<PCクエストノベル(3人)>


〜安らぎを願う者と守る者〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1997/ファサード (ふぁさーど) /人形師(細工師)】
【 1805/スラッシュ (すらっしゅ)/探索士】
【 1953/オーマ・シュヴァルツ (おーま・しゅう゛ぁるつ) /医者兼ガンナー(ヴァンサー)】

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ダリル・ゴートはファサードにとって二度目の訪問になる。
前回は、彼の作った大事な人形を、どうしてもと所望され、それを届けに行った時だった。
茶色の髪をした少女と、優しい目をした父親のふたりに、彼は自分で作った大事な人形を授けたのだ。
今では彼女も大きくなっているにちがいない。
まだ大事に抱きしめていてくれるだろうか。
ファサードは時折、人形を作る手を休めて、そう思い出を振り返る。
そして、その過去にはもうひとつ、痛みを伴う思い出が付随する。
彼の指から消えた、ひとつの指輪――――すべてが銀で出来ているという特別なそれは、今は彼の許にはない。
あのダリル・ゴートからの帰り道、魔獣に襲われ、奪われてしまったのだ。
元来、その体質から、魔の物に狙われやすいファサードではあるが、あの魔物は彼ではなく、彼のその指輪だけを狙っていた。
だから、彼には傷ひとつつけずに、去っていたのだろう。
あれから、何度も何度も、そのことを思い出した。
別に指輪自体が惜しい訳ではない。
無論、特別な力を秘めたあの銀の指輪は、そう簡単に手に入るものではない。
確かに自分のところに戻って来ればありがたいが、そこまで彼は執着してはいなかった。
そして。
あの少女はどうしているだろうか。
愛くるしい笑顔で、自分に全身で感謝を表してくれた、あの茶色の髪の少女。
まだ、あの街にいるのだろうか。
ファサードはゆっくりと立ち上がった。
行ってみよう。
そう、思った。
この思い出に、もう一花、色を添えるために。




オーマ:「ダリル・ゴートあたりはまだまだ物騒だからな。俺たちがついていきゃあ、100人力ってもんよ。安心して道中行こうぜ、なあ、スラッシュ」
スラッシュ:「ああ。護身の力もいるだろう・・・それに、指輪を探すなら、その力もな・・・」
ファサード:「そうですね、ありがとうございます」
オーマ:「ま、ついでと言っちゃあなんだが、ダリル・ゴートのあたりは俺の未開の地でもあるからよ、これだけのパンフを持って行っても足りねぇかも知れねぇが・・・」
ファサード:「その右手に持ってる大きい袋は何ですか?」
オーマ:「お、よくぞ気付いてくれたぜ、こっちはなぁ、『(下僕)主夫特製親父ラブマッスル弁当』って訳だ」
スラッシュ:「自分で作ったのか・・・」
オーマ:「これくらい朝飯前よ。何せ俺には天性の主夫の血が流れてるからなぁ」
ファサード:「はは、それじゃ、出発出発ー!」


どこまでも気楽な三人を乗せ、辻馬車は街道を行く。
途中から『茨の魔森』の側を通るため、そこからは徒歩になる。
常人ではとてもではないが、その森のほんのすぐ近くですら、歩くことは出来ない。
森の魔力に囚われて、一生をそこで過ごすことになるだけだ。
三人は『茨の魔森』のかなり手前で辻馬車を降り、そこからのんびり歩き出した。
三人は三人とも、その森の魔力をほとんど受けない体質だった。
それこそ、森の真ん中を抜けて行っても、まるで遠足にでも行くかのような足取りで、入って出て来られるだろう。
『茨の魔森』は、強大な魔力の強さで守られている場所なだけに、森の中はとても美しい植物や動物がいると言われている。
しかし、魔力にはどんなに耐性のある者であっても、森の主には会えないとも言われていた。
彼らは何の気なしにのんびりと森に足を踏み入れる。
そのとたん、空気が張りつめたように肌に突き刺さった。
だが、それに慣れてしまうと、あとは普通の森だった。
途中、オーマが弁当を広げ始め、盛大にランチと相成った。


オーマ:「ま、食ってくれや」
ファサード:「わあ、これはすごいですね〜!」
スラッシュ:「器用だな・・・」
オーマ:「味の方も超一流だぜ、何せ天性の主夫の血が流れてるからなぁ」
ファサード:「このたまご焼き、おいしいです〜!」
オーマ:「それはなぁ、ラムル鳥のたまごって言ってな、これがまた美味いんだぜ。お前さんたちに一口でも食わしてやりてぇと思ってよ、ひとっ走りナナン山の山頂までハイパー爆裂疾走して取って来た一品だ、味わって食ってくれや」
スラッシュ:「このハーブを詰めたような肉は・・・?」
オーマ:「お、それか、それはだなぁ・・・」


オーマの美食談義は、目の前に並べられた豪快かつ贅沢な弁当を平らげるまで続いた。
ファサードもスラッシュも、腹いっぱい食べ、飲み、満足を覚え、そして、自然の癒しに感嘆した。
この森はうつくしいと聞いていたが、想像以上だった。
まだ誰の手も入っていない、原生の自然がそのままの形で残っている。
この森の主はこの、生のままの森を、とてもとても大切にしているにちがいない。
彼らはまた、ダリル・ゴートへと歩き始めた。
昼なお暗い森の静けさの中、ファサードはある気配に気が付いた。
まちがいなかった。
あの魔獣の気配だ。
おそらくオーマもスラッシュも、それには気付いているはずだ。
ひたひたと、足音を消し、忍び寄ってくるその影を。


オーマ:「来そうで来ねぇなぁ」
スラッシュ:「ああ・・・」
ファサード:「あの・・・魔獣は・・・」
オーマ:「わかってるさ、お前さんの言いたいことはよ。俺の主義に一致するぜ、その考えはな。心配しねぇでいい、そのつもりはねぇよ」
スラッシュ:「そうだな・・・俺も、出来ればそうしたい」
ファサード:「苦手・・・なんですよ、僕は・・・それに・・・命を失うものを見るのは・・・たとえそれが魔獣でもつらいから・・・」
スラッシュ:「心配はいらん。無理に命を奪うのは・・・俺の性には合わないからな・・・」
オーマ:「ああ、戦いだけがすべてじゃねぇさ」


オーマとスラッシュは、一瞬の隙をついて、ファサードから離れた。
足早に追ってくるその黒い影は、ぴたりと三人の背を狙っている。
オーマはその魔獣との間合いをはかり、上手い具合に魔獣の前に出た。
襲い掛かる体勢になる前に進路を阻まれ、魔獣は立ち往生した。
その間に、スラッシュはその優れた探索力で、魔獣の現れた方向を一瞬にして察知し、それを逆進した。
おそらく、その先に魔獣の住処がある、そう思ったのだ。
魔獣は荒い息の下で唸り続ける。
その様子をファサードは少々の不安と共に見つめていた。


オーマ:「なぁ、おい、おまえさんは戦うのが目的じゃねぇよな?他に何か言いたいことがありそうだが。ちがうのか?」
ファサード:「オ、オーマさん・・・」
オーマ:「こいつは俺たちの言葉を理解してるぜ、目を見ればわかるってもんよ。話せば分かり合えるさ」
魔獣:『オマエ、ユビワ、トリカエシニキタ』
ファサード:「えっ?!しゃ、しゃべった・・・?」
オーマ:「魔獣でも高位になりゃ、人語のひとつやふたつは話すもんだぜ?ま、めったにお目にかかれねぇけどよ」
魔獣:『ユビワ、ワタサナイ。カエサナイ!』
ファサード:「ちょ、ちょっと待って・・・!」
魔獣:『オレノユビワ、オマエノデハナイ』
オーマ:「よぉ、何か訳ありらしいな、話してくれねぇか?力になるぜ?そりゃ、お前さんとは見た目も環境もちがうけどよ、分かり合えねぇ訳じゃねぇ、そうだよな?」
ファサード:「ええ、そうですよね・・・あの指輪は、あなたが持っていていいですよ、きっと、僕にはもう必要のないものだから」
魔獣:『ナンダト?』
ファサード:「あれはもうとうの昔に、僕の許を去った指輪です。僕の許に戻って来ないのなら、きっとあなたのために働く指輪なんです」
オーマ:「その指輪ってのは生きてんのか?」
ファサード:「ええ・・・意志を持つ指輪だったんです。本当の安らぎを得ようとする者のところに、それは寄り添うと、そう言われていました・・・」
オーマ:「だとしたら、この魔獣が本当の安らぎってやつをほしがってるってことになるのか?」
ファサード:「言い伝えが本物なら、きっと」
スラッシュ:「どうやらファサードの言うとおりらしいな・・・」
オーマ:「お、見つかったのか?」
スラッシュ:「ああ・・・だが、その魔獣が案内してくれそうだな・・・」


魔獣はうなだれたように頭を垂れ、先に立って歩き出した。
元来た道を少し南に外れ、道なき道を魔獣は進む。
スラッシュは途中の木々に、雨で消える天然塗料で印をつけていた。
魔獣と、この森の魔力に迷わされないとも限らない。
探索士としては当然の行為である。
その印と同方向へ、魔獣は進んでいく。
スラッシュが見たものを、ファサードとオーマにも見せるために。
光る苔や燐粉を振りまくきのこ、鮮やかな色の蝶々が舞い踊る中、小半時も歩いただろうか、彼らの目の前に突然、真っ白な小さい石の塔が現れた。
魔獣はその塔の前まで歩き、彼らを誘うように振り返った。
スラッシュは何のてらいもなくその塔まで歩いていく。


スラッシュ:「ここがこの魔獣の目的地だ」
ファサード:「なぜそんなことが?」
スラッシュ:「この白い塔は何だかわかるか・・・?」
ファサード:「・・・?」
オーマ:「ここは・・・空気がやけに悲しいぜ・・・」


ファサードとオーマは柔らかな苔に覆われた地面を踏みしめながら、その塔に近付いた。
そして、気が付く。
周囲をたくさんの花で埋め尽くし、宝石を散りばめ、出来る限りの装飾が施されたその塔は、墓碑であった。
そしてその場所は、何も文字など書かれていない、ただ、四角の白い石を立てただけの、小さな小さな墓所であった。
そのたくさんの宝石の中に。
ファサードの大事にしていた銀造りの指輪も置かれていた。
それを見て、ファサードは何も言えなくなる。


ファサード:「真に安らぎがほしい人が、この下に眠っているんですね・・・?」
魔獣:『・・・ソウダ』
ファサード:「そう、ですか・・・」
オーマ:「ずいぶん派手に飾ってやったんだなぁ、おまえさんは。死んだ相手に出来ることってのは、限られてるけどよ、これだけにぎやかにしてやりゃあ、きっと寂しくねぇよ、なぁ?」
スラッシュ:「ああ・・・幸せ、だな・・・」
オーマ:「これ以上、俺たちに出来ることって言ったらよ、この場所を覚えておいて、何年かにいっぺんくらい遊びに来てやることだよなぁ・・・死んでこの世からいなくなっても、人は死んだことにはならねぇしな」
ファサード:「じゃあ・・・いつ、いつ人は死んだことになるんですか・・・?」
オーマ:「そりゃあ、『この世の誰からも忘れ去られた時』、ってな・・・」


三人は静かにその塔に頭を下げる。
その下で眠る者が何者かはわからないが、この魔獣にとってはとても大事な者なのだろう。
たとえそれが、人間ではなく、魔獣の仲間だったとしても、「命」には変わりがないのだから。
その塔に寄り添うように身を丸めた魔獣にも、彼らは一瞬だけ視線を投げ、その場所の平穏を邪魔しないよう、そっとそこを立ち去った。


オーマ:「ちっとばかし時間を食っちまったなぁ」
ファサード:「そうですね・・・」
オーマ:「ま、ダリル・ゴートまではあと何刻もねぇからよ、のんびり行こうぜ」
スラッシュ:「あの街には・・・いろいろな伝説もあるらしいからな・・・今度は・・・そのひとつでも解き明かしに来たい」
ファサード:「その前に、今回はちゃんと、僕が昔作った仲間に会って下さいね〜?」
スラッシュ:「ああ、それはもちろんだ・・・」
オーマ:「そうそう、ダリル・ゴートでの腹黒同盟の布教も待ってるぜ?ゴッド親父パワー爆裂全開で、1000人まとめてがっつりバッチリ、ハートのど真ん中ずきゅんと打ち抜きまくって支部のひとつやふたつ作って帰らねぇとな!」
スラッシュ:「・・・わかった、手伝おう・・・」
オーマ:「そう来ねぇとな!」


森を抜けてダリル・ゴートが見える頃には、彼らの気分は空と同じように晴れ渡っていた。
魔力に捉えられた訳では決してなかったが、もしまたこの地を訪れることがあったら、必ずあの塔の下で眠る者に、一言挨拶くらいはしていこう、そう誓った三人だった。
そして――――ダリル・ゴートはもう目の前にまで迫っていた・・・。



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ライター通信

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こんにちは、藤沢麗(ふじさわ・れい)です。
ファサードさん、スラッシュさんは初めまして!
オーマさんはいつもいつもありがとうございます!
このたびは、「ダリル・ゴート」への冒険、お疲れ様でした!
ファサードさんの持っていた指輪には力がある、ということでしたので、
癒しの力を持つものとして登場させてみました。
たぶん、昔、人形たちがその指輪で穏やかな表情になれたりしたのかも知れない、
などと思いながら書かせて頂きました。
いかがでしたでしょうか?

それでは、また未来の依頼にて、ご縁がありましたら、ぜひご参加下さいませ。
この度は、ご依頼、本当にありがとうございました!