<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


第二回 エルザードバザー!【打ち上げ編】

 第二回エルザードバザーも終わり、祭りの後の夕暮れ。片付けはひとまず置いて、場所を移動し打ち上げが行われることになった。
 打ち上げの主催はバザー実行委員会。食べ物、飲み物を取り揃え、出店者もお客も全員無料で参加できるとあってこちらもまた賑わいそうである。
 積み上げられた薪にちろちろと赤い火がうつり、次第に大きく燃え始め暗くなり始めた周囲を照らす。今回の打ち上げパーティーにもちょっとしたゲームが催されるようだ。
 さてさて、どうやら打ち上げが始まるようだ・・・


「……エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……燃えろ炎よ〜〜」
「怪しい真似は止めて下さい。子供が怖がるでしょう」
 まだ燃え始めのキャンプファイヤーの前で怪しい呪文まがいを唱える瑞慧にアイラス・サーリアスがツッコむ。
「何よ〜折角雰囲気でてるんだからいいじゃない〜」
「いや、余計に止めて下さい」
 苦笑するアイラスに舌打ちひとつして、瑞慧は会場内の点検の為か去っていく。
 そんな瑞慧の背中を見送り、打ち上げでもスタッフとして参加するアイラスはやれやれと息を吐いた。
 夕暮れが深くなり、打ち上げ会場にどんどん人が集まる中一人バザー会場で途方に暮れる少年が。
「あう……バザー……終わっちゃったの? そんなぁ……」
 折角いろいろ買おうと思って頑張って来たのに、とお金を握り締めたままのファン・ゾーモンセンの目にどんどん涙が溜まってくる。
 そんなファンを見つけたのは葉子・S・ミルノルソルン。何故か袋やら瓶やら箱やらたくさん持っているが、そこは気にしない方向で。のんびりフヨフヨ浮いていた葉子はファンを見つけると近寄り頭上から声をかけた。
「ハァ〜イ。何泣いてるのカナ?」
「よ、葉子……さん?!」
 面識のある二人。嫌いではないが葉子の事が苦手なファンの体に緊張が走る。だが、そんな事は露知らず葉子はニコニコと固くなっているファンの肩に手を置く。
「ナニナニ〜?あ、もしかしなくても迷子チャン?かわいそーに。んじゃ、俺様と一緒にいこーか♪」
 優しく肩を押しつつ進みだす葉子にビクビクとしながらファンもつられて歩き出した。
 向かうは打ち上げ会場。今年は1軒の集会所の前にある広場を使って行われる事になり、屋外のその広場では夜のキャンプファイヤーの準備はバッチリ。屋内でもこれから始まる打ち上げの為の料理が着々と出来上がっていた。
 瑞慧に打ち上げの料理作りを以来されたイルディライは黙々と一人厨房で鍋を振るう。百人近い参加者を見越して用意された材料を切り、炒め、あるいは茹でたり揚げたり、そして盛り付けたりと大忙しである。
「ん〜おいしそーな匂い」
 くんくんと鼻を鳴らすかのように厨房に入って来た瑞慧はイルディライの慌しさも尻目に、あとはテーブルに運ばれるのを待つばかりの鳥のから揚げをヒョイとひとつ口へ放りこんだ。
「ん……あち、あち。でも、オイシ〜」
 ぺろりと唇を舐めた瑞慧をジロリと睨んだイルディライは、もう少しで彼女の喉元へ伸びそうになった包丁を持つ手を抑えた。
「……邪魔だ。暇なら料理を運べ」
「なぁに?もうコレ運んでいいの?了解、了解〜おーいみんな〜料理運んで〜!」
 近くにいたスタッフを呼び、料理を運び出した厄介者にイルディライはひとつ安堵のため息をつき、再び忙しく動き始めた。
「あ、イイトコに発見〜♪ほい、アイラスくん」
 準備をしていたアイラスを見つけた葉子は、ほい、とファンを彼に向かって押し出した。
「ほいって……なんですか?」
 訳が分からずも、アイラスの背後に隠れながら葉子を見上げるファンの頭を優しく撫でながら聞き返す。
「迷子チャン。なんで、ヨロシクネ?」
 あっさりとアイラスに押し付けた葉子はフラフラどこへか去って行く。
 その背中を見送った後、アイラスは腰の辺りの服を握るファンに微笑んだ。
「葉子さんは迷子と言ってましたけど、どこへ行こうとしてたのですか?」
「バザー……でも、バザー終わっちゃったんだよね?う……ボク、楽しみにしてたのにぃ」
 今にも泣き出しそうなファンに少し心の中で慌てるもアイラスはファンと目線が同じになる様に屈み、優しく言った。
「確かに、バザーは終ってしまいましたけど、まだ打ち上げが残ってますよ。打ち上げ、思いっきり楽しみましょう」
「……うん!」
 鼻を拭いたファンは笑顔を見せて大きく頷いた。

 相変わらず、忙しそうに働くイルディライ。今は大鍋でスープの仕込み中らしく、何度も味を確かめていた。
 そこへ匂いに誘われたのか、葉子が厨房へとやって来る。
「アレー料理はイルディライの旦那が作ってるんダ。うわ〜そりゃかなり期待度高いワ〜♪」
 のほほんと言った葉子をちらりと一瞥したのみで何も言わず、イルディライは肉を切る。
 そんなイルディライに気分を害した様子もなく、いやむしろラッキーとばかりに出来た料理の傍へとさりげなく寄っていく葉子。そして、イルディライが自分に背中を向けているのを確認し、すばやく持ってきた箱に料理を入れる。
「ん?」
「ナァニ、どうかした?」
 空になった皿をとっさに隠し、何事も無いかのように振舞うへたれ悪魔。小さく首を傾げたイルディライだが、また調理に取り掛かる。
 それを確認しつつ、ふよふよと厨房の中を漂いつつ何かを物色し始める葉子は、そうだと小さく手を打った。
(お塩と砂糖ももらっちゃお〜♪)
 妙になんだか所帯染みてきたが、あまり気にせず葉子は調理棚を開けると塩と砂糖だけでなく適当に調味料を引っ掴み、服のポケットへとつっこむ。
 と、ふっと葉子が何気なくイルディライの方を見れば、ばっちりしっかり目が合い互いにしばし見詰め合う。
「……あ、ちょっとマッテ。これには訳が……ギャアア〜!!!」
 厨房から響く叫び声。
「は〜い、何やら厨房から叫び声が聞こえる今日この頃如何お過ごしでしょうか♪では、これより皆様と楽しく愉快にゲームで盛り上がりたいと思います!」
 叫び声、完全無視し瑞慧の一声でゲームが始まったのだった。

 夜も更け、ゲームも終わり並べられた料理も残ったのは付け合せの野菜くらい、と祭りも終盤に差し掛かった頃、瑞慧は参加者全員に聞こえるように言った。
「さぁ、皆様宴もそろそろ仕舞いのお時間が近づいて参りました。その前にダンスを行い、この日の出会いを深めましょう」
 瑞慧の台詞が終わると、少人数の楽団が演奏し始めた。明るいテンポの良い曲はまったりしていた参加者たちを動かしだす。
「〜♪」
 リズムにのって体を揺らしていたファンの手が不意に優しく掴まれ、小さな体がくるりと回る。
「ハァ〜イ、楽しんでる?悪魔と一緒に踊りましょ♪」
 包帯ぐるぐる巻きの葉子はニッコリ微笑み、半ば強引にファンの手をとり踊りだす。目を白黒させつつも、葉子に踊らされているうちにファンも段々楽しくなってきたらしい。
「星が瞬き、炎が揺れる〜♪人も悪魔も踊りだせ〜♪」
「あはははは。おどりだせ〜♪」
 即興の歌を歌いながら踊る葉子にファンも真似して歌い、踊る。
 炎に影を揺らめかせながら、踊る人たちを離れた所で仕事終わりの酒を飲むイルディライにアイラスは労いの言葉をかけた。
「お疲れ様でした。料理、おいしかったです」
「……それが仕事だからな」
 ぶっきらぼうに言ったイルディライは持っていた酒瓶をアイラスに掲げてみせる。
「飲むか?スタッフの仕事は疲れただろう」
 相変わらずの表情だが、アイラスは微笑みそれを受け取った。
「有難うございます。では、頂きます」
 一口、酒を飲み、アイラスは踊る人達を眺め目を細めた。
「皆、楽しそうですね……」
 心地よい疲れと耳に心地いい音楽に笑い声。アイラスもイルディライもただ眺め、そして聞いていた。
「は〜楽しい♪あ、ね〜アイラスさんも一緒に踊ろうよ!」
 そう、声を上げたファンはアイラスとイルディライの元へと駆け出す。その可愛らしい姿にアイラスは微笑、酒瓶を置いた。
「イルディライさんもどうですか?」
「……いや、いい。踊りは性に合わん」
 そう言ったイルディライは置かれた酒瓶を取って、行ってこいと手で示した。
「そうですか?では……」
 手を振るファンのところへアイラスは歩きだした。

 楽しい夜の宴はまだまだ続く……


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0673/ファン・ゾーモンセン/男/9歳/ガキんちょ】
【1649/アイラス・サーリアス/男/19歳/フィズィクル・アディプト】
【1353/葉子・S・ミルノルソルン/男/156歳/悪魔業+紅茶屋バイト】
【0811/イルディライ/男/32歳/”料理人”】