<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


命−在るべき物−

0.依頼

 何でも屋のマスターが面々を連れて、黒山羊亭の個室に入ったのは他でもない依頼の話をする為だ。だが、マスターは黙しジッと手元の報告書を見ていた。
「……マスター?」
 誰かの言葉に、マスターはフゥと溜息一つ集まった面々の顔を流し見る。
「……お前達に依頼がある。だが、この依頼を受けるに当たって絶対に忘れて欲しくない事が一つだけある」
 真剣な表情のマスターは一言告げた。
「絶対に倒して来い」
 集まった面々はそれぞれの顔を見詰める。皆一様に、困惑した表情だ。
「先日、とある依頼で逃した異形がいる。報告によると、そいつの名は『畝威』……獣頭の異形だそうだ。そいつが現れたって話があったのは、二週間前……とある村の猟師が知り合いの家に匿われているのを見付け、気味悪がって何とかして欲しいと依頼があった。そこで俺は、別の奴等をその村に派遣する事にした。時間からすれば、一週間も経ってなかった筈だが……村は全滅した上、村人は生ける屍と化していたそうだ」
 マスターはそこで一旦切ると、面々の顔を見回す。誰もが信じられないと言った表情を浮かべていた。
「……何とかその中から二人だけが戻る事に成功したが、一人は未だ意識不明の重傷だ……辛うじて意識を取り戻した奴から報告を受けて先日その事実が判明したという訳だ。このまま放って置けば、何れ被害は周辺にも及ぶだろう……良いか?もう一度言う、必ず絶対に畝威を倒して来い。良いな?」
 睨み付けるような真剣な瞳に、誰もが頷く。
「だが、マスター?生ける屍となった村人はどうすれば?」
 誰かの言葉に、マスターは俯き告げた。
「……死んだ命はもう戻らん……倒せ……」


1.死が支配する場所で……

 チチチチ……ピュー……
 鳥達の声が長閑に聞こえる森の奥、その村は存在していた。牧畜と狩りで生業を為し、日々を長閑に暮らしていたその場所……今は血と腐臭が漂い村は荒れ、その過去を忍ぶ事は出来ない。
「ちっ!!全然駄目だ!」
 目を開きながら、刀伯 塵(とうはく じん)が吐き捨てる。己の力の内、心眼―殺気を感知し敵の所在を探る―を使い畝威の居場所を探ろうとしたのだが、村全体が既に殺気の固まりと化し、まるで気配を辿る事は出来なかったのである。
「こっちも見当たらないねぇ〜一体何処にいるんだろうね?」
 鳥を肩に留まらせながら、白槍牙 蒼瞑(はくそうが そうめい)は困惑した表情でぼやいた。式神を用い畝威の居場所をと思ったが、見えたのは村の惨状と徘徊する死人達だけで、獣頭の異形は見当たらない。
「んじゃ、行くっきゃねぇんじゃねぇ?なぁ、叶?」
 大型の刀、『饕餮』を肩に担いだ螢惑の兇剣士 連十郎(けいこくのきょうけんし れんじゅうろう)の言葉に、隣に居た星祈師 叶(ほしにいのりし かない)が頷く。
「・・・・このままにしておいては・・・・村人さん達が可愛そうです」
 その表情には、憂いと悲哀がありありと見て取れる。そんな叶を横目に、フィーリ・メンフィスは視線を離れた村へと向ける。
「同じ命を逃がした結果がこれか……あの時、止めを刺してさえ置けば……」
 瞳の色は感情を点していないが、握り締めた剣の柄に爪が深く食い込んでいた。
「私の方は準備万端で御座います。一刻も早く、敵を討ち囚われた魂を開放いたしましょう」
 破魔矢が入った矢立を背に背負い、神弓を片手に携えた紅乃月 雷歌(くれないのつき らいか)は皆の顔を見渡す。眼前、走れば小半時程の距離にその村は既にある。一様に頷く面々の目に、覚悟が宿る。
「じゃ、一応保険って事で〜」
 蒼瞑の体が淡く輝いたかと思うと、その光が全員の体を包む。武神力『武の城壁』である。
「作戦なんてもんは殆どねぇ。ただ、奴を倒す。その為に、邪魔に成る奴は全部排除する。それで良いな?迷うなよ、迷ったら切っ先が鈍る」
 塵の言葉に、全員が頷く。フィーリに到っては、言われるまでも無いという表情。
「んじゃ、いくとすっかね!!」
 軽い口調とは裏腹に、連十郎の目には怒りが宿る。
「・・・・行きましょう・・・・」
 叶が静かに符を一枚取り出し、其処に蜘蛛を作り出す。
 シャリン
「今度こそ、倒す」
 剣を抜き放ち、フィーリは静かに呟いた。
「後衛はお任せ下さいませ。皆様の援護私が引き受けます」
 神弓に破魔矢を番え、雷歌が構える。
「……それじゃ、行くぞ!!!」
 塵の号令一過!蒼瞑を先頭に、6人は一気に村へと駆け込んで行った……


2.命在った者達……

 血臭と腐臭が漂っている。その中で、幾つ物影が虚ろな瞳で侵入して来た6人を捕らえた。ある者は腹が抉れ内腑を引き摺り、ある者は頭半分を抉られ、ある者は片腕を引き千切られ、ある者は両足を失い這いながら……一様に死した体で低い呻きを上げゆらりゆらりと近付いて来る。
「いっくよ〜!!」
 蒼瞑の体から力が迸ると同時、蒼瞑は一直線に死人の群れの中に凄まじい速度で突っ込んで行く!触れる死人はその勢いに尽く弾き飛ばされ、自然と蒼瞑が通った場所に道が出来た。その道を駆けながら、叶が式蜘蛛に命を下し、死人の群れを力押しに遠ざけて行く。
 だが、痛覚も何もない死人はわらわらと6人の元にどんどん集まって来る。その数、見える範囲だけでも30は超える。
 ヒュオ!!!
 一本の破魔矢が、蒼瞑の傍を通り過ぎ目前に居た死人の頭を的確に捉え弾けさせた。
「一つ!!」
 次いで番えた破魔矢を、近付いて来た死人へ打ち込む!同様に頭を的確に捉えた矢は、再び死人の頭を弾けさせる。だが、死人の動きは止まらない!
「てりゃぁ!」
 気合一閃、塵の『霊虎伯』が雷歌に近付いた死人を真っ二つに切り裂くと、地面へと倒れ伏しびくびくと痙攣する。
「あっ有難う御座います。塵様」
「気ぃ抜くな!どんどん来るぞ!」
 吼えた塵はそのまま、近くに来た死人に斬撃を浴びせる。その表情は、真剣そのものであるが眼に悲しみと苦しみを湛えていた。
『ちっくしょう!!こっちに来てまで、こんな事に成るたぁよ!』
 思い起こすは故郷、中つ国での出来事……救えなかった命、取り返す事の出来ない過去が塵の脳裏に蘇る。
「塵さん!?」
 叶の言葉に気が付けば、直ぐ傍まで寄って来ていた死人が一体!一瞬の油断が、背後への警戒を怠らせた。
「ちぃ!」
 振り返り様に横薙ぎに斬撃を繰り出そうとするが、一瞬だけ死人の動きが早い!
 ザシュ!!
 片腕を挙げ防御をしようとした塵の鼻先一寸に、巨大な刀が突き出し、ちろちろと焔を上げ死人の体を貫く。もがく死人に眼もくれず、見やった先には連十郎。
「らしくねぇなぁ、塵の兄貴よぉ〜」
 ニヤリと笑みを見せた連十郎の言葉が終わらぬ内に、刀から出ていた焔が一気にその激しさを増し、死人の体を消し炭に変えて行く。
「わりぃ……ちっと油断しちまった」
「気持ちはわかっけどよ、それでやられちゃ意味ねぇぜ?」
 不敵に言い放ち、ブンと刀を振りぬけば消し炭と化した死人が地面へ崩れる。その間にも迫り来る死人の頭に、鋭い刃の衝撃が襲い倒す。
「・・・・今は・・・・ただ、倒す事だけを・・・・」
 ぎゅっと絞った叶の呟きを聞き、塵は頷くと再び刀を構え近付いてくる死人の群れに視線を向ける。
「おい!雷歌とか言ったか?叶の奴と協力してちぃとばっかし道作ってくれ。あっちの方にいっかもしんねぇからな」
「承知致しました!」
「・・・・はい!」
 連十郎の言葉を受けて、雷歌は破魔矢を三本番えると一気に引き絞る。叶は周囲に複数の符を出現させるとそれぞれに力を込めて行く!
「焔飛牙!」
「影覇七死点!」
 放たれた雷歌の矢が焔を纏い、集まりつつある死人の群れの中に火炎の花を咲かせると、叶の符が焔を雷を乱れさせ死人を打ち据えて行く!二人が放った技の道筋には、一本の道が出来た。
「あんがとよ!」
 言うが早いか連十郎は力を解放させ一気にその道を駆け抜ける!武神力『韋駄天足』により加速された連十郎は一路畝威を目指し消えて行く。
「俺達も行くぞ!」
「はい!塵様!」
「・・・・うん」
 駆け出した3人の前には、再び群れて来た死人達が居た……


3.意思無き命……

 ザシュッ!!
 フィーリの剣が死人の体を真っ二つに切り裂くと、その体に向かいフィーリは手を突き出す。
「消えろ!」
 ボッ!
 掌に不意に点った焔は、一気に噴き出すと切られた体を燃やして行く。背後に近付いて来た死人には振り返り様の斬撃を浴びせ、同じ様に焔で焼き尽くす。フィーリの周りには既に10はそんな死体が転がっていた。
「聞いてた話より随分と増えてない?」
 鎌槍『霊龍牙』を横薙ぎに払いながら蒼瞑はフィーリに言う。
「若干と言うか、結構増えてますね。見れば冒険者風の格好の輩が多いようです。大方噂を聞きつけて来た連中でしょうけど、お仲間入りしちゃった様ですね」
 そう言うフィーリの目の前の死人は、確かに鎧を着け剣を持っている。だが、その剣閃は単純一辺倒でフィーリや蒼瞑にしてみれば交わすなど容易い。最早意思の無い命……目の前の新鮮な肉を貪ろうとしている程度の行動しかないのであろう事は2人には分かる。
「蒼瞑さん、畝威は見付かりましたか?」
 剣の攻撃を交わし死人の首を刎ねながら蒼瞑を見やる。
「今探してるとこ。上から見える範囲で居ないって事は、建物の中に居るって事だろうからその辺を重点的に探してるよ」
 軽く言いながら、『霊龍牙』を死人に突き刺す。
「このままじゃきりが無いですからね。焼いても起きてくるなんて……今まで戦ったアンデットとは違うんですね」
「私達が居た世界の死人ってのは、早々簡単にくたばらなかったからねぇ。でも、此処までしぶとくなかったと思うけどねぇ」
 苦笑いを浮かべながら答える蒼瞑の頭には、中つ国での戦いが思い起こされる。少なくとも殲鬼の操る死人は、切れば倒せたし燃やせば動く事は無かった筈であったが、畝威の繰る死人は切っても燃やしても動いてくる。
「根本的にやっぱり違うって事なのかなぁ?」
「さぁ?それは分かりませんけど、兎に角頭を抑えない事には意味が無さそうですね」
 それぞれに死人を切り裂き、フィーリが火炎で燃やしつくす。それでも、立ち上がってくる死人に2人は好い加減うんざりし始めていた。
「ん!?見付けた!」
 蒼瞑が目の前の死人を切り裂きながら、叫ぶ。
「良かった。じゃあ、早速行きましょう」
「そうだね♪」
 蒼瞑が構え、力を解放する!
「はぁぁぁぁ!!!震撃!!」
 蒼瞑の体が淡い光に包まれたと思った瞬間、恐ろしい速度で体ごと死人の群れに突っ込んで行く!蒼瞑の体に当たった死人達は尽く弾き飛ばされ、一本の道が出来る。
「そっそうか、あれは技なのか」
 蒼瞑の後ろを付いて駆けるフィーリは呆然とその姿を見ていた。

「何処に居やがる!!出て来やがれ!!」
 連十郎が辺りを見回しながら叫び吼える。場所は村の一番奥に立つ少し大きめの建物の前であった。辺りには死人は当然居るのだが、畝威の姿は何処にも無い。だが、明らかに連十郎は此処に畝威が居るであろう事を感じ取っていた。
「居るのは分かってんだよ!!御大層に死人できっちり守ってるなんざ此処しかねぇんだからなぁ!!」
 目の前に近付いて来た死人を一閃で切り伏せ、連十郎は尚吼える!
「連!どけ!」
 後から来た塵の言葉に、連十郎は素直に従い後ろに下がる。
「火炎陣!」
 建物を巻き込む形で塵の力が解放され、あたり一面が火炎の息吹に飲み込まれ燃えて行く!其処に居た死人達をも巻き込み、火が燃え盛る。
「無茶しやがるなぁ塵の兄貴も」
「全くだねぇ〜」
「こりゃ凄い……」
 振り返れば其処に、フィーリと蒼瞑の姿。
「御二人とも御無事で」
 雷歌が2人の無事な姿を確認すると安堵の笑みを浮かべた。
「・・・・来ます!!」
 それまで黙って火を見詰めていた叶が咄嗟に叫ぶと同時、空を切り裂く音がする!
 ギャリィ!!
 蒼瞑がその鎧で受け止めたのは、腕……
「やっとお出ましかい?」
 不敵に笑う連十郎が火を見詰める。
「さぁ、幕を引こう」
 フィーリが油断無く剣を構え火を見詰める。
「きっちり引導を渡してやる……」
 霊虎伯を構えながら見詰めた火の中に、影が浮かび上がる。
「・・・・許しません・・・・絶対に・・・・!!」
 符を握り締め見詰める先、徐々に影が濃くなって行く。
「許しがたき所業……私は貴殿を倒します!!」
 雷歌が神弓に番えた破魔矢を打ち出すが、影は左手に持っていた物でその矢を受け止める。破魔矢を受け弾け飛ぶ死人……
「外道だねぇ〜」
 その様を見て軽く言う蒼瞑だが、眼が怒りに満ちている。
 現れた姿は、獣頭……左手に持った死人を投げ捨て一同を睨み付ける。
「グガァァァァァァァァァァァァァ!!!」
 獣の口より上がった咆哮が、空を振動させた……


4.命−在るべき物−

 連十郎が動いた!
「おぅりゃぁ!!」
 駆け様に振り上げた五尺二寸の兇刀『饕餮』が唸りを上げて畝威に振り下ろされる!だが、畝威は静かに半歩だけ身を逸らしその一撃を交わすと、懐に入り込み拳を突き出す!
「ちぃ!」
「連十郎様!!」
 雷歌が神速とも呼べる速さで、破魔矢を打ち出し畝威へと!一瞬其方に気が逸れたのか、拳の速度が鈍るのを連十郎は見逃さず身を捻り拳を交わす!打ち出された矢を畝威は左手で弾くと、尚執拗に連十郎に向かい間合いを詰める!
「お前の相手は一人じゃない!」
 横合いからの殺気と言葉に、畝威が後ろに跳躍すればその場を薙ぐフィーリの剣。着地と同時、再び間合いを詰め様とする畝威の動きが止まる!
「太極四天陣!!」
 力強い叶の言葉と同時、無数に生み出された式神達が畝威を死人を飲み込んで行く!
「やった!」
 雷歌が嬉しそうに歓声を上げるが、他の面々は未だ緊張の面持ちで式神が取り巻く畝威が居た場所を見詰めていた。
 ドグァァ!!
 唐突に畝威が居た地面が隆起したかと思うと、式神達を吹き飛ばし消して行く!
「ちっ!やっぱりかよ!」
 近付いて来た死人を切り伏せながら塵が見詰める先に、まるで無傷の畝威が居る。
「ガァァァァ!!!」
 吼えると同時、畝威が地面に拳を突き立てた!
「やばい!来やがるぞ!」
 連十郎が叫び、防御の構えを。それに習い、皆一様に守るべき構えを取る。
「……地牙槍!!」
 地面が爆ぜ、唐突に現れる巨大な大地の槍が一直線に一同に襲い掛かる!が、その前に立ちはだかったのは蒼瞑!
「甘いねぇ!」
 ドグァ!!
 大地の槍を受け止め、蒼瞑は無傷で立つ!
「すっ凄いです!蒼瞑様!」
 感嘆の声を漏らす雷歌は、集まりつつある死人に向かい破魔矢を打ち込む。
「じゃあ、今度は私の番だね?」
 にこやかに蒼瞑が地面に槍を突き刺す!
「はぁぁぁ!!」
 蒼瞑の周りの大地が低い鳴動を発し始める!
「大地鳴動陣!!」
 開放された力が大地に流れ込み、地面が隆起したかと思うと畝威の技と同じ様に大地の槍が畝威に向かい突き進む!驚愕に眼を見開きながら、畝威はその攻撃を交わすが、完全には交わせず幾つか傷を残す。
「私にだってこれくらいの芸当は出来るんだよ?」
 槍を地面から引き抜き、蒼瞑は畝威を見詰めにこやかに笑みを見せた。
「ほらほらぁ!ぼぉーっとしてる暇はねぇんじゃねぇのか!!!」
 驚愕に呆然としていた畝威に、連十郎が何時の間にか間合いを詰め切り掛かる!先程の様な大振りな一撃では無く、焔を纏わせた連撃で畝威を攻める!フィーリと塵もまた攻撃に加わり、畝威を逃がさぬ様囲いを作る!蒼瞑と叶と雷歌は、どんどん集まって来る死人達の牽制で手一杯となり畝威に攻撃を加える事は出来なくなっていたが、3人のお陰で畝威に向かう3人への死人からの攻撃は完全なまでに絶たれていた。
「はぁ!」
 フィーリの剣を交わす畝威の体が僅かに体勢を崩したのを塵は見逃さなかった。
「喰らいやがれ!」
 刃が淡いきらめきを残し畝威の体を捕らえたが、反射的に交わした畝威の体術の前に僅かに傷を残しただけと成る。
『浅かったか!?だが、これで!』
 塵が放ったのは武神力『封術剣』、相手の力を封じてしまう技である。畝威は連十郎の連撃を交わし、フィーリの斬撃をいなしながら、反撃に転じた!
「……旋空牙!!」
 不意に畝威の体がほんの少しだけ宙に浮いたかと思うと、激しい回転を始る!
「なっ何だ!?うぉ!?」
「くっ!?こっこれは!?」
「ちぃ!?やっぱ効いてねぇのか!?」
 回転した畝威から鋭く激しい攻撃が周囲に繰り出される。闇雲に打ち込まれるかの様な攻撃だが、的確に連十郎、フィーリ、塵を打ち据える!回転が速くなればなるほど攻撃の重さが増して行き、徐々に間合いが広がって行くが、畝威の攻撃が届かなくなる事が無い!
「また、あの腕が伸びる奴かよ!!」
「こんな技の使い方があるとは……!」
「くっそ!近づけねぇ!」
 歯噛みをする3人だが、今は何とか交わし受けるのが精一杯であり近付く事が出来ない。その時――
 ヒュォ!!ドスゥ!!!
 空を裂き、一本の矢が畝威の体を打ち抜いた!同時に、畝威の体が投げ出され地面に倒れ伏す。矢は畝威の腹部に突き刺さり、畝威は血を吐き出す。
「今です!!」
 雷歌の声が、響く!
「さんきゅな!雷歌ぁ!」
「助かった!」
「あんがとよ!」
 それぞれの感謝の言葉に、雷歌は笑みで返すと再び死人に向かった。
 よろめき立ち上がった畝威は矢を引き抜き投げ捨てると構えを取るが、四肢が震え苦悶の表情を浮かべる。フィーリはそんな畝威を冷たく見据えると口を開いた。
「お前を逃がしたのは、俺にも責任はある……今度こそ死んでもらう」
 静かに、剣を正眼に構える。
「……グァァァァ!!」
 吼え駆ける畝威を冷たく見据えフィーリもまた駆ける!
 ザン!!
 交錯の瞬間、フィーリの剣が畝威の右腕を肩口から切り落とした!
「お前の命で、これだけの命贖える訳ねぇ。だが、お前が生きてちゃもっと多くの命が失われちまう。だから、死ね!!」
 苦悶に右肩を押さえる畝威に向かい駆けながら言い放った塵は、駆け抜け様刀を一閃……左肩から腕を切り飛ばした。
「グガァァォォァァァ!!?ガッ!?」
 悶えもがく畝威の腹に一本の刀が突き刺さっている。柄は鎖で繋がれ、その鎖は連十郎の手元に……
「味合わせてやんよ。地獄の焔の味をなぁ!!」
 言うと同時、一気に鎖を引っ張れば畝威の体が宙に浮く!突き刺さったままの『饕餮』の柄に手を掛け、一気に引き抜く!
「グァァッァァ!?」
「死ねぇ!!!!」
 『饕餮』に焔が点る!今までの焔とは違う、赤黒い焔が!連十郎の体をも包み込む、激しき業焔を纏った『饕餮』を連十郎は横薙ぎに一閃させる!
 ザッシュ!!!ゴゥゥゥゥ!!!
 空中で、畝威の体と首が別れを告げ……激しい焔に頭が食い尽くされるまで僅かな時間しか掛からなかった。血の一滴も出さず、畝威の体が地面に落ちた……
「あばよ……」
 焔に食われた片腕で『饕餮』を握り、連十郎は冷たくその体を見下ろした……


5.永久の安らぎを……

「おい、連。そっちはどれくらいだ?」
「ん〜まだまだ足んねぇなぁ。塵の兄貴の方は?」
「こっちも同じだ。早い所つくらねぇとな」
 塵と連十郎は村から少し離れた草原に穴を掘っている。非業の死を遂げ、その死さえも利用された村人達に出来る、せめてもの手向けだと思い埋葬をする為の穴を……
「もうこんな事が起きなきゃ良いんだがな」
「ああ……中つ国で嫌って程見て来てんだ。もうこれ以上は見たくねぇ」
 塵のぼやきに、連十郎もまた同意する。
「だが、奴等はまだ来るんだろうな」
「どうだか?でも、来たってこんな真似はさせやしねぇよ。その前にぶっ潰す!」
 怒りと侮蔑を込めた連十郎の言葉に、塵は静かに頷くと黙々と穴を掘る。人数分には、まだ程遠かった……

「ごめんね……痛かっただろう?」
 蒼瞑は小さな子供の死体の上に手を乗せ静かに眼を閉じた。その子供の額には穴が穿たれていた……蒼瞑が貫いた穴だ。
「蒼瞑さん、此方は大体車に乗せましたよ?……蒼瞑さん?」
 フィーリは蒼瞑の背中を見詰める。少しだけ震えている様な……そんな背中をただ黙って見詰める。
「もう二度と……こんな思いはしたくなかったのにね……」
「蒼瞑さん……奴等が又来ないとは限りません。その時、又同じ様な事を起こさなければ良いんじゃないでしょうか?この人達の命は返って来ないけど、その犠牲を無駄にしない為に……」
 遠く空を見詰めながら、フィーリは言う。その瞳には、何処か決意に似たものが在った。
「そう……だね」
 静かに、蒼瞑は子供の体を抱えると死体を積んである荷車へと向かう。そして、そっと荷車へと乗せた。
「行きましょう。今は、この人達に安らかな眠りを……」
 フィーリの言葉に蒼瞑は静かに頷いた……

 夕暮れ、風になびく花々を叶と雷歌が静かに摘んでいる。そんな中、雷歌が一つの花に眼を留めた。
「あれは……」
「・・・・どうかしたんですか?雷歌さん」
 一輪の花に向かった雷歌の後を叶がついて行く。真っ白な綺麗な花……
「叶様、此花を根ごと墓所に御持ちしましょう」
「えっ?」
「此花は、宿根草の花です。種は出来ませぬが、根から増えるのです。数年後には、墓所も此花に覆われましょう。安らかな場所として……永久に……」
 叶を見詰める雷歌は優しくそして、淡い笑みを見せる。
「・・・・そうですか・・・・では、そうしましょう・・・・数年後、この綺麗な花が一杯咲いている事を願って・・・・」 微笑んだ叶に、雷歌が静かに頷いた……

 草原に風が吹く。柔らかな風だった。
「・・・・皆様が・・・・安らかに眠れます様に・・・・」
 叶と雷歌が両手一杯の花を墓所目掛けて放つ。風に花弁が舞い、墓所を包み込んで行く。その光景を見詰めていた面々は、何時しか目を閉じ此処に眠る人々の安らかな眠りを願った。そんな墓所の中央には、一輪の真っ白い花が風にその花弁を揺らしていた……





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1348 / 螢惑の兇剣士・連十郎 / 男 / 25歳 / 狂剣士

1112 / フィーリ・メンフィス / 男 / 18歳 / 魔導剣士

1354 / 星祈師・叶 / 男 / 17歳 / 陰陽師

1528 / 刀伯・塵 / 男 / 30歳 / 剣匠

2254 / 白槍牙・蒼瞑 / 男 / 34歳 / 元鎧剣士(今遊び人)

2399 / 紅乃月・雷歌 / 女 / 276歳 / 紅乃月

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■         ライター通信          ■
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 どうも!凪 蒼真です!

 塵さん、連十郎さん、フィーリさん、叶さん、蒼瞑さんお久しぶりです♪

 雷歌さん、初めまして♪

 この度は命−在るべき物−、御参加頂き有難う御座います。
 戦士の誇りからの続編シナリオとして出した訳ですが、これにて終了と言う形に成ります。
 皆様思いもそれぞれあった様で、プレイングを見ながら色々考えさせて頂きました。
 此処最近の凪のテーマとして『命』と言う物を取り扱っております。この度の話もそう言った傾向の話になっておりますが、如何でしたでしょうか?宜しければ、御意見・御感想送って頂けると嬉しいです。励みになりますし、何より様々な考えに触れてみたいとも思いますので♪
 
 次作は何時ごろか分かりませんが、又何かテーマを決めて挑みたいと思いますので、どうか宜しくお願い致します。

 それでは、今回はこの辺で、またお会いしましょう♪