<PCクエストノベル(1人)>


the tower 〜白亜の塔の賢者たち〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/ オーマ・シュヴァルツ / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

【その他登場人物】
 少年
 ファルディナス兄弟・兄カラヤン
 ファルディナス兄弟・弟ルシアン
 ウォズ
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 どこまでも続く白亜の螺旋階段。
 そこは潔癖なまでに純白で覆われた空間であるという。

 ユニコーン地方の碧萌る丘の上に、まっすぐにそびえるその美しい白の塔を、人々はよく見上げた。
 その土地に住む人々が生まれる前からそこにそれはあった。そして、いつも変わらず美しかった。
 手入れが行き届いているようだったが、その塔の窓に人影を見た者はいない。否……噂話としてはよく囁かれているので探せば見た者もあるのかもしれないが、それはとても稀なことであるようだ。

少年:「でも、ボク知ってるよ」

 大きな瞳をキラキラさせて幼い少年は得意げに言った。一人の大男が旅の途中に休息を求めた茶屋の軒先である。

オーマ:「ん? 知ってるって、あの塔に住む奴をか?」
少年:「勿論! あの塔にはね、ファルディナス兄弟っていう二人の男の人が住んでるんだよ!」
オーマ「ほう」

 大男は目を細める。
 その情報ならソーンの図書館でも手に入れることが出来た。

少年:「けんじゃ、っていうんだって。賢者だからあの塔に住んでて、ずーっと年をとらないんだって」

 大きく手を広げて少年は言う。
 まるで今にも、自分も賢者になりたい、と言い出しそうだな、男は思った。
 オーマ・シュヴァルツ。小麦色の肌をした赤い瞳の大男の……それが名前だった。

少年:「……ってママに聞いたの」

 少年は手を下ろして、オーマの隣に腰かけた。
 がっしりとした体躯、身長もゆうに2メートルは超える、迫力のある外見のオーマだ。臆病な大人ならば近づきがたいと思われそうなものだが、子供には好かれやすいようである。
 オーマがその大きな手のひらで少年の頭を軽く撫でてやると、少年はとても嬉しそうににこにことした。
 オーマは微笑みで返し、それから視線を正面に向けた。茶屋の軒先から見えるユニコーン地方ののどかな風景……その先に、くだんの白い塔はある。
 ファルディナス兄弟と呼ばれる二人の賢者が住まう城。
 軽く100年は前からそこに住んでいるというが、その姿は全く老いていないとも言う。

少年:「もしかして……おじちゃん、あの塔に行くの?」
オーマ:「ん?」

 少年は恐る恐るという感じにオーマを見上げた。
 オーマは半分苦笑めいた笑みを浮かべる。

オーマ:「そのつもりで来たんだがね」
少年:「じゃあ、あのおっきな包みは、ファルディナス兄弟へのお土産ー?」
 
 少年はオーマが担いできた、今は地面の上におろしてある巨大な包みを指差した。その高さは1メートルはありそうだ。

オーマ:「勘がいいじゃねーか」
少年:「何が入っているの?」
オーマ:「なんだと思う?」

 面白そうにオーマは笑う。少年は、次々と「賢者さんだから本!」とか、「宝物!」と次々と考えては口にした。
 オーマは一つずつ楽しそうに聞いては、それを否定していった。
 「それじゃあ何?」と怪訝そうに首を傾げる少年に、オーマはその耳元に口を近づけてゆっくりと教えてやった。

少年:「えー!」
オーマ:「じゃあ、そろそろ行くな。坊主、楽しかったぜ、ありがとう」

 目を丸くしている少年を残し、オーマは再びその包みを抱え上げて歩き出す。
 少年は気を取り直したように、その背後から、大きく手を振って見送ってくれたようだった。



 ???:「また誰か来たみたい」

 白の空間。柱も壁も調度も白で統一された純白の空間の中に、青い瞳が瞬いた。
 揺れる柔らかそうな金髪の細い髪を持つ青年は、どこか幼さの残る表情を少し意地悪な笑みに変えた。
 彼がまるでおもちゃをいじるように楽しそうにいじっているのは、直径30センチほどの大きな球だった。
 その中に浮かび上がった風景は、塔に続く道を巨大な包みとともにのしのしと歩いてくる、大男……オーマ・シュヴァルツの姿が映っていた。

???:「今度は何人?」

 答える声は静かに響いた。漆黒の髪の青年は揺り椅子に腰掛け、膝に乗せた分厚い書物から視線を変えぬままだ。

???:「一人だよ、兄さん。男。……とっても大きなね。あの人、この塔を揺さぶって、僕らを落とそうって思ってるかもしれないね」
 
 金髪の青年は、漆黒の髪の青年を兄と呼んで、ふわりと微笑んだ。
 兄に見せる表情は無邪気そのものといった感じである。兄はその弟の為に、面倒そうに書物から顔を上げた。眼鏡に指をやり、小さく吐息をつく。

兄:「それは大変だ」
弟:「どうしようか? 僕、追い払っちゃってもいい?」
兄:「どんな人かもわからないのに?」
弟:「機嫌……悪いの」

 弟は悪戯っぽく微笑み、兄を見上げた。

弟:「だって……兄さん、もう3日もその本ばっかり相手にして、少しも構ってくれないんだもの」
兄:「ん……」

 兄が何か告げようとする前に、弟は明るく笑いながら駆け出していた。
 少し困らせてあげられたらそれだけで充分だから。
 ご機嫌が少し斜めなのは、あの旅人をいじめることで解消しよう。兄に当たるなんて、とても出来ないし。



オーマ:「……ふぅ」

 丘の上を登りきり、塔の真下についた頃にはすっかり日も高くなっていた。
 もう夏は過ぎていたが、それでも噴き出した額の汗をオーマは肘で拭う。荷物はぎっしりと重かったが、それは大して苦にならない。
 ただそれを用意するために早起きしたのが、体力を微かに減少させた原因かもしれないといまさら思った。
 遠見の塔。
 その塔は、そんな風に呼ばれていた。
 名前から連想するならば、この塔に住んでいるという兄弟は、遠くを見渡せる何かを持っているということだろうか。
 その塔の窓に現れることはめったに無いという……つまり、外を見渡さなくても済むということだ。
 天球……。
 オーマは象牙のように白い塔を見上げて、その単語を連想した。
 この塔にある、彼が得たいもの……。
 ウォズ封印の為に……これ以上の被害者を出さぬためにも、ソーンのあらゆる状況を素早く的確に知る方法が欲しかった。
 もうこれ以上、奪われる命を見たくない……。
 彼らが……しかし、力を貸してくれるかどうかは定かでないのだ。

 一瞬でもオーマがそう思い、シリアスな表情を見せたときだった。
 彼の耳に、小さく鈴の音が聞こえた。
 見ると、塔の中から一匹の白い猫が歩いてくる。
 
オーマ:「?」

 この塔に住み着いてる野良猫だろうか。
 まさか。
 甘えるような鳴き声を出しながら、猫はゆっくりとオーマに近づいてきた。
 オーマは眉をしかめ、その猫を見つめる。
 青い瞳の……どこか確信犯的な視線が気味の悪さを若干感じさせる。
 彼の中で危機意識が一瞬で構築された。ウォズか!?
 
 にゃ〜ん。

 猫はそっとオーマの足元にたどり着いた。オーマは緊張を解かない。確信がもてるまで、手を出せない……。
 しかし。
 青い瞳の金色の毛並みの子猫の口元が一気に耳元まで裂けた。
 小さな猫の体が突然巨大に変化する。その大きさはあっというまにオーマを越えた。
 両方の前足の爪を広げ、オーマに被さらんとする。鋭い爪の刃は、宝石のように輝き、その表面は鋭利だった。

オーマ:「……」

 しかし。
 オーマは動かなかった。
 ただ、その猫を見上げ、しばらくしてにやっと笑った。

オーマ:「これは元気な子猫だな」
猫:「……我ガ……怖クナイノカ……」
オーマ:「……なんの悪戯か知らんが……こんな子供騙しじゃな……」
 
猫:「…………」

 少しも怖がらないオーマの様子に、巨大猫は大きな溜息をついた。

猫:「オ前ノ名前ハ……?」
オーマ:「オーマ・シュヴァルツ……ヴァンサーだ。おまえは……この塔の関係者か?」
猫:「……」

 巨大猫の姿はみるみる縮んで、元の大きさに戻った。そして、ひょこひょこと塔の方に向かっていく。
 ついてこい、という意味か?
 オーマはその後をゆっくりと歩き出した。
 そして、気づいたようにその猫の背中に向かって話しかける。

オーマ:「おい、おまえの飼い主かなんだか知らんが……土産があるって伝えてくれるか?」
猫:「土産?」

 猫が振り返った。
 
猫:「土産って何?」

 さっきとは違って、人間に近い声だ、とオーマは気づいた。

オーマ:「弁当だ」

 にやりと笑って、オーマは巨大な包みを掴みあげる。

オーマ:「下僕主夫特製親父ラブマッスル弁当豪華十二段仕様だ。お前の飼い主に伝えてくれ……その塔の中じゃとても食べられないものばかりだと思うぜ?」
猫:「…………………………」
 
 猫は瞳を潤ませた……ように見えた。
 そして、塔の中に一気に駆け込んでいく。「お、おいっ」オーマも叫んで、慌ててその後を追った。
 白い塔の中へ……そして足を踏み入れていく。
 凹凸など全くないその大理石のような白い床の表面に靴をつけた時だった。

弟:「……そこまで」
 
 猫が消えていった壁の方向から、腕を組んだ憮然とした表情の金髪碧眼の少年が現れた。

オーマ:「おおうっ! 誰だ」
弟:「……猫の飼い主」

 しかし猫の姿はもう周りにはない。
 彼は溜息をついて、オーマをもう一度見つめた。目つきが悪いのは、反抗期の少年が拗ねて見せるときのようだ、とオーマは思った。
 どちらかというと少女に近い可愛らしい顔立ちの少年だ。

弟:「僕の名前は、ルシアン・ファルディナス……この塔に住まう者だ」
オーマ:「何!いきなり姿見せてもらえるたぁ、ありがてぇな」

 オーマは笑った。
 この塔の住人に出会うということだけでも、とても大変なことだと聞いていたのに。
 ルシアンはオーマの抱えてる荷物をじっと見つめている。そして腕を組んだまま、オーマに告げた。

ルシアン:「それ……食べ物なの? どんなものが入ってるの?」
オーマ:「……みたいか?」

 こくこく、と素直に頷く彼に、少々勿体ぶりながら包みをときはじめるオーマ。ルシアンは熱心にそれを覗き込んでいる。
 やがて開かれた風呂敷包みの中。

 りんごのウサギ!
 たこさんウインナー!
 三角おにぎり!

ルシアン:「……こ、これはっ!!!」
オーマ:「上手いぞ〜。……さては、おまえ、手作り料理に飢えてるな?」
ルシアン:「だって、こんな塔だよ!? 食べ物に関しては……いつも簡素で……。うわぁ……これすごい!!」

 ルシアンは切り込みの入ったニンジンの煮込みを手に持ち、ふるふると震えた。

オーマ:「喰っていいぞ? 料理は見るもんじゃねぇ」
ルシアン:「に、兄さんにも見せないと! オーマ、こっちに来て!! 弁当忘れないで!」
オーマ:「おお?どこ行く??」

 螺旋階段とは反対方向の壁の方へと駆け出すルシアンを追って、オーマは包みからむき出しになった十二段弁当を両手に抱えて、その後を追った。
 ルシアンは白亜の壁の方向へ飛びこむように駆ける。その先に何もあるようには見えない。
 ……ぶつかる!と後から追いかけるオーマが心配した刹那、ルシアンの前の壁が突然開いた。

 え、えれべーたー?

 どういう仕組みか定かではないが、オーマもその後に続いた。壁が閉まり、その奥の部屋が上に引き揚げられていくのがわかった。
 狭い壁の向こうの部屋の中に、弁当の甘い香りが広がる。
 ルシアンは小さく恨めしそうな表情をオーマに向けた。怪訝な表情でオーマが見下ろすと、ルシアンの片手は自分の腹に当てられている。
 ぐー、と小さな音が聞こえた。

オーマ:「100年も……喰ってなかったみてぇだな」
ルシアン:「食べないってことはないけど……最低限食べてるだけだからね……。兄さんは食べないこともある。食べなくても死なないし……」
オーマ:「ほう?」
ルシアン:「……あんまり聞かないで。ボクも言わないようにする……」

 一人で言ったのに、拗ねたようにまたルシアンは唇をとがらせた。

 やがて部屋の移動はとまり、再び目の前の壁が開いた。
 そこは、白亜の空間だった。広々とした広間の奥には、円を描くように広がった白の本棚がどこまでも続いてるように見えた。
 広間の中央には、巨大な水晶があり、白い柱がある。
 その柱の影に揺り椅子が動いているのが見えた。床に広がる長い黒髪と共に。

ルシアン:「兄さん!」
 
 ルシアンは駆け出すと、その柱の向こうの人物に近づいた。
 記憶が確かならば、ルシアン・フェルディナスの兄の名前は、カラヤン・フェルディナスだった……。
 オーマは思い出し、様子を見つつ、弁当を抱えなおす。

カラヤン:「なんだい? つれてきてしまったのかい?」 

 あきれたような声。
 けれどけだるそうな様子ながらも、カラヤンはゆっくりと揺り椅子から立ち上がると、柱の向こうからゆっくりと歩いて現れ、オーマに一礼した。

カラヤン:「遠見の塔にようこそ。……カラヤン・フェルディナスと申します」
オーマ:「……オーマ・シュヴァルツだ……」
ルシアン:「挨拶なんていいって!ほら、すごいいい匂い!! もう早速食べようよ!!」

 はしゃいでルシアンはオーマの腕から5段分だけ弁当を奪った。



カラヤン:「……米というのは、気候に大きく影響されます。西南から吹く風の場合は湿り気が多く、北西から吹く風には気をつけたほうがいい……」
オーマ:「ふむふむ……」
ルシアン:「美味しいー!この卵焼き、何が入ってるの!?」
オーマ:「クリームとソースが多少な……気に入ってもらえるたぁ、嬉しいぜ」
カラヤン:「卵……それはどこの産地の鶏のものですか?」
 
 オーマの弁当はかなり兄弟に喜ばれたらしい。
 ぶつぶつと呟き、いろいろ思い描きながら少しずつ口にする兄のカラヤンと、ほお張るようにして表情豊かに食べているルシアン。
 二人は成人はしているようであったが、オーマには子供のようにしか見えなかった。
 こんな塔の中にいて、世間擦れしてないせいかもしれない。

オーマ:「……こんな塔の中にいて、お前ら、何してるんだ、いつも」
カラヤン:「本を……読んでますね、いつも……。そして書いてもいます」
ルシアン:「僕は世界を見てる。この世界で起こっていることを何でも知っておきたいんだ」
オーマ:「ほう……」

 オーマは二人を見つめた。
 二人の話を聞いていると、弟は情報のアンテナであり、情報を編纂するのは兄の役目……そういうことらしかった。
 いろいろなことに興味を覚え、弟は水晶に映る世界の話を兄に語る。語りながら、古いことは忘れていく。覚えておくのは兄の役目だ。兄は、弟の語る世界を記憶し、膨大な知識と情報を照らし合わせていく。

オーマ:「ウォズのことも……それじゃ知ってるのか?」
ルシアン:「勿論」

 ルシアンはにっこり微笑んだ。その後ろでカラヤンも慎重に頷く。
 その表情の違いをオーマは苦笑して見つめた。

ルシアン:「ヴァンサーのことも知ってるよ」
カラヤン:「貴方が殺生をしないヴァンサーであることも知っています……」
オーマ:「……そうか」
ルシアン:「あ、そうなんだ! オーマが前に兄さんが言ってたヴァンサーなんだね」
カラヤン:「忘れていたのか……。ルシアンが私に教えてくれたのだよ?」
ルシアン:「えへへ」

 ルシアンは明るく笑った。
 悪戯心はあるものの、この少年は無垢なのだ。オーマは思った。
 ルシアンが記憶に頼ってものを考えるようになれば、カラヤンは正しい情報を得にくくなる。偏見や思い込みを持たない無垢な精神が重要なのだろう。
 そう思いながらふとカラヤンに視線を移すと、カラヤンは静かに頷いていた。

カラヤン:「オーマさん、貴方は天球を求めて、この塔に来たのですね……。ウォズと戦う為に……」
オーマ:「いいや……これ以上の犠牲を防ぐためだ」
カラヤン:「……そう、そうですね……貴方は殺さない……」
 
 静かに微笑むカラヤン。

オーマ:「ああ……まあな」
カラヤン:「しかし、あの天球は一つしかないのです……」
オーマ:「あれじゃなくてもいいんだが……簡易なものでもなんでも……」
カラヤン:「……困りましたね……」

 カラヤンはそっと顎に白い指を当てた。
 ルシアンはそんな兄をにこにこと眺める。
 しかし、その瞳が急に丸くなった。

ルシアン:「あ、あれ、何?」
カラヤン:「えっ?」
オーマ:「……!」

 オーマは立ち上がった。塔のベランダのところに、何か黒いものが止まっていたのである。
 それは邪悪な空気を放っていた。大きさは猿くらいあり、そして背中には大きな翼を生やしていた。
 彼らに見つかったことを知ると、それは突然飛び上がった。

オーマ:「逃げろ!!あれはウォズだ!!」

 オーマは叫ぶ。
 その狙いが兄弟にあることを彼は一瞬で知ったのだ。兄弟を庇うようにして立ち上がり、駆け出すオーマ。
 彼の手元に具現化していくエネルギー。
 光を放ちながら、巨大なランチャーが現れる。
 
ルシアン:「兄さん奥に!!」
カラヤン:「待って……ルシアン」

 その背後で兄の腕を引くルシアンと、それを制止するカラヤンがいた。

ルシアン:「どうしたの?」
カラヤン:「あの人……オーマさんの働き……見せてもらおうじゃないか……」
ルシアン:「兄さん……」

 肩に担いだランチャーが炎を放つ。塔の狭い窓を抜け、ベランダのウォズにまっすぐに向かっていく。
 しかし、ウォズは空に逃れた。
 オーマの視界から、それが消えた次の刹那。
 バリバリバリ!!と裂けるように目の前の壁が破壊された。
 背中で兄弟が悲鳴をあげるのを聞く。
 一瞬、兄弟に視線を移すオーマ。二人はさっきと同じ場所で身を屈めている。怪我はしていない。

 「ケケ」

 耳元で音がした。
 先ほどの化物がオーマの真上にいた。ランチャーをむけ……間に合わない。振り下ろされる黒い爪。オーマは身を翻し、肩の肉の一部を削られたが、床に転がり致命傷は避ける。

オーマ:「くそっ……」
 
 痛みを認識するよりも先に、頭を動かし敵の姿を探す。
 トドメを刺さんと彼に覆いかぶさってくるウォズ。オーマは再びランチャーを構え、そして照準をずらした。
ウォズ:「目をやられたかっっ……ケケ」
 まっすぐ飛び込むウォズ。
 しかし、オーマはニヤリと笑った。
 そして、懐に飛び込むウォズめがけ、ランチャーを振り下ろした。

 がっつーん!!!!

 ぴくぴくと床にのびるウォズ。
 オーマはそれをとっとと封印して、ようやく大きく息を吐いた。



カラヤン:「……それほど深い傷ではありませんね……よかった」
ルシアン:「オーマ、強いんだねっ。すごいやっ」
オーマ:「そうか?」
 
 カラヤンに治療を受けながら、ルシアンの賞賛を浴び、オーマは苦笑する。
 あのウォズの姿形を見て、カラヤンは深刻そうな表情を見せていた。聞くと、それは建物の飾りの一つにとても似ていたとういうのだ。
 もしかすると、ウォズはこの塔に潜み、いつか兄弟を殺そうとしていたのかもしれない……確信は無いが、その可能性も否定はしきれない……とオーマも思う。

カラヤン:「……オーマ」
オーマ:「ん?」
カラヤン:「あの天球は無理ですけれど、同じような働きを持つ鏡があります。ただ、一日に一度しか使えませんが……」
オーマ:「本当か!?」

 カラヤンはゆっくりと頷いた。
 1日に1度だけ、願った場所の風景を写すことのできる鏡なのだという。

カラヤン:「それ以外のことで、私達に何か出来ることがあればいつでもおっしゃってください。貴方ならばこの塔にいつでもいらっしゃることが出来るでしょう」
オーマ:「……それはありがたいな」
カラヤン:「私達が生きていれば……ですが」

 カラヤンはそう呟き、優しく微笑んだ。
 オーマはカラヤンに心配いらねーさ、と納得させるようにその肩をそっと抱きしめてやるのだった。

オーマ:「あ、そうだ……えっとな」
カラヤン:「はい」
オーマ:「……聖都公認の腹黒同盟っていうのがあるんだが……えーと」
カラヤン:「知ってますが……入りませんよ?」
オーマ:「……そうだなぁ」

 兄弟が腹黒でないという確信はない。これでも100年は生きてるタヌキ達である。
 けれど、そのような今のところ、そのような尻尾はつかめなかった。
 ……不覚。
 オーマは苦笑した。



少年:「あ、おじちゃんだー!!お帰りなさーい!」

 夕暮れの丘。
 肩の包帯を抑えながら、丘から降りてくるオーマの姿を、先ほどの茶屋の少年が出迎えてくれた。

少年:「お弁当の包みないんだね! もしかして賢者様に会えたの?」
オーマ:「ん? まあ、会えたかな……?」
少年:「すっごーーい!!」
オーマ:「すごいだろう」
少年:「どんな人たちだったの? 教えて教えてー!?」

 足元にまつわるようにして、オーマと一緒の帰路を楽しむ少年。
 少年を見下ろして、そうだなぁ、と呟きながら、ふとオーマは背後の塔に目を転じた。

 なんとなく塔の上から、そんなオーマを見つめて微笑みあっている青年達の様子が思い浮かぶのだった。


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+++ライター通信+++

 このたびはご依頼いただき誠にありがとうございました。
 しかし、大変に納期が遅くなり、ご迷惑をおかけしてしまいました。本当に申し訳ありません。

 楽しく書かせていただいたのですが、内容はいかがだったでしょうか。オーマさんの素敵なお人柄をうまく出せたかどうか、少し心配であったりもします。
 またお会いできたら嬉しく思います。オーマさんのこれからのご活躍を期待して、応援しつつ。

 それでは。

                                   鈴 隼人