<PCクエストノベル(2人)>


偶然の邂逅

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 2256/ 群雲 蓮花(むらくも れんか)/ 楽園の素敵な巫女】
【 2363/ 夜月慧 天夢(やげっけい てんむ)/ ゲートキーパー】
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◆天夢

 夜月慧 天夢(やげっけい てんむ)はルクエンドの地下水脈へ来ていた。周囲を河に囲まれた森ばかりの島の地下に長く渦巻くそれは、無数の入り口があり、それは同時に無数の出口があるということを示している。行き止まりや海へと出るもの、地底湖へ出る通路などが存在し、その1つに異界への通路もあると噂されていた。

 天夢:「……本当に境界があるのかしら?」

 暗く長い地下水脈をてくてくと歩き、天夢は出口を探している。ただの出口ではない。異界へと繋がる境界を探しているのだ。
 すぐに見つかる出口は殊更無視をした。

 天夢:「……早々見つかるとは思わないけど……面倒くさいわね。」

 ぼやきながらも、足だけは動かしていく。無数の出口には式神を遣わし、外の様子を窺わせている。もたらされる情報は、どれも境界ではなかった。

 天夢:「広いところ……。異界に繋がっていると噂されるのも頷けるわ。」

 だが、天夢にとって重要なのは、本当に境界があるのかどうか、だ。手応えとして、可能性は低くはない。式神の報告に耳を傾けながら、天夢は奥へ奥へと進んでいった。



◆蓮花

 蓮花:「う〜ん。」

 群雲 蓮花(むらくも れんか)は街中で思案していた。凱皇が一体どこから侵入してくるのか考えているのだ。もちろん、凱皇の襲撃を憂えての健気な行動ではない。侵入経路を突き止めることが出来れば、一気に叩くことが出来る。そうすれば、自分の役目が随分と楽になると、怠け心から判断したのだった。

 蓮花:「絶対にどこかにあるはず! なんだけどなぁー。」

 いろいろと思い浮かべてみるが、これといった場所がない。大手を振って凱皇たちが侵入していれば、自然と噂が立つ。もちろん、この世界にはたくさんの不思議な場所がある。だが、どれも蓮花の感覚に引っ掛かって来なかった。

 蓮花:「うう〜ん。どこかないかな〜?」

 頭の中で地図を広げ、片っ端から潰していく。最後に残ったのは、噂にしか聞いたことのない場所だった。

 蓮花:「そうだわ! ルクエンドの地下水脈! あそこが怪しいわね。」

 周囲を河に囲まれた森ばかりの島の地下に長く渦巻く地下水脈。そこには無数の入り口があり、また出口も無数に存在する。様々な場所から出れば噂は立ち難く、隠れ場所も豊富だ。

 蓮花:「一見の価値ありよ。」

 蓮花はルクエンドの地下水脈へと向かった。



◆調査

 単に地下水脈と言っても、中は驚くほど広い。まるで迷路のようになっており、道が2つや3つに分かれていることもざらだった。下手をすれば迷子になって、野垂れ死ぬ。蓮花は不思議とそんなことは心配していなかった。
 蓮花は何度か出口を見つけて、外を覗いてみたが、どれものどかな光景が広がっているだけだった。凱皇に襲われた様子もない。

 蓮花:「無駄足だったかなぁ〜。」

 想像していたものとは全く違い、蓮花はがっかりしながらも前へ進んでいた。水脈と言われるだけあって、すぐ傍らを河が流れている。場所によっては急流であったり、穏やかであったりする。地下へ地下へと流れていくその水脈は、どこか異世界へ誘おうとしているかのようにも見えた。

 蓮花:「だったら、それらしくブラックホールとかばっと現れてよー。」

 そんなに簡単に見つかるのなら、噂にならないはずはない。蓮花はそう自分に言い聞かせて、水の流れに沿って歩いて行った。



◆邂逅

 ある程度調べて回る内に、ばったりと人に出会った。まさか、こんなところで人間に会うとは思わなかったので、蓮花は驚いた。緑の瞳をした20台前くらいの女性だ。

 蓮花:「あら……人が……っ?!!!」

 笑って近寄ろうとした蓮花は、片手を挙げたまま固まった。
 見覚えのある容姿、人とはかけ離れた雰囲気。
 蓮花が見間違えるはずがなかった。

 蓮花:「……すきま妖怪っ!」

 それは、幻想魔郷と異門の境目に住む有名な凱皇、夜月慧 天夢だったのだ。探し物を見つけ出した興奮で身体が震える。

 蓮花:「やっぱり!! 凱皇はここから侵入して来てたのね!」

 天夢の方も、驚いたように目を瞠り、蓮花を見ていたが、すぐにのほほんとした表情に戻った。式神を遣っていたため、蓮花のことをすでに知っていたのだとは、その態度からは全く想像できない。驚愕の表情さえ、人間とは違う雰囲気を持っていた。

 天夢:「何を言っているのかしら? 私は境界を調べに来ていただけよ。」
 蓮花:「そんなの信じられないわ!」
 天夢:「息を荒くして言われても、本当だもの。」
 蓮花:「境界を操る妖怪のくせに、何故探す必要があるのよ?!」
 天夢:「プライベートよ。」

 天夢は飄々としている。蓮花は更に言い募ろうと身を乗り出す。

 天夢:「口喧嘩する暇があるなら後ろを見てみたらどうなの……?」
 蓮花:「え?」

 天夢が指差す方向を見ると、河の中から数体の半魚人型ががばっと姿を現していた。ぱっくりと大きく開いた口には牙が見える。瞬きのしない大きな瞳は見つめられるだけで、薄気味悪かった。

 蓮花:「凱皇?!」

 凱皇は人間の精神や法力を喰らって生きている。蓮花を極上の餌と見抜いたらしく、今にも襲い掛かってきそうだ。
 蓮花は巨剣を片手に構え、戦闘態勢を整えた。腕には自信がある。数体でも、ものの数分で倒し切れるだろう。だが、その前に、天夢が歩み出た。

 天夢:「待ちなさい。」
 蓮花:「何なの?」

 怪訝に思う蓮花に答えは返さず、天夢は2人に敵意を示す凱皇たちに対峙した。どうやら同じ凱皇である天夢すら喰らおうと言うらしい。

 天夢:「あら、低級凱皇風情がいい度胸ね……そんなにまでして人の精神力が欲しいのかしら?」

 軽く笑んで挑発する。力量の低い凱皇など、天夢は同胞だとは認めない。元々凱皇は同胞意識が薄いが、天夢はさらにそれが乏しかった。

 凱皇:「ガァァァァ――っ!!」

 挑発が効いたのか、凱皇たちがいきり立って、飛び掛ってきた。

 天夢:「えいっ。」

 ひょいっと得意の境界に凱皇たちを取り込み、別次元へと転移させる。

 凱皇:「グワァァ――っ?!」

 断末魔の叫びだけを残し、凱皇たちは影も形もなくなった。

 天夢:「他愛のないものね。」
 蓮花:「…………。」

 あっさりと凱皇たちを倒され、蓮花は絶句する。さすが蓮花たちが束になって掛かっても、適わぬ実力の持ち主なだけある。
 進退窮まっている蓮花に、気付いてか、気付いてないか、天夢はあっさりと爆弾発言を放つ。

 天夢:「あなたの仲間や他の凱皇達も来てるみたいだけど、私のせいじゃないから。」
 蓮花:「え?」

 告げるだけ告げ、天夢は最初からいなかったかのように姿を消した。空間転移を自身に使ったのだ。
 呆気に取られる蓮花だったが、これ以上ここにいても何も起きないだろうことは分かっていた。

 蓮花:「仲間も、凱皇たちも集まってきている……?」

 それがどんなに重要なことか、分からぬ蓮花ではない。

 蓮花:「こうしてられないわ!」

 蓮花は急いで家路へと戻って行く。



 境界に溶け込んだ天夢がこれから巻き起こる物語を楽しむようにクスクスと微笑んでいた。



 * END *