<東京怪談ノベル(シングル)>


『 緋の姫 』


 助けて。
 助けて。
 助けて。
 妹と母さんと、父さんを助けて。
 誰か、助けて。

【Begin tale】

 壮麗なる城の最上階にありてその王の間にいるのはエルファリア王女だ。
 権威と華やかさの象徴である王の間に敷かれた赤絨毯の上にオーマ・シュヴァルツは片膝をつき王女への礼を見せた。
「苦しくはありません。オーマ・シュヴァルツ」
「はい。エルファリア王女もご機嫌麗しくますますの健やかなる君のご健在をこのオーマ・シュヴァルツも嬉しく想います」
「はい」
 エルファリアは鷹揚にオーマに頷いてやると、王女の間に控える侍従や執事、それに王女を守るために控える近衛兵たちに視線を送った。
「わたくしはこの者に話がありますがこれは内密な話にて、あなた方は控えなさい」
 侍従長は王女に何かを言おうとするように口を開いたが、結局は言葉は発せずに口を閉じて戸惑う侍従たちに視線で頷いて王女の間から出て行った。最後に執事がその部屋から出て、王の間の扉は重い蝶番の響きを厳粛なる王の間の空気を震わせて閉じられた。
「ふぅー、肩がこりますね、父の真似事は」
 扉が閉じられた瞬間にエルファリアは人懐っこい笑みを浮かべてオーマに笑いかけ、オーマはオーマで扉が閉じられると同時にくっくっくっくと笑い声を漏らした。
「どうしました?」
 きょとんと小首を傾げたエルファリアにオーマは目じりの端に浮かんだ涙を拳で拭って肩を竦める。
「なに、おまえさんの言葉遣いが板に着いているんでな。それで笑えてさ」
「それで笑えるって、何がですか?」
「いや、そりゃあ、笑えるだろう。お転婆姫っていう正体を俺様は知ってるんだぜ? そのお転婆姫がすました顔をしてあんな雅やかな言葉を使ってるんだ。笑えるだろうよ?」
 そう言ってウインクしたオーマにエルファリアはぷぅーっと頬を膨らませた。
「で、俺様を呼び出した話ってのは何だ?」
 どこか不敵な微笑を浮かべながら(しかしさながらその瞳は肉食獣かのように鋭く輝かせながら)そう訊くオーマにエルファリアもその金髪に縁取られた美貌に真剣な表情を浮かべた。
「はい、本来ならあの時計うさぎの話を聞きたいものですがそれはこのオーダーを受諾し、見事解決してからにごゆるりと」
「ああ、そうだな。じっくりと聞かせてやるさ。あの時計うさぎと…」
 そこまで言ってオーマはちょっと複雑そうな顔をしたので、エルファリアは小首を傾げた。
 (しかもなんだかあのオーマが幼くみえる)
「どうしました、オーマ?」
「いや、なんでもねー。気にしないでくれや」
「それでオーダーは?」



 +


「ひゃぁー、お客さん、でかいねー」
 御者は身長227センチの大男であるオーマを見て口をあんぐりと開けた。
「ああ、寝るのは大好きなんでね」
「ん?」
「ほら、よく言うだろう。寝る子はよく育つってよ」
 ウインクしたオーマに御者はけたけたと笑った。
「さあ、乗ってくれ。で、お客さん、どこまでだい?」
 と、そこまではころころとした笑みを浮かべていた御者はオーマが言った場所の名を聞くと顔色を真っ青にして、ユニコーンに鞭を入れてまだオーマが乗っても居ないのに馬車を走らせた。
 それを頭を掻いて見送りながらオーマはげんなりとため息を吐いた。
「やれやれ、これで連続8回乗車拒否だぜ。ったく」
 しかしそれもしょうがないのかもしれない。
 場所が場所だ。
 オーマは目的地へと諦めて歩き出しながら、エルファリアがオーマに出したオーダーを脳裏に反芻させる。



『オーマ。あなたに出すオーダーは【巨大ウォズ】討伐です』
『【巨大ウォズ】討伐?』
『そうです、『巨大ウォズ』。それはこのソーンにおいて聖獣を喰らうという暴挙に出ています。このソーンにおいては聖獣は守護者。聖獣の守護無ければこのソーンは大いなる滅びへとその道を歩みます。故にその【巨大ウォズ】は討伐せねばなりません』
『討伐、ね』
『面白く無さそうな顔ね、オーマ』
『ふん』
『どこへ?』
『残念だがな、エルファリア。俺様は殺しは死ね―のさ。やるのは救いのみだ』
『今回の【巨大ウォズ】でさえも救うと? 多くの聖獣を喰らったこのソーンの敵を』
『エゴかい、それはこの俺様の? エゴだよなー、確かに。100人いれば100人ともそれを俺のエゴと呼ぶだろうよ』
『ふぅー。でもひょっとしたら101番目の者はそれをエゴとは呼ばぬかもしれませんね。そして話は最後まで聞くものです、オーマ。先ほど国から騎士たちが【巨大ウォズ】討伐のために派遣されました。【ウォズ】を倒せるのは異世界に於いて八千年の歴史を誇る国際防衛特務機関【ヴァンサーソサエティ】の【ヴァンサー】のみであるというのに。故に私は私的に騎士ではなくオーマ・シュヴァルツ、あなたをその事件の現場に派遣させてもらうことにします。この私、エルファリアの名の下に派遣されたあなたの言う事はこの私の弁。ならば、あなたの【ウォズ】ですらも救いたいという酔狂にも異議を唱える事ができる者はいないでしょう。もっともこの国が誇る最速のユニコーンたちに乗った彼らがあなたが到着するまでに生きていたらの話ですが』


 それからどれほどの時間が流れたであろうか?
「ちぃぃ。ユニコーンの一頭もいねーんだもんな。ちくしょうが」
 とん、とオーマが大地を蹴って空に舞い上がろうとしたその時、
「オーマさん」
 と、どこかふぬけた泣き声に近い声があがる。思わずオーマはその場に落ちた。そしてげんなりとしたため息を漏らしながらそちらを見ればやはりそこには商人がいる。一体この男はどこまで自分にくっついてくるつもりであろうか?
「オーマさん、ひどい。自分だけエルファリア王女に会っただけではなく、この私を置いて行こうとするのですから!!!」
「やれやれ。あのな、おまえさんが城のメイドさんたち相手に忙しそうに商売をしているからだろうが。だから俺様は気を遣ってやってだなー」
「気を遣うのならこの私も連れて行ってやろうという方に気を遣ってやってください」
 えへんと何故か偉い気張って言う商人にオーマはげんなりとため息を吐いた。
 そしてその場に座り込んで少し真剣な顔になって商人の人の良い顔を見る。
「あのな、この旅はとても危険な物になる。今回ばかりはかつてない敵故にこの俺様でもどうなるかわからねー。最悪自分の事で手一杯になるだろう。おまえを守ってやる事はできんかもしれねー。わかるか、それだけ危険なんだ」
 しかしそのオーマの弁に商人はにこりと笑った。
「でもオーマさんは負けないでしょう」
 それは最高の言葉であった。
 目を大きく見開いたオーマはその後にくっくっくと笑声を零し、やがてそれは哄笑へと変わった。
「ったく、おまえさんはきっと口から生まれてきたんだろうな」
「ええ、そうですよ。商人は口が命ですから」
「しかし、これでまた交通手段を考えねばな。どうやって目的地まで行くか」
 そう苦い顔で言ったオーマに商人はにこりと笑った。
「交通手段ですか?」
「ああ、どの馬車も乗車拒否をしやがる。城のユニコーンが使えればいいんだが、それもダメなんだと」
「だったら、街でユニコーンを買ってしまえば宜しいではありませんか?」
「冗談言うなよ、どこにそんな金があるんだよ???」
「貸しますよ?」
「利子は?」
「それはもうばっちりと」
 にこりと笑った商人にオーマはがっくしとうなだれた。
「それにダメだな。敵地では何が起こるかわからない。遠出にも使える馬車のユニコーンなんかは訓練されているからいい。だけど普通に売られているユニコーンはダメだ。危地には戸惑って暴れるだけだな」
「なるほど」
 と、頷いてメモ帳に書いているのは今度の商売に反映させるつもりだからだろう。
 そしたぱたんとメモ帳を閉じた商人はにこりと笑う。
「しかし確かに今度の敵は厄介そうですから、私も身の安全のために傭兵などを雇った方がやはりよいですかねー」
 そう言った商人は小首を傾げる。オーマが目をぱちくりとさせながら自分の肩をがしぃと掴んだからだ。
「お手柄だ、商人」
 オーマはにこりと微笑んだ。



 +


 傭兵ギルドは大声で包まれた。
 突然に大男がやってきたかと想えば、その男はこちらのユニコーンを一頭貸せとぬかす。
「ダメに決まってるだろう。まあ、金を払えば考えん事も無いがな」
 しかしその傭兵ギルドの長の人情味溢れた申し出にオーマは笑顔で首を横に振った。
「金は無い」
「舐めているのかぁー、おまえは」
 オーマは唾を飛ばして怒鳴る長に、提案した。
「お宅の一番の傭兵と腕相撲で勝負といこうや。もしもこの俺様が勝ったら、ユニコーンを一頭貸してもらう」
 そしてオーマとこの傭兵ギルドが誇るSS級の傭兵との腕相撲がここに開かれた。
「ふん。てめえの頭の悪さには本当に呆れさせられるぜ。このSS級の俺様に敵うと?」
「はん、能書きはいいから来いやー」
 顔を真っ赤にしたのは自尊心を傷つけられたからか。
 酒や料理の染みがついたテーブルに肘をついて向かい合ったオーマと男は手を握り合った。
「「レディー・ゴー」」
 傭兵ギルドの本拠地はその瞬間に割れるような声に包まれた。



 +


「いやー、快適。快適。こりゃあ、すごいいい足を持ったユニコーンだな」
「ええ。それは認めますがオーマさん。もう少しスピードを落としてもらえると嬉しく」
 汗びっしょりの顔でそう言う商人にオーマはにこりと笑うと、もちろん、ユニコーンのスピードを速めさせた。
 ユニコーンの走るスピードは風のように速い。その中でその声を聞けたのもやはりそれがオーマだからだろう。
「どうしたのですか、オーマさん」
「ああ、悲鳴が聞こえたんだ」
 そして今しも盗賊どもに殺されようとしていた家族の前にオーマはユニコーンを滑りこませた。
 ユニコーンも何が起きて何が起きるのかわかっているのであろう。武者奮いかのようないななきをあげる。
「な、なんでぇ、おまえらは?」
「はん、俺様かい? 俺様は通りすがりのフェミニストだ」
 そしてオーマの後ろにいる商人は盗賊に睨まれて、自分も名乗りをあげる。
「わ、私は通りすがりの商人だ」
「そのまんまじゃねーか」
 そうしてユニコーンから飛び降りたオーマに盗賊どもは襲い掛かった。



 +


 商人の知るオーマ・シュヴァルツとは実に漢気溢れる男であるから、商人もオーマがその家族を村まで送るのは想像はついた。
 それから応急処置であった父親と母親の治療をちゃんとすることも。
 しかしオーマは驚いた事にその治療が終わってもそこにいた。
「オーマさん、目的地に行かなくってもいいんですか?」
 商人は彼に聞いてみるのだが、しかしオーマはにやりと笑うだけであった。
 この村に来てもう一日が過ぎようとしている。
 そんなひょこひょことオーマの後ろについてまわる商人が見たものは剣の練習をする例の家族の長男であった。
「よう、剣の練習か?」
「うん、そうだよ、オーマさん。僕は強くなるんだ。強くなって悪い奴をどいつもこいつもぶっ殺すぐらいに強く」
 そう言いながら男の子は剣を滅茶苦茶に振るった。
 商人は勇ましい事だと苦笑していたが、オーマの顔に浮かんだ表情に訝しげに眉根を寄せた。
「なるほど、どいつもこいつもぶっ殺せるぐらいにか。だったらおまえさんが掴む力では大切なモノは守れないな」
 そのオーマの言葉に男の子は弾かれたようにオーマを振り返った。
「え、それってどういう…」
「かかってきな、全力で」
 オーマが男の子に答えたのはその言葉で、そして男の子は棒切れを振り上げてオーマに飛び掛った。その男の子の一振りをオーマは紙一重でかわし、空いた男の子の腹に蹴りを叩き込む。
 男の子はその衝撃に吹っ飛びもがき苦しんだ。
「オーマさん!!!」
 商人はオーマを責めて、男の子の傍らに跪くと両手を男の子の腹にあてて回復魔法をかけようとするが、
「魔法はダメだ」
 と、言うオーマの声に固まった。
「いいか、ガキ、痛いだろう、蹴られて。そりゃあ、痛いさ、生きているんだから。だから傷つく事を怖れろ。痛みを怖れろ。痛みを忘れるな。そして人を傷つける事も。そうすればおまえはきっと大切なものをすべて守りきれる力を得られる」
 そしてオーマはにこりと笑って男の子の頭を撫でると、男の子の腹に湿布薬を貼った。
「あの、オーマさん」
「ん?」
「オーマさんも痛みを知ってるから強くなったの?」
「ああ、そうさ」
 そう頷くオーマの表情は商人が初めて見るものであった。



 +


 何をしている?
 早くオーマ・シュヴァルツを連れて来い。
 父親や母親、妹がどうなってもいいのか?
 村の人間がこのまま囚われたままでいいのか?
 おまえ次第だそれは。
 おまえがオーマ・シュヴァルツを見事に罠にはめれば、そうしたらおまえらは全員この私から解放してやる。
 そう、おまえ次第だよ。



 +


「あの、オーマさん」
「ん? なんだ」
「あ、あの、オーマさんが探している【巨大ウォズ】の居場所、僕、知ってるかもしれない」
「なんだと、それは本当か。やりましたな、オーマさん」
 商人は笑顔でオーマを振り返った。
「ああ、じゃあ、そこを教えてくれるか?」
「うん」
 優しくそう言うオーマに元気に頷く男の子。
「あそこだよ、オーマさん」
 なるほど、なにやら巨大な竪穴があり、その穴に【ウォズ】たちが捕らえた聖獣を放り込んでいた。
 それがオーマが探す【巨大ウォズ】と関係あるのかはわからぬが、しかし【ウォズ】どもの一団体を壊滅させる事はできるようだ。
「ありがとうな」
「あ、うん、あの、オーマさん」
「ん?」
「き、気をつけて」
「なあに、オーマさんなら大丈夫だよ。ねえ、オーマさん」
「ああ。だけどよ」
 オーマは優しい瞳で男の子を見る。
「おまえが言いたいのはそれなのか? もっと他に心の奥底から言いたい事は無いのか?」
「え…」
「いや、良いよ。んじゃあ、ちょっくら行ってくらあ」
 そしてオーマは誰もいなくなったその竪穴に飛び込んだ。



 +


「どうした?」
 村に帰ってきても男の子の様子はおかしい。
 小さな体を震わせている。
「おじさんだけでも逃げて」
「なに?」
「おじさんだけでも逃げて。逃げるんだ、ここにいちゃダメだ」
 男の子は悲鳴をあげるように叫んだ。
 しかし村の者は男の子がそんな声をあげたのに気にせず動いている。いや、聞こえていない? まるでそんな声など無かったように。
 さすがの商人でもその異様さに気がついた。
「一体何が起こっている?」
 商人が男の子を見ると、男の子は泣きながら言った。
「僕はオーマさんを売ったんだ。罠なんだよ、これは。僕だけには魂があって。あの盗賊ですらも本当は…」
「なにぃ?」
 商人は目を見開いた。
 そして次に商人がやった事は口笛を鳴らす、だ。
 その口笛にユニコーンが飛んでくる。そして太っちょな体の癖に実に軽やかにそのユニコーンの背に乗った商人は男の子に手を伸ばした。
「行くぞ」



 +


「哀れなものだな、オーマ・シュヴァルツ」
 そこは水の中。その水の中にオーマはいる。多くの聖獣たちと一緒に。
 そしてその聖獣には【ウォズ】の子どもが寄生している。
「なるほど、【巨大ウォズ】の腹の中で【ウォズ】を育てていたのか。いや、そもそもがその【巨大ウォズ】にすらおまえが寄生している?」
「ご名答だよ、オーマ・シュヴァルツ」
 人魚のような形態をした【ウォズ】はにたりと笑った。
「おまえが敵対行動をした瞬間に村人は全員殺す。潜ませている私の子どもに」
 【ウォズ】がそう言った瞬間にしかし声があがった。
「嘘だ、オーマさん。村の皆も、僕も家族も皆殺されているんだ。僕らは…僕らはただ動く死体だけでしかないんだ」
 それは凄絶なる声。
「助けてぇ。助けて、オーマさん。僕らを助けてぇー」
 それは悲壮なる願い。
「ふん、所詮は下等なる人間。オーマをここに連れてこさせた時点で処分するべきであったか、他の【ヴァンサー】の餌になどと考えずに」
 それは酷薄な意志。
「おわぁー」
 商人は悲鳴をあげた。自分が片腕に抱く男の子がどろりと溶けたから。
 そしてそれは・・・
「ああ、任せておけ。あいつが喰ったおまえの家族や村人の魂は全部俺様が吐き出させてやるさ」
 あるいは神の怒りか。



 ぞくりと大気が震えた。
 その瞬間に雲が吹き飛んだ。
 そこを満たす水にオーマを中心にして波紋が浮かぶ。
 そして水が弾けた。



「ああ、オーマさん。どうか、どうか皆の願いを」
 商人はユニコーンを翻らせる。ここにいればオーマの邪魔になるからだ。
 だが空いていた竪穴は閉じられていく。いや、【巨大ウォズ】の口か?
 しかしそちらに向けて銀髪赤目の神か魔かその化身は右腕を伸ばし、その手にはいつの間にか獰猛な猛獣が牙を剥くかのように鋭い銃口を持つ銃が握られていて、その銃口から吐き出された銃弾は【巨大ウォズ】の口を粉砕した。
 商人は逃げ出し、
 そして聖獣に寄生していた【ウォズ】はオーマに向うが、ただオーマは静かに銃を前に構えトリガーを引いた。転瞬吐き出されたのは炸裂弾だ。それらはすべて【ウォズ】に命中し、【ウォズ】らは小さなガラス玉に封じられ、そしてそのガラス玉はオーマの指輪に施された髑髏の口にすべて吸い込まれる。
「お、己ぇ、オーマ・シュヴァルツ。よくも私の可愛い子どもたちを」
 母は【巨大ウォズ】に溶け込んだ。
 オーマは右目だけを細めた。
「オーマ・シュヴァルツ。おまえをこのまま絞め殺してやるさ」
 空洞…腹…胃が狭まってくる。しかもそこを満たす水が酸へと変わり、オーマの体を溶かし始めた。
 だがオーマはただクールに銃を構えるばかり。
 それはリボルバーからランチャーへと変わっていって・・・



 商人は絶叫をあげた。
 自分が飛び出して来た竪穴はそのまま大地から飛び出してきて、それは巨大な壺で、だけどそうかと想ったら、巨大な黒い巨人となったのだ。そう、まるで影が立ったような。
 そしてその影の腹からなんとオーマが飛び出して来た。風穴を開けて。
 だがいかに強大な力を持つ銀髪赤目のオーマ・シュヴァルツでもその【影のウォズ】から見れば蟻のようなものだ。体格差がありすぎる。
「無様だな、オーマ・シュヴァルツ。そのまま逃げるがいいさ、惨めに」
 【影のウォズ】の眉間からあの【人魚のウォズ】が現れた。
「惨い事を。完全にあの【影のウォズ】は寄生されて…もはや意志は無いか」
 商人は下唇を噛んだ。
 ―――――だがどういう事であろうか? この商人、まるで今までとは別人だ。ものすごく顔が鋭い。一体、この商人は?
 けたましく笑う【人魚のウォズ】。それに商人は笑う。
「圧倒的な力を見せ付けたつもりか? だが、その銀髪赤目のタイプUのオーマ・シュヴァルツはおまえの腹から逃げたのだぞ? その時点で力の差が見えないか? そして…」



「それがおまえさんの切り札ならば、その切り札を先に見せたおまえの負けだぜ?」
 オーマは息を吸い込んだ。
 それは神の呼吸かのように大気の鳴動を意味し、
 強風が巻き起こり、
 その風の中心で、
 一気に高エネルギーが爆発した。
 そこにいたのは力という力をすべて寄せ集めて結晶化させたような翼在りし巨大な銀の獅子。
 獅子は吠えると共に翼を羽ばたかせ、光りの矢となって、【人魚のウォズ】がいる眉間に鋭い爪の一撃を入れた。



「うほぉ。細かい神経系統に完全に癒着しているあの【ウォズ】を完全に除去したというのか、オーマ・シュヴァルツ。なんという神業」
 商人…いや、そこにいたのは腰まである血のように赤い緋色の髪を風に舞わせ、同じく情熱という言葉を持つルビーかのような瞳を細める麗人であった。
 ―――――まさかこれがあの商人の正体か?
 その麗人の背後にはいつの間にか三人の【ウォズ】がいる。完全な人型が二人。半獣人型が一人。
「あの者ならならば我ら【ウォズ】すべての母、【クィーン】を導いてくれる者であるかもしれない。妾(わらわ)はもう少し下賎な人間の商人を気取り、あのオーマ・シュヴァルツという【ヴァンサー】を見定めよう」
「しかし、【緋の姫】よ。もしもあの男が他の【ヴァンサー】と同じく我ら【ウォズ】を滅ぼす事しか考えぬ者であるのであれば?」
 そしてその問いに【緋の姫】はにこりと笑った。ただただ笑うという事を行った笑みを浮かべて彼女が言ったのは、
「その時はあの男を殺すまで」



【ラスト】


「これで彼らの魂は救われたでしょうか、オーマさん」
「ああ、やっとこれで眠れるだろうさ。ぐっすりと。もう悪夢は見ねーんだからよ」
 オーマは最後の十字架に花を供えると、商人ににこりと笑った。
「オーマさん。あなたに聞きたい。あなたはそれだけの力を持っていながら何故、【ウォズ】を封印するのか? その力を持ってすれば彼らを殲滅できるのでは? その方がやり方を選ばずに済んで楽でしょうに」
 その質問にオーマは肩を竦める。
「俺様が力を求めたのは、誰かを傷つけるためじゃない。俺様が望む未来を掴み取るためさ」
 オーマはどこまでも晴れ渡る空にまっすぐに腕を伸ばし、そこにある何かを掴み取るようにぎゅっと広げた手を力強く握り締めた。



++ライターより++


 こんにちは、オーマ・シュヴァルツ様。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 このたびはご依頼ありがとうございました。
 プレイングに乗っ取り、このようなお話の展開も添えさせていただきました。
 どうでしたか? よい意味で期待を裏切れていたら本当に嬉しい限りです。
 まさかあの人の正体があんな風だったなんて想像もされていなかったと想います。
 自分でもまさかあの人があんな秘密を持っていただなんてこれを書くまで知りませんでしたから。
 もしもこの設定が気に入っていただけましたら幸いでございます。^^


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 本当にありがとうございました。
 失礼します。