<PCクエストノベル(2人)>


迷いの彼方に‥〜エルフ族の集落〜

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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
【2079/サモン・シュヴァルツ/ヴァンサー】
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●エルフの里はかくありき‥

詩人はこう歌う。

伝説のかの地‥
永遠を抱く者の、美しき里。
純粋な者だけが合間見える事を許される神の獣 ユニコーンと心通わせる唯一の森の民 エルフ。
その隠れ村。冒険者が望む知恵と知識の泉であるという。
だが、その地は樹海の奥深く、森は行く手を遮り、力を奪う。
目指すものはあまたあれど、辿り着けるものは少なく、戻ってこれるものはなお少ない。

それでも冒険者は目指すのだ。
憧れの地、エルフの森を‥

●同盟勧誘、親子鷹?

ユニコーンの地方の南東の外れ。
そこは、深く広い森が限りなく広がっている。

オーマ「まさに、樹海ってやつだな‥。ま・いいけどよ」

肩に担いだ銃を担ぎなおし、オーマ・シュヴァルツは森を見た。口調と表情はあっけらかんと笑っているが‥目は真剣笑っていない。
エルフの隠れ里なんて言ったって空から捜せば簡単なもんよ、そう思っていたのは数刻前のこと。彼はある手段を使って捜してみた。
それは、彼以外できない超裏技。だが‥見つからなかった。
あれば、見落とすはずが無い。見えれば、解らないはずは無い。だが‥見つけ出すことは出来なかったのだ。

オーマ「つまりは、あれだ。試練を潜りぬけよ。自分の足で探さない限りは見つけられないってことだな。冒険の定番って奴だな」

冗談めかした言葉を発した口元が小さくあがる。冴えたように光る目。そうでなくては‥!

オーマ「冒険って奴はやっぱり手ごたえが無くっちゃな。何としてでも見つけ出して、同盟に勧誘してやるぜ!」
サモン「‥うるさい‥バカオヤジ。‥いつまで‥ごちゃごちゃ‥言ってる」

そのまま放っておけばウォーとでも森中に震える声で雄たけびでもあげかねなかったであろうオーマに向けて、彼女は冷徹なまでに冷たい口調を投げかけた。
バカオヤジ、と呼ばれた父親は、と言えばそんなことなど気にも留めずに、愛すべき娘を背後からギュウと抱きしめた。

オーマ「お〜お、相変わらず可愛いねえ、我が娘よ。冒険ってのはよお、やっぱ、この掴みが肝心なのよ。始まる前からこう‥っておい!!どこにいく?」
サモン「‥いつまでも‥オーマの‥戯言に‥‥付き合ってるのは‥時間の無駄‥、行く気が‥無いんなら‥帰る‥」

2mを超える巨体の太い腕から、何故かするりと抜けた少女は、樹海に背を向けスタスタと帰らんばかりだ。
そんな娘を見て、オーマはフッと笑う。こんな平凡な(?)親子の会話が何故か楽しいのだが、これ以上やると本当に娘の機嫌を損ねそうだ。

オーマ「解ったよ。ったく俺様は娘と女房にどうしてこんなに甘いんだろうなあ。‥行くぜ! サモン」
サモン「‥なら、約束だから‥もう少し‥付き合う。‥‥あんまり、バカしないように‥見てて、と‥頼まれたし」
オーマ「地獄の番犬様、愛の命か‥ なら、しっかり監視をしろよ。我が娘!」
サモン「オーマ!」

娘の髪をくしゃくしゃ、っと撫でてオーマは森へと入っていく。娘は‥しばし立ち尽くし‥無言で後を追った。彼女、サモンは滅多なことでは表情を崩さない。
だから、彼女の心の内を、今はまだ誰も知ることは無かった。

●何かが‥変わるとき

オーマ「おーっと、またトラップか? 随分でっかい岩だねえ。こんなの良く積んだもんだぜ‥」
サモン「こっちは‥落とし穴‥、これで23個目‥‥エルフって‥暇?」

二人は、日の光さえほとんど射すこと無い薄暗い森の中を、平気な顔で歩いていく。
馬鹿デカイ銃を抱え、細い道の中は歩きづらいはず。
街中にいるときとまったく同じ服、同じ靴の少女には、森歩きは大変のはず。例え、冒険者だとしても‥
まして、ここはエルフの森、すでに3ダースは平気で超える罠が二人を襲う。
だが、二人はな何も気にする様子もなく、何も障害にする様子も無く歩いていく。
まるで、エルザードの街並みを歩くのと、同じように‥

サモン「‥‥あっ」

小さな物音に気付くとしまった、というような表情をすると後ろを向いた。
かさかさ‥、がさがさ‥

サモン「‥やっぱり‥」

膝を付いて下を見た。さっき、自分が開けてしまった落とし穴にりすが‥落ち込んでいるのだ。

サモン「‥ごめん‥大丈夫だった?‥わっ?」

穴に向けて伸ばした指先‥。垂直な土の壁を何度も滑り落ちていたりすは、柔らかく、足場のしっかりとした梯子を見つけると真っ直ぐ、一直線にそれを上りきった。
勢い余って腕から肩、頭の天辺まで。
深い谷から、突然高い山の頂上までやってきた小さく小さな冒険者は首をきょろきょろと、縦横上下に動かしている。
それをサモンはゆっくりと両手で包み込むと地面へ降ろした。
りすは、周囲を伺うようにもう一度きょろきょろ視線を動かすと‥森の奥に向かって走っていった。
サモンは手の中の温もりをパンパン、と服で払うと‥ハッと目線に気付いて顔を上げる。
そこには‥くすくすくす‥自分を見つめるオーマの姿が‥

サモン「‥な・何だ?早く‥行くぞ」
オーマ「はいはい」
サモン「何?‥その気の‥無い返事は‥」
オーマ「はいっとね」

彼は娘に背を向けて、歩き出す。
だが、究極の腹黒、親バカ親父。背を向けた娘の少女らしい行動、優しさが気持ちが嬉しくて可愛くて、可愛くて嬉しくて‥頬が緩むのをどうやら止める事ができなかったようだった。
まだ、くっくっくっ‥鳩のような笑い声が聞こえる。
サモンの表情は変わらない、だが‥上機嫌のオーマとは反対にちょっと拗ねていたのは確かなようだ。
通りすがり‥

オーマ「‥! うわっち!」

オーマの足を思いっきり踏んづけていったのだから‥


歩き続けること‥どのくらいたったのだろうか‥。
急に、今までと空気が変わったのを二人は感じた。
樹海の色が薄くなり、動物達が明らかに増えてきている。他者を拒む森ではなく、優しい秋の森だ。

サモン「可愛い声‥。あれは‥小鳥? 人の‥も‥混じってる?」
オーマ「‥ん? 抜けたか?」
サモン「‥かな?‥ん? オーマ! ‥あれ!」

サモンの指差す方向を見て、オーマの顔から滅多に消えない冗談とおちゃらけの気配が消えていく。
確かに抜けたはずの結界の森。だが、半瞬前までの暖かい色が急速に黒い闇色へと変わっていく‥。
動物たちのダンスは消え、小鳥の歌は止まり、虫の音楽が吸い込まれていく。
獣のような影が‥具現化し‥豊かな森を‥踏み潰していく。

オーマ「‥ウォズ! こんなとこにまで来やがったのか! おい、サモン、どうした?サモン!!」

銃を構え、オーマは身構えた。背後に娘を守るように‥。
だが周囲の森よりも、何よりも、一番色を失っているのがサモンであることに、オーマはやっと気が付いた。
髪が逆立ち、跳ね上がり‥目の色、空気‥身体の全てさえもが変わっていく。
サモンであったものが‥娘では無くなって行く。
少女だった身体が‥少年のものへと変わった瞬間! 全てが弾け爆発した。

サモン「‥‥小さな、命‥、こんなに一生懸命‥生きている命‥消すなんて‥許さない!!」
オーマ「まて!サモン!!」

制止の声は、一瞬間に合わなかった。

周囲の命を屠り、今度はその目標を二人の溢れる生命に向けてきた、ウォズ。
彼らは気付かなかったのだろうか? その二人こそが、自分たちの天敵であることを。
気付いていたかもしれない。ほんの刹那の時間だけは。
気が付いた時には、ウォズであった者達は‥全て地面の上に転がっていた。
何が起きたかなど、彼らは知るまい。
屠るものが‥屠られるものへと‥ 
自分達が決して近寄ってはいけないものに近寄った事を知るために彼らは命‥いや、その存在そのものを支払った。
ウォズだったものたちは、ゆっくりと空気に溶けるように消えていく‥
だが‥ことはそれでは終わりはしなかった。
ウォズの消滅に戻るはずだった空気の色が‥急速に落ちていく。
色が変わるのではない、溶けていくのだ。消えていったウォズたちのように、木が、草が、花が、風が、動物達が‥

サモン「‥‥‥」
オーマ「‥暴走が始まったか!!」

自らを削り、ウォズを屠るヴァンサーの宿命。『禁忌』
ウォズの血に塗れた者の心が壊れていくのだ。身体も、心も‥そして、世界全ても道連れにして。
それが‥宿命、変えられぬ運命‥
消えていこうとしている。
愛すべきこの世界。愛すべき友。そして‥何よりも愛する‥

オーマ「くそっ! させねぇ。させねぇさせねぇえええええ!!!」

グオッウウウーーー!

大地が震え、低く太い響きが広く‥ユニコーン‥いやソーン全体に響き渡ったという。
全てのものを恐れさせる、だが‥何故か心惹かれるその音の正体を‥知る者は無かった。


ぺロぺロ‥
首元に感じた不思議な感覚に少女は意識を覚醒させる。
まるで、自分の物であってないような入れ心と身体の感覚に、瞬きを一回、二回、三回‥

サモン「‥‥‥ぼ‥‥僕は‥‥! オーマ!!」
オーマ「‥けっ‥、気が‥付いたか。可愛い‥娘さんよ‥うっ‥」

低い喘鳴と共に、オーマはそれだけ言うと意識を失った。
髪を撫でようと動かしたはずの手は、そこにはない。風と思いだけを動かすのが、彼の精一杯だった。

サモン「‥なんだ?‥‥なんだ、なんだ?‥なんだ? オーマ? お前、こんなところで、怪我なんて‥冗談だろ? 目を開けろ、オーマ!!」

目を閉じたオーマの胸倉を脅すようにサモンは揺すった。乱暴に、手加減無く。生きているものならそれだけでダメージを受けそうなほどに。

サモン「目を、目を開けて、笑え‥俺を殺す気かって?でないと、本当に殺すぞ」

揺すりながら、落ちる涙。人には、他人には決して見せない、悲しいまでの慟哭‥


ペロッ
??「落ち着くのじゃ‥。また世界を壊されるのはごめんじゃぞ‥」
サモン「‥えっ?」
??「良く見るのじゃ、周囲を。よく聞きなさい。そなたらの為に歌う音楽を」

落ちた涙を拭った小さな感触、そして落ち着いた‥優しい声。サモンは周囲を改めて見回した。
そこは‥静かな森の中。木々の隙間から木漏れ日さえ差している。
耳を傾ければ風の歌、草木の囁きが聞こえてくる。自分達に語りかけてくるのを、彼女はやっと気付いた。
そして、もう一つ気付く。自分の心を覚醒させた小さなぬくもり。

サモン「‥おまえ‥あの時の‥リス?」

リスとサモンの視線が交わされるのを見ると、サモンにかけられた声の主がゆっくりとオーマの横に膝を付いた。
白い髭を蓄えた老人が、緩やかな笑顔でオーマの髪を撫でていることにサモンはやっと気付いた。
でも、いつの間に‥。

??「はても無理をしたものよ。じゃが‥大丈夫じゃよ」

サモンに向けて柔らかく微笑むと、老人は小さな木の実を一つ。オーマの口に入れた。
まるで角砂糖のようにスーッとオーマの舌の上で溶けて‥

オーマ「ガーッ! 何だよこのまっじいのは!」
サモン「オーマ!!」

今まで死んでいた、と言われても不思議ではない状態だった、事などもう完全な嘘。
飛び上がったように目覚めたオーマは、自分の胸を泣きじゃくる娘の涙の雫で濡らした。
左手で身体を支え、右腕でそっと娘を抱く。

オーマ「‥バカ。泣くんじゃねえよ」
サモン「オーマ‥」

サモンの肩から降りたリスは、長老と共に静かに消えた。
そこには二人きり。
ヴァンサーでも、不死者でも何でもない。そうであっても何も変わらない、
ただ、二人の父と娘だけが、その暖かさだけが‥そこにあった。


●エルフの里はかくありき??

オーマ「あのじじいはエルフの里の人間だったに違いねえ。くそっ! パンフ渡しておけば良かったぜ」

森から出たオーマの悔しそうな呟きに、サモンは珍しくけらけらと明るい笑顔で笑った。

サモン「‥あれだけ、チラシ貼ってきて‥まだ足りないのか‥」

あれから、どうしても、怒鳴っても泣いても開かなかったエルフの集落への最終結界。
力全開にしてぶち破れば、何とかなったのかもしれないが‥二人はそうはしなかった。

サモン「‥あれだけ‥騒がせた。これ以上‥迷惑かけるのは‥ダメ‥」
オーマ「わーってるって、でも次こそは、王室公認『腹黒同盟 エルフの隠れ里分室』をだなあ‥」
サモン「その時は‥また、‥つきあって‥やるから‥(また‥あの子に‥会いたいし)」
オーマ「そうだな。ま、今回は父娘の甘〜い語らいと楽しいふれあいができた、ってことでよしとすっか?」
サモン「あれが‥甘くて‥楽しい? オーマ、やっぱり、頭の‥どこか‥壊れたのか? あ、元から‥」
オーマ「おい!!」

笑いながら二人はエルザードに向けて歩き出す。
もう少しだけ、父と娘 二人きりの時間を楽しみながら‥
そんな二人を、動物達と、森と、風は、優しく微笑んで見送った。


さて、ここはエルフの森‥だったはず?
樹という樹にべったりとチラシが貼られてまるで、どこかの繁華街のようで‥。

エルフの若者1「わっ‥長老? これなんです?」
エルフの長老「ああ、あの男が貼っていったチラシじゃの。何と書いておる?」
エルフの若者1「『腹黒同盟 エルフの隠れ里分室通信 君も腹黒同盟に入ろう。もし入ったら今なら入会金無料。腹黒グッズ各種無料プレゼント なお、このチラシは自然に帰る優しい具現化素材で作られています』??」
エルフの若者2「腹黒‥響きは今一ですけど‥面白そうじゃありませんか?」
エルフの若者3「ちょっと、興味がありますね。街に行った時寄ってみようかな‥。 長老、作りませんか?これ」
エルフの長老「こらこら‥、しかし、さても面白い者たちよ。ワシも‥あと200年若かったらのお‥」

腹黒、イロモノ同盟の感染率、確実に急増中。
それが、いいことなのか、それとも良くない事なのか、まだ‥誰も知らない。