<PCクエストノベル(1人)>


生命の城 〜アーリ神殿〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
イフリート
ユニコーン
巫女
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オーマ:「なにぃっ!?ユニコーンがいなくなっただと?」
酔客:「おうさ。しかもよ、し…しん、何だっけ?ああ、真言だとか言うお告げも聞こえなくなっちまったんだと」
オーマ:「そうなのか。そりゃ大変だな、っておいオッサン。ユニコーンは確か女以外近寄れないんじゃなかったのか?なんでオッサンがそんな話知ってんだよ」
酔客:「わしの〜、娘の友人の、従兄妹の友人が、ええと…巫女の1人と知り合いらしいんだ。で、そこから手紙が来たとかでな。それもちょいと前の話だったから、まだ戻って無いとしたら困ってるんじゃないのかぁ〜?うぃ」
オーマ:「まーたやけに微妙な情報源だな」
 その時、わはは飲め飲めと他の酔客が団体で飲み屋に押しかけて来なかったら、もう少し詳しい話が聞けたかもしれない。それ以上に、大ジョッキを振舞われた時に調子に乗って一気飲みしなかったら、漁場のマグロよろしく何人もの男たちと一緒に酒臭い店でごろごろと転がったりはしなかっただろう。
オーマ:「ぷあっ」
 すっかり朝になってしまった街の一角で、井戸からくみ上げた水を頭から浴び、またそれで喉を潤しながらオーマ・シュヴァルツがぶるんと大きく頭を振る。
オーマ:「はー、ようやく目が覚めた」
 秋も深くなるこの時期に、冷たい水を浴びながらも元気なこの男は、もう一度喉を潤してから眩しげに日差しを眺める。
オーマ:「ユニコーンか」
 強大な生命力を宿したと言われるその存在は、この地方の名ともなるくらい有名で、そして有名な割には絵姿くらいでしかお目にかかれない生き物だった。
 知能が高く、その角は不治の病でさえ、いや死そのものでさえ治してしまうと伝えられており、更に女性…清純な乙女以外の者をその背に乗せるのを好まない、気位の高い存在としても知られている。
 故に、ユニコーンがいなくなった聞いたその場所、アーリ神殿には女性の巫女しか居ないのだと言う。
???:『ユニコーンが消えたのは真実だぞ。原因は分からぬがな』
 不意に。
 首を捻るオーマの頭に、声が響いて来た。
 ぐるりと首を回して見れば、炎を抱いた半裸の、筋骨隆々たる男の姿。
オーマ:「おうおう。守護聖獣のオッサンじゃねえの。…って何か?オッサンまでが出て来るって事は、いないと何か拙いのか」
イフリート:『当然だろう。我らは、この地を、人を守護する者。安定が崩れるのは良く無い験だ。…それにあの気位の高いあ奴に恩を売る最良のチャンスでもある』
オーマ:「オッサンの腹黒さもなかなかのもんじゃねえか。ようし、プリティお馬も未来の腹黒巫女たちも俺様の愛で包んでやるぜぇ、つーわけで行くか!」
イフリート:『是非も無い』
 ごうっ。
 早朝の街外れで燃える男2人。
 眠そうに家路に付く酒場の従業員たちが、そんな2人へと不思議そうな視線をちらちらと投げかけており。
イフリート:『ところで家へ一旦戻らずとも良いのか?』
オーマ:「お、おう、いいってことよ」
 …気のせいか。
 真っ直ぐに街の外を目指すオーマの背中は、ほんのちょっぴり怯えているように見えた。

*****

オーマ:「着いた着いた。こりゃまた随分と古い神殿だな」
イフリート:『古代の遺跡の一部分を使用しているのだから当然だろう。さて入るとするか』
オーマ:「俺様のが先だぞ先」
 わいわい言い合いながら、そこだけは比較的あたらしい木製の大きな扉へと急ぎ足で進むオーマたちだったが…。
 ぎぃ…
 その声につられてか、ほんの少しだけ扉が開き、ちょこん、と小さな影が顔を覗かせて。
 とててててて。
 慌てたようにぷるぷると首を振りながら、オーマの元へと走りこんで来た。
???:「だ、駄目です、男の方の立ち入りは禁止されています」
 か細い声。
 そして、街の者には見られない独特の衣装を身に纏った、小柄な少女が真剣な顔で大きな男を見上げている。どうやら、神殿の中に居る巫女らしいが…。
オーマ:「お嬢ちゃん、心配しなくてもいいんだぞ。ユニコーンが消えたって話を聞いてやって来たんだ。俺様の手にかかればこんな問題あっという間に片付けてやるから」
巫女:「…男の方はどんな理由であれ神殿内の立ち入りを禁じています」
 きっ、と、年若く見えるものの強い眼差しを受けて、オーマがたじろぐ。
オーマ:「ちょっとだけでも駄目か?」
巫女:「ちょっとだけでも駄目です」
 こくこく。
 大きく頷いた少女が、挨拶のつもりかぺこりと頭を下げて小走りに扉の中へ去っていく。
 恐らく巫女のものだろう、数人分の視線がどこからともなく感じ取れたが、それらは一様に拒絶の意思を感じさせていた。
イフリート:『待つのだ巫女よ。…我は守護聖獣だが、我も駄目だろうか』
巫女:「えっと……」
 扉を閉めかけた巫女が、思いも寄らない質問を受けてうろたえる。が、すぐ近くにいたらしい誰かへとぼしょぼしょ会話をし、そして顔を戻して、
巫女:「男の人の姿をしていますから駄目です」
 きっぱりと言い切って扉を閉めてしまった。その上、閂までがかけられる音がして、まだ何か話し掛けようとした姿勢のままで、オーマたちが凍り付く。
 ひゅぅぅぅぅ…
 気のせいか、2人へとそよぐ風までが心に染みる程冷たく感じられた。

*****

オーマ:「――なあ」
イフリート:『何だ』
オーマ:「無謀だったか?」
イフリート:『知らぬ。が、守護聖獣たる我まで拒絶するとは…』
オーマ:「いやいやその前にお前さん俺の守護聖獣だろうが。1人で先行ってどうするつもりだったんだ」
イフリート:『……それは企業秘密と言うやつで…』
オーマ:「どこの企業だどこの」
 砂の溜まった石畳の上にのの字を書き続けるにも飽きたか、オーマがしゃがみ込んでいた姿勢から立ち上がって大きく伸びをする。それに付き合って、焦げ付いたのの字を書いていたイフリートが2人を拒絶したまま閉められた扉を見つめ。不意に、その顔が堅い表情を浮かべた。
イフリート:『――む…気をつけろ――来るぞ――』
オーマ:「!?」

 ――ごうっ――

 一陣の風…と言えば聞こえはいいが、ぶわさ、とオーマの服の裾がめくれあがり、顔に張り付いて剥れない程の強さの風が、神殿のあった位置から強烈に吹き付けてくる。
オーマ:「ぶは、な、何が起きてんだおい!」
イフリート:『………』
 無言のイフリートが、オーマの窮状を手助けしようともせずに、立ち尽くしているような気配がある。
 何が起きているのか確かめるためには、風が止むのを待つしかなく、そして、ようやく覆われていた布を顔から引き剥がしたオーマが、思わずぽかんと口を開ける。
 2人の目の前に。
 城としか形容しようのないものが建っていた。
 今までそこにあった神殿の姿は掻き消え、そこに自らを主張するように建っている、威容を誇る城。
オーマ:「なんだ…こりゃあ」
 壁には見覚えのある36の印が刻まれ、その入り口は2人を招くように開いている。
イフリート:『なるほど、な』
オーマ:「あん?知ってんのか?この城の事」
イフリート:『…知らぬ事も無い』
 とは言え、それ以上の事を話す気も無いらしい。ほおぅ、と呟きつつオーマがにやりと笑って顎を撫で、
オーマ:「これは、俺様に攻略してみろっつう謎掛けか?…『見た』ところ、巫女たちの位置も変わってないらしいし…おまけに、もう1つ、でけえ気配が出て来たな。ありゃ行方不明だった『あれ』か?」
イフリート:『そのようだな』
オーマ:「おーっし、行くぜオッサン!漢魂を見せ付けてやろうじゃねえの」
イフリート:『良い案だ』
 めらめら。
 燃え盛っている2人が腕をがっつり組むと、勢いを付けながら城の内部へと突進して行った。

*****

オーマ:「っ、ふうっ、こ、これで幾つ目だ?」
イフリート:『…何故我が数えねばならんのだ』
オーマ:「だー!いいじゃねえかよ、そのくらいのサービス精神が旺盛じゃなくちゃこの先世渡りしていけねえじゃねえか」
 銀髪姿となったオーマが、ちちち、とイフリートへ指を振る。
 それも尤もな事かもしれない。何しろ、この城へ入ってからイフリートの力がいまいち冴えず、各守護聖獣に関連しているらしい障害を越えるのは、ほとんどがオーマの力によってだったのだから。
オーマ:「まあったく、奈落を越えるのに変化しなきゃならねえとはな…表から見たよりもこの城は大きいらしいな」
イフリート:『だろうな。この城は現実にある訳ではない。一時的に具現成されているだけの事だ』
オーマ:「そらまあ、神殿のあった場所に建ってる時点で現実とはちぃっとばかし違うって事は分かってるけどよ」
 いくら超人的な力を有しているオーマと云えども、常に全開100パーセントでは疲弊しきってしまう。…だが、聖獣たちのいくつもある罠と障害を越えるには、それくらいの力が無くては務まらないのもまた事実だった。
 何よりも、1つ1つクリアしているオーマ自身がその事を良く分かっている。
オーマ:「おうっし!幾つ目かわからねえがきっとあと少しだ!」
 この所感じる事の無かった軽い息切れと常に無い疲労感に見舞われつつ、根性と自棄で次々突破して行くオーマ。
イフリート:『…さすがだな』
オーマ:「あん?何がだ?」
イフリート:『いや』
 気のせいか、その身体に追う炎にも力のなくなってきているイフリートに片眉を上げたものの、それ以上何も言わず…いや、自分の疲労の事も考えて言えず。
 次第に障害が緩くなって行く事と、それに倍して自分の疲労が酷く、体が鉛のように重くなって行くのを感じつつ、足を引きずり、壁に手を置いて伝いながら、それでも前へ進む事しか考えられないのか、じわじわと先へ進んで行く。
 ――聖獣の印が刻まれた城。幾多の部屋と障害を越えて、近づいて行くのは、何重にも囲われた中央の部屋。
 ようやくたどり着いたオーマが、身体で押すようにして扉を開き…あまりの眩しさに思わず手で顔を覆った。
オーマ:「な、なんだこりゃ…」
 息切れが激しい。眩暈も起こっているような、霞んだ目に映ったもの、それは…

 ――光り輝く、一頭の白馬の姿。

 毅然とした表情の、その額には見るだけでも生命力溢れていると分かる角が存在を誇示している。
 たてがみがその部屋の空気に揺れ、金か銀と思わせる輝きを浮かべていた。
 だが。
 その身体が動く事は無い。
 何故なら、その身体は――真っ白な輝きのまま、石へと変化していたからで。
オーマ:「石化…、なの、か?」
イフリート:『――いや。再生だ』
 光はそれ自体が意思を持っているかのように室内を舞い、カーテンのようにふわりふわりと石馬の身体を覆って行く。その都度、オーマの身体を鈍い疲労感がずんずんと溜まって行く。
オーマ:「な、なんだ、こりゃあ…」
イフリート:『知れた事。聖獣とこの地と…お主から生命力を吸い出している。あと少しだ』
オーマ:「それを、先に、言え、っつうんだ」
 ずる…。
 光が室内に溢れて行く、その様が見れないのをほんの少し残念に思いながら、オーマの意識は闇へと吸い取られて行った。

*****

オーマ:「うお…もう朝か…?」
 あまりの眩しさに、日光が顔に当たったかと思ったオーマがそう呟きながら起き上がる。…その額に、ごつごつした堅いものがごつんと当たり、
オーマ:「痛っ、なんだよ――っておわぁっ!?」
 …目の前に。
 光り輝く角を突きつけた、白馬の姿があった。
 深い知性を感じさせるその瞳は、オーマの心の奥底を覗き込むようにじぃ、と見つめ続けている。
???:『気分はどうだ?』
オーマ:「お?おう、何とも…って、俺は確か生命力を吸い取られて…」
???:『そうだ。分け与えられたものを返したのだ』
 つい、と白馬が顔を上げ、心地良さそうに目を細める。
 どうやら、その言葉はユニコーンから発せられたものであるらしく。
ユニコーン:『…そなたのお陰で再生が早まったようだ。これで巫女たちに心配をかけずとも済む』
オーマ:「そりゃ、良かったが…再生ってな、なんなんだ?」
ユニコーン:『老いた身体を、それ以上の生命力でもって若返らせる仕組みと言えば、分かりやすいか?』
オーマ:「おう。それならよーく分かるぜ。で、俺様の命を吸い出したってわけか」
ユニコーン:『正直驚いたぞ。余程の者で無い限りは、我の居る部屋までは辿り付けぬ筈だった』
オーマ:「ふふふ、そりゃもうこの俺様だから出来る芸当に決まってんじゃねえか。…で、何か?俺様がこの部屋に辿り付けたら何かいい事あるのか?」
ユニコーン:『…通常の人間ならば、多少癒しの力を与えていただろうな。だがそなたは…いや、これ以上言うまい』
イフリート:『お主がいなければ、再生は数週間…いや、数ヶ月に及んだかもしれぬ。巫女たちにとっても、ユニコーンを必要とする者にとってもそれは問題であっただろうな』
オーマ:「ほほう。つーことは、俺様ユニコーンの恩人だな?そうなんだな?」
イフリート:『そして我はこの者をこの地へ運んで来たのだ。恩に着るように』
オーマ:「ちょっと待て、それって俺はここに誘導されて来たってえのか?」
 突っ込みを入れたオーマへ、ちらとイフリートが目をやり。そして、すい…と目を逸らした。更に何か言おうとしたオーマを、煩げにかつんと蹄で床を叩いたユニコーンがぶるる、といななきながら首を振る。
ユニコーン:『釈然とせぬが…まあ良い。着ろと言うなら着てやろう。さて、では戻るとしようか』
 角の一振り。
 それだけで、室内の様子が一変した。
 オーマと、イフリート、そしてユニコーン…それと、突如現れたユニコーンに驚きと喜びの意を現しながらも、同時に現れたオーマたちにパニックを起こしてぱたぱたぱたと隅っこへ走り去って行く数人の巫女たち。
オーマ:「あーそう怯えなくても大丈夫大丈夫。俺様紳士、なっ?」
巫女:「…………」
 ふるふるふるふる、と見るからに怯えきった子犬のような目で、隅っこに固まった巫女たちに見つめられると、オーマもいつもの軽口が叩けなくなるようで。困ったかぽりぽりと頬を掻きながら、
オーマ:「ユニコーンも脱皮を済ませて戻って来たんだし。俺様、その手伝いして来たんだ。ユニコーンとはもうマブダチっつう事だ。…嘘じゃねえぞ」
巫女:「………」
 うるっ。
オーマ:「いやその、泣かねえでくれねえか…俺、柄にもなく傷付いちまうじゃねえか」
 大柄な男が、対応に困ってその身体を出来る限り小さく縮めているのを、警戒しつつも巫女たちがぼそぼそと何事か会話し。
巫女:「え…わ、私、ですか…あ、あうっ」
 つんつんと突付かれて押し出されてしまった、年少の…門から顔を出してオーマを追い出した巫女が、おろおろと仲間とオーマとを往復し、
巫女:「そ、その……ありがとうござりました」
 ぺこり、と座ったままの姿勢で、それでもやたらと丁寧そうに見えるお辞儀をしてみせる。
巫女:「ユニコーン様が戻られた事には感謝しております。ですので、今回の事は……えと、ふ、ふもん?」
 仲間へ聞き返し、ぼそぼそと言葉を返してもらった巫女が再びオーマへと向き。
巫女:「不問に致します故、どうぞこのまままっすぐお帰り下さいませ」
 再び頭を床に付けんばかりのお辞儀をされて、オーマが苦笑いを浮かべた。
オーマ:「分かった分かった。男の俺様はお呼びではないって事だな。まあ無事戻ってこれたし良しとしますか」
イフリート:『そのようだな。ユニコーンにも恩は売れたようであるし』
 光の導く方向へとまっすぐ向かって行くと、最初拒絶された扉がそこにあり、いつの間にか内部へと入り込んでいた事に気付く。…いや、恐らく巫女たちの居場所は最初から変わっていなかったのだろう。
 ――かつっ。
 堅い蹄の音が背後から聞こえ、それが誰か分かっていたのだが振り返ったオーマたちに、光を浴びた白馬が見送るように其処に立っているのが見えた。
オーマ:「おう。見送りご苦労さん」
ユニコーン:『………』
 かつかつ、石畳の上をゆっくり歩いて行くユニコーンは、何を語る事もせず、ただ、その知性輝く瞳で2人の男を眺め、ご苦労だった、とでも言うように首をゆるりと動かすと踵を返して神殿の中へと悠々立ち去って行った。
オーマ:「確かに綺麗なお馬さんだよな。信仰する気持ちは分からんでも無い」
 鬣を揺らし、戻ってきたユニコーンの姿を見た瞬間の巫女たちの驚きと喜びの表情を思い出し、オーマが閉じられた扉の中を想像する。
イフリート:『別れていた時間があれば、再会の時には一層信仰心が増すのであろうな。我も同じ聖獣仲間として、あのような純粋に慕う者たちを見るのは快い』
オーマ:「ま、オッサンは俺様がこれ以上無いっつうくらいあつぅい心で慕ってやるからよ?感謝しろよ」
イフリート:『………うむ、まあ、仕方無い事だな』
 ――返答までに大分時間がかかったような気がしたが、オーマが気にしているような様子はまるで無かった。

*****

 それから街へ戻ったオーマは、ユニコーンが無事戻れた事を記念して祝杯を上げ……。
 再び店の外にぼうっとした頭を向けたのは、すでに朝日が高々と昇った後の事だった。
オーマ:「なあ、イフリートのオッサン。…あの城を攻略した時みたいに、ずばっと男女の仲を解決する方法ってぇのは無いもんかね」
イフリート:『お主の恐怖は伝染しそうな程強く感じておるが、残念ながら無いな。最初の日にすぐ戻っておけばまだマシだったのだろうが、それからまた日を過ごしているからな』
オーマ:「こ、こういう時に助けてこそ守護聖獣ってなもんだろうがよ…」
 ざわざわと、髪が逆立って行くのを、イフリートが気の毒そうに眺め、
イフリート:『守護聖獣として言っておこう。…がんばれ』
オーマ:「のおおおおおおっっ!?」
 どうにか当事者として同席させようと目論んだオーマがイフリートの身体を掴もうとするも、それより一瞬早くその場から掻き消えてしまい、何も掴めなかった手を呆然と眺めるオーマが、城で感じたプレッシャーなど蚊に刺された程度と思う程の、強烈な殺気を背に感じ…。

 ――とある人物たちによる筆舌に尽くしがたい地獄の責め苦が、行方不明になっていた期間に数倍する勢いで、泣き叫ぶオーマに掛かって行ったのは言うまでもない。


-END-