<PCクエストノベル(3人)>


さまーばけいしょん 〜アクアーネ村〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1695/アンフィサ・フロスト/植物を保護し守り続ける者。】
【1780/エルダーシャ    /旅人/魔法遣い/2号店店長】
【2135/美夜        /晶術士          】

【助力探求者】
なし

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 水の都、アクアーネ村。村中に水路を張り巡らせ、その交通のほとんどをゴンドラで行っていると言うこのあたりでも珍しい生活スタイルを貫いている名物村である。
 ユニコーン地方の都市、聖都エルザードに近いと言う事もあり、その特殊な生活環境もあり…ましてや『水の都』という二つ名の通り、夏場は涼を求めて立ち寄る者も少なくは無い。
 特に今年は夏がなかなか去らず、お陰でアクアーネ村へは観光客が引きも切らず押し寄せたとかで…観光客相手の商売は随分と美味しい思いをしたらしい。
 尤も、これが冬場になると寒さ厳しい村へと変化を遂げてしまうため、今のうちに稼いでおかなければ後々困る、と言う読みもあったのだろうが。

エルダーシャ:「アンフィちゃん、美夜ちゃん、だいじょうぶ〜?」
アンフィサ:「大丈夫です〜」
美夜:「ええ…暑いですけど、ほら――もう見えてますし」
エルダーシャ:「近いものね〜。ああ〜、気持ち良いんでしょうね〜」
 既に水に浸かった気になって目を細めるエルダーシャに、美夜とアンフィサがそっと微笑み。
 さぁ…っと、涼しげな風が3人の頬を優しく撫でて行った。

    *   *   *   *   *

 真夏は過ぎたものの、いつまでも暑い天気に業を煮やしたか、ある日誰が言うとも無く言い出した避暑旅行に飛び付き。
エルダーシャ:「アクアーネ村はいいわよ〜。今までにも何度か行った事があるんだけど〜」
 村中に水路の流れるアクアーネ村は、今の時期は涼しくて過ごし良いだろうと、そんな話題で話が弾み、そして今日の運びとなる。
 旅行日和とでも言うのか、さんさんと照りつける太陽の日差しに3人とも大きな帽子を被り、白、もしくは白に近い淡い色調でまとめた服を身に付けて、何が入っているのかそれぞれ旅行バッグを持ちながらのんびりと歩いていた。…のんびりと歩かなければ、すぐにばててしまっていただろうけど。
アンフィサ:「涼しくなった頃に出発して〜一晩泊まっても良かったですね〜」
エルダーシャ:「ん〜今からでも遅くないんじゃない〜?お土産を渡すのが遅れるだけだし〜」
美夜:「…エルダーシャさんは、店長さんなのですから…お店の事があるから日帰りと言う事じゃなかったんですか?」
 控えめにそぉっと声を出す美夜に、にんまりと笑うエルダーシャ。
エルダーシャ:「だいじょうぶよ〜。皆良い人だもの〜♪」
 …どうやら、店へやって来る客がほとんど自主的に自分のメニューを作ったりして楽しんでいる事を言っているらしい。そこまでのセルフサービスをやっている店も珍しいのだろうが、店長や店員の性格を考えれば非常に頷ける話ではあった。
 今も、アンフィサと美夜の2人はエルダーシャの言葉に何となく納得させられてしまっている。
エルダーシャ:「さあ着いた〜♪ねえねえ、何処から行こうかしら〜?」
美夜:「あ…水の匂いがします」
アンフィサ:「いいにおい…」
 うーん、と大きく伸びをするアンフィサ。先程までのどこかしんなりとした様子とは打って変わって、目をきらきらと輝かせている。
アンフィサ:「水浴びしましょうよ〜。水路に飛び込んでも良いかなぁ〜」
 わくわく、と全身で表現する彼女に、ぱたぱたと手を振るエルダーシャ。
エルダーシャ:「水路だとゴンドラに轢かれちゃうわよ〜。あ〜、でもそういう体験も良いかもしれないわね〜」
 ふるふる、と小さく美夜が首を振りつつほんの少し2人から距離を置いた。それに気付いているのかいないのか、エルダーシャが唇へ手を当てて「ん〜〜〜〜〜〜」と暫く悩むような動きを見せ。
エルダーシャ:「そうだわ〜。あそこが良さそうね〜」
 ぽむん、と少し気の抜けた音を立てつつ両手を合わせると、2人を伴って村の中へと入って行った。
美夜:「わぁ…」
 噂に聞いていたが、海や湖で見かけるボートや船と違い、細いその独特のフォルムを見せながら村の水路を行き来するゴンドラに、思わず小さな声を上げる美夜。
アンフィサ:「冷たそうなお水…」
 変わってこちらはゴンドラよりも、青々とした水を湛えた水路の方が気になっているらしい。
エルダーシャ:「うふふ〜♪」
 思っていた以上に涼しい村の中に満足しつつ、のんびりと村の中を通過して行くエルダーシャ。道を分かっているのは彼女だけとあって、その後ろをとことこ着いて行く2人は大人しいものだが、全ての場所へゴンドラだけで移動できるアクアーネ村はいたるところが水路と橋で出来ており、ほとんど網の目状になった村の道は彼女たちが何処へ向かっているのか、次第に分からなくなってくる。
 ましてや道を確かめている様子もないエルダーシャの、のーんびりとした様子にほんの少しばかり不安を誘われてしまったのだが。
エルダーシャ:「到着〜♪」
 にこにこと楽しげに笑うエルダーシャ。その彼女の目の前には、広々としたプールのような物があった。
美夜:「ここは…水路じゃないですよね」
エルダーシャ:「そう、水路じゃないの〜でもね、似たようなものなのよ〜」
 ほぉら、とエルダーシャが指し示した場所へ顔を向けると、すぐ近くに水路があり、そこを金属の門と柵が何重にもかかっているのが見える。そのずっと向こうをゴンドラが通り過ぎていくのが見えた。
エルダーシャ:「あっちが、この村の外よ〜。ここはね、川と水路を繋ぐ場所なの〜」
 聞けば、村の外へ繋がっている大きな川の一部を村の内部へ引き込む際に、水量や勢いを一定に保つための仕掛けがなされているのだと言う。そのために、こちら側は水門と柵で川の大きな流れをせき止め、そしてこうやってプール状の水場を作り、水量を調節しているのだとか。
 尤も、常に水で潤っているこの村では、ここは夏場の水浴び場としての顔の方が有名なのだが。

    *   *   *   *   *

アンフィサ:「はうぅ〜…染み込みます〜〜…」
エルダーシャ:「ほらほら〜、美夜ちゃんも早く〜」
美夜:「あっ、はい…」
 街を出る時に、既に水浴着を中に着ていたアンフィサとエルダーシャが一足先にひんやりとする水の中へ入り、階段の上で上着は脱いだものの、ほぼ全身を服で包んで恐る恐る水中に足を踏み入れた美夜が、ほう…っ、と深く息を付いた。
アンフィサ:「日の光も心地良いし〜」
 ちゃぷちゃぷと耳元に触れる水音を楽しむように、うっとりと目を細めるアンフィサ。
エルダーシャ:「ほんとう、冷たくて気持ちいいわ〜」
美夜:「ええ…暑いからこそ、こういう水浴びが楽しめていいですね」
 見れば、きゃあきゃあと歓声を上げて飛び込む子供たちの姿もあり。
エルダーシャ:「そう言えば日焼け止めは持ってこなかったわ〜。美夜ちゃんみたいに服で防護すれば良かったかしら〜?」
美夜:「え…っと、そうですね。あ…そうそう。帽子があるじゃないですか。あれを被っていれば、顔は守れますよ」
エルダーシャ:「美夜ちゃん気が利く〜」
 取って来ようかと身体を起こしかけた美夜の頭の上に、帽子がぱさりと降りてくる。見れば、エルダーシャの頭の上にも帽子があり、そして美夜を見た彼女がにっこりと笑いかけてきた。
エルダーシャ:「アンフィちゃんは帽子いる〜?」
アンフィサ:「ううん。水に浸かってる時は日光をいっぱい浴びていたいです〜」
エルダーシャ:「それもそうね〜」
 ちゃぱちゃぱと軽く泳ぎ回るエルダーシャ、そして水の上に浮かんでじっと目を空へ向けているアンフィサ。美夜は水の中へ入る階段の途中で、腰辺りまで水に浸かりながら、深々と被った帽子から目を細めて周囲を見渡している。
 さらさらと指の間を流れて行く水を掬い取りながら。
 そうして、途中で身体が冷えてきた2人が石で作られたベンチの上へ腰掛けて乾かし、唯一残ったアンフィサは実に気持ち良さそうに長い間水の上を漂っていた。

    *   *   *   *   *

美夜:「ここってお茶も美味しいですね」
エルダーシャ:「綺麗なお水を使っているからでしょうね〜。身体は大丈夫〜?」
美夜:「ええ。ご心配おかけしました。水が気持ちよくて浸かりすぎてしまったみたいです」
 3人は今、アクアーネ村のカフェにいる。すぐ下を水路が通っており、上がってくる風が心地良い。そんな中で温かい飲み物と焼き菓子を頼み、人心地着いた所だった。
アンフィサ:「アンフィも冷えちゃいました〜…あ、このクッキー美味しい〜♪」
 流れる川から引き込んだ水は、当然夏場とは言え人工のプールよりも冷たさは段違いで。早めに上がったつもりだった美夜が寒気を訴え、丁度上がってきたアンフィサと共に近くの小屋を借り、通常の服に着替えてこの店へと移動したのだ。
エルダーシャ:「ねえ、アンフィちゃん、美夜ちゃん。これからゴンドラに乗らない〜?」
アンフィサ:「ゴンドラ?」
 こくこく、と水路を眺めていたエルダーシャが頷いて、今も下を通り過ぎていく一艘の船へ目をやり。
エルダーシャ:「私、漕ぐの上手いのよ〜♪」
 にっこりと笑いながら胸を張る様子を見れば嘘ではないようだが…顔を見合わせたアンフィサと美夜が、
美夜:「あの…エルダーシャさんが、漕がれるんですか?ゴンドラ乗りの方じゃなくて…」
エルダーシャ:「そおよぉ〜。私が、今度は水の上から村の中を案内してあげる〜♪」
 何やらうきうきしているエルダーシャに断わりもならず、また2人もゴンドラで遊覧する事自体には否やは無く。
美夜:「水の上だと、風の匂いが全然違うんですね」
 …こうして、エルダーシャの見事な櫂捌きで滑る様に水の上を進んでいる。
アンフィサ:「美夜ちゃん、そういえばさっきお店で何をしていたんですか〜?」
 ゴンドラ乗り場へ行く前、カフェの店員に何か真剣な表情で聞いていた美夜を見たアンフィサがふと思い出したように訊ね、
美夜:「人探し、なんです。…人がたくさん来る場所なら、もしかしたら手がかりが見つかるかもしれない、そう思って。でも、心当たりは無いそうです」
アンフィサ:「残念ですね〜…でも、きっと見つかりますよ〜。だから、気を落とさないで下さいね〜」
 影が落ちる水路の水は、先程の水辺とは段違いに冷たい。それを指先でぱしゃぱしゃ触れながら、アンフィサがにこりと微笑んだ。
美夜:「ええ…きっと、そうですね。この村でも、まだ聞いていないお店もありますし、色んな人が訪れる場所は他にもあるそうですから」
 それを受けて同じくほんのりと微笑む美夜。その会話を聞いているのかいないのか、
エルダーシャ:「このルートはね〜、以前レースをやった場所なの〜」
 歌うように告げながら、自慢げに言うだけはあるその腕前を披露しつつ、すいすいと移動する。
 3人が最初通った村の中の道は、水路から見ると、入り口からほぼ一直線になっていたのが分かる。
アンフィサ:「水路が優先なんですね〜…上は迷路みたいなのに、こっちのほうは随分整備されていて〜」
エルダーシャ:「そうね〜。だからほら、あんな風に水路を利用した荷運びもやっているのよ〜」
 その声に2人が振り向くと、遠くの水路で山のような荷を乗せた、3人が乗っているゴンドラよりは大きな船が荷揚げをしているのが見えた。
 時折通り過ぎる観光客を乗せたゴンドラへ手を振り、涼しい風に髪をなびかせながら目を細め…そして、ゆっくりと村の中を一周したゴンドラが最初の場所へと戻って行く。
エルダーシャ:「到着〜♪お疲れ様〜、どうだった〜?」
美夜:「とても楽しかったです。船でこんな風に移動するなんて滅多に無いですから」
アンフィサ:「お水も冷たくて気持ちよかったです〜。夏はアクアーネ村に人気が集まってくる理由が分かりますね〜」
エルダーシャ:「そうね〜」
 久しぶりにゴンドラを漕げて満足している様子のエルダーシャが、竿で船を固定している間に美夜とアンフィサの2人が桟橋へ飛び乗って行く。
アンフィサ:「ああ…そろそろ、日が傾いて来ましたね〜」
 午前中に街を出て来てから、のんびりとやって来て時を過ごしたためか、高い位置にあった太陽が降りてきているのを眩しげに見やるアンフィサ。
美夜:「今からなら明るいうちに帰れるかもしれませんけど…」
エルダーシャ:「あら、お土産も買わないで帰るの〜?」
 任されているお店の店員や、常連客へ何か買って帰るつもりだったらしいエルダーシャがにっこりと笑って2人へ訊ね。
アンフィサ:「そうですね〜。お店、見て回りましょうか〜」
 こくこく、とアンフィサが嬉しそうに頷き、その後で美夜もにこりと笑って賛成した。

    *   *   *   *   *

アンフィサ:「残念でしたね〜」
美夜:「そうですね…でも、今日はとても楽しかったですから、いいんですよ」
 ――既に、夜。
 晴れ渡った夏の夜空が一面に輝いていた。
 そんな中をのんびりとした足取りで歩く3人の姿がある。
エルダーシャ:「そうね〜。楽しかったわね〜」
 アクアーネ村名物のゴンドラの模型を店へ飾るのだと買い、その他にも特産ではないのだが焼き菓子やキャンディなどの甘い物をお土産にしたエルダーシャがほくほくした顔で笑いかける。
 アンフィサも美夜も、エルダーシャ程ではなかったがちょっとしたお土産を持ってきたバッグに仕舞って持ち帰っていた。
 結局、美夜が探す人の手がかりは得られないままだった。人は確かに来るのだが、この夏暑かったこともあり人手が多く、1人1人印象に残りにくいと言う事はあったのかもしれない。
 いくつもの店を回りながら訪ねていく美夜に、同じようにそう答えた店員や店長は一様に申し訳なさそうな顔を見せた。仕方ない、と言いながらもやはり美夜は寂しそうで。
アンフィサ:「元気だして下さいね〜?何か手がかりが見つかったら、探すお手伝いしますから〜」
 ぽむぽむ、肩を叩くアンフィサ。
美夜:「あ…は、はい。その時は、宜しくお願いします」
 夜目にも赤くなった美夜が、やや上ずった声を上げながら僅かに身を引く。触れられるのが苦手だった、と気付いたアンフィサがごめんなさい〜、とぺこん、と謝るのを更に慌てた美夜が手を振りながら止めようとする一幕もあり。
エルダーシャ:「ねえねえ、アンフィちゃん、美夜ちゃん〜、あれあれ〜」
 そんな2人を引き戻したのはエルダーシャの嬉しそうな声だった。
 その声につられてエルダーシャの指さす方向を――今日1日楽しんだアクアーネ村を見。
アンフィサ:「――――綺麗〜〜…」
美夜:「ええ……浮かんでいるみたいですね」
 ぽう…っと。
 灯りの付いたアクアーネ村は、囲まれているその川に自らの光を反射させ。
 まるで、下からライトアップされているように、その姿を浮かび上がらせていた。
エルダーシャ:「天然の鏡ね〜」
 恐らく村の中も似たような状態になっているのだろう。夜間はゴンドラにも火を灯すのだし、それは一層幻想的な光景に違いない。
アンフィサ:「今度は、夜のゴンドラにも乗せて下さいね〜」
エルダーシャ:「任せて〜うふふ、楽しそう〜」
 夢見るような眼差しで、もう一度アクアーネ村へ視線を送る3人。
 そんな彼女たちの頬を、秋の気配がほのかに感じられる涼しい風が優しく撫でて行った。


-END-

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ライター通信
お待たせしました。アクアーネ村での夏のひとコマを切り抜く形で書かせていただきました。
発注いただいたのが9月に入ってからですので、残暑厳しい、けれど秋もそろそろ…と言う雰囲気を出してみましたが、いかがだったでしょうか。
発注ありがとうございました。また書かせていただく機会があれば、宜しくお願いします。
間垣久実