<東京怪談ノベル(シングル)>


恋の邪魔者・愛の師範代

1.
「それでね・・・オーマ、聞いていますか?」
エルファリア王女がふらりと現れた、うららかな午後。
特に急患もなく、まったりと過ごそうなどと考えていたオーマ・シュヴァルツはそんな王女のお相手をする羽目になっていた。
町外れの小さなオープンカフェ。
オーマはエルファリアの『美味しいケーキをオープンカフェで』との要望にこたえ、そこに連れ立ってやってきていた。
「聞いてるさ。で? それからどうしたってんだ?」
オーマが先を促しエルファリアが話し出そうとした時、突然、オーマの視界に影が差した!

「僕と付き合ってください!」

オーマが振り向くと、それは色とりどりの花を束ねたいわゆる花束というヤツを持ち、少し歪んだ眼鏡をかけた垢抜け切らない青年の声であった。
「俺は男と付き合うってぇ趣味はねぇぞ? まぁ、俺の魅力☆に当てられちまったってんなら、それはそれでしかたねぇってモンだけどもよぉ?」
ニヤリと笑ったオーマの後ろで、両手で口を押さえたエルファリアが「まぁ、まぁ」と驚きを隠せないでいる。
「だれが男の人なんかに付き合ってほしいといいましたか!?」
「今言ったじゃねェか、その口でよ」
剣幕で怒る青年に、オーマはシレッと答えた。
どうやらからかうと面白いタイプの青年らしい。
「僕が付き合ってほしいといったのは、あなたです!!」
ビシッと青年は指を指した。
その先には・・・

「やっぱり俺じゃねェか」

「ちっがーーーーう!! そちらの女性です! あなたの後ろの!!」
オーマがその言葉に振り向くと、確かにそこには女性がいた。
エルファリア王女、その人が・・・。


2.
「まぁ・・・私?」
エルファリアはその瞳を大きく見開き、それでもいつもの口調と変わりなく言った。
「初めてあなたを見たときから、僕はあなたを好きになってしまいました・・・。町に出るたびにあなたがいないかと探しては落胆し・・・」
青年が長い口上を述べているとき、オーマはゾクゾクとした悪寒にも似た気配を感じていた。

この気配・・・ウォズか?

だが、その気配はわずかなものでどこから発せられているものか見当がつかない。
確かなのは、この目の前の青年が現れた瞬間からその気配を感じているということだけ・・・。
「しかし、今日あなたがここに居てくださったのはきっと運命の女神様がお引き合わせになったのだと・・」
げっぷが出そうなほど臭い台詞を真面目に口にする青年に、エルファリアも真剣に聞き入っている。
真面目で恐ろしいほど素直なエルファリアが、この青年に丸め込まれるのは王室公認腹黒同盟総帥としては少々困る。
こんなところで昼下がりの紅茶などを飲んではいても、この国の王女なのだから。
「おう。話してるとこ悪ぃが。・・・この姫・・・いや、この嬢ちゃんはよ、おとっつぁんがスゲェ厳しい人で、俺はそのお目付け役ってヤツなわけよ。悪ぃんだが他当たっちゃもらえねぇかな?」
嘘も方便というヤツである。
なるべく傷つけないように言葉を選んだつもりではあったが、青年はその言葉を聞くや否や逆上した。
「な、なぜあなたなんかにそんなことを言われなきゃいけないんですか!? 恋愛は自由でしょう!」
「おう。まぁ、それには同感だ」
『恋愛は自由』の部分にオーマは激しく頷いたが、「だけどなぁ」と続けた。

「おまえさんがスウィート☆ラブ語るってぇのは構わねぇんだけどもよ、それはこの嬢ちゃんを困らせることになるってことなんだぜ? それでもまだ語るってぇのかい??」

青年の顔が凍りついた。
まさか自分の恋愛にこのような障害が現れるとは思っても見なかったのだろう。
その顔色は青くなり、次第に赤く憤怒の表情へと変化する。
「それでも僕は・・・!?」

表情の変化とともに次第に濃くなるウォズの気配。
そして、それは突然現れた!


3.
青年が手にしていた花束の中の一輪の花が突然巨大化した・・・と思ったら、オーマへと突撃をしてきた。
「な・・な・・・!?」
青年が腰を抜かし、尻餅をついた。
「花か! どうりで気配がよめねぇ訳だ!」
ひとまずエルファリアを抱え、その突撃をかわしたオーマはエルファリアに安全な場所への避難を促した。

巨大な人面花と化したウォズを前に、オーマは呟いた。
「ウチにいる奴らより、ちょっぴりラブリー☆じゃねぇか・・・」
『・・・ポ』
巨大な人面花が、その言葉に反応して少しだけ小さくなった。
「・・・恥ずかしがってるってぇのか?」
オーマはそれに気付き、ふむと人面花を見つめた。
『・・・ポポポ』
さらに恥ずかしげに小さくなっていく人面花。
オーマの活躍(?)により、あっという間に人面花は元のサイズへと戻った。

まだ腰を向かしている青年をひとまず椅子に座らせ、オーマは人面花へと問いかけた。
「で、お前さんは何をしてんだ?」
人面花はポツリと呟いた。

『・・・「アイ」ヲシリタイ・・・』 と。

人面花曰く、突然放り出されたソーン世界を彷徨う内に人間というモノを知ったという。
そして、その人間というものは2人揃うとその間に『アイ』というものが生じるらしい。
人面花は見たくなった。『アイ』がどんなものかを。
引き寄せられるように青年の花束にもぐりこみ、『アイ』が見られるのを待った。
だが、そこに居合わせたオーマによりそれは阻まれ・・・。

「なんで、それを先に言わねぇ? それは俺のグレイトなオヤジ☆パワーの管轄じゃねぇか!!」

それまで静かに聴いていたオーマはガッツポーズで立ち上がった。

「いいか? よく聞けよ。おうおう、そっちのニィちゃんもよ! 俺は王室公認腹黒同盟総帥にしてドッキリ☆ゴッド親父パワーの持ち主、オーマ・シュヴァルツよ。おめぇらにモノホンのラブ☆ってヤツを教えてやる! 黙って俺について来い!」

そういうが早いか、オーマはグイっと青年の腕を掴み青年をひょいっと担ぎ上げると、軽やかに歩き出した。
「ちょ、ちょっと僕は・・・!」
「あら、あらあら。オーマは本当に熱心ですのね。私もついて行ってもよろしいかしら?」
拒否しようとした青年は、エルファリアの言葉に自分の言葉を飲み込んだ。
そして、つい、彼は言ってしまった。
「ぼ、僕も行きます・・・」
うららかな午後、愛について学ぶべく歩いていく4つの影・・・。

こうして愛の師範代、オーマ・シュヴァルツの手により親父☆ラブパワーはまた広がった。

『愛を語るなら、まず腹黒同盟で』

そんな噂が流れたとか・・・流れなかったとか・・・。