<東京怪談ノベル(シングル)>
□すれちがうもの□
「あっ、これは食べられるやつだよね!!」
「ジュディ。それは違うわ」
静かな、けれど鋭い呼び声に、ジュディはうす黄色に光る茸に伸ばしかけていた手を止めて、首だけで振り返った。
そこには母親の姿がある。いつも屋敷の中で着ているようなゆったりした服ではなく、ジュディほどではないが動きやすい格好をしていた。
ほっそりとしたその腕にかけられている籠からは、野草や茸など、山の恵みが溢れかえっている。しゃがみこんだジュディの傍らに置かれた籠もまた、同様だった。
ジュディは今日の朝、食べられる野草や茸の見分け方を実施で学びに近くの山へと登ろうとしていた。
それに彼女の母が付き添っているのは、ここら一体が母の庭のようなものであるのと、またただ登るのと違い、今回の修行は一歩間違えれば死に至りかねない危険性を孕んでいる為であり、加えてまだジュディは野草の知識が十分ではないので、半ば指導役として母は今、愛娘に同道しているのだった。
「手をお引きなさい、ジュディ。絶対に皮膚に触れさせないように、そうっとね」
母は手を伸ばしたままで固まっているジュディの側へと歩み寄ると、目線を合わせてそう告げた。
口調自体は穏やかだったが、有無を言わせないものをその中に感じたジュディは、言う通りに行動する。母は娘の素直さに頷くと、籠の中に入れてあった小さな紙束を取り出し、端を綴じてあるそれの何枚かをめくりあげてジュディと共に覗き込んだ。
随分使い込まれているらしく紙の端は所々が擦り切れていたが、内容の劣化はそれほどではない。
くすんだ白い紙の上に描かれていた絵は、ジュディが先程手を伸ばしかけていた茸だった。
よく特徴を捉えている絵の上には、はっきりとした赤い文字で『危険』という文字が書かれている。「読んでみなさい」という母親の声に頷き目を通していくうち、ジュディの顔からみるみるうちに血の気が引いていった。
「……お母さま、これって…………」
「そうよ、ジュディ。これは触れただけでもひどいかゆみを起こすし、食べるのなんてもってのほかなの。貴女はきっとこれと間違えたのでしょう」
そう言って、母は次の紙をめくり同じような茸の絵をジュディに見せた。
確かに色は似ているが、形が違っている。こちらの『無毒』と書かれている茸の方は毒がある方と比べひょろりと背が高く、また群生しているのが特徴だった。今ジュディの目の前にある茸は、一本一本が独立して生えている。
「なんだあ、せっかく食べられるやつ自分で見つけたって思ったのに……残念」
がっくりと頭を垂れるジュディへと、母は僅かに厳しい声を投げた。
「『なんだあ』で済んだだけで良かったのよ。ジュディ、私の可愛い娘。貴女の手はこれから幾つもの修行をするのに欠かせないものでしょう? それが毒茸についうっかり触ったせいで数日使い物にならなくなった。なんて、あまりにお粗末に過ぎるわ。これが本当の冒険中だったら、どうなっていたことか」
「…………はい……」
反論の余地もなく、ジュディはうなだれる。
母は力こそあまりないがその分知識はひどく豊富であり、それに父親は何度も助けられたのだという。
当人は「雑学が少しばかりあるだけよ」と苦笑するが、その知識の多さ、そして広さはジュディの知っているだけでも呆然とするほどのものだった。
ジュディはそんな母を、父の次に尊敬している。父が不在の際は家長の代理として、ジュディが道を外れそうになったら腕ずくでではなく言葉で引き止め、そしてもとの道へと戻していくその手腕には、いつも女中たちは尊敬の目を向けるほどだ。家の教育もこうあるべし、と参考にする者も多いのだという。
時折説教くさくなるのには辟易してはいるものの、少女は優しくも厳しく自分を育ててくれている母親を好いていた。
少女はたった今抱いた情けなさを胸の奥に押し込め、うん、と大きく頷いて顔を上げる。
落ち込んでいたさっきまでのそれとは違い、いつもの明るいジュディの表情に戻っていた。
「ごめんなさい、お母さま。もっとしっかり見てから採るようにする」
「細かいところや生え方、色などを全部頭の中で組み合わせれば決して難しいことではないわ。頑張りなさい」
「はいっ!! ……あ、お母さま、この紙束貸してもらっても……いい?」
「え?」
「あっ、見ないよ!! 見ないけど、答え合わせに使おうと思ったの!! ……駄目かなあ」
だんだん尻すぼみになっていく娘の言葉に我慢し切れなかったのか、母親は楽しげに吹き出した。
「ふふふっ。いいわよ、持っていきなさいなジュディ。だけど答え合わせをする前に目的のものに触っちゃ駄目よ」
「うん、それじゃあたしあっちの方探して来るね!!」
「あまり遠くへ行っては駄目よ」
「分かってまーすっ」
紙束を籠に放り入れたジュディが軽やかに草むらの木々の奥へと消えて行くのを見送り、母親は再び今晩の夕飯の材料になりそうなものを物色し始めるのだった。
「ええと……これって食べられるやつかな。茶色いの、茶色くて平べったいの……っと、うん、これは大丈夫だね」
今度は触れる前にきちんと茸や野草の絵が描いてある紙束で確認をし、ジュディはひとつひとつの野草や茸を慎重に摘んでいた。
この紙束は簡易図鑑のようなものなのか、細部に至るまでよく調べて書かれてあり、そのお陰でジュディは毒のあるものに触れることなく次々と採取を続ける事ができた。
だがとある一本の樹の根元にさしかかったところで、ジュディはひょい、と小首をかしげる羽目になる。
「……………………あれ? これは……」
地を這う太い根の隙間から生えていたのは、かさが真っ黒な茸だった。群生するものではないのか、そこでは一本だけが湿った土から生えている。
ジュディは自分の記憶や知識からその情報を引き出そうとしたが、何せ見たこと自体がなかったので早々にお手上げのポーズを取ると、頼りにしている紙束をめくり始めた。
「え? あれ?」
だが、いくら探してもこんな形と色をした茸は載ってはいなかった。似たようなものはあったが、しかし見比べればすぐに違う種類のものと分かる。
「ええっと、こういう時は……どうしよう。でもこんなの珍しいなあ、見たことない」
少女にとっては珍しいそれを見つめながらジュディはしばらく迷っていたが、遠くから母親が呼ぶ声に焦ったように立ち上がった。
「あっ、もうそんな時間?! うーんと、えーっと……後で調べればいいよね。珍しいし、お母さまも喜んでくれるかもしれないし!!」
そう言って少女は足元の茸をむしり取り籠に入れると、湿った地面の上を危なげもなく走り去っていった。
「えへへっ、籠にこんなにいっぱい取っちゃった。ねえお母さま、今日のご飯はなに?」
「うーん……魚の包み焼きの山菜添えかしら、それとも茸たっぷりのスープかな? 今日は女中さんたちが腕をふるってくれるらしいから、楽しみにしていましょう」
「うわぁ、本当に楽しみ!! もうあたしお腹ぺっこぺこだから、早くご飯にしたいなぁ」
山を降り、ジュディ親子は和やかな会話をしながら並んで歩いていた。
普段から鍛えているとはいえ、やはり山を散策するというのはそれなりにこたえるのか、ジュディは可愛らしく鳴るお腹を押さえながら籠の中を見る。
その様子を見て、母は「いくらお腹が空いてるからって、生で食べちゃ駄目よ」と笑っていさめていたが、ふと気づいたように娘へと向き直った。
「そうそう。ジュディ、あの紙束を返してもらえる? あれはお父さまと私で記した大事な資料なの。落としてしまったら大変」
「あ、借りっぱなしだったっけ。えーと、ちょっと待ってて」
ぐちゃぐちゃになっていた籠の中を引っ掻き回すと、紙束は無事底から出てきた。多少の泥がふちについていたが、乾きかけたそれを軽く払ってジュディは母にそれを手渡す。
しかし、そのついでのように何かがぽろりと籠から落ちたのに、ジュディは全く気がつかなかった。
「ありがとう、お母さま。これすっごく役に立ってくれたよ」
「それなら嬉しいわ。……あら、いま何か落ちなかった? ジュディ」
「え?」
地に落ちたそれを摘み上げたのは、母親の方だった。
『それ』が黒いかさを持った茸だというのを知ると、母は一気に険しい顔をしてそれを放り投げる。
ぽてん、と情けなく地面に叩きつけられた茸は、どこか寂しそうにころころと転がって止まった。
「お母さま、何するの?! 珍しい茸だと思ったのに……」
「ええ、確かに珍しいわ。黒いかさの茸はこの辺じゃ生えていない筈のものだもの」
「――――え?」
戸惑うジュディへと、母親の冷静な声が飛ぶ。
「あれは毒のある植物から養分を吸い取って育つ類のものよ、だからかさがあんなに黒い。この辺に生えていた毒のある植物は十数年前に絶滅した筈なのに、何故……。ジュディ、あれはこのあたりには生息していない筈だから、この紙束には詳細を書いてなかったでしょう? なのにどうしてそんなものを持ってきたの」
「それはっ……い、急いでたし、この辺じゃ見ない茸だからつい……」
「自分で判別ができないというのなら、どうしてすぐに私を呼ばなかったの!!」
久しい母からの叱責の声に、ジュディの背筋に寒いものが走った。
悪いのは自分だ。それは少女にも分かっていた。
だが母に見せようと採ってきたものを捨てられたというその事実はジュディの少しばかり幼い心には耐え難く、唇からは謝罪ではなく自己弁護の言葉しか出てはこない。
「だって、だって触ってもかゆくも何ともなかったから大丈夫だと思って」
「症状はかゆみ以外にも色々あるのを知らないわけではないでしょう。触れただけで毒を注入する種類も存在するのよ? ――――さ、早く帰らないといけないわ。判別薬をつけて、指に毒物がついていないか調べなくちゃ」
「そんな!! 毒があるって決まったわけじゃないのにそんなのって……。せっかく、お母さまが喜ぶかもって思って採ってきたのに……」
足早に歩き出す母親の背にすがりつくようにしながらジュディは訴えるが、母は振り向きもせずに低く呟いた。
「私は貴女を、人に危険を及ぼしかねないものを持ってくるような人間に育てた覚えはありません」
「!!!!」
ジュディの足が止まった。けれど母親の歩みは止まらずに、親子の距離はだんだんと離れていく。
「お……あ、さま……、ど……して……? あたし……っ」
「…………………………」
少女が俯き、足元に幾つもの水が落ちる。
だが嗚咽が漏れても、愛娘に呼ばれてもなお母親は振り向かない。
ジュディは自分の腹の中に何かどす黒いものが渦巻き始めるのを感じていた。
なんで、どうして? あたしは、あたしは――――――――
「お母さまのばかぁっ!!!!!!! 喜んでもらいたかったのに捨てるなんて、もう、もうお母さまなんて知らないっ!!!!」
叫びと同時にジュディは駆け出す。
喉を振り絞るかのように叫びに母親が青ざめて振り向いた時にはもう遅く、ジュディの姿は一瞬のうちに母を追い抜いて屋敷へと消えていた。
「ジュディ…………」
伸ばした手は娘には届かないまま、しばらくの間ずっと空を彷徨い続けていた。
「お母さまに、喜んでもらい、たかった、だけ、なの、に」
嗚咽が暗く広い部屋に響いては消え、響いては消えていく。
あれから女中たちのお帰りなさいの声も撥ね退けて闇雲に走り続けたジュディは、いつしか図書室の中へと辿り着き、長椅子に腰掛け両足を抱えながらひとり涙を流していた。
扉の向こうからは女中たちの気配がするが、彼女たちも手を出しにくいらしく入ってはこない。だがその方がジュディにとってはありがたかった。こんな泣き顔を他の誰かになど、見られたくはなかったからだ。
腕にぶら下げたまま走り続けてきたせいか、籠の中身は途中で放り出されたらしく、あれだけ沢山あった野草や茸も、もう底にほんの少ししか残ってはいない。
そんな籠を横目で見ていると枯れかけたと思いかけた涙がまた溢れ、少女は何度目かの嗚咽を漏らした。
本当ならば今頃は母や女中たちと一緒に、自分たちの採ってきた野草や茸の料理に舌鼓をうっていたというのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。ジュディはくるくると寂しげに鳴るお腹を抱え、再び両膝を抱えて俯いた。
「……っく、う、ぁあ…………っ」
涙ももうほとんど出なくなり、ただ乾いた嗚咽だけが図書室の高い天井へと昇っていく。
だが、そんな虚しい空気を裂いたのはジュディ自身だった。泣きすぎて腫れた目元を腕で拭い、階段を上りながら本棚の番号を調べ始める。
「R1、R2……違う、ここじゃない。Lの棚だったっけ」
幾つもの棚番号と本の背表紙を見比べながら、少女はやがてひとつの棚に辿り着いた。
山に関する書物を三つの棚に分けて置いてあるその場所へと身を躍らせ、菌糸類の事を記したとされる本の背表紙を片っ端から抜き取り、何冊もの書物の重みでふらふらしながらも机に運んで閲覧を始める。
殆どの書物はジュディには分からない専門用語ばかりでさっぱりだったが、その中にあった図解入りで、ジュディにもどうにか分かるものを発見し、少女は舐めるようにその本を読み進めていく。
山の散策に加え、泣いて疲れた身体でする読書は執拗に眠気を呼び起こす。けれどそのたびにジュディは頭を振って眠気を覚まし、先へ先へとページをめくり、そして。
「あった…………!!」
黒いかさ、湿った土に一本生える茸の図が、実に細かく記されていた。
「これ、きっと毒なんかじゃないよね? ね?」
ジュディは肯定を求めるようにその下に書いてあった詳細を読み進めるが、行を目で追っていくうちに徐々にその瞳からは希望が消えていった。
少女の目にとどめを刺すように飛び込んできた行には、
『食すれば、間違いなく死に至る猛毒の――――』
と。
「…………あ、ああ…………」
ジュディは本を取り落とし、いやいやをするように首を振ったが、目の前に突きつけられた現実はジュディの足元で静かに転がっている。
毒。
この一文字が今日ほど嫌いになった日はなかった。
「あ、あたし……おかあさま、に、なんて………………」
脳裏に、叩きつけるように叫んだ自分の台詞が鮮やかによみがえる。
『もうお母さまなんて知らないっ!!!!』
幼さを知らしめるような行為だった。自分の行動を棚に上げて人ばかりを責めた。
母はただ自分の身を案じ、そして自分のしたことがいけないことなのだと教えようとしていたというのに、ジュディはその全てを拒否してただぐずっていただけだった。
「お――――」
気付くのが、いや、気付こうとするのが遅すぎた。足が震えるのは母親が自分に呆れ怒っていないかという恐れと、自分への怒り。
幼い子供のように聞き分けのなかった自分が憎かった。
けれど、それ以上に。
「お母さまあぁっ!!」
ただ、謝りたい。
その気持ちを抑えきれずに、ジュディは暗い図書室を飛び出した。
ジュディの母はひとり、夕食も口にせずに自室のソファーに腰掛けていた。
傍らを見れば、小さなテーブルの上にはもう冷め切った山菜料理が並んでいる。どれも女中たちが元気づけようと腕をふるってくれたものだったが、ありがたいと思うのとは裏腹に、それらは喉を通りはしなかった。
本当なら今頃は、可愛らしい娘が満腹になって笑顔を見せてくれている筈だったというのに。
「ジュディ……」
娘は今もまだ泣いているのだろうか。思いを馳せて目を閉じる。
だが遠くから響いてきた騒がしい音に気付いて目を開くと、すぐに扉が開き、いつのまにか母親の前には娘が顔をくしゃくしゃにして立っていた。
「ジュ――――」
「お母さま、ごめんなさいっ!!」
名を呼ぶ声を遮り、ジュディは謝罪の言葉と共に深々と頭を垂れる。
「あたし、あたしっ、調べたの!! そうしたらあれに毒が、あるのが、分かって、それ、それでっ……!!」
「ジュディ。いいのよジュディ、分かってくれたのならそれでもう……」
「ううん」
頭を下げたまま、ジュディは母親の言葉を否定する。
「あたしやっぱり、甘えん坊だって分かった。それにあんまり覚えるのも得意じゃないし、もしかしたら今日あったことも何日かしたらころっと忘れてるかもしれないもの」
「そんな事はないわ、ジュディ。貴女は――――」
「今だけはあたしに優しい言葉をかけないで、お母さま」
少女が顔を上げた時、母親は目を見張った。先程まで泣いていただろうジュディとは別人のように、その表情は凛としている。
「お願い、お母さま。あたしをお父さまがしているみたいに叱ってください」
「でも」
「…………お願い」
母は口をつぐみ、そして大きく息を吐いた。そして同じくらいに大きく吸い込むと、毅然とした母親の顔を作る。
「――――分かりました。ジュディ、私の可愛い娘よ。貴女が望むのならば。まずはその頭にじっくりと今日の出来事を刻み付けるとしましょう」
長々と、いつもの倍以上に説教は続いた。
ジュディはそれを正座しながらじっとそれを聞き続けた。足が痺れ感覚がなくなりむずがゆくなってもなお、体勢を崩そうとはしない。
これは罰だった。自らに科す、罰。
「では、テーブルに手をついてお尻を出しなさい。これは罰なのですから、決して声をあげてはいけません。いいですね」
「…………はい、お母さま」
厳かな口調で言い放った母の言う通りに尻を出し、突き出すような体勢を取ると同時に、肉の叩かれる鈍い音が部屋に響いた。
「っ!!」
二度、三度、四度。
下半身から押し寄せるむずむずするようなかゆいような感覚と、そして鈍いが確実に襲い来る痛みは唇を噛んで耐えようとしても、到底耐え切れるものではない。
「――――っ!!」
「ジュディ、声をあげてはいけないと私は言った筈です」
「あ――――、ご、ごめん、なさ――――」
「……貴女には私の手だけでは足りないようね。分かりました、少し待っていなさい」
そう言って母は姿を消し、僅かな時を経て部屋へと戻ってくる。
細い手に握られていたのは短い鞭だった。まだ幼い頃は、いけないことをするとこれを振られたのをジュディは思い出す。
その時は威嚇するように振られただけだったが、今は。
「最後です。さあ、耐えなさい。私の娘」
鞭が、振り下ろされる。
「――――、――――――――!!」
風を切って飛ぶ鞭は平手とは段違いの痛みをジュディの臀部に与えていくが、けれど今度は唇が切れても少女は決して声をあげようとはしなかった。
この痛みは、罰だ。自分勝手に行動して、母親を悲しませ、そして自らを情けないいきものにしてしまった自分への罰。
三度目の鞭が振り下ろされ、『お仕置き』の時間は終わりを告げた。
それと同時に、ぐらりとジュディの身体がかしいで床に倒れ伏しそうになるのを、母親の細く、けれど強い腕が抱きとめる。
「お母、さま…………」
「ジュディ、ああ、ジュディ。もうこんなことはこれきりにしてちょうだい。私は貴女に、もう二度とこんなことをしたくはない……」
「…………うん。ごめんなさい、お母さま。あたし、もっといい子になるから、だから」
「ええ、ええ」
頷きながら、母は愛娘の身体をきつく、きつく抱き締める。
「……ほら、もうご飯にしましょう。皆も貴女に料理を食べて美味しいって言ってもらいたくってうずうずしてるわ」
「うん、あたしもお腹ぺっこぺこ!!」
親子は揃って、笑った。
数日後。
「ジュディ!! この前あそこまでしたっていうのにまだ懲りてないの貴女はっ!!」
「はいっ、ごめんなさいお母さまぁーっ!!」
怒鳴る母親の前には、再び尻を出して叩かれるのを待つジュディの姿があったという。
END.
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