<PCクエストノベル(1人)>


プリンセス・メーカー〜封印の塔〜

------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1528 / 刀伯・塵(とうはく・じん) / 剣匠】

【NPC】
【ケルノエイス・エーヴォ(愛称:ケルノ) / 封印の塔の住人】

【他】
【東沙(あずさ) / 生後数ヶ月の赤子(純度100%)】
------------------------------------------------------------

●序章(と言う名のあらすじ)
 聖獣界ソーン。
 摩訶不思議なアドベンチャーが常日頃から繰り返され、数多の冒険談が生み出されていく世界。
 ある者は勇者となるため悪の魔道士を退治しに。またある者は強さを求めるため魔物の巣窟へと赴き。ある者はお金持ちになるために隠された財宝を目指す。
 そして、ある者は‥‥‥この世の理不尽と断固として戦い、真っ当なる平穏を取り戻そうと、日夜藻掻き苦しんでいた。――いや、まあ単なる悪足掻き‥‥もとい、無駄な足掻き‥‥というか、持って生まれた星を認められずにいる、だけだったりするのだが。

塵:「やかましい!」

 おっと、怒鳴られたしまった。
 塵ちゃーん、そんな大声出したりしたら。

東沙:「ふぇ‥‥ふぎゃぁ、ふぎゃぁ!!」
塵:「お、おおっと。大声出して悪かったな。ほらほら、よしよし」

 その腕の中。
 突然泣き出した赤ん坊を慌ててあやす塵。その姿は、すっかり子育てが身に付いたパパさんそのもの。どこからどう見ても男やもめだった。
 おおっと、睨んでる睨んでる。
 が、そんなキツイ表情も、赤子の方に向いた途端、破顔したような笑みを浮かべるから‥‥やっぱり親バカだ。
 ――グハァッ!

塵:「‥‥黙れ」

 さっきより凄味を聞かせた低音が屋敷に響く。
 塵は手にしたお盆を、何故か天井当たりに投げつけた。

塵:「ったく。おお、そろそろ泣きやんでくれたか?」
東沙:「――キャッキャ!」

 あやし続け、ようやく泣きやんだ赤ん坊は、塵の方に愛らしい顔を向けながら笑う。その様子に塵もようやくホッと胸を撫で下ろした。
 が、本当の意味で彼の不安は消えていない。
 何故なら。
 赤子の頭部に見える黒い角。最初よりは明らかにハッキリと、鋭角の鋭さを露わにしたそれ。
 そして、こちらを見返す瞳の色は赤。髪の色と同じで、ともすれば血と見間違うかのような紅。
 すくすくと普通の赤ん坊のように成長しているようだが、その出自は歴とした人外の存在。そもそもが『殲鬼のかけら』と呼ばれるモノから誕生した生命。
 封印の塔で受け取り、そのまま庵へと連れ帰ったところ、なんとはなしに庵の住人達に受け入れられてホッと一息した塵。どうやら女の子だったようで、娘が『東沙』と名付けてくれ、可愛がられるままにすくすくと育っていったのだが。

塵:「やぁっぱ、ちと不安‥‥だよな」

 どこか遠い目を空へ向ける。
 腕の中の温もり。
 確かに無事に成長しているものの、本当にこれで大丈夫なのか。
 あるいは、とんでもない怪奇現象の引き金になるんじゃないか。
 原点に返って、本当にこの育て方でいいんだろうか。
 えとせとら‥‥えとせとら‥‥。

塵:「あーもう! なんだって俺は‥‥」

 自分でも心配性なんだと身をもって知るこの不安。
 最悪、成長したこの子が以前の世界にいた『連中』のようになってしまえば、きっと死ぬほど後悔するだろう。なにしろ折角育てた我が子を殺すようなもんだ。
 ‥‥いや、塵ちゃん、そこまでシリアスにならなくても。

塵:「黙れと言ってるだろうが!」

 ブン、と振り回したのは腰に下げた愛用の刀『霊虎伯』。一閃して空を切る見事なまでの太刀筋。
 が、その衝撃を敏感に感じたのか、赤子はふえっと泣きそうな顔をする。

塵:「おお、悪い。驚かせたか。なあに、大丈夫だ。お前が心配することなんざ、何もないからな」

 そう言ってあやす仕種は、どこからどう見ても子煩悩なパパそのもの。
 そうして宥め終わった後。
 再び大きな溜息をついて肩を落とす塵。そのまま、どれぐらい考え込んでいただろうか。ふと立ち上がった彼は、ある決意を心に抱いた。

塵:「――うだうだ悩んでても仕方ねえ。こうなったら、一回キチンと確かめてみるか」

 東沙を背中にしっかりと背負い、そうして塵は再びケルノの塔へと出かけたのだ。
 ‥‥ところで彼は、さっきまで誰と話していたのだろう。

ペンギン:「クエッ!」

 塵の後ろ姿を見送った後、散らかった居間をせっせと片付けるペンギンの姿がそこにはあった‥‥。


●第一章〜神か、悪魔か?〜
 聳える古びた塔。
 なのに以前来た時より、いっそう荘厳に見えるのは何故か。あるいは、封印することで何らかの作用がこの塔に及んでいるのかもしれない。

塵:「ま、下手に首を突っ込む必要はないよな」

 君子危うきに近寄らず。
 長生きに、そして平穏に暮らした塵にとっては、いつも心に言い聞かせている言葉だ。
 きっと当の本人だけだろう。その言葉が全くの無駄だと理解していないのは。いや、あるいは理解したくないのかも。

塵:「じゃかましい! ったく‥‥とにかく入るか」

 重々しい扉を開けて塔の中へ。
 見慣れた階段が塔の壁面に沿って螺旋のように天へと向かう。その一歩一歩を塵は重い足取りのまま歩いた。
 背中におぶるのは東沙という名の赤ん坊。
 見たこともない風景に興味があるのか、キョロキョロと首を回してはキャッキャと喜んでいる。

塵:「おーよしよし。もうすぐだからな」

 階段を上るたび、何度引き返そうと考えた事か。
 ケルノに会い、そしてこの赤子を見せた時。何を言われるのか、その思考回路は常に悪い方へ悪い方へと傾いていく。少しは希望的楽観を持てばいいのだが、そこが塵の塵たる所以か。

塵:(「――本当に真っ直ぐ育っているんだろうな」)

 いくら元が『殲鬼の欠片』とはいえ、数ヶ月も一緒に過ごし、そしてすくすくと成長する様を見せられては、もはや他人とは言い難い。
 元来、義理人情に厚い塵だからこそ、その成長は感慨そのもの。
 そんな気持ちがあるからこそ、おいそれと切り捨てる事は――もう無理なのだ。

 そうして。
 塔の半ばまで差し掛かった、その時。

?:「危ない、逃げてください!」
塵:「何?!」

 突然響いた声。
 ハッと顔を上げれば、迫ってくる黒い塊。咄嗟に身構える塵。素早く伸びた手が腰の武器を取ろうとして‥‥。

塵:「――しまった、そういえば武器は」

 宙を掴む手。そこにいつもある筈の愛用の刀がなかった。よくよく思い返してみれば、東沙を背負う事を考えて帯刀しなかった事を思い出す。
 その合間にも塊は間合いを詰めていく。
 持ち前の反射神経で咄嗟に身をかわす塵。
 ギリギリの所を勢いよく通り過ぎる。すれ違う瞬間、垣間見えたその形相は文字通り悪鬼のモノで。

塵:「なにっ?」

 脳裏を過ぎる暗い過去。
 まさか、と思いつつ振り返れば、再びヤツが迫ってくる。

塵:(「――どうする?」)

 剣がないとはいえ、鍛え上げたサムライとしての能力は遅れをとるとは思えない。虚を突かれたとはいえ、普段ならば楽勝の相手に見える。
 が。
 今は背中に東沙を抱えている。

 ――逡巡は一瞬だった。

塵:「くっ、南無三!」

 とっさに赤子を腕の中に抱え込み、そのままその子を護るように塵は背を丸めた。自分が受ける衝撃を、この小さな存在に与える訳にはいかない。
 殆ど無意識のその反応。

東沙:「だあ?」
塵:「なあに心配するな、お前は俺が必ず護ってやる」

 ギュッと抱き締める塵。
 彼はそのまま目を瞑る。
 そして、赤子は――導かれるままに彼の背の向こうにある存在を、見た。
 迫る影。異形の顔。ニタリと笑い、凶刃が振り下ろされる様が網膜に焼き付く。

 瞬間。
 光が、走った――――。


●第二章〜天の秤りごと〜
 塔の住人ケルノの部屋にて。
 しばし茫然となった塵を相手に、ケルノは気にせずにこやかに話しかける。

ケルノ:「いやあ、助かりましたよ。さすがは塵さんですね」
塵:「‥‥‥‥‥」
ケルノ:「ちょっと前なんですけどね、少し大気がざわざわし始めたと思ったら、本棚の書物が一冊、いきなり飛び出してきましてね」
塵:「‥‥‥‥‥」
ケルノ:「そしたらいきなりあんな魔物が出てくるじゃないですか。さすがの私も、何も準備していませんでしたから慌ててしまいましたよ」

 そんな会話が続く中。
 塵の手にはその件の書物がある。内容を目で追っていけば、信じられない事に彼の国――かつて塵がいた世界――の事が書かれているではないか。
 しかもそこから飛び出した魔物。
 あれは明らかに自分のよく知る存在――暴虐の鬼。忘れもしないモノ。
 それが、ちょうど自分達がこの塔へ訪れた時に現れた――?

ケルノ:「それはそうと、今日は一体どのような御用で?」

 問われ、ギクリとする塵。
 いざ此処に来て、ますます彼の決心は鈍る。
 だが、やはりハッキリさせたい気持ちの方が今は強い。特に、先程の現象――ケルノは塵が倒したと思っているようだが、アレを消滅させたのは間違いなく今背中に負う赤ん坊だ。
 視界を焼く程の強烈な光。
 あれはいったい‥‥。

塵:「あ、ああ‥‥実は、だな‥‥」
ケルノ:「はい?」
塵:「‥‥‥‥この子の事なんだが」

 おそるおそる赤ん坊を見せる。
 キョトンとした顔を塵に向け、そしてケルノの方を向いてニパッと笑う。

ケルノ:「ああ、可愛いですね。塵さんのお子さんですか?」

 ――ドガッ!

 拳が叩き込まれた音が盛大に響く。
 床に倒れたケルノが頭をさすりながら苦笑した。

塵:「誰がだっ! 俺はまだ独身だ!!」
ケルノ:「やだなあ、冗談に決まってるじゃないですか。これ、例の赤ん坊ですよね?」

塵:「ああ、そうだ。東沙って名前を付けたんだが」
ケルノ:「大切に育てられてるんですね。それで一体用というのは‥‥」

 いよいよの確信に、塵はゴクリと喉を鳴らす。

塵:「実はだな‥‥この子の育て方なんだが‥‥このままで間違っちゃいねえよな?」
ケルノ:「え?」
塵:「いくら見た目は真っ当に育ってようが‥‥この子は元々『かけら』の塊だ。本当に‥‥本当にこのまま育てちまってもいいのか、と思ってよ。ガキなら何人か持った事あるし面倒見るのも苦じゃねえんだが、このぐれえの赤子を一から育てるのは、何しろ初めてだからな」

 塵の科白に、一部独身男性ならば不穏当な発言があったのだが、言った本人気付いちゃいない。
 ケルノのまたその辺りは完全スルーだ。

塵:「今更ながら、この子は可愛い。本当に普通の子供のようでな。でも――」

 思い返すさっきの力。
 本当にこのまま育ててもいいのだろうか? 日に日に大きくなる不安は、きっと愛情の裏返しでもあるのだろう。

塵:「だから、頼む。お前の力でこの子の成長を見てやってくれないか? 勿論報酬なら‥‥」

 我が家のあーんな怪生物や、こーんな摩訶不思議な現象をいくらでも話してやる。
 そう言いかけたのを、ケルノの優しげな笑みが食い止めた。そのまま腕を差し出して、塵の背中から赤ん坊をゆっくりと受け取る。

ケルノ:「――構いませんよ。それで塵さんが納得するのなら。私も少し気になっていましたからね」

 そう言って彼は、床に描かれた魔法陣の中央に東沙を静かに置くと、

ケルノ:「なにしろ封印物の浄化が私の仕事ですから」

 言葉と同時に床が光り出した。
 光はある一点から発し、魔法陣を一筆書きの要領でその描かれた部分を走っていく。そして光はやがて、円の中央に向かって――。

塵:「ちょっ、おい! ま、待ってくれ!」
ケルノ:「もう遅いです」

 魔法陣に向かって駆け寄ろうとした塵を、ケルノの言葉が断ち切る。彼が陣の中に入ろうとするのと、光が赤子に到達するのは、ほぼ同時だった。


●第三章〜将来(すえ)は女王か、花嫁か?〜
 眩いばかりの閃光。
 塵の視界を焼いたその向こうに、彼は懸命に手を伸ばす。掴むものは――そこにあった。塵の節くれ立った掌をギュッと握る小さき存在。
 が。

塵:(‥‥なんか、変だ。東沙ってこんなだっけ?)

 そう感じた、彼の直感は正しかった。

?:「パーパぁ‥‥」
塵:「あぁ?」

 思わず上がる素っ頓狂な声。
 ようやく瞳が光に慣れかけた頃。必死になって目を凝らした先にいたものは――。

東沙:「パパぁ、大好きぃ〜」
塵:「どわぁぁっ!?」

 小さな体で、勢いよく抱きつかれた。年端もゆかぬ――おそらく五、六歳だろう――幼女に。
 目を白黒させる塵だったが、彼はその彼女に見覚えがある。
 クリッと大きな瞳は、血のように赤くまるで宝石みたいで。肩まで伸びている髪もまた朱色。
 そして、思わず触った頭の一部に、瘤のようなものが存在していたのを塵は気付いてしまった。赤子の時よりは僅かに小さくなっただろうそれは、紛れもなく――角。

塵:「あ、東沙か?!」
東沙:「うん。東沙だよ、パパぁ」

 にっこりと少女――東沙は笑って、もう一度塵の胸に抱きついた。

塵:「ケルノ! いったいどうなって――」
ケルノ:「いやはや凄いな。塵さんの周辺は本当、どうなってるんだろう?」
塵:「はあぁ?」
ケルノ:「封印の確認をするだけだったのに、まさか成長するなんて‥‥きっと塵さんの愛情が実を結んだ形だよ。ほら、言ってみればどっかの世界にある電子遊戯の――」

 ペラペラと専門用語を喋り始めたケルノの言葉は左から右へと抜け、今はただ塵の頭は混乱状態だった。
 ついさっきまで赤ん坊だったものが、今はもう五歳の少女。どこか、養女のかつての姿にダブるそれは、見事なまでに既視感を生んだ。

塵:(お、俺がいったい何をした?!)

 いや、そこは嘆くところ?
 折角娘が育ったというのに。

ケルノ:「これからも数ヶ月に一回、検査に来るといいよ。塵さんの愛情のかけ方次第で、きっと何パターンものルートがあるんだろうし」
塵:「なんだ、そのルートってのは!?」
ケルノ:「色々と記念日を重ねる事で、いつか立派なエンディングを‥‥」
塵:「やめんか!!」

 パシーンとはえ叩き連打を頭にお見舞いする。
 そして、塵は盛大な溜息をついた。いったいどうしてこんな結果になったのか。いったい何が間違っていたのか。
 いや、そもそも始まりからして間違っている訳で。

塵:「俺がいったい何をしたぁ――っ!!」

 絶叫する塵にぺったり寄り添う東沙の姿に、またしても奇妙な噂が立つのを止められない哀れな彼であった。



【END】


●マスターより
 いつもお世話になっております、葉月です。
 この度、またしてもご発注いただき、ありがとうございました。相変わらずの遅筆、本当に申し訳ありませんでした。
 久し振りの塵さんの活躍(?)を書けるとあって、気が急いてしまったようです。プレイングを受け取った時にタイトルまで一瞬で閃いたというのに‥‥(汗)
 お気に召していただけたでしょうか?

 それではまた、ご縁がありましたら宜しくお願いします。