<PCクエストノベル(4人)>


誘い―後編― 〜強王の迷宮〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り 】
【2079/サモン・シュヴァルツ/ヴァンサー              】
【2081/ゼン        /ヴァンサー              】
【2083/ユンナ       /ヴァンサーソサエティマスター 兼 歌姫】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
不死王レイド
白の恐怖
黒の恐怖
灰色の恐怖

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前回のあらすじ
 とあるギルド幹部直々の依頼で、強王の迷宮へと潜って行ったオーマ・シュヴァルツ。特に問題も無く潜った奥で噂の白い恐怖と出会い、何故か懐かれ…そして依頼内容のひとつである、ギルドメンバーの遺体の回収に移っていた。
 そこに現れた残り2つの『恐怖』。白の恐怖が呼んだのか、それとも入り込んで来た侵入者を嗅ぎつけて寄ってきたのか…。
 その奥に潜むと言うウォズは何物か。謎は解かれるのだろうか…。


*****

ユンナ:「――」
 つい、と何の前触れも無く顔を上げたのは、この街に来てから再び歌姫としての活動を始めたユンナ。…気だるげな顔をあらぬ方向へ向けて、少しずつ、少しずつ…ピントを絞るように目を細めて行く。
 目線の先には、病院としての機能も持っているこの部屋らしく、清潔感を強調した白い壁がある。
 その向こうを見通そうでもするような視線のまま、じぃ…と見つめ続けるユンナ。
サモン:「――どう…した…?」
 そんな様子に気付いたか、部屋の片隅で起きてからじっとしていたサモン――オーマが溺愛して止まないと公言している一人娘だが、彼女の方はその気があるのか無いのか無表情のまま得物を構えるのが常だった――が、ほんの少し身じろぎしつつ壁を見つめているユンナに声をかける。
ユンナ:「オーマ、戻ってこないわね」
 視線を外す事の無いまま、ユンナがそう呟いた。当然のようにサモンへも意識は向けながら。
サモン:「……別に…気にしないし」
 そう言いながら、ふとユンナの視線の行く先を、あまり表情の浮かばない顔で眺める。そこへ。
ゼン:「ふーやっと帰ってったぜ。オーマも気が利かねえよな、今日来そうな客がいるんだったら先に薬配っときゃいいのによ」
 不本意ながら店番に回らされていたゼン…オーマの甥に当たる男。普段なら絶対にやらない所ではあるが、残っているのが自分の他にユンナとサモンと来れば、貧乏くじを引かされた様なもので。実際には客が誰かを呼ぶ声に根負けしたと言うのが正しい所だったが。
 幸いなことに、病院の方は特に急ぎの客も無く、普段蓄えてある薬だけで十分事足りる。また、客の方もオーマに診てもらった際十分な注意を受けたためか、必要な薬の事も覚えいて、余分な手間が省けた事も有利に働いた。
ゼン:「何やってんだ2人共、壁なんか見やがってよ…この熱さでとうとうココに来たか」
 ゼンが頭へとひらひら手をやりながら2人へと話し掛けるも、返事はなく。
 びしっ。
 パシッ。
ゼン:「うぉっ!?」
 何も無い所から伸びた『手』と『足』にそれぞれ張り手と蹴りを喰らい、
ゼン:「ンだよ…ちゃんとクチあんだろ?無言で攻撃すんじゃねぇよ」
 ぶつくさ言いながらも、2人を同時に敵に回すのは流石に拙いと思ったか、言葉を荒げるような真似はせず。
ユンナ:「…オーマ、戻ってこないわね」
 再び、同じ言葉を繰り返すユンナ。いや、ゼンには初耳だったが…ほんの少し身じろぎしたサモンは何も言わず、
ゼン:「ああ、昨日緊急医療セットだけ持ってったままだな。ま、あの男の事だ別に心配するようなこたぁねーだろ?」
ユンナ:「――」
 今度は誰にも聞こえないよう、口の中で何か呟く彼女。ぴく、とそれに反応したのはサモンで。
サモン:「……行く…の?」
 す――音も無く立ち上がり、静かな視線を壁の向こうではなくユンナへと注ぐ。今度はユンナも振り返り、楽しそうな表情で2人とそれぞれ視線を合わせると、
ユンナ:「ウォズが私の事を呼んでるの。招待されたなら、行かないとね――さ、支度して。50数える間にね」
ゼン:「おいおい、俺たちもかよ!?」
サモン:「僕――別に、構わない…」
ユンナ:「ゼェン?あなたは、何?そして、私は、誰?」
 既に準備は出来たと立ったまま呟くように言うサモンにうんうん、と嬉しそうに頷き、その目でゼンをちらりと冷たい視線で見つめる。ぐ、と詰まったゼンが恨めしそうにユンナを見。
ゼン:「ヴァンサーで、ヴァンサーの親玉だって言いたいんだな?ああ、分かったよ行きゃぁいいんだろ行きゃぁ!ちぃっと待ってろ、――ったくよ――」
ユンナ:「さてとサモン、診療所は臨時休業にしておかないとね。札お願いね、私は後の皆にメモを残すから」
サモン:「……うん…」
 普段オーマの仕事を見ていたのか、迷いもせずに玄関に下げる『臨時休業』プレートを取り出して外にぶら下げ。
ゼン:「待たせてねーぞちきしょう。さっさと行くぞおらっ」
ユンナ:「…48。良かったわね間に合って」
ゼン:「ヤッパ数えてやがったなてめぇ!?」
ユンナ:「惜しかったわー。これで間に合わなかったら素敵なお仕置♪が待ってたのに。仕方ないわね。じゃあ行きましょうか」
 ほほ、と小さな声を上げて、ユンナが空の蓋付きバスケットをゼンの手に押し付けると、左右にサモンとゼンを従えた姿で街中を抜けていった。
ゼン:「――この籠はその為か。…結構重てぇぞ」
ユンナ:「あら、力仕事は男の人の役割でしょ?私はスプーンより重いものは持ったことが無いのよ」
ゼン:「嘘付け――痛っ」
 何か良く見えないもので数度身体を打たれたゼンの手に持つバスケットは、街を出るまでの間にずんと重みを増していた。

*****

ユンナ:「暗いわねえ。灯りは?」
サモン:「ランタンなら…持ってる」
 ぼぅ、と火を付けたランタンを前方へかざし、先へ先へと進む3人。
 先程まではそろそろ夏も終わろうかと言う、そんな天気の中を歩いていたのだが、今はじめじめした地下通路の中。3人が真横に並ぶのは少しきついので、ゼンが先に立ち、ユンナとサモンの2人が後続となってずんずん先へ進む。
ゼン:「なあ。今俺が襲われたらよ、両手塞がってんで襲われっ放しなんだが」
ユンナ:「気にしないの。でもバスケットは落としちゃだめよ?」
ゼン:「へぇいへい…」
 思い切りツッコミを入れたい所だが下手に振り返るのも拙いし、言葉だけだと後頭部が本気で危険にさらされてしまう。そこをぐッと堪え、時々ぎりぎりと歯を噛み締める音を立てつつ先導するゼン。
ユンナ:「そこ、中央に落とし穴があるわ」
 道標の如き黒い点が避けているのを見たユンナが言い。
サモン:「……問題無い…飛べる」
ユンナ:「それはそうだけど、籠が揺れちゃったら勿体無いじゃない」
サモン:「……そう…だね…ゼン。綺麗に、飛んで」
ゼン:「いちいち注文付けんじゃねえっ!」
 そう言いながらそのまま飛ぼうとしたゼンが直前で踏みとどまり、呼吸を整えてからすとんと穴を越えてやたらと綺麗な着地を見せる。
ゼン:「――ちっ。こんなトコで余計な労力使っちまった」
ユンナ:「いまいちね。芸が無いわ…宙返りとか半ひねりとかやらないと。まあいいわ」
 すたすたと。
 ユンナ――そしてサモンが、落とし穴の『上』をそのまま何気なく通り過ぎた。…良く見れば、落とし穴が作動しないよう、したとしても問題無い様、ユンナが能力で床の上に薄い板を張り巡らしていたのが見え。
ゼン:「…ずりぃ…」
 にっこりと笑うユンナへと一瞬恨みがましい目を向けて、ぽつりとそんな事を呟く。
 強く言えなかったのは、自らも最初からそうすればよかった、と遅まきながら気付いたからであった。
 歩くたび、何とも言えない匂いが漂うようになって来る。それは、地下特有の匂いであり、それとは別に何らかの『異質』をも感じさせる匂いで…ユンナの目とゼンの表情が極僅かだが険しくなって来ていた。
ゼン:「…つまりそう言うことか、『招待』ってのは」
ユンナ:「そう。ヴァンサー1人を招待する程度ならオーマだけで問題なかったのよ。けれど…ねえ」
 オーマがこの場に居たなら、少しばかりは驚いて見せたかもしれない。
 何しろ――この迷宮の壁が。
 3人には馴染みの深い、自世界の色と質へと変化していたからだった。
サモン:「……オーマ…は?」
ユンナ:「どこかしらねえ。早い所合流したいわ」
 目に懐かしいその壁を撫ぜながら言うユンナと目を合わせたサモンが、つ、と顔を上げて――すぅ、と目を閉じる。
 ほんの少しのそんな動作の後、ぱちりと目を開け、
サモン:「こっち…」
 つい、といくつもの通路が枝分かれしている先の1つへと指を向けた。
ユンナ:「ふぅん?オーマの電波でも拾った?」
サモン:「……なんとなく……こっち…だと思った…」
 ユンナの冗談の意味が分かったのかどうか。指した通路の先を見ながら、そんな事を言うサモン。
ゼン:「いいんじゃねえの?ココまではどうせ戻れんだしよ。さっさと行こうぜ」
 間違っていたらしらみつぶしに調べるまで、とゼンが言いながら、すたすたと先に足を進める。
 その足元には黒い染みが点々と残っていたのだが、オーマと違いギルドのメンバーと顔を合わせていない面々には、その意味など気付く筈もなかった。
 やがて――少し開けた場所へと出る。
 そこは一部自然洞窟なのか、人の手が加わっている部分といない部分が実に見事に融合され、違和感無く掘り進められており。そして、そんな空間を眺める事が出来る不自然さにゼンが一番最初に気付いた。
 ――奥の方で瞬いている灯りのお陰で、この空間を隅々まで見る事が出来るのだと。
 と、言う事は…と、ずいと足を踏み出す。
 カラン、カランカラン…。
 細かな小石の1つを蹴ったらしく、それが洞窟内に反響して酷く大きな音を立てた――と、同時に。
 ふわん。
 3つの丸いものが、灯りに照らされた空洞の中に浮かび上がった。
ゼン:「――何だありゃぁ」
 気の抜けてしまった声になったのは致し方ない。
 この、3つの…やたらと巨大なボールにしか見えない『何か』は、白と黒と灰色の3色揃っていた。それが、それぞれの色の名を冠した『恐怖』と呼ばれているのは、真っ直ぐこの迷宮へ潜ってきた彼らが知る筈も無い事。
 知能はあるのか、何か特殊な能力でも持っているのか――どうやって増えるのか、様々な思いが見る者の頭をよぎる。
 少なくとも、動いた者には反応しているらしく、ゼンたち3人の姿がこの空洞へ入ると同時にふよふよと浮きながら近寄って来ている。
ユンナ:「…不思議な生き物ね」
ゼン:「生き物なのか!?アレが生き物だっつうのか!?」
 あっさりと生き物扱いしたユンナへ思わず声を上げてしまうゼン。その、指さした指先に白いボールが到達し、ぷよん、と押し出された。――直後。
 ばふっっっ。
 触れた白いボールから――いや、触れなかった他2つのボールまでが、一斉に真っ白い煙をゼンたちに向かって噴射した。
ゼン:「ぐ――ッッ!?」
 手が急に軽くなった事に一瞬不思議がりながらも、深く考える間も無く襲いかかって来た強烈な咳に空いた手で口を押さえて走り出す。
 げほげほッ、げーほげほげほッッ。
 喉がひりついているのに、一向に咳が止まらない。身体を折り曲げて、顔を真赤にしつつ咳き込んでいるゼン…その肩にぽんぽんと手が置かれ、涙目のゼンの前に水筒が差し出された。
 何も考えずにそれを手に取ってくーっと喉に流し込む。
???:「おう、飲んでもいいが先にうがいしろうがい。痴漢避けの刺激剤みたいなモンだ、特に害は残らんだろうが念のためにな」
ゼン:「ぶはっ!」
 飲み込む直前に思わぬ人物からかけられた声で、意図せず吐き出したゼンが無意識に口を拭いつつくるりと振り返る。幸い今ので喉の粘膜に張り付いたモノはあらかた取れたらしく、喉がひりひりするものの言葉にも行動にも不自由はなさそうで。
オーマ:「よーぅ、ゼン。何だぁ?俺様がいねぇのがそんなに寂しかったか?」
ゼン:「だ…だれが…っ」
 けほ、と軽い咳払いをしつつ、にやにやと笑う男――オーマ・シュヴァルツを睨み付けた。

*****

ユンナ:「それで…昨日、出かけてからずっとここに?」
 ゼンがまだ少し咳き込んでいるのを横目に、ゼンから奪い取ったバスケットを静かに床に置いたユンナが顔を上げる。
オーマ:「おうよ。――まあ、何にもしないでこの場に居たわけじゃねえけどよ」
 それは、この場を良く見れば分かる。入ってきたついさっきまでは気付かなかったのだが、更に奥へと繋がる通路があるようで、その周辺から奥にかけて血溜まりのようなものが何箇所も出来ている事を。
 今現在その場は布状の何かで塞がれている。
サモン:「……これ…何…?」
 火を、オーマが掻き集めてきたらしい燃えるモノへと移していると、そのゆらめく炎の向こうに立ってじぃ、と3つの丸いものを見つめていたサモンがオーマへと振り向かず声をかけた。先程から随分静かだと思っていたら、観察し続けていたらしい。
オーマ:「おう、そりゃな『なんたらの恐怖』っつう名が付いたモノだ。なんたらの部分はそれぞれの色で変換しといてくれ。いやな、探索してたらコレと出会っちまってよ。気が合ったか付いて来るもんでこうして道行としゃれ込んで見たわけだ」
ユンナ:「オーマ、それ意味違う」
オーマ:「お?」
サモン:「……心中……する気…なら、手伝うよ…」
 じゃきん、と何か金属音めいた音がどこかで聞こえ、いやいやいやいや、と激しく首を振るオーマがにっかりと大きな笑いを浮かべ、
オーマ:「まあ落ち着け。ちっと洒落てみただけじゃねぇか、なっ?」
ゼン:「――墓穴掘ってるだけだろ、てめぇは」
 なるべく3つの丸いものから距離を取っていたゼンが薄気味悪そうに3つの恐怖を眺め。
ゼン:「いきなり攻撃して来たアレを気に入ってるってのかよ。けっ、相変わらずワケわかんねー事考えてんだな」
 サモンへとふよふよ近寄る様子をつぶさに観察しながら、のんびりとした顔のオーマが笑い。
オーマ:「条件反射ってやつでな。俺も触ったら吹いてきたぞ。まあお前さんの場合はどーも向こうも警戒したらしいがな。ほら見てみろ、流石は俺様の娘だ。どうやらあいつらも歓迎してくれてるらしいな」
ゼン:「通じてんじゃねえよオッサン…」
オーマ:「ふっふっふっ、羨ましいだろうゼン。お前友達少なそうだしなぁ」
ゼン:「んなツレ作る位ならいねぇ方がマシだっっ!」
 ぷよん、ぷよん、と白と灰色――その2色だけが触ろうと手を伸ばすサモンから逃げず、おとなしく突付かれるがままになっている。
サモン:「…………くす」
 皆に背を向けているからか、ほんの一瞬、無言で突付き続けていたサモンの口元が綻んだ。
ユンナ:「それじゃあ奥へ行く前に準備しないとね。そのために来たんだし」
 ぱくん、と大きなバスケットの蓋を開けながらユンナが言い、出掛けに街中で買い求めた弁当を4人分、その場にシートと共に広げ始めた。
 これには、オーマもあっけに取られた様子で。
ユンナ:「どうせオーマの事だから保存食だって持って行ってなかったんでしょ?ほら、お食べなさいな。――スタミナは必要になるわ」
オーマ:「ああ…そうか。お前が来たのは…」
 こくん、とユンナが頷き、ちらと奥へもう一度顔を向け。
ユンナ:「難しい話をしながらの食事は消化不良になるわね。先に済ませちゃいましょう。――サモン、あなたの場所はここよ」
サモン:「…うん……この子たち、は…?」
オーマ:「モノは喰わねえようだぜ。安心してお前さんの分食べちまいな」
 流石にポットに詰めてもらったスープは冷めていたが、それでも一晩ここで過ごしたオーマには十分なご馳走だったようで。
オーマ:「お?いらねえのか好き嫌いは良くねえぜ」
ゼン:「ああっっ、何しやがんだてめぇ!それは後で食おうと取っといたヤツなんだぞっっ!」
ユンナ:「あらあら、美味しいものは先に食べてしまわないと、この大男に全部食べられちゃうわよ?」
サモン:「……煩い……」
オーマ:「ぐっっ」
ゼン:「がっっ」
 後頭部を手加減なしに『何か』でどつかれた2人が頭を抱えて呻くのを見もせずに、涼しい顔をしている女性2人。
 そんな楽しい?食事を済ませた後で、オーマが調べ上げた事を誰が促すとも無く言い始めた。
 何でも、この奥の雰囲気は様々なモノが『混じった』状態で、ユンナたちが見た中途の様子にもあったように、この4人の見知った風景とどこかでリンクしているらしいと言う事。そしてその中心部が次第に広がっているのだと言う。
オーマ:「まるでウイルスだぜ。今の所生体への侵食は無いが、それだって今後もそうだと言う確信はねぇ。…まさかこの世界であの空気を嗅げるとは思っても見なかったがな」
 余裕ある笑みを浮かべている――その目は懐かしさを湛える事は無く。寧ろ、何処かひやりとする冷たさを含んでいる。
ユンナ:「歪みが街まで届いていたわ。カンの強い人なら、もしかしたら何か影響があったかもしれないわね」
 サモンがこく、と小さく頷き、そっぽを向いたゼンも否定はせず、2人が気付いていた事を暗に告げる。

???:「そうか」

 不意に――かつり、と硬い足音が洞窟内に響き渡った。
 その場に居た4人共、その声と音を聞いてもさほど驚いた様子は見せず――だが、オーマ以外は鋭い気を声の方向へ空を切り裂くように向けて。
???:「やはり、お主が原因だったのか」
 かつり、かつり。
 暗がりから闇を縫うように、ぬぅ、と姿を現した偉丈夫…黒尽くめのその姿を、オーマだけはにやりと笑いながら見。
オーマ:「よぅ。…遅かったじゃねぇか、レイド」
レイド:「気安くその名で呼ぶな」
 ぴしりと年を感じさせないしなやかな声でそう告げ、警戒などまるでなさそうな足取りでゆっくりと歩いてくる、レイドと呼ばれたその男は、紳士の如き動きを絶やさず、その異様な気配をマントと同じく纏ったままで軽く一礼した。
レイド:「そこの男以外は初対面だな。――我の名はレイド。巷では不死王等と言うありがたくも無い名を冠せられている。よしなに」
 にやにや笑うオーマからは視線を外し、そして…ユンナを中心に、そう名乗りを上げた。

*****

オーマ:「それで?古巣に戻ってきた理由ってのは…コレか」
 こんこん、と滑らかで切れ目の無い通路の壁を拳で叩くオーマ。
レイド:「他に何か理由があると思うのか?」
 先頭を歩くオーマとゼン、そして中央がサモンとユンナ。しんがりをレイドが務め、更にその後ろからぷにぷにと互いを押し合いながら丸いボールが付いて来る。
 既に壁の質は変化し、荒削りされた岩や石から金属質な物質へと変容を遂げていた。奥へ行けば行くほどその度合いは強くなる。
ゼン:「懐かしいっつうか、息苦しいぜ。俺ぁがちがちの規則でがんじがらめだったあん時よりは今の世界の方がずっとマシだね」
ユンナ:「文化レベルの違う世界で不必要な規則を残していても仕方ないもの。…寧ろ自分の采配でどうにかしなければならないこの世界の方がずっと難しいのよ?」
ゼン:「あーはいはい。説教なら後にしてくれや」
 前方から波の如くのたうった床が流れてくるのを目にしたゼンがちらと一瞬で後方へ目をやり、
ゼン:「早速お出ましかよ…っ」
 数歩先に進んだゼンが、いつの間にか具現させていた長い刀を易々とのたうつ床へと突き入れて行く。
 ――――!!!!
 声ならぬ声の悲鳴と、通路自体が震えるような感覚。
 ぶちっ…ぷちぷちぷちっっ
ゼン:「んだぁ!?」
 刀を突き入れた瞬間、刀を差し込んだ傷口を伝うようにして封印を施していた…本来ならば、小物はこれで十分封印可能な筈だったのだが。
 蜥蜴の尾が切れるようにぷつりと勢い良く千切れた破片が数箇所に飛び散って行ったのだ。
 次の瞬間。
 オーマの手が、サモンの指が、ユンナの裳裾がそれぞれの欠片を捉え、ほぼ同時にそれぞれの方法で欠片を封じ込める。
レイド:「ほう…面白いものだな」
 そして、レイドが取りきれなかった欠片を手に、細かな大きさでさえ『生きている』状態のそれを眺めた。
レイド:「前に見たものとは随分違うな。…これも、ウォズとやらなのか」
オーマ:「ウォズっつぅのは俺たちが追いかけているものの総称でな。――そう言うモノってぇだけさ。ただそれが『ウォズである』と言うだけの事」
レイド:「…哲学詩人のような言葉だな」
 レイドの手のひらの上でもぞもぞと奇妙な伸縮を繰り返すそれ。
サモン:「……単細胞生物……じゃあ…なさそうだね…」
 あまり変化する事の無い静かな瞳でその欠片を見詰めながら、首を捻るサモンに、
オーマ:「ニンゲン様並の複雑さは持ち合わせちゃいねえようだがな。先に進む前に、閉じ込めておけよ」
 言われるまでも無く、少女はレイドへ向かって手を伸ばしていた。
ユンナ:「――ここまで侵食出来るものなのね。ウォズも進化してるってことかしら」
ゼン:「…どうかねぇ。進化っつうより変容しちまった気がするぜ?」
 気配をさぐれば、そこここ…どころではなく、この通路そのものもウォズの気配に非常に近しいものがあり、まるで巨大なそれの腹の中へ向かって突き進んでいる感覚すらしてくる。
ゼン:「少なくとも、あっちよりゃバラエティに富んでるしな。俺みてぇな新人よりゃてめぇらのが詳しいだろ?元の世界とここの世界のウォズの変わり様ってやつをよ」
 あたり一面に立ち込める濃い気配のせいか、息苦しさが次第に増して行く。そんな中、普通の人間ならとうに音を上げているであろう道を、会話を交えながら進んで行く5人。
ユンナ:「…そうね。それは認めるわ――」
 急に開けた視界に一旦口を閉じたユンナ。そこは先程と同じく自然洞窟の空洞を利用したつくりの空間だったのだろう。…今では、人口のドームにしか見えなくなっていたが。
 広々とした天井から、ライトが室内を照らしつける。ソーンでは魔法を使う以外で考えられない程の明るさがあり。
ユンナ:「――あれは」
 不安定な柔らかさを帯びた床を踏みしめながら、ユンナがぽつりと呟く。
レイド:「この場が中心のようだな。…まさか、聖獣が集まってくるとは思わなかったが」
オーマ:「あいつらも気付いてるんだろ?侵食してくる異質なモノっつうのにな。言わば世界の危機ってぇヤツさ」
 道――と言い切ってしまうには、あまりに危ういモノがそこにあった。
 現実のソーンと、オーマたちの居た世界との接点が、位置の固定化を巡って争っている。その状況を手助けすべく現れていた36の聖獣――世界を構成する祖であり、『神』に尤も近い位置にいるそれらが、次元軸の摩擦でプラズマすら発生している『異界の門』へと執拗な攻撃を加えていた。
サモン:「……分が…悪いね…」
オーマ:「そりゃあそうだ。あいつらにとっては、未知のウイルスと戦ってるようなもんだろうからな」
 弾力のある地面を踏みしめつつ、オーマが呟いて歩を進め。
 ――その手に、気合の高さを示すか巨大な銃をゆっくりと具現化させていく。

 ――GAAAAAAAA!!

 オーマたちがその中心部へ近づこうとしたその時。集まっていた聖獣の数体が身を捩って、ずん、と地響きを立てながら地面へと落ちて行った。…それとほぼ同時に、不自然な蠢きを見せたかと思うと――まるで金属鎧を纏うように表面がコーティングされ、その上自らの頭と腕を数箇所同時に具現させながら、ゆらりと身体を振って起き上がった。
ゼン:「うぇ…なんつーこった。ウォズの野郎、『喰いやがった』な」
ユンナ:「聖獣すら侵食してしまうのね――いえ、ありえた話かしら。物質まで自らのいいように変えてしまうのなら」
 聖獣たちは今や2に分かれて戦っていた。ひとつは変わらず開いてしまった異界の扉へと攻撃し続け――残りは、変容した聖獣へと向き直り、容赦なく仲間へと牙を剥き襲い掛かっていく。
ゼン:「うぉ。やるな、こうなっちゃ敵も味方もなさそうだが」
ユンナ:「良く無いわ――侵食したモノを攻撃する意味を分かっている筈なのに」
 それはまた、自らが同じく侵食される可能性を示唆しており。
ゼン:「それでもやらなきゃ男が廃る、とか考えてんじゃね?――たりぃなぁ」
 両の腕へ具現化させた長刀を構え、ゼンが面倒くさそうに呟き。
レイド:「我は聖獣へ力を貸そう」
 戦っている光景がまるで目に入っていないかのような静かな声でそう告げたレイドが、すたすたと聖獣の群れの中へと入り込んで行く。
 ――GUAAAAAAAAAAA!!!!!
 粘着質な液体を吐き散らしながら、複数のいびつな首を抱えた聖獣の一体が仲間たちから抜け出し、もっと小さな『敵』、ヴァンサーたちへと、異様に身軽な姿勢で飛び込んで来た。
 その目の前には。
 何も得物を持たず、ただ真剣な眼差しで前方を見詰めているサモンの姿があり。
ゼン:「おい、サモン――ッッ」
 走って間に合わないと分かっていながら足を向けるゼン。その目の前で、
 ぎぃぃぃぃぃ!!
 金属が軋むような悲鳴が、上がった。
サモン:「――大人しく…還らないと……少し、痛い思い…するよ」
 ゆるく両の手を床へ向けたきり、武器を具現化することも無く、サモンが呟く。その目は、どこか夢見る眼差しのようでいて、焦点が合っておらず。
 その傍らには…艶々しい輝きの銀色の龍が、サモンと同じ眼差しを、目の前に居るウォズと同化した聖獣へと向けていた。
 ――オォォォォ……
 また。
 別の場所では、とうに変身を済ませていた巨大な赤獅子が、変容し続ける聖獣の、次々と生まれ来る『頭』を噛み千切り――飲み込んでいく。
 喰らう事で、聖獣からウォズを引き剥がそうとするように。
ユンナ:「それじゃあ…私も動かないといけないわね。ゼン、私に火の粉が掛かって来たら払いなさいね」
ゼン:「俺かよっ!?」
 柔らかな床を刀で遠慮なく切り裂いていたゼンが、文句ありげにばっと顔を上げてユンナを見――そして、慌ててその笑顔から目を逸らした。そのまま、ほんの少し青ざめた顔でこく、と悔しげに頷く。
ユンナ:「それでいいのよ」
 あなたたちはちょっと下がってなさいね――大人しく付いて来て、手伝うつもりかぽふぽふと違和感のある地面へ白い煙を吐いていた丸い3体がユンナにそう言われ、言葉が分かったのかそれとも雰囲気で察したのかふよんふよんとドームの端へ移動し、大人しく身を寄せ合った。
オーマ:『面倒だな』
ユンナ:「どうしたの?…何か分かった?」
オーマ:『こいつら…いや、らじゃねえ。「こいつ」は…なんてこった。全部同じモノだ』
 精神感応の故か。その場に居た4人が一斉に巨大な赤獅子を見る。
サモン:「…邪魔…」
 カアッ、と口を開いた銀龍から輝くブレスが生み出され、赤獅子の背後から襲いかかろうとしていた聖獣もどきの頭をふっ飛ばす。
ユンナ:「同じモノ?――そう、か…同一精神の群生なのね!?」
オーマ:『ああ。性質の悪いアメーバに近いな。核はあの欠片単位で存在する。ひとつひとつ潰してった所で間に合わねえ。…こいつらは無理やり扉をこじ開けた事なんざ知らねぇんだ。ただ、呼ばれてやって来て――自分の元居た場所と同じ環境へ変貌させているだけさ』
ユンナ:「――」
 ふと、オーマの口調に口をつぐむユンナ。『呼ばれた』と言い切るオーマの言葉に心当たりがあるのか…だが、それは彼女自身にもどうにも出来ない事のようであり。
ゼン:「んだったらどうやりゃ素直にお帰り願えるんだよ!?この、蔓延ってく連中をよ!?」
 手当たり次第に封印をかまし続けているゼンが、怒鳴りつけ。
サモン:「――この地下…聖獣、ごと…封印…?」
 静かに、そんな提案を告げるサモン。
オーマ:『おぅ、いい案だ。だーがそりゃまだ早いぞサモン。手はまだある――ユンナ』
ユンナ:「はいはい。何かしらオーマ?」
オーマ:『ソサエティマスター…お前の写し身でいい。出来るだけ似せて向こうへ熨斗付けて送り返してやんな。――多分それで大元は収まる筈だ』
ユンナ:「―――」
 答えに詰まり、息を呑んだ彼女。それは初めて見るユンナの狼狽した姿であり…そして、数瞬の逡巡の後でふぅ、っと息を吐き。
ユンナ:「オーマ…あなたにヴァンサーの資格を与えた事、喜んでいいのか悲しんでいいのか時々分からなくなるわ」
 言いながら、その深い青をすぅ…と細め。
 『扉』の前に、無貌の…ヒト型をした、あやふやな姿のそれを出現させた。

 すぐ近くにある『扉』が触手めいた腕を伸ばし、『それ』を嬉々として取り込んで行くのが見える。――と同時に、さぁ……っ、と潮を引くように、聖獣の首が着え、色が元へ戻り…そして侵食されていた壁が色を変え、光を失って行く。

 おぉぉぉぉぉぉおんん――

 同時に雄叫びを上げた赤獅子と、黙ったまま魔除けの銀の色を宿した龍の口元それぞれに巨大な光球が生まれ――目を開けて居られない程の眩しさまで光度を上げた、その瞬間。

 エルザード城では、西の方角で爆発かもしれない光の輝きがあった――そんな報告がなされていた。

*****

レイド:「お主らが居ると我も退屈していた事など忘れてしまいそうだ」
オーマ:「だろ?だろ〜なぁ?だからこう、思い切って例の書類にサインしねえか?今ならもれなく俺様の世界より大きな愛をプレゼントするぜ?」
レイド:「遠慮しよう。――では『また』な」
ユンナ:「待って」
 レイドも、聖獣たちも…その、響きの良いユンナの声にぴたりと足を止める。
ユンナ:「ヴァンサーソサエティマスターとして、今回の件…謝るわ。ただ、私もこの世界へウォズが蔓延るのは好ましくないと思ってる。それだけは分かって欲しいの」
 いくつもの目が自分へ注がれているのが分かっているように、ユンナが姿勢を正し。
ユンナ:「私たちはこれからもウォズをこの世界へ流出させないよう気をつけるつもり。――それで…同じようにこの世界を守り続けているあなたたちにお願いがあるの。もしまたこうしたウォズ…または、ウォズかもしれない出来事があった場合、私たちにも教えてもらえないかしら。こちらはこちらで、あなたたちの手伝いをする用意はあるわ」
レイド:「それは――お主1人の意見か?それとも――」
ユンナ:「ヴァンサーを統べる者としての言葉よ。これに関しての決定権は全て私が持っているの。それに、ヴァンサーである以上ウォズに対するのはその者の務め。否やはあろう筈が無いわ」
 レイドの後ろでユンナを見詰めていた――いや、資質を見ていた聖獣たちにも拒否する意思は無いらしく、それを代表するかのようにレイドがこくりと頷きつつ、
レイド:「…承知した」

*****

 ――聖獣たちの行く先を確かめ、閉じた『扉』の周囲――裂け目が出来かかっていたそこへ強力な封印を施したレイドが苦みばしった渋い笑みを一瞬だけ浮かべ、そして迷宮の闇の中へ消えていく。他にも通り道があるのか、それとも夜になるまで身を潜めるつもりか…少なくともオーマたちと同道する気は無いらしく。
オーマ:「さーって、戻るか」
サモン:「…少し、疲れた…」
オーマ:「そーかそーか、戻ったら全身マッサージしてやろう。俺様特製のクリームでな――っっっ!」
 躊躇なしに手から生み出した切れ味の酷く良さそうなナイフが、オーマの首筋、皮一枚に届かない薄さの傷をすぅ…と付ける。
サモン:「――次…頚動脈…行くから」
オーマ:「まままま待てっ、サモン!そりゃいくら丈夫な俺様でもちぃとばかりキツイ」
 娘の脅しが冗談を一切含んでいない事は、上ずったオーマの声を聞くだけで十分理解できた。
ゼン:「――んな親子喧嘩どーだっていいんだがよ。…何でこいつらも付いてくんだ?」
 ふよんふよん。
 『扉』が閉じるまでに間に合わなかった、細かなウォズを見た端から封印し続けている彼ら4人の後ろを、のんびりと付いて来る3つのボール。
オーマ:「おう、忘れてた。あーと…シロとグレイ、こっち来いこっち」
 ひらひらと手を振って手招きしたオーマへ素直に付いて行く2体のボール。
ユンナ:「オーマ…その遺体の始末もしたのね」
 その周囲に、見覚えのある医療セットを見つけ、ユンナが呟く。
オーマ:「まあな。綺麗にしてやった方が仲間も喜ぶだろ」
 この位しか出来ねえしな、そう呟いたオーマが――よいせ、と一体ずつ抱えて、白の恐怖と灰色の恐怖それぞれの上へ乗せてみた。
 急な重さに一瞬地面へ潰れた2つのボールが、ゆっくりと弾力を取り戻しながら再び浮かび上がる。
 鎧や剣の尖った部分をも包み込んで、簡易ベッドのように2人を寝かせたまま、ほぼ元の位置まで浮かんだのを見てオーマが満足げにうむうむと頷き。
オーマ:「こいつらをどうやって運ぼうか悩んでたんだが、こりゃいい。ついでに俺様の病院まで来いや、歓迎するぜ」
ゼン:「連れて帰るつもりかよ…」
 どこかげっそりとした表情でゼンが呟き。サモンは無言のまま、ほとんど表情を変えずにひっそりと喜びのオーラを発し。
ユンナ:「いいんじゃない?柔らかそうで可愛いじゃないの」
 ぷよぷよ具合を既に触って確かめていたユンナが賛成し…サモンが、こくこく、と力強く頷いていた。
ゼン:「それは否定しねえけどよ。……てめぇ、ちょっとこっち来いや」
 残った黒いボールを手で呼びつけ、
ゼン:「どうせ帰る方向一緒なんだ、俺も運べ」
 言うなり、身軽にひょいっとその上へ飛び乗った。先程遺体を乗せた時と同様ふわんと沈みかけ、それが元へ戻ろうとぐぐっと脹らみかけた――その時。
 ちくっ、とゼンの靴の金具が黒いボールに当たり。

 ――パァァンッッッ!!

 派手な音を立てて黒いボールが弾けた後…そこには、呆然と床に座り込んでいるゼンの姿があった。

ゼン:「あ、あれ?」
サモン:「…………」
 じゃきん。
 無言で両手へ具現化させた巨大な銃を真っ直ぐゼンへと構えるサモン。
 その目も口元も…全身からも。
 殺気などと言うには生易しい怒りが、ただ1人の男へと向けられていた。

ゼン:「何で俺ばっかりーーーーーーーッッッ!?」

 その悲鳴が、謎の光と同様にエルザード城の報告対象になったか…それは記録には記されていない。

*****

 その後。
 無事生還し、遺体の回収と引渡しも済ませ、2体の恐怖を持ち込んで街中に軽いパニックを起こしかけると言う一幕もあったものの、オーマの功績に応じてうやむやに済ませてしまってから幾日かが過ぎ。
 こんこん。
オーマ:「今手が離せねえ。ゼン出てくれ」
ゼン:「…俺は怪我人だっつうの…」
 ぶつくさ言いながら、治療中のオーマに恨みがましい目を向けたゼンが、不自由な手ではなく身体で扉を押し開け…そして、あんぐりと口をあけた。
ゼン:「―――――――い…生きてんじゃねえか、よ…」

 ふよんふよん。

 どうやって復活したのか、いやそれよりもまるで怪我の様子が見えないのは何故なのか。…というかどうやってノックしたんだ今。
 包帯で身体数箇所を痛々しげに覆っているゼンの目の前に、黒いボールがおり。

 ――ぽ。

 一瞬。
 黒い肌のどこかが赤く染まったように…見えた。


-END-

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ライター通信
お待たせしました。
このお話はPCクエストノベル(1人)で先だって製作したノベル「誘い―前編―」の続編に当たります。
強王の迷宮に1人潜ったオーマ、その後を追う3人の仲間。そこに待つものは…そう言ったストーリーですが、前回よりもシリアス度が減っているような気がしてなりません(笑)
彼らの持つ共通点と絆…それらをこちらの解釈で表現させていただきました。
またのご利用をお待ちしております。
ありがとうございました。

間垣久実