<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


闇夜の花

▲序

 白山羊亭、準備中。そのような看板を掲げ、ルディアは店内の清掃をしていた。鼻歌交じりに、楽しく。
「あら」
 そんな中、カラン、という音をさせて一人の少女が中へと入ってきた。金色のふわふわとした髪に、青の綺麗な目。年齢は10歳くらいであろうか。
「……ここで、依頼を出して貰えると聞いたのだが」
 発せられた言葉は、その鈴を転がすような声とは似つかわぬ、きびきびとしたものであった。一瞬ルディアは呆気に取られ、それから笑顔になる。広い世の中、色々な存在がいてもおかしくはない。見た目が少女でも、本当は何千歳も生きている存在だというのも、無い話でもない。
「ええ。どういったご用件ですか?」
「ルワフの洞窟に咲くという、闇夜の花、というのは知っているか?」
「……名前だけならば」
 ルディアはそう言い、記憶の糸を辿る。ルワフの洞窟は、それなりにモンスターが存在し、それなりに短い洞窟で、その奥には闇夜しか咲かぬ花があるという。それが、闇夜の花。密やかに咲くその花を見ると、悩み事がふわりと和らいでいくのだという。
「そこに、是非とも連れて行って欲しいのだが」
「ルワフの洞窟に、ね。……そうよね、確かに一人じゃちょっと危険……かしら?」
「大いに危険だ。私はこの通り、まだ10歳の子どもでしかないのだから」
「実年齢も?」
「そうだ。……もっと年をとっていると思ったか?」
「あはは……」
 ルディアはとりあえず、それだけで返事をした。少女は苦笑し、小さく「あ」と言って微笑む。
「そうえいば、まだ名を名乗っていなかったな。私はリン」
「リン、ね。……それにしても、一体何の悩みがあると言うの?」
 ルディアが尋ねると、リンは遠い目をしながら小さく溜息をつく。
「この言葉遣いだ。……どうも年齢にそぐわないと、常々思っていてな」
「……確かに!」
 妙な納得をするルディアに、リンは苦笑する。
「ともかく、明日またやって来る。その時に同行者を紹介してくれると助かるんだが」
「分かったわ。また、明日ね!」
 ルディアにペコリと礼をし、リンは店から出ていった。ルディアは「よし」と小さく気合を入れ、ポスターを制作するのであった。


▲集

 白山羊亭には、合計六人の男女が集まっていた。リンは皆を見渡し、ぺこりと礼をする。
「すまないな、私が不甲斐無いばかりに」
「そんな事有りませんよ」
 眼鏡の奥の青い目を細めながらにこっと笑い、アイラス・サーリアスはそう言った。首の後ろで束ねた青の髪が、さらりと揺れる。
「そうそう。嬢ちゃんは俺にがっつり守られていりゃいいからな!」
 がはは、と豪快にオーマ・シュヴァルツは笑いながらそう言った。黒髪をがしがしとかき、赤の目を優しくリンへと向ける。
「行くなら、護衛ぐらい手伝うぞ」
 刀伯・塵(とうはく じん)はそう言い、茶色の髪の奥にある黒の目でじっとリンを見つめ「落ち着いた嬢ちゃんだな」と妙に感心する。
「闇に咲く花っていうのも面白いね。私もご一緒させてもらおうかな」
 にこにこと笑いながら、白槍牙・蒼瞑(はくそうが そうめい)は言う。銀の髪から見える青の目は、何とも楽しそうにリンを見つめている。
「それをモチーフに使って、タペストリーでも織るのもいいかもな」
 シェアラウィーセ・オーキッドはそう言って青の目を細めた。織り上げたタペストリーの納品帰りなのだという。黒の髪をさらりと揺らし、シェアラウィーセは微笑んだ。
「それにしても……どうして悩みの緩和になるんでしょうか?聞いた事は、あるんですけど」
 桜色の髪の奥にある黒の目で、じっと流雨(るう)は考え込む。
「理由は私にも分からない。だが……少しでも緩和してくれるというのならば、見てみる価値があると私は思うんだ」
 リンはそう言い、照れたように笑う。
「別にそのままでもイケイケだと思うがなぁ」
 オーマはうんうんと頷きながら言う。そしてぐっとリンの両手を掴み、にかっと笑う。
「まあ、俺ががっつりとそいつをげっとしてやるからな!任せとけ!」
「あ……ああ……」
 勢いに押され、思わずリンは頷く。
「ここからルワフの洞窟は、2時間くらいかかります。そろそろ出発しませんか?」
 流雨がそう言うと、皆頷きながら立ち上がる。
「そうだな。帰り道が暗くなってからでは、危ないからな」
 塵がそう言うと、リンは小さく微笑む。
「すまないな、色々」
「あー謝らない謝らない。別にリンが悪い事をしているんじゃないし、私らは別に強制された訳じゃなくて自発的に行く訳だし」
 蒼瞑はそう言い、リンの頭を優しく撫でる。
「そうそう。闇夜の花にも興味あるしね。その機会を与えてくれたって思えば、逆に嬉しいかもしれないし」
 シェアラウィーセもそう言いながら、にっこりと笑う。
「さあ、行きましょうか。リンさんには傷一つ付かないように、全力で守りますからね。安心してください」
 アイラスはそう言い、リンを安心させるようにそっと微笑む。リンもそれにつられて、そっと微笑んだ。
「よっしゃ、行くぜ花の洞窟!」
 オーマが張り切ってそう言った。それは間違いではなかったが、一向は何とはなくの違和感を得ずにはいられなかった。


▲道

 ルワフの洞窟に至るまで、一本道だった。人の足によって踏み固められた道は、妙に歩きやすい。
「なんだか……歩きやすいですね」
 ぽつり、とアイラスが漏らす。
「本当だねぇ。私はもっと獣道みたいな歩きにくい道を想像していたんだが」
 シェアラウィーセはそう言いながら、そっとリンを見る。リンの足でも、歩きやすそうだ。
「嬢ちゃん、疲れたらいつでも言って良いんだぞ」
 塵がリンに言う。他の人に比べ、リンはまだ幼い。疲労も格段に多いはずだ。蒼瞑はこくこくと頷き、良い事を思いついたかのように悪戯っぽくにやりと笑う。
「そうそう。なんなら塵が担ぐし」
「俺か」
 塵は一応蒼瞑に突っ込み、小さく「ま、いいけどよ」と付け加える。
「なんならこの俺の肩車でも良いんだぜ?俺の偉大な愛で包み込むし!」
 オーマが大きく両手を広げ、リンに向かってにっこりと笑いかけた。
「オーマさん、リンさんが困ってますよ」
 流雨がオーマを諌める。リンはそんなやり取りを見て、くすくすと笑った。
「そうそう、その顔その顔!嬢ちゃんはずっとその顔をしていればいいんだぜ?」
 オーマが流雨に諌められた事も忘れ、にかっと笑った。
「オーマさん……笑われてますよ」
 ぽつり、とアイラスが突っ込む。
「きっと、たくさんの人が悩みを緩和しようと足を赴いたんでしょうね」
 踏み固められた道を見つめ、流雨が言った。恐らく、たくさんの人が悩みを抱え、それを緩和するという闇夜の花を求めて道を作ったのだ。
「悩みっつーもんはつきねぇからな。生きている限り」
 塵はこっくりと頷き、言う。
「まー仕方ないでしょ。勿論、悩みなんて無い方が全然いいけど」
 蒼瞑はそう言い、懐から小さな皮袋を取り出す。
「何だい?それは」
 シェアラウィーセが蒼瞑の取り出した皮袋に気付き、尋ねる。
「飴爆弾」
 蒼瞑はそう言ってにかっと笑い、リンに手渡す。リンはそっと皮袋を開け、中から小さな色とりどりの飴の中から一つ取り出し、口に入れる。
「疲れたときには、甘い物が良いって言いますからね」
 アイラスが小さく「なるほど」と言いながら頷く。
「しまったぁ!俺も何かしら持ってくるべきだった!」
 オーマが何故だか悲しそうに叫ぶ。リンは小さく笑い、一人一人に皮袋の中の飴を一つずつ手渡していく。
「せっかくだから、皆で」
「嬢ちゃーん!」
 感極まったらしいオーマは、がしっとリンを抱き締める。
「中々気が利くな」
 シェアラウィーセが口に飴を入れながら言うと、蒼瞑はにかっと笑う。
「ぱぱ、ですから」
「……俺も一応そうなんだけどな……」
 ぽつり、と塵が呟く。ついでに言うとオーマもそうなのだが、リンに感動を伝えるのに必死でその呟きには気付かなかったようだ。
「あ、皆さん。あれじゃないですか?」
 アイラスはそう言い、目の前の少し開けた場所を指差す。その向こうに、洞窟の入り口が見えた。
「あれですね、間違いなく」
 流雨が、頷きながらそう言った。それを受け、オーマがふわりとリンを抱き上げる。
「よっしゃ!行くぞ、嬢ちゃん!」
 一瞬リンは驚くが、すぐにふわりと笑う。そして向かいかけ、全員の足が止まった。
「……あれ、おかしくないか?」
 一番に口を開いたのは塵だった。
「おかしいねぇ。明らかに木じゃないな」
 シェアラウィーセも頷きながら同意する。
「通常、木って言うのはあんな風に動かないですし」
 アイラスが首を傾げながら目の前のものを訝しげに見つめる。
「植物として、色々間違っています」
 流雨がきっぱりと言い放つ。
「……ありゃあ……何だ?」
 オーマはリンを抱き上げたまま、呆然として呟く。
「あはは!ちょっとおかしいねぇ、あれ!」
 一人大笑いの、蒼瞑。今、皆の前には木が一本、立っていた。否、立っていたのではない。うにょうにょと枝を動かし、また別の枝はしゅっしゅっとボクサーのように架空の敵とパンチをし、木の根はリズミカルにステップを踏んでいる。総合して一言で片付けるのならば、変。
「……あの木も、悩み事があるのか?」
 ぽつりとリンが呟き、暫く間を置いてから皆が「いやいや」と突っ込む。
「あるとするなら……木が木としてちゃんとしていないという所ですかね」
 ごくりと喉を鳴らしながら、アイラスが真面目な顔で言う。
「そうですね。本来、木というものはあのような動きはしませんから」
 真面目な顔で、流雨も納得したかのように頷く。
「いや……二人とも、そういう事を真面目な顔で言うのはやめてくれないか?」
 塵が申し訳無さそうに二人に申し出る。
「にしても、愉快な光景だねー。私も一緒になって踊りたくなるくらい」
 蒼瞑は妙に楽しそうに木を見つめている。
「害がなければ、あれはあれで有りだとは思うんだけどねぇ」
 シェアラウィーセはそう言いながら、木を見つめる。踊っているのは構わないが、あのボクシングスタイルがなんとも気になる。
「心配すんなよ、嬢ちゃん!俺が必ずがっつり守ってやるからな!」
 リンをぎゅっと抱き締め、オーマは力説する。リンはただ「はあ」と力なく答えるだけだった。


▲戦

「とにかく、通していただけないか言ってみましょうか」
 アイラスはそう言い、木に向かって行った。
「あー待て待て。俺も一緒に行くからよ」
 塵が慌ててそれを追いかける。
「待って下さい。あの珍しい木を私も是非」
 その後を、流雨が慌てて追いかけていく。かくして、アイラス、塵、流雨の三人は不思議な木の元へと走っていったのだった。
「すいません!」
 アイラスは気に向かって言い放つ。その途端、様々な動きをしていた木が、ぴたりと全ての動きをやめる。
「おお、こっちの言う事がわかるのか」
 塵が妙に感心する。
「植物は人の言葉を理解するとは言われていますが……珍しいですね」
 流雨も同じく感心する。
「そこにいらっしゃると、ちょっと邪魔なんですけど」
 アイラスが言うと、木がぷるぷると震えだした。悔しいのか、悲しいのか。とりあえず『邪魔』と言われた事が嫌だったのだろう事は予想できる。
「……結構直球ですね」
 流雨がぽつりと漏らす。
「事実だけどな」
 塵もぽつりと漏らす。と、その言葉が聞こえたのか、木は枝を震わせてどすどすと根の部分で歩いて三人の方に近付いてきた。
「歩いてますよ、木が」
 流雨が感心したように言う。アイラスと塵は感心しつつも、それどころではないのでは、と思わずにはいられない。
 木は近付くと、大ぶりの枝を三人めがけて振りかざしてきた。それをそれぞれ寸前で避ける。
「結構、短気だな」
 ぽつりと塵は呟き、懐から短刀を取り出して枝に斬りつける。
「本当ですね。もう少し穏やかでもいいと思うんですけど」
 誰の所為で怒ったのかはとりあえず置いておき、アイラスは釵を取り出して攻撃してくる木の枝を受け止める。
「……燃やせば、早いですが……」
 一瞬、契約している火の精霊の魔術を使おうとしたが、流雨はそれをやめておく。その代わりに、契約している氷の精霊の魔術を放つ。魔術は正確に木の根のところに放たれ、その根を凍らせる。
 根が凍ってしまった所為で、ぐらりと木の重心が崩れた。その隙を狙って、塵は短刀で凶器となりうる枝を切り落とし、アイラスは釵を使って木の動きを止めた。
「……大人しく、どけていただけませんか?」
 アイラスは口元に笑みを浮かべ、木に向かって問い掛ける。
「……どけなかったら、木屑になるといわんばかりだな」
 ぼそり、と塵が呟く。
「……まあ、火の魔術ならば一瞬で終わったでしょうけど」
 ぽつり、と流雨も呟く。
 木は大人しくなった。何度もふりふりと枝を振る姿は、まるで白旗をあげたかのようだ。アイラスはにっこりと笑い、釵をどける。流雨も火の魔術を使い、凍らせていた根をゆっくりと溶かしていった。再び動けるようになった木は、リズミカルな動きをしたまま、森の中へと去っていってしまった。
「やれやれ、だな」
 塵が言うと、流雨が「そうですね」と言って頷く。そしてアイラスはリンと一緒にいるだろう三人の元へと声をかける。
「もう大丈夫ですよー」
 オーマが何かを言いかけていたらしいのだが、その言葉を遮る形で、アイラスが読んだようだった。オーマは最後まで言えず、小さく「ちぇ」と呟くのだった。


▲花

 洞窟の中に入ると、妙に暗く感じた。明るい所から来たのだから、当然といえば当然なのだが。
「灯りをつかいましょう」
 流雨はそう言い、持ってきた灯りに火を灯す。
「俺も灯して、こいつら行かせて……」
 塵はそう言いながら灯りに火を灯し、猫と蝙蝠の式神を先行させる。と同時に小さく「あ」といい、持ってきた荷物の中から厚手の外套を取り出してリンにそっと着せる。
「リンはこれを羽織っておけ。洞窟の中は、冷えるからな」
「有難う」
 リンはぺこりと頭を下げる。塵はにこにこと笑い、リンの頭をそっとぽんぽんと叩く。
「いよいよ、闇夜の花とのご対面か」
 シェアラウィーセが、そっと呟く。
「おう、いよいよ嬢ちゃんの望みも叶うってことだな!」
 オーマは自分の事のように嬉しそうに言う。リンが照れたように微笑む。
「勿論、気をつけるに越した事は無いですけどね」
 アイラスが皆に向かって言う。最後の最後まで気を抜かないようにした方がいいのだと、思っているのだろう。
「そうです。それに……」
 流雨は何かを言いかけ、口を噤んだ。向こうから、塵の放った式神たちが帰ってきたからだ。
「別に何も無いってさー。向こうに花が咲いてるくらいって」
 塵の元に返ろうとした猫の式神をひょいっと持ち上げ、蒼瞑が言った。塵は少しだけ嫌そうにしていたが、蒼瞑のにっこりと笑った顔に小さく溜息をつくだけで終わってしまった。
「……あ」
 暫く歩き、リンは足を止めた。真っ暗な筈の洞窟で、灯りしかない筈の洞窟で、光が一箇所だけ降り注いでいたのだ。
「あそこ……か?」
 ぽつり、と塵が呟くと同時に、リンは走り出していた。ただただ真っ直ぐに、光の場所へと向かって。
 光が差していた場所にあったのは、蓮華のような形をした石だった。ほんのりと赤みを帯びた石は、天井にほんの少しだけ出来た穴から降り注いでくる光によって、照らされているのだった。
「……綺麗だねぇ」
 ほう、とシェアラウィーセが溜息を漏らす。
「どうしてこのような形なのかは分かりませんけど……花粉は無さそうですね」
 流雨がじっと見つめながら呟く。
「そうか……自然に出来た花、という訳だな」
 塵が感心したように呟く。
「いやー綺麗だねー」
 蒼瞑は花をじっと見つめ、そっと微笑む。
「悩みが緩和される理由、何となく分かりますね」
 ぽつり、とアイラスが漏らす。
「すまんな、嬢ちゃん。これはあげられそうにもないようだぜ」
 オーマが苦笑しながらリンに向き直る。リンはじっと花を見つめ、それから皆の方を振り返る。
「……この花から、声がしないか?」
 リンの言葉に、皆が花の傍に近寄る。そしてリンがそっと手を伸ばした瞬間、強烈な光が辺りを包み込んだ。目を開けていられぬほどの光であった。


▲想

 流雨は、ぽつりと立っていた。闇の中、何の灯りも無く。
「暗いですね……何か、灯りを」
 流雨は持ってきたはずの灯りを探し、それが見つからない事に気付く。ただの暗い闇の中に、ぽんと放り込まれてしまったようだ。
「本当に……漆黒の闇、ですね」
 漆黒。その言葉を自らが発し、それから大きく溜息をついた。漆黒の闇、自らの瞳の色。流雨のもともとの目は、髪と同じく桜色だ。それなのに、魔法陣を入れている所為でその目は黒くなってしまっている。
『変なのー』
 幼少時、幾度となく言われた言葉を思い返す。何度も中傷され、何度も心を痛め、何度も外との接触を断った。
(私の瞳が、桜色のままならば……。いえ、それは仕方ないと分かっているのですが)
 流雨はそう思い、そして突如自らの体を抱き締めてぶるっと震えた。
「もし……この瞳が桜色のままで……黒くなくなってしまったら」
 それは、魔方陣が目から失われた事を意味する。元々持っている桜色の目は手に入るだろう。だが、そうすれば魔方陣は失われるのだ。流雨は、そうなってしまった時の自分が全く想像つかなかった。どうしていいのかすらも、分からないだろう。
「私はその時、どうすれば……」
 と、その時だった。柔らかな赤い光が、流雨を包んだのだ。暖かく、優しい光。氷が溶かされていくかのような、温もり。
(別に……そうなると決まった訳じゃないし……)
 流雨はそっと微笑む。今抱えるこの悩みに対して、少しだけ緩和されたことを実感しながら。


「……何だ?今のは」
 額を抑えながら、塵が呟く。
「……あれが、悩みを緩和する状態なんでしょうか」
 アイラスが小さく溜息をつきながら言う。
「だろうな。……何だか、いろいろな事がいけるような気がしてきたぜ」
 こくこくと頷きながら、オーマが同意する。
「不思議ですね。どうしてあのような現象が……」
 流雨はそう言いながら花を覗き込んだ。
「いいなー。皆何かしら見たって事か」
 何故だか羨ましそうに蒼瞑が言う。
「本当だ。……結局、私も見てないしな」
 シェアラウィーセも何故だか羨ましそうに言い、それからそっと微笑んだ。
「で、リン。どう?」
 シェアラウィーセに言われ、リンは皆のほうを振り返る。
「……大丈夫。なんだか、どうでもよくなってきた」
「口調なんて、努力すれば変えられるかもしれませんよ」
 アイラスがそっと微笑む。
「そう、気にすることは無い。人それぞれなんだし、私もこういった言葉遣いだしな」
 シェアラウィーセがそう言うと、リンはこっくりと頷く。
「子どもらしくなくても、自分らしけりゃ問題ないぞ。本人の考え次第だが、別に悪い事じゃないしな」
 塵が言うと、リンは「そうだな」と言って微笑む。
「どうだ、嬢ちゃん!腹黒同盟に入らねぇか?ほらほら、パンフレットだ!」
 オーマが懐からなにやらパンフレットを取り出しながら言う。リンは苦笑しながら、「結構だ」と言って断る。オーマは少しだけ寂しそうだったが。
「種か何かあれば、採取したかったんですけど……ありそうもないですね」
 流雨はそう言って苦笑する。
「もし種があったら、これも使えたかもしれないのにねー」
 蒼瞑はそう言いながら、手荷物の中から細い鎖で出来た投網を取り出す。
「いや、種があったとしてもそこまで厳重に捕獲する必要は無いからな」
 塵が慌てて突っ込む。
「今回は本当に有難う。花はきっと……こうしてずっと綺麗に咲くんだろうな」
「そうでしょうね。……この石に元々ある力なのかもしれませんね。人の悩みを映し出し、緩和するような力が」
 流雨は興味深そうに花を見つめる。
「ま、いいじゃねぇか。こうして花も見れたし」
 塵が言うと、皆が頷く。
「そうですね。リンさんの悩みも、緩和されたようですし」
 アイラスが言うと、蒼瞑が「そそ」と言って笑う。
「綺麗だしねー」
「腹黒同盟には入ってもらえなかったけどな……」
 諦めきれないらしいオーマ。その言葉に、一同が笑う。
「そうだ、リン。私はこれから帰ってこの花をモチーフにしてタペストリーを織るから……そうしたら、貰ってくれるかな?」
 シェアラウィーセの言葉に、リンはにっこりと笑って「喜んで」と言った。
 実に子どもらしいような、満面の笑みで。

<闇夜に咲く花は今も光に照らされながら・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 1514 / シェアラウィーセ・オーキッド / 184 / 女 / 織物師 】
【 1528 / 刀伯・塵 / 30 / 男 / 剣匠 】
【 1649 / アイラス・サーリアス / 男 / 19 / フィズィクル・アディプト 】
【 1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39 / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り 】
【 2067 / 流雨 / 女 / 18 / 召喚士兼学者見習い 】
【 2254 / 白槍牙・蒼瞑 / 男 / 34 / 元鎧剣士(今遊び人) 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。この度は「闇夜の花」に参加いただき、本当に有難う御座いました。
 全体的にほのぼのとした雰囲気で、戦闘もそれなり、心理描写もそれなりに書かせて頂きました。如何だったでしょうか?
 流雨さん、初めまして。参加有難う御座います。流雨さんの表現などは大丈夫でしょうか?悩みについても少し立ち入ってしまってないかドキドキです。
 ご意見・ご感想等心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。