<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


『ハロウィーンにサドンデス』

<オープニング>
「ルディアおねえちゃん!僕、レギュラーになったんだよ!」
 白山羊亭のドアを開けて、ユニフォームを着た10歳位の少年が駆け込んで来た。胸にサッカーボールを抱き、背には『7番』を背負っていた。
「きゃあ、おめでとう、イマナン!」
 ルディアは、少年の髪を揉みくちゃにして祝福した。彼女がイマナンをそこまで応援していたかは怪しい。昼下がりの暇な時間だったので、退屈していたのだろう。

「あ、そうだ、イマナン宛に白山羊亭へカードが届いていたの。きっと、あなたの家を知らないのね」
 ルディアは、レジ机の引出しから、金の縁取りのポストカードを差し出した。サッカーボールの型押し模様が施されたインビテーションカードだった。
『再戦を申し込む。ハロウィーンの夜にはこちらにも強力な助っ人が集う。メンバーを集め、ボールを持参して来られたし。
 ライラック家のスケルトン』

 ルディアは、イマナンの手元の文面を覗き込み、眉を寄せた。
「受けるの?」
 10月31日に、あのオバケ屋敷を子供が訪れるのは危険だ。
 だが、イマナンは「もちろん!」と頬を紅潮させ、片手を高く挙げた。
 ルディアは苦笑する。
「参加メンバー、店で募っておいてあげるね」

< 1 >
 問題のその夜。
 イマナンは、名乗りを挙げてくれたメンバー達とライラック邸へ向かった。
 通りに面した家々の窓には、魔女のシルエットが飛び回っていた。玄関にはジャック・オ・ランタンが無造作に置かれ、キャンドルを消された目鼻からはただ漆黒の闇が覗く。飴をしこたま貰った友人たちは、もうベッドの中だろうか。深い秋に静まり返った道に、イマナン達の足音だけが響いた。
 足音は、イマナン含め5人。
「今回もガーッと突っ走って、ガーンと跳ね飛ばして、ガンガン行くぜ!」
 先頭を歩きながら、4本の腕を振り回すシグルマ。
「ラブラブ親父パワー炸裂で、ハットトリックを具現化だ!」
 おどけるオーマ・シュヴァルツと、「静かにおし」とその背に蹴りを入れる美女。
「いてて・・・」
「夜も遅いんだよ。それに、サッカーはおツムでやるスポーツさ」
 妻のシェラ・シュヴァルツが、整った付け爪の先で自分の頭を差して断言する。
「静かにしてほしいと思ったら、そのプリティレッドな唇に人差指を当てて『しっ』と言ってくれるだけで、以心伝心ハートにどっきん!なんだがなぁ」
 背中に付いた靴の跡を眺めて恨みがましく言うオーマだ。
「見ろよ、せっかく作ったサンドイッチが崩れちまった」
 オーマは両手に大きなバスケットを下げていた。試合後、みんなで楽しく会食という算段らしい。
 イマナンが、『大丈夫かなあ?』という目で、隣を歩くアイラス・サーリアスを見上げた。主将のイマナンは、この個性的な大人達をまとめなければならない。不安から、何度もボールを抱え直す。
「勝負も大事ですが、いい試合にしたいですね」
 アイラスの言葉に、イマナンはやっと笑顔になり「うん!」と頷いた。
 
 ライラック邸の鉄柵の門は、今夜は既に開かれていた。イマナン達が来るので開けてくれたのか、他の客人達の為なのか。
 窓が明るい。広間はキャンドルやシャンデリアで照らされているのだろう。宴の準備は万端のようだ。
 ノッカーは、手首の骨が拳を握った形になっていた。イマナンは恐る恐るそれで扉をノックした。

< 2 >
 両開きの扉が錆びた音と共に開かれた。
『ようこそ、イマナンとその仲間達よ』
 黒いユニフォームが宙に浮いている。白いサッカーパンツの下に、白のストッキング。赤いスパイク。そこに足があるという見当はつく。敵の主将は透明な骸骨なのだ。
 広間には、すでに彼の仲間が集い、ユニフォームに着替えているところだった。シルクハットに黒マントの紳士、巨大な体躯で額にビスをはめた男。彼の顔には大きな縫い傷が残る。黒いローブを纏ったわし鼻の老婆に、直立歩行の狼もいた。
 ざらざらと砂が落ちそうなストーン・ゴーレムも、黄色のウエアを来てグローブを嵌めていた。彼がGKらしい。
「私はタキシード以外は着ない主義なのだが。それに、マントはどうしても取らないと駄目なのか?」
「こんなばーさんに足を出せというのかい。酷じゃないか」
 顔色の悪いヴァンパイヤと枯れ木のような魔女は、うるさくユニフォームにクレームをつける。フランケンはユニフォームの手の通し方がわからず、四苦八苦している。狼男は狼男で、サッカーパンツを脱いでハサミで尻に穴を開けていた。
『借り物だぞ、勝手に切るな!』
「しっぽを通さねえと、履けねえだろう」
 スケルトンに注意された狼男が、反対に言い返した。欧州組を招集したからと言って、強くなるとは限らない。スケルトンもなかなか苦労は多そうだ。
『君たちには、ビブスを用意した。私達は6人、そちらは5人。こちらが1人抜けようか』
「いや、5人じゃない。・・・俺はこっちを着させてもらうぞ」
 シグルマが黒ユニを手に取った。ちなみに、ビブスは、チームメイトを判別する為に着用するベストだ。
「この前は、石像たちに怪我を負わせてしまって、すまなかったな。助っ人として加えてくれ。それに、スケルトン、あんたと一度同じチームでやってみたいんだ」
 サッカー好きのスケルトンには、それでシグルマの想いが通じたようだった。
『ありがとう。だが、そちらが4人、うちが7人か。そうだ、こいつらを貸そう』
 スケルトンが呼ぶと、奥の部屋から3体のパンプキンヘッドが頭を振りながら現れた。カボチャのいびつさが多少違うものの、皆同じようにへらへらと笑顔である。三角にくり抜かれた目は、何を考えているかわからない。口許もしまりなく笑っている。一応スポーツウェアを着ていた。
『審判団に使おうと思って作っておいたんだ』
 彼らは赤いビブスを被ろうとしたが、頭が大きすぎて入らず、両手をバタつかせた。
「下から着ればいいだろう」
 イマナンの声が苛立っていた。彼らは言われて初めて気づいたらしく、足を入れて無事に着用した。こいつらは、果たして戦力になるのか?
『7人ずつしかいないなので、20分ハーフでいいかな?審判は、彼らに頼もう』
 白い布を被った3体のゴーストが出現した。2体は赤と黄に塗り分けた旗を握って天井を踊り、残り1体が高い音でホイッスルを吹いてみせた。彼らならボールに付いて行くスピードは十分そうだ。
『だーかーら!借り物だから切るなってば!』
 スケルトンがシグルマを怒鳴りつけた。
「だって、袖が2つ足りないからなあ。よっしゃ、これでOK」
 豪傑は黒ユニから4本の逞しい上腕を伸ばして、思い思いに動かしてみせた。

 GKのアイラスは、一人だけ違うカラー、青のビブスを身につけながら骸骨に尋ねる。彼だけは、いつもどんな場でも冷静だ。
「外には照明設備は無いし、いったいどこでゲームをやるんです?」
『足元を見たまえ』
「あん?」とオーマも靴の下を見た。絨毯は黄緑とモスグリーンの縞模様で、一カ所白い線で長方形の模様が描いてあった。
「おやまあ、可愛いミニチュアのフィールドだこと」
 シェラが膝を折り、顔を近づけて覗き込む。掌に乗りそうなゴールポストが置かれ、お子様ランチの旗のようなコーナーフラッグが立つ。よく見ると、センターサークルやペナルティエリアも描かれている。
『魔女に、我々を小さくしてもらうのさ。いいアイデアだろう?さあ、準備はいいか?』
 イマナン達が「え?」と思った時は、手遅れだった。

< 3 >
 獅子の姿になって巨大化することはあるが、小さくなるのは妙な感じだ。特に、眼鏡を外したオーマには、遠くぼやけた天井が、空か宇宙かのように遥かに感じられた。
 まあ、サッカーに高い視力は必要無い。愛する妻とカボチャDFを見間違えることは無い(たぶん)。
 コイントスでイマナンがボールを得た。オーマがセンタースポットに置いたボールの上に足を乗せる。オーマは足も大きいので、サッカーボールが子供の玩具のように見えた。
 白布を被ったゴーストの主審が毅然と片手を挙げた。ホイッスルが響く。
 オーマは右前へと蹴り出す。アイコンタクトさえしていなかったが、シェラがその場へ走り込んでいた。さすが我が妻だ。だが、シェラは途中でヴァンパイヤにマークされた。背後からボールを奪おうとする彼の口許にはきらりと牙が光る。シェラの首筋の辺りだ。
「シェラ、気をつけろ!」
 シェラはボールをうまくコントロールできず苛立ったようで、背後のヴァンパイヤを肘打ちし、ファールを取られた。
「ちっ。覚えておいで」と美人FWは口汚く罵る。
 シェラなら危険は無さそうだと、オーマは肩をすくめた。

「僕は、オーマさんとシェラさんのコンビに合わせて動くことにするよ。急造チームだし、その方がやりやすい」
 イマナンの指示にオーマが「おう、任せた」と頷いた。
 オーマは子供が好きだ。少年が、経験を積んで少しずつ成長していく様は、目を細めて見守りたくなる。既に闘う男の瞳をして、倍も背のあるオーマに臆せず言葉を吐くイマナンに、オーマは頼もしさを感じていた。
『おっし!親父のマッスルホットなラブラブハートを見せてやるぜ』
 ボランチのオーマが敵FWフランケンへのパスを巧みにカット。ドリブルでボールを陣内に持ち込んだ。でかい靴の影にかくれたボールは、狡猾そうな狼男でもなかなか奪うことはできない。FWのシェラが走り込むタイミングを計って、魔女のマークを外そうと奔走している。トップ下のイマナンは、オーマがいた位置まで下がってバランスを見ていた。
『奥サンのきれいな御髪(おぐし)が痛むとコトだしな』
 オーマはハイボールでなく、ゴロでスペースへと出した。シェラが魔女を置き去りにして、思いきり足を振り切った。
 カツン!
 力んだシェラのシュートは少し浮き、枠を叩いた。惜しい。
 ルーズになったボールを、敵のゴーレムがパンチングでクリアした。
「ボロボロと小石をこぼさないでおくれよ!顔に当たっただろ」
 シェラが大声で文句を言った。ゴーレムは動くたびに少しずつ崩れているらしい。
 副審ゴーストが旗でコーナーを差した。イマナンがボールをセットする。左のコーナーキック。左利きの彼が蹴るのはゴールから離れて行くボールだ。オーマに合わせられれば一点だろう。ヘッドでそうそうオーマに競り勝てる者はいない。
 最初のピンチでフランケンも守りに戻って来た。こいつはでかい壁のようだった。オーマにぴたりと着く。背が同じくらいなので、顔の位置も同じだ。
「下手な外科医だな。俺ならもっと、目立たないように綺麗に縫合してやったのに」
「ううーー!」
 単に牽制したのか、顔の傷のことを言われて逆上したのか。フランケンが唸った。
 コーナーキックはDFの狼男がクリアし、守備に戻っていたトップ下のシグルマがドリブルで持ち上がった。足は2本しか無いくせに(当然だが)、妙にドリブルが巧い。大柄だがスピードもある。
 オーマは必死に食らいついた。オーマは39歳、決してスピードで勝負する年齢じゃない。だが、シグルマだって若いわけではないし、追いつけないはずはないのだが。彼は体、特に腕の使い方がうまい。オーマが入り込もうと狙うスペースへ、大きく腕を振り上げて来るのだ。
 センタリングは上げさせたくなかった。こちらのスリーバックは、首をゆらゆら振り続けているだけの、あのカボチャトリオだ。
 シグルマがオーマの隙を見て中に折り返そうとしたが・・・フランケンがやっとセンターサークルあたりを走っているところだった。とんでもない鈍足だ。貧血のヴァンパイヤは足がもつれて一度転んだので、もっと遅れている。
 仕方なくシグルマはシュートを放った。アイラスはシュートを読んでいたが、体が軽い分、ボールに吹き飛ばされた。クリアは前へこぼれ、なんとカボチャが蹴り出してくれた。
 GKとカボチャの連携は悪くないようだ。
『人間以外のモノとは、うまくコミュニケーションが取れるらしい』
 カボチャに向けてグローブの親指を立てて笑顔になるアイラスを、オーマは苦笑しながら見守った。少年の頑さを残し、大人の冷淡さを持つ19歳の青年は、オーマから見たら、イマナンとそう変わらない。
 スケルトンのコーナーキックはアイラスが簡単にキャッチした。これで決定的チャンスは一度ずつ。

 そのあとは様子を見合う状態になり、ゆったりしたペースで試合が進んだ。何度かシェラがシュートを放ったが、ゴーレムにことごとくセーブされた。
「ペナルティに小石が転がってて、走りにくいったらありゃしないよ!」
 シェラのキックは、少しだけゴーレムを小柄にしたかもしれない。
 シェラとイマナンの呼吸も合って来たので、イマナンを前に残し、オーマはディフェンシブなポジションを取った。スケルトンとシグルマの動きが厄介だったのだ。
 この2人はサッカーを『知っていた』。左右にボールを散らし、疲労を誘う作戦のようだ。しかも透明なスケルトンはどこを見ているかわからず、トリッキーなパスを出して来る。オーマは若く無いし、イマナンチームは女性と子供がいる。消耗も激しい。
 イマナン側の息が上がった頃、前半が終了した。

< 4 >
「左右に揺さぶって、疲れさせる作戦です。乗っては駄目です」
 GKは全体が見渡せる。アイラスからの忠告だった。
「だがなあ、ディフェンスしにいかないと突破される。シグルマがあんなにサッカーが巧いとはなあ」
 オーマもいつになく真面目な口調だ。
「らしくないねえ、弱音かい?」
 普段あまり汗をかかないシェラも、手の甲で額をぬぐった。
 イマナンは首を横に振る。
「残念だけど、足元の技術じゃ、あの2人が上だよ。
 ・・・でも、他の5人はどってことない。オーマさんとシェラさんの息が合ってるのを生かせれば、うちだって何とかなる」
 10歳のイマナンが、自分達の劣勢をしっかりと認め、その上で状況を突破しようと知恵を絞る。大人のオーマ達を励まし、意気を上げさせようと褒める。
『おう、39歳オーマ・シュヴァルツ、おまえさんの為なら、明日足腰が立たなくなっても、走って走って走りまくってみせるぜ』
 オーマは拳を握り、イマナンの横顔を見下ろしていた。
「そうですね。2人の間のパスは、面白いくらい通ってましたよ。守備も、狼男さんはそれなりですが、右の魔女さん側は弱そうです。うちのカボチャさん達の方がきちんと守備してますよ」
 アイラスの言葉に反応し、3つの頭が一斉に嬉しそうに揺れた。守備はこの4人に任せて大丈夫そうだ。後半は、もっと前へ出てもいいだろう。
「だな。奥様へは、魔女サイドを破る、ハートにピンポイントなボールをプレゼントするぜ。俺は約束を守る男さ」
 シェラにセクシー・ウィンクを送ったが、彼女はイマナンとゴール前の動きの打ち合わせに夢中だった。
『おーい。何だよ〜。ホントにシュヴァルツ夫妻の息は合ってんのか〜?』
 
 後半を告げるホイッスルが鳴った。
 こちらのチームはスタミナが無いので、開始5分に勝負を賭けた。カボチャ達も一人残して攻め上がった。
 ゴール前でボールを回し、イマナンが出しどころを計っているところ、狼男がタックルした。小柄なイマナンはたまらず転倒した。
「ファールだよ!」と抗議したが、主審は流してプレイを続行させた。
 狼男が一人でドリブルで持ち上がる。さすがに野人、足は速い。灰色の毛並みがなびく。このまま持ち込まれたら危険だ。
 ところが、ボールは満月のように丸い。彼の瞳が金色にきらりと輝いた。野生に戻ってしまったらしい。ハーフウェイラインを越えた頃、4本足になって走り始めた。前脚でボールを扱ったのだから、ハンドである。今度こそ主審はファールの笛を鳴らす。イエローカードも高く掲げられた。
 早いリスタートでイマナンが放り込んだ。守りの要の狼はまだ前にいる。貧血ヴァンパイヤが牙を剥いても、競り負けるオーマでは無い。後ろからシェラが走り込む。ゴーレムキーパーも前へ出る。
 イマナンもサイドから駆け上がった。
『奥サン、約束破ってすまんなあ。だが、敵を欺くには味方から』
 オーマはシェラに出す振りをして、大きくヘッドを振った。シェラをマークした魔女は逆を突かれる。ボールは、GKの横に突っ込んで来たイマナンの、左へとみごとに上がった。左は利き足だ。コースを見極め、ゴーレムの脇の下を狙った。
 ボールがネットに突き刺さった。
「やった!」
 オーマのナイス・アシスト。瞬時のみごとな判断だった。

 だが、それからが大変だった。1点取られた敵は、がむしゃらに攻め込んで来た。アイラスも好セーブの連続だ。
 ボランチのオーマも、前線で奪われると何度も必死で戻った。こんなに走ったのは何百年ぶりだろう。
「危ない!」
 久々に上がって来たヴァンパイヤが、センターのシグルマにうまいボールを上げた。カボチャの1人がシグルマと同時にジャンプし、ボールを一緒に競った。
 ぱかぁん。
 オレンジの破片が散った。頭同士がぶつかったのだ。飛んだ2人は芝に倒れた。シグルマがファールを取られた。
 パンプキンヘッドの頭が、半分吹き飛んで、緑の上に散らばっていた。口の部分はかろうじて残り、まだ微笑んでいた。
「・・・大丈夫ですか?」
 アイラスの差し出した手を取り、カボチャは立ち上がった。何ともないようだ。半分になった頭を、相変わらず揺らしている。
『どういう構造になっているんだ?』
 医学的興味から、実験用に一体解剖してみたいと思うオーマだった。

 その後、残り2体のカボチャも頭を吹き飛ばしながら奮闘。アイラスのみごとなセーブもあり、1点を守りきった。
 ホイッスルが鳴ると、走って攻めまくったシグルマとスケルトンは、芝に倒れこんだ。スケルトンは姿は見えないが、芝に浮くユニフォームの様子では、仰向けに倒れているようだ。
 イマナンは、スケルトンへと手を伸ばした。がしりと、強い握力が少年の手を握り返した。表情はわからない。だが、きっと笑顔だと確信した。

 試合後は、魔女に大きさを戻してもらい、屋敷の広間でオーマの手作り弁当での交歓会となった。
 サンドイッチが宙に浮き、少しずつ減っている。スケルトンも喜んで食べてくれているようだ。
「どうだい、スケルトンさんよ。お前さんのマグマなホット・ハートを見込んで言うが、『腹黒同盟』に入会しないかい」
 オーマはスケルトン達の勧誘を始めた。パンフレットまで持参していた。
『私は腹黒くないぞ。だいたい、腹は無いしな、はははは』
「“腹黒”ってなあに?」
 イマナンが無邪気な声で尋ねた。唐揚げを頬ばって、ぷくりと顔が膨れている。
「おう、イマナンも入会するかい?」
 これくらい幼い時からの腹黒教育が大切なのだ。
「そう難しい字は無い、読んでみてくれよ」
 まだ小さい掌に、パンフを押しつけた。
 
 他の敵メンバーにもパンフレットを配りながら話しかける。
「毎朝起きたら、牛乳一本。これで骨も生き生きだぜ。チーズは好きかい?」と魔女の背中を軽く叩き、「レバー料理は、臭みを取るのはニンニクでなくてもいいぞ。ターメリックやレモングラス。香りの強い草と料理すると美味いぜ」と、青白い顔のヴァンパイヤにアドバイスする。
 仮装して酒飲んで騒ぐのもいいが、こんなハロウィーンも楽しいとオーマはにやけた。

 窓の外は、2日ほど満月を過ぎた、立待月(たちまちづき)当りだろうか。まだ丸さを失わないオレンジの円は、カボチャの目鼻で笑っているように見えた。
 
< END >

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1649/アイラス・サーリアス/男性/19/フィズィクル・アディプト
1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り
2080/シェラ・シュヴァルツ/女性/29/特務捜査官&地獄の番犬
0812/シグルマ/男性/35/戦士

NPC 
イマナン
スケルトン
オバケの皆様

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。ライターの福娘紅子です。
オーマさんは、イマナンの成長を見守る為に頑張る、という感じで書いてみました。
<2>迄は共通文章です。
<3>から、PC様ごとに少しずつ変えてあります。
お弁当まで作って来てくださって、ありがとうございます。
おかげで、楽しいラストになりました。