の提供なんて、氷室のある町でもなければあり得ないもの、喜んでシロップ探しに協力するわ」
 未だ、興奮で気付いていないのかリースの手を握って離さないマスター。困った顔で、でも言い出せずにいるリースとの顔が対照的だった。

***

リース:「美味し〜い!」
 オレンジ色の、小さな、干した果実らしきものをひとつ口に入れたリースが目を見張る。
レグラス:「でしょう?これはね、滋養にも優れてる実なの。西の方で採れるんだ。保存用に干してあるけど、生で食べた時のあの美味しさって言ったら言葉にならないわよ」
リース:「ふぅん。…いいね、そういうの。そこでしか体験出来ないこといっぱいしてるんだもん」
レグラス:「ふふっ。いいでしょ?」
 コレも食べてみてよ、と言いつつ差し出された小さな実を齧っては、目を真ん丸くするリース。
 ――ここは、倉庫…食料庫のようなテントの中。
 セフィスが久々の故郷に気分が良くなったのか、鎧を脱いで様々な染料を合わせた独特の織り布…キャラバンの昔ながらの衣装を身に付けているのを見て羨ましがったリースたちにも貸し出し、ぱっと見には『客人』と見えなくなった4人が、先にシロップのある場所へ来ていた2人の後を追った先での事だった。
 食べ物と一口には言い切れない、各地の名産品や希少種など、次々に出してきては見せてまわった、試食可能なものはほんの少しずつだが皆の口にまわるように手渡してくる2人。客人が多いとは言え交渉事が多いこのキャラバンでは、遊びに来る者は珍しいのだろう。おまけにマスターも許可した、かき氷でパーティを開けそうとあっては。
ミンティ:「シロップってねぇ、結構貴重品なんだよ。だからね、あたしたちが口にすることって滅多に無いの」
アイラス:「そう言えば、砂糖や塩などの調味料は交易品の中でも上位に入るものですよね。――ありがたいですが、いいんですか?そんなことまでしていただいて」
ミンティ:「マスターがいいって言えばいいのよ。…それに、あたしたちだって少しは楽しみがなきゃ、ねえ?」
レグラス:「ねー」
 顔を見会わせて笑う2人。戦乙女と言うからには、この2人とて武器を持って戦えばそれなりの腕は見せるのだろうが…こうしてみると、年相応のはつらつとした女の子にしか見えなかった。
ミンティ:「リースにはコレかな?果物のエキスたっぷりのシロップ…あ、ありがとう」
 たぶん、とみっしり中身が詰まっているだろう瓶を取り出したミンティが、重そうにしているのをひょいと取り上げたのは、上背のあるオーマ。
オーマ:「重そうなモンを運ばせるのは俺様の趣味じゃねえ。お前さんたちは目当てのモノを探してくれ。運ぶのはこっちでやるからよ」
ミンティ:「……うん、分かった」
 ほれ、とオーマから手渡されたアイラスが思っていた以上のずっしりとした重量感によろけかけ、セフィスに支えられる。その彼女の目が、ほんの少し細められた。
セフィス:「オーマ様。私たちは普段も男性に頼って生きているわけではありませんわ。甘える事を覚えてしまったら、どうなさるおつもりなのですか」
オーマ:「どうにかなるのか?俺様のようなイロモノ師範に手を貸してもらったら、彼女たちの腹ん中が真黒に染まっちまうってのか?」
 別の壺を受け取りながら、オーマがセフィスへと目を向ける。
 その他のシロップも探していた2人が背を向けたまま、全身を耳にしているのがその場にいる皆にも良く分かった。
オーマ:「俺様は俺に依存しろと言ってるわけじゃねえ。俺様のこのむんむんイロモノパワーが溢れ出さんばかりになってる時にだな、俺様にじっとしてろと言われるのが我慢ならねぇんだ。で、だ。そーいう親父を使わねえ理由は何処にある?」
セフィス:「ですから、そう言う手助けをすることで…」
オーマ:「腹黒同名入会2名か?」
セフィス:「違います」
 ぷるぷる、と首を振るセフィスにずしりと重いシロップの壺を渡したオーマがにやりと笑いかけ。
オーマ:「信じてやれよ。俺様に手出しされたからってそうそう変わるモンじゃねぇってよ」
 言われたセフィスがほんのりと頬を染め、
セフィス:「それも…そうですね」
 普段鍛えているからだろう、その重みのある壺を軽々と抱え上げるセフィスがにこりと笑いかけ、
セフィス:「だから同盟には加入させませんわ」
 ぐは、と喉の奥で呻き声を上げるオーマに構わず、壺を外へと運び出していった。
レグラス:「セフィス向けにはこのハーブかな。懐かしい味がするかも。…他の人は?えーと…」
ルーン:「俺は抹茶♪あのニガシブがたまんねぇノヨ☆」
 楽しげに倉庫中を見回っていたルーンが戻ってきて2人にそう言い。ぴたっ、と動きが止まった2人が困ったようにルーンを見る。
ルーン:「お?駄目ダゼ俺に惚れッちゃぁ♪止まらナイって言うんなら、仕方ないケド」
ミンティ:「そゆことじゃなくて〜」
レグラス:「緑茶を挽くのはいくらでも出来るんだけど、シロップに浸透させないといけないから今日は無理よ」
ルーン:「ムムゥ。――ってイイよん、俺サマ懐ひろーいカラネ。ルミナチャンもラクラクチャンも気にしない気にしない。オミヤゲにそっと懐に忍ばせてクレりゃもぉバン万歳☆」
セフィス:「ルーン様…」
 2人に負けず劣らず困った顔をするセフィスに、にっかりと大きな笑みを見せる。
ルーン:「大丈夫ダイジョブ、ソフィアチャンが入る心の余裕はまだまだたっぷりあるからネ☆」
 …結局、抹茶シロップはエルザードに戻ってから楽しめるように、土産の形で渡される事になった。それならば、と他の者が好みそうなシロップも少しお土産に持たせようと言われたのだが。
アイラス:「僕は、美味しそうなものも良いですけど、ちょっと変わった物も見てみたいですね」
オーマ:「俺様か?俺様はモチロン珍妙怪奇なシロップに決まってるさ。イロモノ師範としては当然の事だろう」
 …とりあえず、アイラスの要望に近いと思われたのは、とある虫が集めたという蜜だった。ハチミツよりもあっさりした甘味があり、この蜜が採れる地方での特産品にもなっているのだと言う。
 微妙に青みがかったその蜜の色が特徴的なものだった。
 だが、オーマの要望だけは、レグラスとミンティの2人に叶えられそうも無かった。
ミンティ:「マスターなら何か良いものを知ってるかも」
 あちこちひっくり返し、疲れた様子の2人の言葉で、再びマスターのいるテントへと取って返す。
マスター:「怪奇珍妙シロップ…もう1人はちょっと変わったものね。心当たりが無いでもないわ」
 ちょっと待ってて、と言い置いて身軽に立ち上がるとテントの奥でごそごそと荷を探り始め。やがて、手の平に乗るくらいの小さな壺を持って戻って来た。
マスター:「これよ」
 小さな陶器の壺に入れられたものを、オーマへ差し出す。
 その蓋を開けた途端、かぐわしいとは程遠い異臭が起こり、覗き込んでいた数人が思い切り顔をしかめて慌ててオーマに蓋を閉じさせた。閉じる前に一瞬見えたそれは、濃すぎてほとんど黒色になっている紫色をしていた。
アイラス:「匂いも凄いですが…なんだか、毒々しい色ですね」
マスター:「それはそうよ、毒だもの」
ルーン:「ホホゥ。毒?イージャネーノ。『LION』にはお似合いってコトサ♪ウヒャ☆」
マスター:「とても貴重なものだから僅かしか分けて上げられないけれどね。コレを100倍以上に薄めて砂糖水と合わせてみなさいな。――起きたまま夢の世界へ堕ちることが出来るわよ」
 『おちる』のニュアンスが違うような気がしたのだが…何故だか怖くて突っ込めない。
オーマ:「俺様には毒が似合うってのかぁ?――ま、悪かねえな。戻ってから楽しめそうだ」
 帰りに渡すと約束した後のマスターの動きは早かった。
マスター:「さっ、行きましょ。特にあなた!」
リース:「え?あ、あたし?」
マスター:「そうよあなたよ。あなたの雪が無ければ始まらないのよ。もー今日も暑くて暑くて堪らなかったんだから、このくらいの良い事がなければやってられないと思わない?だから始めましょ、ね?さあそうと決まったら行くわよ」
リース:「え。あ、え?わわわ、そんな腕引張らないで…」
 勢い良く引きずられ、テントから飛び出して行く2人。
セフィス:「…マスター…」
 何か言いたげな顔をしたセフィスが、結局は何も言わずぐりぐりとこめかみの辺りを指で押えた。

***

 ――真夏の暑さが少しだけゆるむ、夕方。
 夜になる前にかがり火が焚かれ、そして――出されたデザートに皆が歓声を上げた。
 砂糖漬けにされた見知らぬ街のドライフルーツと、エルザードでお馴染みの瑞々しい果実がきめの細かい氷粒の上に点在し、その上からかけられた様々な色、香り、味のシロップが彩りを添えている。
 その土台になっている真っ白な雪が夏の暑さに溶けて流れてしまう前に、各自取り皿を持った皆がわさわさと思い思いの場所から掬い上げ、更に穀物の粉を練り上げて茹でた白いぶるんとした団子を乗せ、それぞれの味わいを楽しんで行った。
 それは、戦乙女の旅団――女性が多い故か、とても好評なパーティで。
マスター:「あら、もうシロップ切れ?しょうがないわね…」
 長年貯蔵していたマスター虎の子のシロップを皆に振舞った事でも察せられるだろう。
 そして、最初言われていたよりもずっと過分な土産を持たされ、嬉しいやら申し訳ないやらで困った顔をするリースたちに、
マスター:「気にしないで。本当に楽しかったし美味しかったからね。…良かったらまた遊びに来て。特にリース」
アイラス:「思い切り名指しですね」
オーマ:「ま、それが人生ってモンだ」
ルーン:「ルゥスチャンが行くなら俺も付いてクヨン☆ココ女の子一杯であっちよか楽しいクライダシナ?うひゃひゃひゃ」
セフィス:「…まあ…良いのですけれど…でも、長たる威厳とか…こう、もうちょっと外面を気にしてもらえると…」
リース:「あ…あははっ」
 ぎゅっ、と手を両手で包まれるように握られて、困ったように笑うリース。
リース:「…うん。また来るよ。その時は他にも面白いものとか、色々見せてね」
 今回の提案をしたリースにしてみれば、意外な程美味しいものに出会えたと言うその事実で十分に満足できた旅だっただろう。
 そして、貰ったシロップとパーティでも使われていたドライフルーツを土産に、戻ったら仲間を集めてもう一度やろうと、星が降りそうな夜空の中を歩きながらエルザードへと戻って行ったのだった。

オーマ:「じゃあ今度は俺様がもらったアレも混ぜような」
リース:「絶対イヤ」
セフィス:「オーマ様のパーティ参加は拒否しますわ」
ルーン:「夢ミセンのは好いけど他所でヤッテな☆」
アイラス:「僕は飲みませんがオーマさんが飲んでどうなるのか見せてもらいますね」
 皆に即答されて少なからず落ち込んでしまったオーマを宥めながら。


-END-