<PCクエストノベル(1人)>


親父グッズの使い方

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1953 / オーマ・シュヴァルツ / 医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
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◆親父アイテムゲットだぜ!

 ――底無しのヴォー沼には、膨大なお宝が眠っている。
 そう噂されるようになったのはいつの頃からだろうか。潜っても潜っても底がないその沼は、鮮度も低く、何が棲み付いているか分かったものではない。
 それでも、一攫千金を目論むものたちが後を断たず、周辺には露店すら並んでいる有様だ。

 オーマ:「すげーすげーすげー!!」

 オーマ・シュヴァルツは目を輝かせて、露店を覗いては野次を飛ばしていく。

 オーマ:「ああ。腹黒親父の胸キュンイロモノグッズが俺を呼んでる気がするぜ!」

 まるで何かに引き寄せられるかのように、あるヴォー露店へと向かっていく。今にも垂れそうになっている涎をしきりに手の甲で拭っていた。

 オーマ:「親父、儲かってるか?!」
 店主:「ぼちぼちだなー。」
 オーマ:「ひゃひゃひゃ。なーにが、ぼちぼちだ。アイテム増えてんじゃねえかよ。」

 行きつけの店なので、店主とも顔見知りだ。目の色を買えて商品を物色するオーマを、店主はのんびりと眺めている。

 オーマ:「下駄は親父必須アイテムだろ! おい、股引はないのか?!」
 店主:「ちょうど売切れだ。」
 オーマ:「ありえねえ! 仕入れてないだけだろ。」
 店主:「腹巻ならあるぞ。」
 オーマ:「よし、買った!」
 店主:「作務衣はどうだ?」
 オーマ:「いる!」

 金額を払いながら、オーマはさりげなく、腹黒同盟勧誘パンフレットを店頭に陳列させた。店主はもう慣れたもので、何も言わない。
 何が置かれたのかと、驚いて覗き込もうとした客を、見つけては肩をがしっと掴む。

 オーマ:「入会希望者か? さあ、じゃんじゃん見てくれ。今回のは我ながら傑作だ。」
 客:「いいや、俺は……。」
 オーマ:「素晴らしきかな、親父ライフ!!」

 逃がさないとばかりに肩に置く手に力を込めた。
 そのとき、突如大地震が周辺を襲った。

 オーマ:「な、何だ?!!」

 地面を揺るがす激しい揺れに、立っていられたのはオーマだけだった。邪悪な気配を感じ、顔を上げると、沼の上に時空の歪みが出現していた。力場の不安定さから、ヴォー沼周辺全体の空間が寝食され始めている。

 オーマ:「このままじゃ危険だ!」

 揺れはどんどんひどくなっていく。オーマは、その空間の中にヴォズの気配を感じ取った。

 オーマ:「……何をする気なんだ?!」

 嫌な予感を感じ、オーマは真相究明のため、異空間と成り果てた沼へと赴いた。



◆異空間迷宮

 そこは不思議な空間だった。ぐにゃぐにゃと足元が歪んでいる。真っ直ぐ立っていられなかった。
 オーマは狂った三半規管を駆使して、何とか奥へ奥へと進んで行く。まるでヴォズの腹の中のようで、落ち着かない気分だった。
 オーマは購入したばかりの下駄を履いて歩いていく。柔らかな地面には、食い込む2本の歯は都合がよかった。
 精神力で具現化した巨大な銃器を肩に担ぎ、オーマはずんずんと歩を進めていた。

 オーマ:「一体何が起こっているんだ?」

 内部に入ってしまったため、外ではどんな状況になっているのかは分からない。はやる気持ちを抑え、オーマは注意深く中を探っていく。
 どんっと嫌な音がしたのは突然だった。衝撃は後ろから来た。
 やられた、と思った瞬間、どっと背中に冷たい汗をかいていた。正確に心臓の位置を狙って、撃たれた。
 ぐらりと体勢を崩しながらも、オーマは後ろを振り返り、銃を放った。たて続けに容赦なく撃ち込む。
 それは、粉々に壊れて散った。追尾システムが搭載されている弾丸だ。オーマに跳ね返され、追い戻ってきたところを打ち落とした。

 オーマ:「さすが腹黒同盟を黙認してるだけあるぜ、あの店主。」

 しげしげと自分の身体を見回し、オーマは感嘆の溜め息をついた。買ったばかりの作務衣は、なんと中に鎖帷子が入っていたのだ。これで命を救われた。

 オーマ:「これは是非とも、腹黒同盟名誉会員にしなくてはな!」

 やる気が俄然上がり、オーマは颯爽と駆け出した。視界が歪むことや足場が悪いことなどものともしない。別れ道など適当に選んで行った。

 オーマ:「……??」

 走っていてふと気付いたことがある。下駄の歯が埋まる道と、固い道があるような気がする。

 オーマ:「どっちだ? どっちが正解の道なんだ?」

 どこを走った方が、人間は安心する?
 それはもちろん、不安定な道よりも、確実な道を無意識に選ぶはずだ。
 だったら、安定した方に罠があり、隠れた本体は、不安定な方にいる。
 オーマはそう判断を下すと、注意深く周辺の地面を踏んだ。ぐにゃっと沈む箇所を選別して進んでいく。
 そして、その先に、ヴォズはいた。



◆the Tower of Babel

 オーマ:「……なんじゃこりゃ?!」

 あまりに異様な光景に、オーマはそれっきり絶句するしかなかった。
 目の前にどくんどくんと波打っている巨大なものがある。どう贔屓目に見ても、心臓にしか見えない。腹の中のようだと形容したのは、間違いではなく、実際のことだったようだ。
 危機を感じ取って、弾丸が一斉に発射されてくる。

 オーマ:「甘いぜ!」

 一度喰らったものは2度は喰らわない。長身ながら、素早い身のこなしで全て避けた。追尾システムを逆に利用し、ぎりぎりまで待って避けるという戦法で、まとめて仕留める。
 巨大な心臓を封印するため、オーマはそれに合った大きさの銃器に変形させた。

 オーマ:「親父グッズ売り場に迷惑かけんじゃねーぞ。」

 バズーカを肩に担ぎ、オーマは狙いを定めて撃ち放った。



 空間から悲鳴があがった。悶え、蠢き。膨張していた空間が一気に収縮する。そのあまりの勢いに、派手な地盤沈下が起こった。沼が吹き飛び、今まで押さえつけられていたものが隆起してくる。
 それは高い塔だった。首が痛くなるほど眺めても、最上部が見えない。今まで沼に埋まっていたとは思えないほど強固で頑丈そうだった。

 オーマ:「……沼の底には財宝が眠っているっていうのはあながち嘘じゃなかったかもしれないな。今度は下じゃなくて上に登れってことになったみたいだが。」

 底なし沼から、バベルの塔へと変貌を遂げたヴォーは、それからも露店は賑わったとか。



 * END *