<PCクエストノベル(1人)>
買い物籠と共に 〜豪商の沈没船〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
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■序の事:世の中には例外もあるらしい
市場の定番と云えば何だろう?
おっちゃん達の威勢のいい売り声だったり、もしくは店先に並べられた食材のアレコレだったり……
まぁ、人それぞれ色々さまざま千差万別百花繚乱だろう。
しかし! ひとつだけ誰の心にも共通する存在がある筈だ!
それは、「オバちゃん」。
籠をぶら提げ夕飯の買い出しにいそしむオバちゃん――このイメージが世界普遍のお約束である事は間違い無い(多分)。
オーマ:「うひょ〜っ! カイゼル髭生やしたサンマなんて初めて見るぜっ。流石はソーン――グレイトだぜッ!!」
――時々、おっちゃんも混ざってるみたいだけどね。
■一の事:複雑な家庭事情があるらしい
穏やかな秋の昼下がり。
聖都北部の魚市場の一画に、ファンシーな花柄買い物籠をぶら提げたオーマ・シュヴァルツの姿があった。
オーマ:「う〜ん…こっちの七色マンボウも捨て難いよなぁ……」
彼が夕飯の食材を物色しているエリアは、ぶっちゃけて云えば「ゲテモノ魚ゾーン」。
アヤシゲな生物にはいい加減慣れてる筈のソーンの奥様方ですら、滅多に足を踏み入れないエリアなのだが……
オーマ:「四つ足ホタテも美味そうだな――よぉし! コイツを1キロもらおうか!」
市場のオッサン:「あいよぉッ! 毎度ありっ!」
――本人気にしてないみたいだからまぁいいか。
こうしてあちこちの店をハシゴする内に、オーマの提げたファンシー花柄買い物籠は、筆舌に尽くしがたい(いや、決して描写を避けたわけでは…)程に不気味な魚介類でいっぱいになった。
オーマ:「これだけグレイトな食材が揃ったんだ。今夜の食卓はゴーセイにするぜ!」
ご満悦といった顔で籠の中身を見下ろして……
見下ろしてから……
ここでふと、ある残酷な現実を彼は思い出した。
オーマ:「買出し終了って事は……」
何故か顔面蒼白。
お買い物の次に待つものは、勿論帰宅だ。
「今日のご飯なぁにー?」なーんて。可愛い我が子の声を背に受けながら台所に向かうのが、正しい主婦(或いは主夫)の正しい姿だ。
しかしオーマの場合は……
オーマ:「…………」
頬を伝う汗。
そして遠い目。
実は彼の家庭では、デンジャラスすぎて頭が上がらないどころか、時に命の危険すら感じてしまう妻と娘が、彼の帰りを手ぐすね引いて待ち受けているのだ。
――そもそもこの市場に来たのだって、もはや日課と化している地獄の番犬様の「親父殺し晩餐」から逃れるためである。
オーマ:「少しぐらい寄り道……してもいいよな?(滝汗)」
人はそれを「逃避」と云う。
■二の事:噂は瞬く間に広がるらしい
さて。
まるで何処かの国の政治家のように、問題を先送りして寄り道モードに入ったオーマは、今度は市場に隣接する漁港の桟橋に移動していた。
漁師の仕事は早朝が稼ぎ時。
午後ともなれば漁も終わって、港にたむろしコップ酒で一休みというのが定番である。
そうした漁師の皆さんの輪の中に、彼の巨大なガタイは紛れ込んでいるのだった。
漁師A:「腹黒同盟? 何だそりゃ?」
オーマ:「熱きイロモノ魂に溢れた親父達の同盟さ! ――ま、親父以外も歓迎中だがな」
漁師B:「腹黒ねぇ……日焼けだったら、ワシも負けとらんぞ?」
オーマ:「その『黒さ』じゃねぇっつの――ホレ、パンフレットやるからよ。よぉ〜っく読んで加盟検討してくれや」
――何やら勧誘中だったらしい。
現在彼の周囲には、熱き海の親父達がわらわらと、それこそ佃煮に出来そうな程たむろしている。
人の多さに気を良くし、放っておいたらそのまま「カンタン腹黒講座」に突入しそうだった場の雰囲気を大きく変えたのは、ひょこひょこと歩み寄ってきた老人の発言であった。
赤銅色に焼けた肌の色から察するに、現役を引退した元漁師といったところか。
老人:「おお、皆こんな所におったんか」
わざわざそんな事云わなくても、佃煮レベルの集団なのだから、遠目からでもここに居るとわかりそうなものですが……
漁師C:「おー、じいさん。今日も元気そうだな」
誰も気にしてないみたいだからこの際いいか。
老人:「天気の良い日はリューマチも大人しゅうて助かるわい――って、それどころじゃない。大変じゃぞ」
大変だとか云ってる割に、表情が全然変わってないあたりがポイントですね☆
老人:「海女のばーさん連中が噂しとったんだが、沖のあの沈没船が消えたらしいぞぃ」
漁師A〜Z+オーマ:「 な ん だ っ て ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ !? 」
■三の事:人を食う船もあるらしい
沈没船とは何か?
それで結局どうなったのか?
――少し解説してみよう。
謎の解説マン:「え〜(コホン)、この時老人が口にした沈没船とは、ソーン世界では一般的に『豪商の沈没船』と呼ばれているもので……まぁ、そのまんまのネーミングですな」
って。
アンタ誰?
謎の解説マン:「聖都北部に広がる海の沖合いに、数多の財宝を抱えたまま眠っていると云われるが、周囲や内部は異形の巣窟となっており、一攫千金を狙うなら命がけ――そんな危険なスポットでもあるのですハイ」
無視かよ人の質問。
オーマ:「いいから話を進めようぜ?」
本人がそれでいいのなら、そういう事にしておくか。
まぁとにかく。
そんな有名スポットがいきなり姿を消したとなれば、やはりどうやっても気になるのが人情というもの。
桟橋を後にした熱きイロモノ親父代表オーマの姿は、今度は沖合いの海底にあった。
真相を究明するつもりらしい。
しかも、ファンシー花柄買い物籠を提げたまま。
オーマ:『ゴボゴボッゴボボゴボッ(細かい事は気にするなって)』
――あれ?
オーマ:『ゴボッ、ゴボゴボゴボ(しまった、忘れてた)』
周囲をびっちり海水に埋め尽くされた状態では、まともに喋れるわけが無い。ようやくその事実に思い至り、オーマは自分の周囲に酸素を具現させる。
オーマ:「はっはっはぁ! 俺様とした事がうっかりしてたぜッ!」
これで呼吸と台詞の問題はクリアだ。
ゆらゆらと、海面の光が揺れながらさし込んで来る海底を、ファンシー花柄買い物籠をぶら提げた親父が往く。
一面を覆う海草と、その合間からごつごつした姿を現している岩。
それから、突然の訪問者に慌てた様子の魚達。
――他に見える物は無い。
オーマ:「このあたりだって聞いたんだが……こりゃ本当に消えちまったか?」
噂に聞いている限りでは、かなり大きな船だという。
それが跡形も無く消えるとは……果たして何が原因か?
様々な仮説を脳裏によぎらせたその時――
ゴゴゴゴゴ……!
突如、地鳴りのような大きく不気味な振動が伝わってきた。
オーマ:「な…っ、何だァ!?」
振動だけではない。何かしら強い念のようなものも同時に感じられるようになる。
直後、海草の間からせり出すように姿を現したのは、一面を黒光りする鱗に覆われた巨大な船であった。
オーマ:「こいつが噂の沈没船……いや、違うな」
眼前に現れた黒い船体を睨みながら、オーマは瞬時にそう判断した。そしてその判断には絶対の自信がある。
何故なら、振動と共に感じられるようになった念――恐らくはこの船から放たれているのであろうそれ――が、彼にとってはひどく馴染みのある感触のものだったからだ。
こうした念を放つ存在を、彼は知っている。
彼にとっては因縁浅からぬ存在、ウォズだ。
しかも感じられる念の強さからすると、この船を構成するそれはかなりの数のようである。
オーマ:「さぁて…どうするべきだろうなァ」
異形の船を睨みながら、オーマは頭を悩ませた。
破壊などはもってのほかだ。
異形とは云え、この船は生命体によって構成されたもの。故に勿論命がある。それを奪うような行為は彼の望むところでは無い。
叶うならば、違う行動を選択したい。
それに――
オーマ:「沈没船が消えたのも、もしかしてこいつらの仕業か…?」
その可能性がある。
故にここは真相究明を優先させるべきではないか。
そう判断を下したその時……
オーマ:「……え゛???」
――にょき。
いきなり、手が生えたのだ。
黒鱗に覆われた船体の両側面に。
巨大な手がふたつ。
鱗の色に合わせたかのような真っ黒い腕が、そのままにゅっとこちらへ伸ばされる。
オーマ:「何だ何だァ!?」
予想外の展開に反応が遅れ、直後、オーマの大柄な体とファンシー花柄買い物籠は、黒い右手にがっちりと掴み取られてしまった。
オーマ:「おっ…おいっ!? 何するつもりだ!?」
慌てふためき尋ねるが、相手はこちらの話など聞いちゃいない。
それどころか、船体の正面、舳先に当たる箇所に突然ぱっくりと大きな口が開き……
――ぽいっ。
その中に、放り込まれてしまった。
オーマの体を飲み込むと同時に、ウォズによって構成された異形の船は、再び口を閉じてしまう。
こうしてオーマとファンシー花柄買い物籠は、セットで船の内部へと閉じ込められてしまったのだった。
■四の事:どんな場所にも出会いはあるらしい
突如海底に現れた黒い船に捕獲され、ぽいっと内部に飲み込まれてしまったオーマがそれからどうなったか――
さぞかし動転しているだろうと思えばさにあらず。
最初こそ相手の脈絡の無い行動に面食らいはしたものの、その後は意外と落ち着いたものであった。
何故なら……
オーマ:「ほーお…じゃあ例の『沈没船』ってやつも、この中に飲み込まれちまってるんだな?」
???:「んだんだ。いきなり現れてかぱっと口を開けたと思ったらよ、そのまんま一口で丸呑みだべ。いやぁ…あれはオラもたまげたべや〜」
――何と「先客」が居たのである。
真ん丸な目を更に真ん丸く見開いて、やたら大きな身振りでその時の状況を語ってくれているのは、この上なく善良そうな顔つきをした半魚人の団体様。
どうやら彼らも、オーマと同じく閉じ込められたクチらしい。
半魚人1:「船が船を飲み込むなんて滅多に無い事だでなぁ……ついついポカンとしとったら、ワイらも逃げ遅れて巻き添えだがや」
半魚人2:「どねぇしやっとかのぉと思うちょったところに来たのがお前さん――そーいうワケよ」
オーマ:「なァるほど…。お互い災難だったなァ」
独特な口調という点で相通じるものを感じあったのかどうなのか、出会ってからわずか数分にして、彼らは完全に意気投合しまくっていた。普通に会話が進んでしまう。
半魚人達の話を聞きながら周囲を見回してみれば、どうもここは内臓にも似た空間になっているようである。ピンク色の壁にぬるりとした粘液が光っており、あまり気分のいい光景ではない。
それに、「内臓」と云われて真っ先に連想するのは、やはり胃や腸などの消化器官だ。
故に、このままここに居ればどうなるか――物凄く嫌な展開しか思いつかない。
半魚人3:「オラ達、消化されてまうんやろか…?」
半魚人4:「嫌や〜っ! ワテまだ死にとない〜〜〜〜〜っ!!!」
オーマ:「おいおい。そうあっさり諦めるもんじゃないぜ?」
最悪の事態を想像し、一気に青ざめる半魚人達とは対照的に、オーマは余裕の表情のままだった。
口の端をニヤリと歪め、既に半泣きでパニック状態に突入し始めている半魚人達の目の前で、ピンと人差し指を立ててみせる。
オーマ:「ちょいと試してみたい事があるんだが――手伝ってもらえねぇか?」
その刹那、口元の笑みに不敵さがにじんだ。
■終の事:こんな結末もあるらしい
そろそろ日の暮れ始めた海底を、黒い鱗に覆われた船が、ゆるゆると進み往く。
オーマや半魚人達や沈没船など、色んなものをぱくっと飲み込んだまま、さて何処を目差すのか――
……なーんて思ったその時。
ぶ ぇ ぇ ぇ ぇ っ く し ゅ ん っ !!!
やたら大きなくしゃみの音が、あたり一面に響き渡った。
海を震わせ地を揺るがす程の大音響。
発した主は、何とくだんの黒い異形の船である。
へーっくしょい!!
ひーっくしょい!!!
オーマを飲み込んだ時の如く大きな口を舳先に開け、ぐにゃぐにゃと船にあるまじき動きで身をよじりながら、更に大きなくしゃみを数連発。
するとそのくしゃみに合わせて――
――ぺいっ。
ぽっかり開いた口の中から、何かが団子になって吐き出されてきた。
オーマと半魚人達だ。
えーっくしゅい!! ……ぺっ。
更に続けて、これまた内部に飲み込まれていた沈没船も吐き出されてくる。
物凄い勢いで外へと射出された沈没船は、そのまま綺麗な放物線を描き、そしてドスンと頭から垂直に地面に突き刺さった。
その瞬間、ずぅん!と大きな地響きが起こる。
オーマ:「はぁっはっはっはぁッ! 団結力の勝利ってやつだなっ!」
半魚人5:「ふ〜…危なかったべや〜」
無事に脱出できたのはめでたい事だが、それにしても、どんな手段を使ったのだろう?
実は非常にシンプルな作戦である。
口があるなら鼻もあるだろうという憶測を根拠に、彼らは手分けして船の体内を探索し、そうして見事たどり着いた鼻の中で、何と暴れてみせたのだ!
――そりゃくしゃみも出るだろう。
半魚人6:「食われちまった時はどうなるかと思ったけんど、おめぇさんのおかげで助かっただにや」
オーマ:「なぁに、困った時はお互い様よ。こっちこそ、協力してもらえて有難ぇぜ」
和気藹々と肩を組んで喜び合う彼らの目の前で、鼻のムズムズをスッキリさせた異形の船は、そそくさと逃げるように海草の間に身を沈めてゆく。
ウォズの目的を知るためにも後を追うべきかと思ったが、これ以上帰宅が遅れては命の保障が無いかも知れない……自身の背負った壮絶な家庭事情を思い出し、オーマは追跡を諦める事にした。
半魚人1〜74:「気ィつけて帰れよ〜〜〜」
オーマ:「おうっ! お前達も達者でなッ!」
ごっそりの半魚人ズに見送られながら、オーマは海面へと浮上してゆく。
しつこく最後まで引っ提げていた、ファンシー花柄買い物籠と共に――
謎の解説マン:「……そしてその後、『豪商の沈没船』は逆さまに突き立ったその姿から、『豪商の倒立沈没船』と地元の者に呼ばれるようになり、更にはどうやって逆立ちしたのかと、学者や冒険者達の間で様々な議論を巻き起こす事になったとか……いやはや、不思議な事もあるものですなぁ」
――だからアンタ、誰?
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