<PCクエストノベル(5人)>


フィルケリア酔夢譚 〜フィルケリアの村〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1649/アイラス・サーリアス/フィズィクル・アディプト      】
【1771/習志野茉莉     /侍                 】
【1800/シルヴァ      /傭兵                】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
【2309/結城 恭介     /特壱級退魔士            】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
洋剣使い
斧使いA
斧使いB
棍使い

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 フィルケリアの村は、既に『村』としては機能していない村だ。
 そう遠くない過去にアセシナート公国とこの国との小競り合いに巻き込まれ、再起不能なまでに壊された村。
 村人はその事でこの村に嫌気でもさしたか、村を捨て、今や季節に応じ住居ごと転々とする日々を送っていると言う。
 村人に捨てられた村。
 それは、どんな理由よりも明確に『村』では無い。

 だが、この村はまだ『村』として僅かながら機能している。

 それは、ひそやかに流れる噂により、かろうじて生き長らえていると言っていい。
 ――フィルケリア村には村人が残した『秘宝』の数々があると。それらは暗号によって、村人にしか分からない場所へ隠されているのだと。
 宝がどんなものであるか、知る者があるとしたらそれは村を捨てた村人たちだろう。
 だから。
 その宝を求めて、時折『村』へ訪れる者があるのだ――。

*****

 けほっ、と誰かが小さく咳き込んだ。その直後、しっ、という鋭い声がかかる。
 ――傍らでは、ざくざくと墓を掘り返す音が聞こえていた。
 この村に着いた『彼ら』は、まず掘り返す場所について、村をざっと眺めてから意見を交し合った。墓を掘り返そうと言う者、そちらではなく枯れた果樹園の下を掘り返そうと言う者の2つに分かれ、そして。
???:「あの2人で大丈夫か?」
 ざくざくと、断続的に続く墓堀りの音を聞きながら、ぼそりと小さな声が闇の中に響いて行く。
???:「陽動としちゃいい方なんじゃないか?流石に5人も揃ってりゃ、目の良い奴なら来ねえかもしれねえしな」
 土を掘る音に合わせながら、もう1人が最初の声に答え。
???:「…どっちにしても、早く出て来て貰いたいものだ。男3人では息が詰まる。…賛成したものの、こうなっては外にいる茉莉とアイラスが羨ましい」
???:「同感だ」
 ぼそぼそと。
 おそらくは定期的に来ているであろう、『賊』に気付かれないよう、小声で話し続ける3人。

『墓を目立つように掘ろう』

 そう提案したのは、今回の人員を集めてまわっていたパーティリーダーの習志野茉莉。その言葉にやや意外そうな顔を見せたのは、その直前まで墓と果樹園跡の地下を式神で探らせていた結城恭介で。
恭介:「どう言うことだ?俺は果樹園の下に何かあると言ったのだが」
 不思議そうに聞き返す恭介の隣で、逆に納得行ったように頷いたのは、最初に墓を掘る事を提案したシルヴァ――そして、フィルケリア・アプルの下を掘ろうと言ったオーマ・シュヴァルツと、「なるほど」と呟いたアイラス・サーリアス。
オーマ:「陽動っつう事だな?だが、それだけじゃ甘いと思うが」
 周囲をぐるっと見回したオーマがにやりと茉莉、そしてアイラスの2人に笑いかけ。
オーマ:「お前さんは奴らと顔見知りだからそのまま…それに、アイラスがいいな。つーわけで囮になってくれ」
 そして。
 今は、せっせと砂や土を撒き散らしながら、2人は遠目からでも分かるように墓を掘り返している筈だった。
恭介:「村に入る時から見張られていたら、この陽動も意味はないがな」
オーマ:「まあそう言うなって。…少なくともこの近くからの気配は無かったしよ」
 見張られていたら、最初から別の提案をしていただろうとオーマが囁き返し、傍らの恭介が小さく息を詰めて身じろぎするのを感じ。
シルヴァ:「――来たか」
恭介:「今、村の入り口だ。少し待てば――」
???:「何度もご苦労な事だ。今回は剣使いの2人連れか?俺たちも舐められたもんだな」
 ガイィン、と鈍い音がしたのは、おそらく剣ではなくシャベルで敵の最初の一撃を受けたからだろう。
オーマ:「全員来たか?」
恭介:「……ああ。話に聞く4人がいる。2人は少々下がっているが、この距離からなら詰められる」
 ざざざ、ざざ、地面を蹴る音と、その後に続く複数の足音。
シルヴァ:「打ち合わせ通り――行くぞ!」
 すぐ脇を走り抜けた足音がしたその瞬間、ばさりとオーマの具現化した土山の皮を剥いで、真っ先にシルヴァが飛び出す。
 ギイィィン!
???:「く――罠か!」
 『逃げた』2人へ振りかぶった剣を弾き返す…いや、剣を持つ男ごと吹き飛ばす勢いで大剣を振り回すシルヴァに、その一振りから逃れた男が舌打ちしつつざっと一旦身を引き、
恭介:「何処を見ている?」
 その言葉に身体を向き合わせず声のある方向から素早く身体を移動させ、恭介の刀から逃れたまでは良かったが、
恭介:「腕は悪く無いな」
 その動きすら見越していた恭介の足が回り込み、たん、と軽い踏み込みを見せて相手へ鋭い切込みを見せる。その太刀筋は、目の前に迫られた男には見えなかったらしい、が――
恭介:「!」
 がっ、と鈍い音が脇から現れた棍の一振りによって起こり、難なく手に持つ霊刀で受けたものの、その代わり一刀の元切り伏せる事は叶わなくなってしまった。
シルヴァ:「どうした!これで終わりか!?」
 少し進んだ先では、力任せに大剣を振り回すシルヴァの絶え間ない攻撃に、細身の剣で受け流すのがやっとの剣使いがいる。いや、完全に受け流し切れてはおらず、剣戟の響きが伝わる間にも少しずつ刀身が曲がって行くのが見え。
洋剣使い:「こ――この、化け物が――ッ!」
 完全に折れる前にと切込みを掛けたものの、ぶぅんと太刀風に煽られてたたらを踏む間に、あれだけ巨大な剣の動きとは思えない素早い動きが目の前にかかり――。
 べちぃぃん!
洋剣使い:「ぐはっっっっっ!!!」
 剣の腹で思い切り胴体を薙ぎ払われた男が、そのまま飛ばされて気を失い、先ほどダミーで掘っていた穴の中へと嵌り込んでしまった。
斧使いB:「ち、畜生…っ」
 後ろで手斧を投げる気配を伺っていた1人が、洋剣使いが倒されたのを見てシルヴァの頭へ向かい思い切り斧を投げつける。
オーマ:「甘い、甘いねえ。飛び道具っつうのは、そんな速度じゃ駄目だぜ?」
 その背後から、笑うような声がかかり…気付けば、信じられない事に宙を舞う斧が何か触手じみたものに絡め取られ、
シルヴァ:「おうら、もういっちょう!」
斧使いB:「うぶうっっっ!!!」
 呆然としている間に間合いを詰めていたシルヴァの剣の柄が、鎧を通して鳩尾へ直撃し、悶絶してその場にどさりと崩れ落ちた。
棍使い:「あ、あいつら――てめぇっ!?」
 恭介は、いつの間にか二刀流で2人の攻撃に応じていた。互いに斧と棍、どちらかと言うと剣技との相性はあまり良くないのだが…それなのに恭介の刀はそれらをものともせず、恭介自身も涼しい顔で相手の攻撃をかいくぐり、または綺麗に受け流して、少しずつではあるが相手の身体に傷を与えていた。
 ――尤も。
 これが、不殺を今回の目標と打ち合わせていたからであって、互いの武器を合わせる事数度に渡る間、とうに相手の急所は狙えていた。始めから殺す気であれば、数合打ち合わせる事すら必要なかっただろう。
斧使いA:「ぐ、な、何で当たらねえ!」
 ぶんぶんと斧を振り回す攻撃は、それなりに訓練を受けた者と分かる動き。なのに、恭介はすいすいとそれをかわし、からかうように相手の顔、腕、足に細かな傷を付けて行く。
アイラス:「相手次第で支援も考えたのですけど…あまり必要なさそうですね」
茉莉:「そうだな。だがこれでは埒があかない。君、確か幻術が使えたな?」
アイラス:「ええ。フェイント程度でしたら問題なく」
茉莉:「それなら――あの辺りに君を映してくれないか。少々あの2人は近づきすぎているようだからな、距離を取らせたい」
 す、っと腕を指し示すのは、棍使いのすぐ近くの空間。こくりと頷いたアイラスが、相手の混乱を狙うように自らをその場に映し出す。
棍使い:「!?」
 その男には、その場に突如現れたアイラスを何と思っただろう。すぐ背後に、飛び込むように現れたアイラスの剣を避けるためか、一歩だけ後ろに下がり――
恭介:「……貰った」
 ぽつり、と呟いた声は2人に聞こえただろうか。
 光が走ったように見えた次の瞬間、それぞれの武器を握り締めたまま、2人はものも言わず崩れ落ちた。

*****

シルヴァ:「おお。これは楽だ」
オーマ:「わはは、任せろ。これが俺様の実力だ」
 ざっくざっく。
 具現化させたのっぺらぼうな人型に土壁を掘らせながら、オーマが胸を張る。
アイラス:「本当に相変わらず便利ですねえ」
茉莉:「1人で数人分の作業が出来るとはな。ありがたいものだ」
 ここは、以前に茉莉が訪れた事のある地下通路。フィルケリアの墓地に敷き詰められた石畳から裏の森へと抜ける抜け道だったのだが、
アイラス:「本当にそれは抜け道だけなんでしょうか?…もしかしたら、宝へ続く道かもしれませんよ」
 茉莉の、この村での話を聞いてからずっと考えていたのだろうか。案内を乞い、地下通路へ降りたアイラスが灯りを土壁に向けて調べ始める。
アイラス:「…やっぱり。この辺、巧妙に隠されていますが、土の色と質が微妙に違います」
 掘ってみましょう、そう言ったアイラスの言葉は自信に満ちていた。
恭介:「それにしても、茉莉。この果樹園の下、村を捨てる前に掘ったものと思うように聞いたが、どうだろうな?」
 咽る程の土の匂いに耐えながら、恭介が茉莉へ話し掛ける。
茉莉:「ふむ?君には異論がありそうだが、何か受け入れ難い点でもあるのか。どうみてもこのフィルケリア・アプルの根は、こう剥き出しにされている以上使いものにならないと思うが」
 かっ、果樹園でいいじゃないか、と恭介が何故か早口で呟いたあと、ぶるんと頭を振って意識を切り替え、
恭介:「いや……それにしては随分深いと思ったまでだ。それに、四角い空間があるようだが、その位置はこの果樹園の中でも随分端に設えてあるぞ」
 その言葉を聞いた茉莉がなるほど、と呟く。
アイラス:「もしかして、村が消えるよりも『前』から、この地下があったかもしれないと?」
恭介:「この通路は分からない。木の根が剥き出しになっているのを見れば、果樹園が失われて後に作られたとも思えるが。まあ、単なる可能性だ。見れば分かる…もうじき到達するからな」
 更に斜めに掘り下げる穴を覗き込みながら、恭介が呟き。
オーマ:「…ん。何かにぶつかったらしい」
 その言葉に、各々がはっと顔を上げた。

*****

 土壁の通路。途中まではその天井にも、びっしりと張り巡らされた木の根が伝っていた。…いつの間にか、粘土質らしき丈夫な土のみに変わり、根らしきものの姿は見えなくなっていたが。
 掘り進めた先から新たな通路が現れて暫く後。
 急ごしらえに見える石の扉が、目の前にあった。おそらくは木で作った扉だと腐るのを警戒してと思うが…。
オーマ:「入るぞ」
 ぐ、っと力を込めて押し開けた瞬間、通路の土の匂いをかき消す程の強い芳香が通路いっぱいに広がった。

 その香りはまさに豊穣の香。
 大地と共に生きた、農耕の民にとってこれ以上の『宝』はあるだろうか。

 すごい――

 呟いたのは、誰の声か。

 眠り続けるいくつもの樽。この、咽返りそうな濃厚な香りは間違いない。
茉莉:「フィルケリア・アプル――どうして、こんな」

 フィルケリア・アプル。
 この村特産の果実酒は、心ならずも戦場と化したこの村から、永遠に消え去った筈だ――

オーマ:「いや。これは、違う」
茉莉:「?――違う、とは?」
 樽に近づき、そこに記された文字を見詰めるオーマへ、不思議そうな声で問い掛ける茉莉。
アイラス:「僕も知りたいです。どう言うことですか、オーマさん」
 アイラスが言わなければ同じ事を言っていただろうと思われる表情のシルヴァと恭介。おいおい、と肩を竦めたオーマが、
オーマ:「何、簡単な事だ。樽んとこに名前が書いてあった」
 しれっと。
 言った後でしん、となる空気を、わははは、とびんびん周囲に響く笑い声でオーマがぶち壊し、
オーマ:「嘘じゃねえよ、ほら。…フィルケリア・エリキシル、って書いてある」
シルヴァ:「どれどれ――本当に書いてあるな」
 その脇で、恭介がだからこうカタカナばかりの言葉ってのは…とぶつぶつ呟くのを聞き流しつつ、茉莉が興味ありげに樽へ近づいて、くん、と匂いを嗅いだ。
茉莉:「…確かに、私の記憶とは違うようだが…それでも、フィルケリア・アプルだと思うが」
 そこへ、
アイラス:「フィルケリア・アプルが材料なんじゃないですか?」
 室内を調べていたらしい、のんびりとした声がかかった。え?と思わずそちらへ目をやった茉莉に、
アイラス:「簡単な事ですよ。蒸留したんです。ほら、『僕ら』の世界でもあったでしょう?薬酒、霊酒と呼ばれるものが」
茉莉:「ああ――そう言うことか。それなら納得が行く。いや、この世界の事だ、本物のエリクサーがあってもおかしくないと思っていたのでな」
恭介:「あー……と言う事は、焼酎等と同じと見ていいのか?」
 そうそう、とアイラスが頷き、
シルヴァ:「なんだ、単に強い酒なら俺の村にもあったぞ。作り方は秘密だったがな」
 フィルケリア村に伝わる、秘酒――この土地の地下深く、熟成に最適な空間を作ってまで護り続けているもの。
茉莉:「む…だが、これは…」
 その『宝』を目の前にして、茉莉が残念そうな声を漏らす。
 樽に刻まれた年号は、遥か未来のもの。最短でも20年は先にならないと、熟成しないらしい。

 20年。
 再び村人がこの地に根を降ろし、この室を解放する日が来るまでの、希望とも言える猶予期間。
 それまでには、必ず戻ってくると。再び、この地を耕すために。手に握るのは剣ではなく、鍬だと言うように。
恭介:「――おい」
 その時、何かに気づいた恭介が、室の隅にあった木箱から、小さな袋を取り出した。中は水が入らないようにとの気遣いか、なめした皮できちんと包まれたものが入っており。
 ある期待を込めて、その中を覗き見る。
茉莉:「――ふ」
 ごく、かすかだったが、茉莉は『それ』を見て微笑を浮かべ、他の者もうんうんと頷き、あるいはにやりと笑い――そして黙ったまま再びきちんと元に戻した。それは小さかったが、溢れんばかりの輝きを持つもので。
 おそらくは何らかの『祝福』とでも言えばいいのだろうか、そういった力を浴びた、特徴ある形の『種』。それは、きっと甘い香りを漂わせながら、白い花を咲かせるだろう。
 いつか遠い未来に。
オーマ:「はあん。やっぱり、あの通路に繋いだのは割合最近だな。こっちにも元々道があったらしい」
 きちんと作られた扉だろうか、それは、押しても引いても開く事は無かった。向こうを探った恭介が言うには、どうやらどこかへ繋がっていた通路があったらしいが、ここは土で完全に埋められてしまっていると。…村を捨てる前に、便利な通路を潰してしまった可能性は、高い。
シルヴァ:「――うん?宝を持って行かないのか?」
 くるりと踵を返した茉莉に、シルヴァが、にやりと笑いつつ声をかけ、振り向いた茉莉はにこりと笑みを返し、
茉莉:「未完成の酒も種も私には不要だからな。――20年後に、この村で花咲く頃に戴きに来る。その方が極上の甘露も楽しめるし、待つ楽しみも増えるからな」
 さらりとそう言葉を返すと、
茉莉:「あ奴らが意識を戻す前に戻ろう。来た時と同じようにカムフラージュして、な」
 かつ、と足音を響かせながら、手ぶらだがどこか満足気な様子で茉莉が外へ繋がる道へと向かい。
オーマ:「おうシルヴァも手伝え。完璧に見つからねえようにしてやるからよ。アイラスと恭介はあっち頼むな」
アイラス:「任せて下さい」
恭介:「そっちもいい加減な埋め方はするなよ」
 言って、二手に別れる。茉莉は、やはり気になるのか拘束した者たちへと向かい、2人がカムフラージュしている間は何処を動かしたりしたのかさえ気付かれないように、戻ってくるまでは気絶から目覚めないよう、それらの前で仁王立ちとなった。

*****

 ――自分たちが身動きできない程しっかりと縛られている事に気付いた彼らが目覚めたのは、全てが終わった後の事。悔しげに自分たちを見下ろしている茉莉他4人を各々睨み付けながら、へっ、と笑い。
洋剣の男:「あの時の、女如きにこんな目に合うとはな。尤も、それはお前の実力じゃない。数で負けた、それだけだ」
茉莉:「そうだな」
 あっさりと茉莉が認め、その後で鋭い目を向け、
茉莉:「だが、仲間を連れて再び戻って来ると考えずにいた君たちの落ち度だろう。軍崩れとは言え、それなりに統率が取れていたようだが、残念だったな」
 それとも――その事を無視してまでも、噂されるこの村の『宝』は、それ程魅力的なものだったのか。
洋剣の男:「………」
 男が押し黙り、それからぐるりと村を眺め回し、
洋剣の男:「ちっ。ここの宝でも持って行きゃ、軍に戻る手土産になったってのによ」
シルヴァ:「ほう。あんたらは宝で帰参を願うつもりだったのか」
 じろじろと無遠慮な視線で眺め回すシルヴァに、
棍使い:「村の連中が言った言葉が本当ならな」
 ぼそりと、今まで押し黙っていた男が呟く。
恭介:「村の、連中?……会った事があるのか?」
 恭介の言葉の、どこがおかしかったのだろう。
 けっけっ、と奇妙な喉を震わせる声で笑いながら、手斧を武器としていた男が笑い声を漏らし。
斧使い:「会ったともさ。そこのでけぇ穴の中にいるんじゃねえか?」
 ちらっと皮肉な笑みを浮かべた。
斧使い:「宝があるって事は聞いて知ってたからな。単なる小競り合いで、どうしてこの村がずたずたにされたのか、不思議に思った事はないのか?アセシナートは真っ直ぐこの村を目指してた。只それだけだ」
恭介:「最初から、狙われていた?ここが?」
 『宝』があると始めから知っていたのでもなければ、こんな小さな村を目標とする理由が分からない。それも、小競り合いに見せかけてまで。
棍使い:「だが、見つからなかった。ある筈の宝がな。おまけに、どこから漏れたのか『宝』って言葉に踊らされやがって、冒険者なんて者がしょっちゅう来やがる。こっちにして見れば邪魔で仕方ねえ」
 男たちの口ぶりでは、どうやらこの村には、茉莉たちが見つけた『宝』とは別のものが存在するらしい。
 そしてまた、
オーマ:「なんだ、お前さんたち軍崩れじゃなく、正規軍か」
 あっさりと言った言葉に、茉莉たちが目を剥いた。
洋剣の男:「――は。どうだかな…奴らにとっちゃ、俺たちはもともと単なる駒だからな。化け物に信を置くような国だ、首尾よく宝を見つけた所で約束の地位が手に入るかどうか」
 好きにしろ、との言葉を最後に黙り込んだ4人を、5人で逃げ出さないよう引き立てて行く。
 彼らは兵に拘束している縄を手渡されても、彼らの思う『宝』がなんなのか言わないままだった。

*****

茉莉:「ご苦労だった。協力、感謝する」
 些少だが、礼をしたいと酒場に集まった皆へ、穏やかな顔で茉莉が告げ、
恭介:「礼と言っても……今回は何も手に入っていないのだから、気にする事は無いが」
 ちょっと困った顔をして、金品での礼はいらない、と暗に告げる恭介。――いや、とゆるり首を振った茉莉が、
茉莉:「あれだけの作業、私1人では到底無理だったであろうからな。宝の事だけでは無く、死者への手向けもな」
 ――フィルケリアの村には、もう、剥き出しのまま放置されている遺体は何処にも無い。
 全てが土の下。…村で成せなかったもう1つの懸念が、その事だったからだ。
 なるべく畑だったらしき場所は避けて、村を見渡せる位置に穴を掘り、丁寧に埋葬していく。それはきっと、茉莉がこれまでと同じように行っていたら出来なかった事だっただろう。
オーマ:「気にする事はねえさ。俺様も同じ事してただろうからよ」
 つまみのナッツをぽいと口に運んで、にやりと笑うオーマ。その隣で黙ってうんうんと頷くシルヴァの姿に、茉莉がふ、と小さな微笑を浮かべて。
茉莉:「その言葉もありがたい。…が、一度言い出した言葉を曲げるのも性に合わぬのでな、是非とも受けて戴く」
 その言葉と共に運ばれたもの――それは、白い陶器の器に入った、透明な液体だった。
茉莉:「今や稀少となってしまったフィルケリア・アプルだ。ああ、飲めないのならば無理をする必要は無い」
 そう言いつつ、手ずから各自の小さな器にその透明な液体を注いで行く。

茉莉:「では」
 茉莉の声で皆がそれぞれの杯を手に取り、
アイラス:「え?僕ですか――ええ、そうですね…未来の報酬に」
 何となく全員から目が合ってしまったアイラスが、テーブルを囲う人々の顔をぐるりと見回し、

全員:「かんぱーい」

 穏やかな声が、唱和した。


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ライター通信
お待たせしました。
フィルケリア村を拠点とする作品の3部目に選んでいただき、ありがとうございます。
今回、前回までの2作を書かれた福娘紅子ライターからの引継ぎを受けて書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
以前書かれた内容を踏まえつつ新たな作品にして行くのは思ったとおり難しくもありましたが、やりがいもあり楽しみながら書かせていただきました。
今回の宝は書いた通りですが、秘宝の数々が眠っているらしいこの村のことですから、他にも宝はあると思われます。
それでは、発注ありがとうございました。またの機会をお待ちしています。

間垣久実