<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
シフールさんからお手紙着いた?
●オープニング【0】
シフール郵便という物がある。シフール飛脚なんて呼ばれ方もするだろうか。
シフールとは背中に蝶やとんぼに似た4枚の羽根を持つ、平均身長50センチ程度のデミヒューマンだ。羽根妖精などと言われることもあり、当然ながら空も飛べる。
シフール郵便とは、そんなシフールに手紙を託して届けてもらうという伝達方法の1つだ。伝書鳩との大きな違いは、シフールはモンスターから逃げる術を心得ているということだ。それゆえ、庶民の間ではこのシフール郵便はよく使われている。
ただ1つ欠点を挙げるとすれば、定時制はないということだろうか。何せシフールといえば、好奇心の塊のような種族。何か面白い物を見付け、仕事そっちのけでそちらへ行ってしまうことも結構ある。なので本来なら1日で届くような距離でも、3日かかったりすることもしばしば……。
さて――何故こんな説明を始めたかというと、白山羊亭の看板娘・ルディアが何気なくつぶやいた一言が今回の発端であった。
「……返事が届かないなあ。ハルフ村までそんなにかからないはずなのに」
ちなみにハルフ村までは馬車でゆっくり行き1時間弱、徒歩でも2時間強の距離だ。
「お、誰かいい人へのラブレターかい?」
客の1人がニヤニヤしながら言った。が、ルディアは笑ってそれを否定した。
「違いますよー。ハルフ村の温泉水がいいって聞いたんで、うちでも仕入れようかと思って問い合わせしたんです」
「いつ?」
「もう1週間近く前になるんですけど」
1週間? それは……いくらシフール郵便でもちょっとおかしくないですか?
「また連絡した方がいいのかなあ……」
思案するルディア。その時、誰かがこう言った。
「今仕事なくて暇だし、ちょっと調べてこようか?」
「え、いいんですか?」
「その代わり、解決したら1杯おごってよ」
「はい!」
交渉成立。さあ、どうやって調べてみようかな?
●どうして戻ってこないのだろう【1】
「ったく、しゃーねーシフールだな」
白山羊亭を後にし、街中を歩きながら呆れ気味にそう言ったのは、4本腕である多腕族のがっしりとした戦士の男、シグルマであった。
「よくは知らねーが、ああいう商売も今は競争が激しいんだろ?」
と、シグルマは隣を歩いていた青い髪の眼鏡をかけた青年に話を振った。
「らしいですね。何でも最近は需要が増えてるようで、他の街でも新規参入が相次いでいると耳にしていますよ」
眼鏡の青年、フィズィクル・アディプトのアイラス・サーリアスはそうシグルマに答えた。
シフール郵便の需要が高まっている背景には、物資の流通量や人の流れの増加があった。物や人が動けば、それに伴い情報も動くものである。あれこれと連絡を取る機会が多くなったという訳だ。
余談だが、シフール郵便は基本的に民営である。もっともスポンサーにつくのが、有力商人だったり、各種ギルドだったりすることが多いのだが。まあ各種ギルドがスポンサーについた所は多少公的側面も出てくるが、税金が注ぎ込まれることはあまりない。
「だけどやっぱりおかしいよね〜。1週間もかかってるなんて〜」
シグルマとアイラスの頭上から、不思議そうな声が聞こえてきた。ふよふよと2人の頭上を飛んでいた半透明なアゲハ蝶のような羽根を持ったシフール、ディアナの声だった。
「ハルフ村までの距離だったら、ディア1時間半くらいで行けると思うよ〜?」
頭の中にハルフ村までの道のりを思い浮かべ、そうディアナが言った。途中休憩を何度か挟むことにはなるが、シフールが飛ぶ速度ならおおよそそのくらいの時間となるはずである。
「たぶん、途中で寄り道してんじゃねーか?」
顎を撫で、同時にぼりぼりと頭を掻きながらシグルマが言う。その可能性はなきにしもあらず。というか、かなり高いかもしれない。繰り返しになるが、シフールは好奇心の塊のような種族であるのだから。
「前のシフール便の人、近道しようとして蜘蛛の巣にかかってるのかも〜。もしそうなら助けてあげないとね」
これはディアナの言葉。非常にシフールらしい意見である。ディアナはさらに蜘蛛の巣について2人に訴えた。
「蜘蛛の巣ってホントにイヤだよね。ベトベトするし、糸が絡まって飛び難くなっちゃうもんね」
ディアナのとても実感のこもった言葉に、アイラスがついくすっと笑みを浮かべる。そういえば少し前、そんなこともありました、ええ。
「近道なあ……」
思案顔となるシグルマ。そしてふと、思い出したようにつぶやいた。
「……ハルフ村までの間に確か……」
シグルマがニヤリと笑う。何かに気付いた様子である。
「取りあえずはハルフ村に向かうべきでしょうね。そういえば手紙を……」
アイラスがディアナの方を見た。
「うんっ、ディアが預かってきたよ〜」
ルディアから預かってきた羊皮紙の手紙を見せるディアナ。アイラスがルディアにもう1度ハルフ村へ連絡をしてほしいと言った所、ルディアがまたこうして手紙を記してくれたのである。捜索に時間がかかることを懸念したのが、再び連絡を頼んだ理由の1つだ。
「ハルフ村の人にルディアのお手紙渡せばいいんだよね〜?」
ディアナが2人に尋ねる。どうせハルフ村へ向かうのだ、捜索と並行して手紙も渡してくれば一石二鳥である訳で。
「そういうこったな。じゃ、そっちは頼んだぜ」
シグルマはそのように答えると、1人どこかへ向かおうとした。
「あれ、どちらへ?」
「シフールの行きそうな所に心当たりがあるんでな。心配すんな、シフールは無事に保護してやるから」
アイラスの問いかけに、シグルマはそう言い残して馬車乗り場の方角へと歩き出した。
「……何だか少し嬉しそうだったね〜?」
首を傾げながらつぶやくディアナ。ええ、確かに。去り際のシグルマの口元には、笑みが浮かんでいたのである。
「それでは僕も、準備をしてからハルフ村に向かいますか」
アイラスは徒歩でハルフ村へ向かうつもりだった。道すがら、すれ違う者たちに話を聞きつつ行こうと考えていたのだ。
「ディアはシフール郵便の人に連絡してから追いかけるね〜」
ディアナはルディアが頼んでいたシフール郵便の店へ寄り、いくつか話をしてからハルフ村へ向かうつもりだった。普段ハルフ村までどのような経路で向かっているのか尋ねるのと、改めての手紙をディアナが運ぶことを伝える必要があったためである。
「じゃあまた後でね〜☆」
シフール郵便の店へと向かって飛んでゆくディアナ。その姿を見送りながら、アイラスが苦笑しながらぼそりつぶやく。
「ミイラ取りがミイラになっては仕方ありませんからね」
それは自らへ向けた言葉であった。アイラス自身、面白いことが大好きゆえに、そちらへ引きずられてしまうかもしれないと自覚していたからである。
けれどもその言葉は、他の2人にも当てはまる言葉だったかもしれない……。
●知られていませんが……【2】
他の2人と別れたシグルマは、間もなく出るというハルフ村行きの馬車に乗り込み、聖都エルザードを出発した。
このままゆっくり走って1時間ほどすればハルフ村へ到着する。ところがシグルマは、30分少々経った所で馬車の御者にこう告げたのである。
「おい、ここで降りるから止めてくれ」
「はっ? ハルフ村へ行くんじゃないんですか?」
「あいにくだが、俺が用あるのはその手前の村なんでな」
「はあ……代金はいただいてますから、わたしゃ構いませんがね」
言われた通りに馬車を止め、シグルマ1人を降ろす御者。
「本当にいいんですか、旦那?」
「いいって言ってんだろ」
シグルマがぎろりと御者を睨んだ。
「ま、旦那みたいな方なら、野盗やモンスターが先に逃げ出すかもしれませんがね。じゃ、お気を付けて」
御者はそう言い残すと、再び馬車を走らせた。残されたのはもちろんシグルマ1人である。
「さて、と。確か向こうの方角だったよな……」
方角を確認し、歩き出すシグルマ。それから10分ほど経っただろうか、目の前に小さな村が見えてきた。
(お、ここだ、ここだ)
歩みを速め、村へと急ぐシグルマ。村へ近付くと、賑やかかつ楽し気な声が聞こえてきた。
「あ〜……やっぱ旨ぇなぁ。おらぁ、毎年これが楽しみで働いてんだ!」
「んだんだ。今年もいい酒が集まったもんだべな」
「おーい、誰か歌えや! つまみも足んねーぞー!」
聞こえてくる会話からすると、この村では祭りか何かの最中であるのだろうか。
「知る奴ぞ知る……ってイベントだな」
ニヤリと笑うシグルマ。さすがは大酒飲みである、酒に関するイベントには詳しいものだ。
実はこの村では、毎年この時期になると多種多様な酒を集めてきて利き酒祭り(という名目だが、要は楽しく飲むのだ)を行っていた。ただ、そのことはあまり知られていない。村人たちが別に広めていないからだ。
年に1度祭りが行われる他は、何か特産品がある訳でもない普通の村である。それに近くには温泉で有名になったハルフ村もあるのだ。人々の目がどうしてもそちらへ向くこととなる。ゆえに、祭りのこともそう知られていないという訳だ。
(郵便配達やってんなら、そういう事情を知っててもおかしくねーし)
シグルマはそう読んだからこそ、ハルフ村へ行かずまっすぐにこの村へ来たのである。知る人ぞ知る物事は、知られていないだけで結構多く存在しているものなのだ。
「……さあ、どこに居やがるか……」
きょろきょろと辺りを見回すシグルマ。今見た限りでは、シフールの姿は見当たらなかった。と、そこへ村人から声がかかった。
「おっ、そこの兄ちゃん! 冒険者かい? 別に何もない村によく来たなー。どうだい、兄ちゃんも駆け付け1杯?」
すっかり酔っぱらって御機嫌な村人が、シグルマに酒を勧めてきた。無論、酒好きのシグルマがそれを断るはずもない。
ワインの入ったコップを渡されるなり、一気に飲み干すシグルマ。それを見た周囲の村人たちが一斉に拍手をした。
「兄ちゃん、飲みっぷりがいいねえ。ささ、もう1杯いこうや」
「もっと大きなコップはないのか?」
と言いながらも、シグルマは握っているコップを差し出し。ワインが注がれるのを待った。
「ん……?」
その時、シグルマはある酒を見付けた。近くの村人に確認するシグルマ。
「おい。ひょっとしてあれは」
「おや、分かりますか?」
「分からいでか。某国で人気ナンバー1の、気の抜けたエールだろ? こんな所でお目にかかるとはな……来た甲斐があったぜ」
いやいや、シグルマさん。ここに来た目的は、帰ってこないシフールを探すためで……。
「今年出来たワインもありますよ」
また別の村人が、そうシグルマに教える。それを聞くと、シグルマはとても嬉しそうな顔をした。
あのー……シフール探しはどうなりましたか?
いやまあ、シフールの姿は全く見当たらないのでけれども、この村には。
●鳥【3】
さて――シグルマがそういうことになっているとはつゆ知らず、アイラスはハルフ村への道のりを1人てくてくと歩いていた。
天気もよく、空は青く高い。何かモンスターが出てくる訳でもなく、非常にのんびりとした道中である。
「こんにちは。聖都へ戻られるのですか」
すれ違う者があれば、アイラスはその度に挨拶を交わしていた。もちろん挨拶だけでなく、多少会話も交わすのだが。
ほとんどの場合はこれといった話を聞くことは出来なかったが、アイラスの興味を引くような話が1つだけあった。
「変わったこと? あー……そういや何か、でっかい鳥が森へ入ったり出たりを繰り返してたのを見たなあ」
「それはどちらでですか?」
「ハルフ村を出て、そうだなあ……2、30分は歩いたとこかな?」
エルザードから見ると、徒歩で1時間半の辺りとなるだろうか。鳥が入ったり出たりを繰り返しているということは、森の中に何かがあるということか?
(森の中にシフールさんが居る、ということでしょうかね)
関連付けて考えるなら、そうなのかもしれない。当然、全く関係ない別の何かがあるだけという可能性も少なくない。
「わ〜い、追い付いたよ〜☆」
そうこうしているうちに、後からエルザードを出発したディアナがアイラスに追い付いてきた。さすがにシフール、ゆっくりと情報収集をしながら歩いていたアイラスに追い付くのは難しい話ではなかったようである。
「どうですか、何かありましたか」
アイラスがそう尋ねると、ディアナがこくこくと頷いた。
「前のシフール便の人、ジュエルマジシャンなんだって〜。ディアと同じだよ〜」
ジュエルマジシャンとは宝石を媒体として、6属性の精霊の力を振るう魔法使いのことである。ちなみにディアナはエメラルドとルビー――つまり、地と火の精霊魔法を使うことが出来る。
「……それは、いわゆる攻撃のための魔法もあるんですか?」
「あるけど〜?」
アイラスの質問に、きょとんとして答えるディアナ。
(とすると、自分の身を守る術はあるということですね)
思案するアイラス。身を守る術を持っているのなら、事件や事故に巻き込まれたのであればそれを使って難を逃れようとするはずである。しかし1週間も戻ってこないということは、使っても難を逃れられなかったか、使う暇がなかったものと推測出来る。
「やっぱり『何か』があったんですよ」
確認するようにアイラスが言った。
●目撃【4】
やがてアイラスとディアナは、ハルフ村まで徒歩30分ほどの場所へ差しかかった。大きな鳥が森へ入ったり出たりを繰り返していたのを見た、という話のあった場所である。
「何も見付からないね〜」
若干退屈そうな口調でディアナが言った。ここに至るまで、シフールはおろか何かしら面白そうな物すら見付かっていなかった。
「ええ、見付かりませんね」
と言い、アイラスが苦笑しようとした時だった。森の中から大きな鳥が飛び出してきて、それに向かって一直線に光が飛んでいったのが見えたのは――。
「……今のは?」
反射的に、森へ向かって駆け出すアイラス。ディアナも後を追って飛んでゆく。
「あれって確か……サンレーザーじゃないかな〜」
アイラスを追いかけながら、ディアナが言った。ちなみにサンレーザーとは陽属性の精霊魔法で、太陽の光を湾曲集中して魔法的なダメージを与えるものである。
それが今、森の中から放たれたということはつまり……?
「森の中に、術者が居るということです!」
アイラスがきっぱりと言い切った。
やがて森の中へ入った2人が見付けたのは、木の枝の上に座って空を睨んでいるシフールの少女の姿であった。一見しただけでかなり疲労しているのが分かった。
空からは先程は逃げていた3メートルはあろうかという大きな鳥が、シフールの少女に向かって急降下していた。
シフールの少女は大きな鳥を睨み付け、身に付けていた宝石をぎゅっと握ったけれども……。
「ああっ! 危ないよ〜っ!」
悲鳴を上げるディアナ。限界だったのか、シフールの少女は枝から落っこちてしまったのである。
シフールの少女はそのまま地面に叩き付けられてしまうかと思われたが、間一髪アイラスが滑り込んでそのシフールの少女をキャッチした。
「いじめちゃダメ〜っ!!」
ディアナは持っていたエメラルドとペリドットをぎゅっと握ると、魔法を行使した。すると木の近くの地面から、一気に石の壁が出現したではないか。ストーンウォールの魔法の効果だった。
突然出現した5メートル平方、厚さ10センチの壁に、大きな鳥は避けることが出来なかった。勢いよく石の壁にぶつかったかと思うと、そのまま地面に墜落してぴくりとも動かなくなってしまった。
「ねえ、大丈夫〜?」
心配そうな表情で、パタパタとアイラスのそばへやってくるディアナ。落ちたシフールの少女のことが心配だったのだ。
「大丈夫です、息はしてますから。気絶しただけでしょう」
「よかった〜……」
アイラスの言葉に、ディアナはほっと胸を撫で下ろした。
「ひとまず、水を飲ませてみましょうか。バッグを背負ってますし、探していたのはこのシフールさんで間違いないと思うんですがね」
そう言って、アイラスは水袋に手をかけた。
●戻れなかった理由【5】
アイラスが水を飲ませ携帯していた保存食を分け与えると、ようやくシフールの少女は話が出来るようになった。
やはりこのシフールの少女が、探していた者で間違いなかった。事情を聞くと、ハルフ村へ手紙を届けに行く途中で先程の大きな鳥が森の中へ向かうのを見付け、何故か胸騒ぎがして自分も森へと入ったのだという。
「分かりませんね? 自分が襲われたのではないでしょう?」
疑問が浮かぶアイラス。それに対する答えは、木の上から聞こえてきた鳥の鳴き声であった。
「何か居るみたいだね〜。ディア見てくるね〜」
確認へ向かうディアナ。そして、それを見付けるなり感嘆の声を上げた。
「わあ〜、可愛い鳥のひなさんが居たよ〜っ☆」
「ひなですか? ……ひょっとして、あの鳥からひなを護るために」
アイラスが尋ねると、シフールの少女はゆっくりと頷いた。
「ここね……珍しい鳥さんが住んでいるんだよ……あまり知られていないけど……」
ぽつりぽつりと話すシフールの少女。
「近くに親鳥さん見当たらなかったから……護らなきゃって……」
つまりはこういうことなのだろう。ひなを護るべく大きな鳥を撃退したシフールの少女だったが、親鳥が見当たらなかったために1週間もの間ここから離れることが出来なかったに違いない。
「だけど、もう大丈夫だよ〜。ディアたちがやっつけたから!」
励ますようにシフールの少女へ言うディアナ。シフールの少女は嬉しそうに微笑むと、がっくりとうつむいた。
はっとするアイラス。けれどもそれは力尽きたのではなく、単に眠りに落ちただけだった。直後、規則正しい寝息が聞こえてきたのである。
「ああ、とても疲れているようですね……。僕はここで看ていますから、先に手紙を届けてきてもらえませんか?」
穏やかな笑みを浮かべ、アイラスがディアナに言った。
「うんっ、ディア届けてくるよ〜!」
言うが早いか、ハルフ村のある方角へ飛んでゆくディアナ。敵が居なくなった以上、2人ともがここに居る必要もない。看病だけなら、アイラス1人でも十分であった。
「さて、親鳥が戻ってくるのが先か、ディアナさんが戻ってくるのが先か、それとも目覚めるのが先なのか……」
アイラスは木の幹にもたれかかり、シフールの少女を抱えたまま待つ態勢に入った。
●三者三様【6】
ハルフ村――到着したディアナは、手紙の届け先である温泉管理組合の建物に居た。
「聖都エルザードの白山羊亭さんのルディアからお手紙だよ〜☆」
にこにこと中年男性に手紙を手渡すディアナ。中年男性は温泉管理組合の職員である。
「ああ、どうもご苦労さん」
と言い、手紙を読み出す中年男性。
「ふむ、温泉の湯を仕入れたいということか。すまないが、返事を書くからしばらく待っておくれ」
「は〜い♪」
元気よく答えるディアナに対し、中年男性はこう付け加えた。
「ただ、今はちょっと忙しいから、時間がかかるかもしれない。どうだい、温泉に入りながら待つのは?」
「温泉?」
ディアナの目がきらりと輝いた。
「ああ、そうだ。ついこないだ、打たせ湯なんてのも出来たんだ。入ってみるかい?」
「うんっ!」
間髪入れず、返事をするディアナ。そして中年男性に打たせ湯の場所を教えてもらい、さっそくそちらへと向かって飛んでいった。
(この前来た時は、砂風呂、洞窟風呂、ジャングル風呂とかいっぱいあったけど、増え続けてるんだね〜)
そんなことを思いながら、打たせ湯に対する期待でディアナが胸を膨らませる。頭の中からは、手紙の返事を待つということがすっかりと飛んでしまっていた。
同じ頃、シグルマはというと――。
「……ぷはーっ。こりゃいいぶどう使ってるな」
「すげえぜ兄ちゃん! 樽で飲んで、しっかり味まで分かってんのか!」
「こりゃ、ただの酒飲みじゃねえべ。気に入った! どんどんやるべ!!」
樽ごとワインを飲み干したシグルマは、村人たちから喝采を浴びていた。こちらももう、シフール探しなど頭から飛んでしまっているに違いない。
そしてアイラスは――。
「暗くなってきましたが……なかなか戻ってきませんね……」
親鳥は戻らず、シフールの少女もまだ目覚めず、ディアナまで戻ってこない中、アイラスは森で1人待ち続けていた。日はどんどんと落ち、辺りは暗くなり始めていた。
結局ディアナはハルフ村で温泉を堪能し、シグルマはその手前の村で多種多様な酒を堪能し、アイラスはひたすら待ち続け、各々一晩を過ごしたのだった。
アイラスが待っていることを思い出したお肌つるつるのディアナが、酒の匂いを漂わせてハルフ村へ向かっていたシグルマと合流して森へと戻ってきたのは、翌日の昼前のことであった。
親鳥もまた、まるでそれに合わせたかのように森へと戻ってきた――これでもう、一安心だろう。
【シフールさんからお手紙着いた? おしまい】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名 / 性別
/ 種族 / 年齢 / クラス 】
【 0812 / シグルマ / 男
/ 多腕族 / 35 / 戦士 】◇
【 1131 / ディアナ / 女
/ シフール / 18 / ジュエルマジシャン 】◇
【 1649 / アイラス・サーリアス / 男
/ 人 / 19 / フィズィクル・アディプト 】◇
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■ ライター通信 ■
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・『白山羊亭冒険記』へのご参加ありがとうございます。担当ライターの高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・参加者一覧についているマークは、○がMT13、◇がソーンの各PCであることを意味します。
・なお、この冒険の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ようやくここに、シフール郵便の配達員探しの顛末をお届けいたします。さて、こういう結末は予測されましたでしょうか? 一応冒険の傾向で、それらしきことはほのめかしていたのですが……。
・ディアナさん、15度目のご参加ありがとうございます。温泉、増えていました。まあ打たせ湯が温泉なのかは微妙かもしれませんが。一応、珍しい物も見ることは出来たのではないかと思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の冒険でお会いできることを願って。
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