<PCクエストノベル(1人)>
朧の中
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【2393 / サラミス / 高速機動武装隊】
【助力探求者】
【1040 / エィージャ・ペリドリアス / 紋章術士】
【その他登場人物】
なし
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■ チルカカ遺跡 ■■
サラミス:「此処か…」
遥か昔は城であったと言われる場所、チルカカ遺跡。其の場所を目前にして、サラミスはぽつりと呟いた。生暖かい風が吹き、サラミスの黒い艶やかな髪を攫っては崩す。凛とした其の後姿から同じく遺跡へと視線を滑らせながら、彼女と同行してきた探求者──エィージャ・ペリドリアスも小さく息を呑んだ。
エィージャ:「威風堂々、と言った感じですわねぇ……」
サラミス:「昔は城であった、という情報を得ている。そう思う事も不思議では無いだろう」
エィージャの呟きにそう返すと、サラミスはゆっくりと歩き出した。チルカカ遺跡の内部はぽっかりと暗く、二人を待ち構えているかのようにゆったりとした雰囲気を醸し出している──不思議と暗黒と未知に満たされた内部。
遺跡に遣っていた視線を先に歩き出してしまったサラミスに戻し、エィージャも慌てて其の後を追う。
エィージャ:「あん、待って頂戴な!置いていかないでっ」
豊満な肉体を揺らし、エィージャも早足に遺跡へと向かう。
やがて二人の姿が遺跡内部へと消えた後、何かを予知するかのように──生暖かい風が一陣、砂埃を攫った。
■ 暗き中 ■■
内部は入り口から見たときと同じく、矢張り何処までも暗かった。底無し沼よりも暗いのではと思わせる其の闇に、サラミスは煩そうに目元を歪めた。此れでは調べる所か、満足に歩くことも出来ない。
そう判断した彼女は、自分の後ろを恐々と歩くエィージャへと声を掛けた。
サラミス:「光をくれないか。魔法で出来ると良いんだが」
エィージャは顔を上げ、心得たように頷く。
エィージャ:「御安い御用ですわ。其れ位朝飯前でしてよ」
言うと、彼女は自分の腹部へと手を掛け、ゆっくりと力を籠める。緻密な光と共に一本の線で縁取られていくのは、彼女の扱う紋章だ。光と共に緩やかに描かれる其れは、徐々に彼女の体から浮上し、其れ自体が光となって魔法を為す。
浮き上がった光の珠を満足そうに見詰め、エィージャは問うように小さく首を傾げた。
エィージャ:「此れで宜しくて?」
サラミス:「ああ。上出来だ、感謝する」
サラミスは頷いて、灯りに照らされ顕(あら)わとなった遺跡内部を見渡した。遥か昔、此処は城であった──そんな御伽噺を裏付けるかのように、広がる景色は緻密で広い。もう随分と古びてしまってあちこち欠けているが、昔々はこの場所は華やかであったのだろう。そう思わせる様々な物が、遺跡内部には転がっていた。
ふと床に落ちていた小物に目を留め、サラミスは其れを拾い上げる。エィージャが其の行動に気付いて其処に灯りを翳(かざ)すと、きらりとしたものが反射した。三叉に分岐した其れは、光の下で良く見れば、銀で出来たフォークのようであった。
サラミス:「城自体はこの下のチルカカ洞窟に沈んでしまったと言われている事から、此れは城の名残りなのだろうな」
サラミスの考えに、エィージャも同意を示して頷いた
エィージャ:「そのようですわね。此処には色々なものが転がっておりますもの。探せばもっとありそうな……」
だが、彼女の言葉は最後まで続かなかった。息を詰まらせ、其の瞬間に光が大きく揺らぐ。サラミスも其の異常な気配を察知し、防御の形を取りながら、エィージャの視線が指す方向を見定める。
其処に居たのは──遺跡に住まう亡者、グールだった。以前の姿であった城に仕えていた者か、其れとも外から入り込んだ他所者か。そう判断する暇も無く、亡者は二人に襲い掛かってくる。
サラミス:「援護を頼む!」
サラミスは一声そう吼えると、防御の形を保ったまま、亡者に突進していった。既に敵側に此方の所在が知られていた上、至近距離だ。弾薬の類いは必然と使えない。更には近くにエィージャという術士も居た──ならば、自分が防いでいる間に魔法で倒してしまうのがベストだ。機械化された脳裏を使い、一瞬で戦闘プログラムを組み立てる。
エィージャ:「判りましたわ!ならば其の侭で……!」
直ぐにサラミスの考えを察知し、エィージャも自分の体に紋章を描き始める。光を出現させた時とは違う、大きく描かれる紋章──彼女の体に描かれた其れは、為されると共に真っ直ぐに光の刃となって亡者に向かっていく。
亡者に其の刃が突き刺さる寸前、サラミスは人外の速さで其の身を横へと飛ばした。サラミスに押さえ付けられていた亡者は大きく揺らぎ、其の体に容赦無く光が刺す。醜い呻き声をあげながら、亡者は屑と消え去った。
エィージャ:「……危ない所でしたわね。矢張り遺跡、敵が出てくるのは当然のようですわ」
エィージャが一息つこうとそう声を上げた。が、サラミスは動きを止めたまま、其の場から動こうとしない。其の厳しい視線は、エィージャをすり抜き、其の向こう側を見詰めていた。──遺跡の奥、まだ何かが蠢(うごめ)いている場所を。
サラミスは低く姿勢を保ったままアサルトライフルを構え、其の衝撃にも動じず連続で三発、暗がりを撃ち抜いた。鈍く硝煙が立ち昇る中、先ほどと同じような鈍い呻き声が暗がりから数多も響く。其の声の共鳴に、エィージャは鳥肌が立った肌を押さえつけた。
サラミス:「……此れで私の認知できる範囲内に敵は居なくなった。一先ずは安心だろう」
エィージャ:「油断は禁物、でしたわね。ああもう、わたくしとしたことがっ」
苛々としたようにエィージャが地団駄を踏む。だが仕方無い、と彼女は直ぐに体から力を抜いた。この遺跡に来るまでに聞いた話では、サラミス──彼女は高性能なアンドロイドマシン、らしい。其の超人的な身体に、叶う筈が無いのだ。
そんなことをエィージャが思っている傍で、サラミスが何かに気付き、そっと腰を屈めて見つけたらしい其れを拾い上げた。
■ 金細工のロケット ■■
エィージャも其れに気付き、サラミスが分析し易いようにと光を翳してやる。
サラミスが拾い上げた其れは、金細工で出来たロケットペンダントのようだった。どうやら亡者が落としていった物らしい、微かに腐臭が漂う。だがサラミスはそんなことを気にせず、良く見えるようにと埃で塗(まみ)れた其のロケットを、指先で拭った。俄(にわか)に綺麗になった其れを、ぱちんと開く。
サラミス:「台座は金細工のロケット、だな。精密に何か人物が描かれているようだが……此れは、少女、だろうか?」
エィージャ:「わたくしにはそう見えますわ。先ほどのグールが落としたのなら、グールは元々の城の関係者だったのかしらね」
翳された光を反射して、サラミスの指先に磨かれたロケットはきらきらと光る。歴史や時間──そう言った物を感じさせないほど、其れは美しかった。緻密に描かれた人物像は、煌びやかなドレスを纏ってにっこりと微笑んでいる。ブロンドの髪、サファイアの瞳、シルバーのドレス。そう言ったものが判るほどに緻密な画。
サラミス:「この少女からして、此処が城であったということは間違いなさそうだな」
ロケットを閉じ、明かりの中で眩しそうに目を細めながらサラミスはそう言った。もう崩れ去ってしまったこの場所にも、華やかな時間があったのだろうか──そんなことを思わせるロケットを、サラミスは大事に懐に仕舞う。
そうしてエィージャの方をくるりと振り向き、サラミスは淡々と言った。
サラミス:「この遺跡の情報は此れで充分だ。第一目標は生還……帰るぞ」
エィージャ:「あら。もう少し奥へ行きませんの?」
踵を返してさっさと歩き出すサラミスを駆け足で追いながら、エィージャはそう問うた。ゆらゆらと揺れる光の中、其の光の残滓を頬に受けながら、サラミスは少しだけ振り返る。
サラミス:「……余り踏み荒らしても、な。此処はそっとしておくのが良いだろう」
そう言って、もう一度歩き出す。彼女の言葉にエィージャも緩やかに微笑み、静かに頷いた。
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■ ライターより ■■
今回は発注有難う御座いました。
「朧の中」、お楽しみ頂けましたでしょうか?
タイトルは、霞の中の冒険を手探りで…といった意味で付けさせて頂けました。
内容共々、お気に入られたら光栄ですっ。
其れでは。またお会い出来る事を願って。
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