<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


第二回 エルザードバザー!【バザー編】

 エルザード内の様々なところにビラが撒かれ、張り紙が貼られた。 ここ白山羊亭もルディアによって一枚のビラが貼られる。
「またやるんだ……瑞慧ちゃん」
 壁に貼ったビラを見て、ルディアは苦笑する。

『▲月某日
 天使の広場において第二回エルザードバザーを開催致します。
 それに伴い、バザー出店者及びスタッフを募集しております。
 バザーの出店は飲食店、アクセサリー販売、歌、舞踏、その他なんでもアリですのでどうぞ振るってご参加下さいませ。
 また、一緒にバザーを支える心強いスタッフもお待ちしております。
 出店及びスタッフ希望者は王立魔法学園・柏原瑞慧まで。
 受付締め切りは■月○日です。
 一緒に盛り上げていきましょう!!』


●バザーへようこそ♪
 白い雲の浮かぶ初秋の晴れた青い空の下、いつもは広く憩いの場である天使の広場はたくさんのブースが軒を連ね、たくさんの人で賑わっていた。
「うんうん。今回も大盛況で嬉しいわ♪」
 バザーの責任者である柏原瑞慧はにんまりと笑んだ。
「その顔、怪しいですよ」
「む、失礼な。こんなビショージョを捕まえて」
 瑞慧の振り返った先にいたアイラス・サーリアスは苦笑する。
「まぁ、美少女かどうかはともかく、面白くなりそうですね」
 バザースタッフとして参加する事にしたアイラスは賑わう天使の広場を見渡し、微笑んだ。
「ともかく置いとかないでくれる?しつれーしちゃうわ。ま、バザーは楽しくなるわよ〜そんで、しっかりがっぽり儲け……うふ、うふふふふ」
「瑞慧さん……」
 怪しく一人笑い続ける瑞慧の背にアイラスは小さくため息を吐いた。
「バザーって確か、慈善事業のための資金獲得の為に行う市の事じゃなかったのかな?」
 そんな考えは瑞慧には無縁である。
 今日はきっとアイラスにとって忙しい一日になるであろう。
「……本男の旦那、なんで隣で書籍販売するワケ?俺ンとこで本が読めちゃう喫茶店共同出資じゃネェの?」
 ふよふよと浮きながら不思議そうな、それでいて薄々感じ取っている表情の葉子・S・ミルノルソルンの言葉に本を並べていた本男はその作業の手を休めず答えた。
「そうですよ」
「……じゃアさ、俺様今月の給料やけに少なかったんだけど、ドーしてカナァ?」
「勿論、バザーに出店するには出店料がかかりますからね。葉子は持ってないでしょう?エルザードバザー出店無料券」
 さらりと言った本男に葉子は、抵抗無意味を知っている為あっさり納得する。
 第一回エルザードバザー出店者である本男は運良く(?)今回のバザー出店無料券を手に入れていた。だが、本男に勝手に出店手続きをされていた葉子には無料券はきかない。そして、これまた勝手に葉子の給料から出店料を差っ引いていたのだ。
 まぁ、本男からすれば下僕をどう扱おうが勝手……そんな葉子もすぐにこの状況を愉しむ気でいるのだから、結果オーライというところか。
「ま、どーせやるなら愉しく盛り上げよーじゃネェの。うひゃひゃ」
 快楽主義的な発言を残し、葉子も準備を始めた。
「よし、これでいいか」
 バザーに出店し冒険で手に入れた使用不明な薬や開けられなかった宝箱などを地面に布を敷いて並べたシグルマは四本の腕を組んだ。
「あとは、看板娘が欲しいところだが……」
 そう呟いたシグルマは、隣で動く人物へ何気なく視線を向けた。
「よしっ!これで準備完了」
 手を叩き満足そうに言ったのはリン・ジェーン。こちらも冒険で手に入れた要りそうで要らないものを出す事にしたようだ。やはりと言おうか、女性らしくアクセサリー系が多く並ぶ。
 お隣同士のシグルマとリンは無言で顔を見合わせるとニッカリ笑った。
「あんた、冒険者?ずいぶんと面白い品ばかりじゃない」
「そういうお前こそなかなかどうして、珍しいもん出してるじゃないか」
「あら、分かる?ま、バザーだしね。お手ごろ価格でバーンと大放出よ」
 そんなリンにシグルマは提案する。
「なぁ、似たようなもんを売るんだ。一緒に売らねーか?」
「そうね……いいわよ!」
 共同経営決定。なかなか強力なタッグになりそうである。
 広場では物品だけでなく芸能ごとも多く行われ、大人も子供も楽しんでいた。そんな一つ、旅芸人の一座のブースは道化師による手品で観客が大いに盛り上がっている。
 旅一座の道化師、ロレンツォ・ディミケーレは一通り芸を終えると軽く観客に一礼し、テントの裏へ引っ込んだ。そこで初めて、ロレンツォは裏ではいなくなった団員探しであたふたしている事を知る。
「どうしたんだ?」
「あぁ、いやな、ロレッラがどっか行っちまったみたいで見つからないんだよ」
 返ってきた答えにロレンツォは大袈裟にため息をついた。
「どうせ、楽しくなって外に飛び出したんだろうが……俺が探しに行こう」
「頼むよ」
 軽く汗を拭き、ロレンツォはテントの外へと出た。
 広場は賑わう人の群れでごった返していた。そんな中ゆっくり周囲を見渡し、ロレンツォは探しているものを見つけた。人ごみの中でひょこひょこ揺れるウサギの耳。それを目指してロレンツォは歩き出した。
 そんなウサギ耳を持つロレッラ・マッツァンティーニは旅芸人仲間と一緒に芸をして舞台裏に引っ込んだ後も歌ったり踊ったり、お祭り気分にウキウキしっ放しでいつの間にやら外へと一人飛び出し、歩いていた。
「うふふ〜楽しいな〜♪あ、アレおいしそ〜!」
 目敏く屋台を見つけたロレッラは早速一つ注文。屋台の兄ちゃんも元気な掛け声と共に手際よく注文の品を作り、ロレッラに手渡す。
「ありがと!」
 受け取り、頬張りながらまた歩き出すロレッラ。……お金、払ってませんよ?
「おい、ねえちゃん金!おい、おいってば!!」
 屋台から身を乗り出しロレッラを呼び止める兄ちゃんに気づかず、人ごみに紛れてしまったロレッラと入れ替わりにロレンツォが屋台にたどり着いた。
「……ひとつ聞くが、ウサギ娘が通らなかったか?」
「通ったよ。聞いてくれよ!あのねえちゃん、金払ってねーんだぜ?!」
 はぁ、と小さくため息を付いたロレンツォは幾らだ?と尋ねた。言われた金額を支払い、再びウサギ耳を追いかけ歩き出したロレンツォはさて、幾らお金を使う事になるのだろうか……

●楽しみいろいろ
「アイラスく〜ん。キミ、人が良さそうな顔してるから迷子の巡回してきて」
 バザー実行委員会会長とはいっても、何もせず本部でのんびり座っている瑞慧はアイラスに言った。
「いいですが、別に人の良さそうな顔だとか関係ないと思うのですけど?」
 苦笑したアイラスに、瑞慧はチッチッチと指を振った。
「何言ってるのさ。人が良さそうで、騙され易そうでなきゃ子供は寄り付かないのよ!」
「……子供に何かトラウマでもあるんですか?」
 ずばりな問いにふっと鼻で笑った瑞慧は遠くを眺めた。
「まぁ、仕事ですので行って来ますよ」
「はーい。いってらっしゃ〜い」
 机に突っ伏し、手だけで送り出す瑞慧にアイラスは肩を小さく竦め雑踏の中を歩き出した。腕にバザースタッフの腕章をつけ、歩くアイラスに早速お声がかかる。
「おい、そこの兄ちゃん。ちょっと寄っていかないか?」
「シグルマさん。バザーに出店してたんですね」
 ニッと笑うシグルマにアイラスも微笑む。
「アイラスはスタッフか?物好きだな」
「そうですか?こういう事の充実感はなかなか味わう事が出来ませんし、それに無事終わった時の喜びは苦労と見合うものがあるんです」
「そういうもんかね」
「ま、何でもいいじゃない。楽しけりゃさ」
 明るくそう言い笑いながら話に入って来たリンにアイラスは笑った。
「そうですよね」
「って訳だからさ、何か買ってかない?大きい声じゃ言えないけど、実は……すっごいものもあんのよ」
「すっごいもの、ですか?」
 声を潜めるリンにつられて、アイラスも声を潜めて顔を寄せるとリンはにんまり笑い屈むように手で示した。 
 顔を見合わせ屈んだアイラスとシグルマの前にリンは透明なガラスで出来た小瓶を数本取り出し置いた。その小瓶の中には液体が入っていて、乳白色や薄い黄色、緑色、青と様々な色をしている。
「何だ、こりゃ?」
 首を傾げ、緑色の液体が入った小瓶を摘み上げたシグルマに自慢気にリンは答えた。
「温泉よ」
「おんせん〜?」
「そう!温泉マニアとしては入るだけじゃなくコレクションもしないとね。そんな訳だから、ちょっと入ってかなぁ〜い?」
 うふふと笑ったリンにシグルマは呆れた顔で小瓶を置いた。
「何だ。凄いものっつーから何かと期待すりゃ、ただの温泉か」
「ちょっと、聞き捨てならないわね!ただの、とは温泉を侮辱するつもり?!いい?この世は全てお金と温泉なのよ!!」
 ぐわっと拳を握り締め、力説するリンにシグルマもタジタジ。それを見ながらアイラスは立ち上がった。
「折角のお誘い有難いですが、僕はこれから巡回の仕事がありますので……」
「あ、待て。アイラス!」
 リンが温泉の効能や成分などの講義受講をシグルマに任せ、アイラスはそそくさとその場を後にした。
 温泉の危機(?)を回避出来たアイラスはその腕を後ろから引っ張られ、振り向くとまず目に飛び込んで来たのはウサギの耳。
「バザーのスタッフの人だよね?聞きたいんですけど、この近くで喫茶店ってないですか?」
 尋ねるロレッラにアイラスはバザーの地図を取り出し、ロレッラに見せた。
「この近くだと、紅茶屋さんがありますよ。ここですね」
「あ、ホントだ。ありがと〜♪」
 手を振り、それに合わせて耳も揺らしながら紅茶屋の方へ小走りにかけて行くロレッラを見送り再び歩き出すアイラス。雑踏をすり抜け、少し人ごみが開けた広場の噴水前に辿りつくとまた声をかけられた。
「悪いが、人を探している……ウサギ娘を見なかったか?」
「見ましたよ」
 返ってきた返事にロレンツォはホッと息をつく。どうやら、この人込みで見失ってしまっていたらしい。
「で、どこで見たんだ?」
「向こうですよ。紅茶屋の場所を聞かれたのでお教えしたんです」
 その言葉にがしっとアイラスの腕を掴むとロレンツォは歩き出した。
「……案内してもらう。どこだ?」
「いたた。引っ張らなくても案内しますよ。って、聞いてます?」
 腕を放す気は無いらしいロレンツォ。仕方なく、歩調を速めて追いついたアイラスは紅茶屋の場所を教え、歩いているとどうやらロレンツォもその場所が分かったらしい。腕を放し、更に彼は歩調を早めた。
 アイラスも折角ここまで連れてこられたので、紅茶屋の様子を覗く事にした。
 葉子が任されてる紅茶屋『mellow』2号店。その外装は一見黒魔術風で怪しく紅茶屋には思えないが、その前に並べられた机の上には可愛らしいホワイトピンクのテーブルクラスが乗せられ、パラソルも同じホワイトピンク。そのギャップが何とも言えぬ衝撃と印象を残す。
 そんな紅茶屋『mellow』2号店のオープンカフェはなかなかの盛況ぶり。どうやら女性に人気があるようだ。客の間をふよふよと愉しそうに動き回る葉子もまたこの店の人気のひとつかもしれない。
「見つけたぞ、ロレッラ」
「あ、ロレンツォくんだ!やっほ〜一緒に食べる?」
 口にフォークをくわえたまま、お気楽に手を振ってくるロレッラにがっくり肩を落とすロレンツォは大きなため息を吐いた。
「あのな……お前、金持っているのか?」
「んに?お金?…………あは、持ってないや」
「持ってないや、じゃない。誰がお前の無銭飲食を払ったと思ってるんだ」
「あ、ロレンツォくんが払ってくれたの?ありがと〜♪」
 まったく反省の色なし。逆に無邪気に感謝され、ロレンツォは複雑な顔をし黙り込んでしまった。
「まぁまぁ、そんなトコに突っ立ってないで座りなヨ。他のお客さんのお邪魔にもなるしネ」
 笑いながら空いているテーブルを指差した葉子に、ロレンツォは無言でロレッラのテーブルに座りアイラスは慌てて手を振った。
「あ、すみません。って、僕はお客じゃなくて巡回中なんです」
「巡回チュ?あ、ソウ。ジャア、少し休んでってよ。サービスするヨ♪」
 うひゃひゃ、とちょいちょい服の裾を引っ張る葉子に困ったように微笑むアイラス。だが、客引きする葉子の脳天に石が当たり無様に地面に落ちる。
「仕事中の人を無理やり引き止めるものではありません。それに、たかが一店員が勝手にサービスするんじゃない」
 オープンカフェの片隅で本を読みながら言った本男に葉子はぴくぴくと羽をひくつかせながら頭をさする。
「本男の旦那、石ぶつけるのはヒドすぎない?これでも俺様今魔力低下中なのヨ?」
「だから?」
 冷静に問い返され、葉子は泣く泣く仕事に戻って行った。
「ははは……どうですか?本は売れてますか?」
「まぁまぁですね」
 葉子の時とは打って変わって、微笑みを浮かべながらアイラスに言葉を返した本男は本を閉じた。
「見ていきませんか?貴方の一冊が見つかるかもしれませんよ」
「そうですね……新しい本も欲しいと思っていたところですし」
 並べられている様々な大きさ、内容の本に仕事を忘れて見入ってしまいそうなアイラスだったが顔を上げた。
「今は止めておきます。後で、見に来てもいいですか?」
「えぇ、勿論。お待ちしてますよ」
 目を細め微笑んだ本男に軽く会釈をして、アイラスは歩き出した。
 その後、アイラスは迷子を二人ほど保護し、親を探したりお酒の飲みすぎで騒ぎを起こしている人を静めたりと忙しく動き回ったのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0589/本男/男/25歳/本の行商】
【1353/葉子・S・ミルノルソルン/男/156歳/悪魔業+紅茶屋バイト】
【1649/アイラス・サーリアス/男/19歳/フィズィクル・アディプト】
【0812/シグルマ/男/35歳/戦士】
【2089/リン・ジェーン/女/23歳/海賊(航海士)】
【1968/ロレッラ・マッツァンティーニ/女/19歳/旅芸人】
【2349/ロレンツォ・ディミケーレ/男/60歳/道化師】

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■         ライター通信          ■
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どうも、壬生です。
お届けが遅くなり、申し訳ありません。

バザー編は中盤からアイラスさんに動き回って頂いております。
何故か?
スタッフ希望が彼一人だったからです(爆)
これで、皆さん接点がある……ような感じに見えません??
ダメ?(汗)

いや、何にしても楽しんで頂けたら幸いです。
次回、打ち上げ編は来月頭に出す予定です。
もし宜しければそちらの方も宜しくお願い致します。