<東京怪談ノベル(シングル)>


夢薫る夜
「珍しいな、主人自ら相手してくれる娼館なんて」
「好みのタイプにはと・く・べ・つ☆」
 レイチェル・ガーフィルドは艶っぽく微笑んだ。

 ここは娼館「ドリーム・ムーン」
 レイチェルは若干23歳にしてここの主人をしていた。
 柔らかい金色の髪は短めで、青い瞳は濡れたように艶っぽく輝き。なにものにも染まらぬ白い肌。豊満な肉体を象徴するかのような巨乳、とよんでふさわしい胸。
 外見はこれでもかっ、というくらい女性なのだが、言動は男っぽく。姉御肌で気っ風がよく、面倒見が良いため好かれている。
 ここに集まっている女の子は達は皆、そんなレイチェルの人柄を慕って集まってくれた。

 唇をあわせる。
 舌が応える。条件反射。
 お客は恋人。……たった一晩限りの。
 快楽をくれる相手なら誰もいい。その相手が自分の好みならなおさら。
(今日は結構好みね☆)
 つい目の端に笑みが浮かび、サービスはいつも以上に過激になる。
「まだこんなに若いのに、娼館の女主人だなんて、すごいな」
「色々あって、これが自分に一番向いた商売だっただけよ」
 今夜のお客は聞きたがりのようだった。
 抱き合いながら何度もキスをかわして、指で身体をなぞりながら、男性は語りかけてくる。
「どうして一番向いていたの?」
「……昔ね、ある国で人質にされていた事があって、そこで兵士の相手をしていたのよ」
「へぇ。それは大変だったね」
「口で言うのは簡単だけどね。でもまぁ、当時レズだった俺を開花させるには十分な環境で。おかげでこんな身体に」
「レズだったんだ」
 くいっと敏感に部分に触れつつ男性はにやりと笑う。
 それにレイチェルは頬を赤くして、もれる吐息を押し殺しつつ続ける。
「そう。おかげで今は、両方いけるわよ」
 同じようにやり返して微笑む。
「解放された後、各地を放浪していても、思い出すのはあの夜の日々。……忘れようとしても忘れられないなら、いっそこれを商売にしちゃえばいい、って気がついたのよね」
「それでここか」
「そう。一夜限りの夢がみられる場所『ドリーム・ムーン』 性別は問わない。男でも女でも、夢を見たくなったら来てくれるような」
「女でも、か」
「気に入った相手なら、自ら相手してあげる……」
「俺のように?」
 肯定の意味で唇を重ねる。
 人は嘘がつける。本当に愛してなくても、愛を語る事ができる。今、目の前に立っている人を『愛おしい人』と思う事ができる。
 夜は長いの。もっと感じさせて。もっと酔わせて。
 優しく抱いてくれなくてもいい。荒っぽくてもかまわない。……感じさせてくれるなら。
 金糸の髪が頬にはりつく。濡れた青い瞳からは涙がこぼれる。
 互いの感じる場所をさがし、貪り、声をあげる。
 今、この人を『愛して』いる。そう、心から。
「……もう、朝?」
 微睡みからさめて、外の鳥の鳴き声に男性が反応する。
「あれはナイチンゲール。……まだまだ、夜は長いのよ」
 頬にキスをして、抱き寄せられて、口づけをかわす。
「知ってる? 夜明けに見る夢は、本当になるんだって」
「……試してみる?」
 笑いあう。
 一晩だけの甘い甘い夢。現実に疲れたなら、いつもで癒してあげる。そんな場所。
 夢は現。そして幻。
「恨んでる?」
「……誰を?」
 不意に問われてレイチェルは疑問符で返す。
「……兵士達を」
 言われて考え込むようにうつむいてから、少し笑う。
「恨んでない、って言えば嘘になるかも。でも本当に恨むのは争い。こうやって気持ちよければ、恨み辛みも忘れてしまうわ。……ね?」
 求めるように触れた指先を、男はさらうように握りしめる。そして抱き寄せられ、耳元に唇を寄せられる。
「……ごめん」
 弾かれたように男を見ようとしたが、すぐに強くキスをされて、レイチェルは瞳を閉じた。
「バカね……」
 笑って抱きしめた。

 一夜限りの夢をみたいのならば、いつもでいらっしゃい『ドリーム・ムーン』へ。
 いつでも心ごと、抱きしめてあげる。
 夢を魅せるために、今、ここにいるのだから……。