＜ＰＣクエストノベル（４人）＞
ハッピー？ウエディング
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1125/リース・エルーシア /言霊師 】
【1649/アイラス・サーリアス/フィズィクル・アディプト 】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー（ガンナー）腹黒副業有り】
【2085/ルイ /ソイルマスター＆腹黒同盟ナンバー３（強制】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
不死王・レイド
その他、不死の方々
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――ここに、ひとりの男がいた。
執念の塊ともいえる男が。
彼は、狙いを定めたものを執拗に狙い続ける。
その者が、男に畏怖の想いを込めて首を縦に振るまで、諦める事無く。
ある時は正攻法で、ある時は奥の手を使い、なんとしてもかの者から承諾を取り付けようと、手を変え品を変え、
――それはまさに、執念と呼ぶに相応しい行動だった。
オーマ：「何としてでも、うんと言わせて見せるさ――俺様がな」
そう。
オーマ・シュヴァルツは、こうして目を付けたターゲットに対し、包囲網を敷き始めた。
哀れなるターゲット――不死王・レイドを、我が腹黒同盟へ迎え入れるために。
*****
オーマ：「つーわけで集まってもらったわけだが」
アイラス：「相変わらず唐突ですね。いきなりレイドさんを勧誘するから集まれだなんて。でも確か以前断わられたのではありませんでしたか？」
腹黒同盟員ナンバー２として真っ先に声をかけられたアイラス・サーリアスが、集まった先――オーマの経営する病院の椅子に座り、もう１人病院の中に残っていた青年、ルイの淹れた茶をふうっと吹きつつ口に運んだ。
オーマ：「おう、その通りだ。あれだけ懇切丁寧に愛情を持って勧誘したってのに逃げたんだ。だーが」
オーマがにやりと笑いつつ指をちちち、と舌打ちしつつ左右に振り、
オーマ：「あん時と今じゃ状況が違う。信頼と実績を積み重ねて来たんだ、レイドだってまさか無視は出来ねぇだろうさ」
リース：「そうなの？わぁ、また仲間が増えるんだね」
にこにこと邪気のない笑顔を浮かべ、呼び出されたアイラスにくっ付いて遊びに来ていたリース・エルーシアが弾むような声を上げる。
ルイ：「仲間入りしてくださるか定かではありませんが、言われてみれば現状は随分以前と違うようですね。誘う価値はあるのかもしれません」
その彼女の前にもお茶をそっと置きつつ、ルイが微笑んだ。
リース：「ありがとー♪」
こくこくと嬉しそうにお茶を飲む様子が嬉しいのか、いえいえ、とにこり笑ってルイがちょっと下がり、
ルイ：「…とは言え、どうやって勧誘するつもりなのですか？レイドさんが噂に聞く方なら、少々の事では動じないでしょうし、再び断わられる可能性の方が高いと思われますが」
オーマ：「そう、そこなんだよ。俺様はラブアタックあるのみと思ってるんだが、逃げられちまったらどうしようもねえ。どうにかしてうんと言わせたいんだがなぁ」
アイラス：「とりあえず、ラブアタックは却下の方向で行きましょうか」
穏やかな顔でちらとオーマへ一瞬冷たい視線を注いだアイラスが再び皆へ向き直り、
アイラス：「ひとつ、僕に考えがあるんですが」
そう、楽しそうに目を細めつつ、ゆっくりと噛み砕くような言葉で話し出した。
それは、不死王・レイドに対する包囲網であり、挑戦でもある。
――この世界にどれだけいるか分からない不死の者たちの頂点に君臨し、裏世界での情報に精通している彼だからこそ出来る技だった。
アイラス：「――という訳で、噂をばら撒いてみようと思うんです」
オーマ：「噂だぁ？」
リース：「うわさって、どんなのを？」
わくわくした顔のリースへ、
アイラス：「そのままですよ。そうですね…例えば、僕たちの現状、国から信頼を得ていると言う事、王女様と交流が深いと言う事、ウォズに関するトラブルに対しての実績の程、とかですね」
ルイ：「そうですねえ。どれも間違ってはいないようです。ですがこれだけでは弱いのではありませんか？」
アイラス：「ええ」
にこりと笑いかけたアイラスは、一旦言葉を止めて再度口を開き、
アイラス：「ですから、そこに罠をしかけます。――実は、レイドさんが既に腹黒同盟に加入している、といったような言葉をさり気なく」
オーマ：「ほう…？」
そりゃ面白そうだ、そんな事を小声で呟いたオーマが、じゃあ何処で話を流すかと頭を捻っている間にも、
アイラス：「あまり話に尾ひれが付き過ぎても困りますから、その辺の微調整はこちら側でしなければならないでしょうけれど…」
どうです？と、アイラスが軽く首を傾げつつ１人１人の顔を見回せば、そこには何気に輝いている６つの目があった。乗り気の度合いはオーマが一番高かったかもしれないが。
*****
オーマ：「っつうわけでよ。俺様偉いわけよ？総帥なんだよ分かってるだろ？」
酔客：「おお、分かってる分かってる。カミさんも名前知ってるくらいだからなぁ」
オーマ：「だよなぁ、知名度だってかなりのモンだよな？今じゃソーン全土に広がるくらい人脈もあるしよー」
酔客：「そうだそうだ。まあ飲めや総帥さん」
オーマ：「おう、飲むともさ！いざ行かん天上世界へだぜ！」
深夜に至っても賑やかな世界、酒場でごっごっごっとジョッキを干し、歓声を浴びつつオーマが一席ぶつ。既に常連となっている、比較的オーマたちの事を容認している雰囲気のある酒場で嬉しそうにオーマが酒を干しつつ、完全に酔っている者を除き、どのくらいの割合で次の日この事を話題に乗せる者がいるのか見た目程酔っていない頭で考え。
オーマ：「あのレイドだって無視出来ねえだろうさ。これだけ役に立つ腕っこきの集団なんざそうそういねえぞー」
酔客：「ほほー。レイドか、どっかで聞いたような……まあいいか。そいつも入ればこうやって一緒に飲めるのになぁ」
オーマ：「おうおうおう、良いこと言ってくれるじゃねえか！そうだよ、俺様の偉大さに後で気付いたって遅いぞー」
恐らく、『レイド』と言う名は聞いていたとしても一般の者に取っては伝説と変わりない程度の知名度なのだろうが。それでもその名が流れれば、かなりの確率で目的の人物の耳に入るだろう。
その時、その者――不死王と呼ばれる存在は、どんな顔をするだろうか。そう思うと知らず顔ににんまりとした笑みが浮かんでくるのだった。
*****
アイラス：「街頭演説よりは歌の方が良さそうですね。天使の広場前でやりましょうか？僕、演奏を受け持ちますから」
リース：「わあっ、いっぱい歌っちゃっていいの？ふふ、どんなのを歌おうかなぁ」
アイラス：「そうですね――今は昼間で、一般の人が見たところ多そうですし、王女を絡めた話の方が耳に残るかと思います。ですから、こっちの方で行きましょう」
リース：「うん、うん…そうだね、語呂もいいし口ずさむにも良さそう。じゃあ、アイラス演奏お願い。最初にリズム取ってくれる？」
昨夜即興で考えたおおまかな歌詞の案を見せられ、口の中で転がすように言葉を呟いて行くと、最後に大きく頷く。
アイラス：「分かりました。…こんな感じで？良かったらコーラスも付けますよ」
弾き語りに丁度良いかと借りてきたリュート片手に軽く奏でてみせたアイラスに、満足げにうんうんと頷いたリースがにこりと笑い、
リース：「はーい、ミニコンサート始めるよー♪」
辺りの人が思わず振り返るような声を実に楽しそうに言うと、
リース：「〜♪〜〜♪」
噴水に腰掛けたアイラスが演奏する音に合わせ、音域をあまり取らずに、にこにことつられてしまいそうな笑顔を浮かべたリースが朗々と声で奏で始めた。
自然、人々の足が止まり、興味津々、といった顔の子供たちと物静かに聴く大人たちとが、いつの間にか２人を取り囲んでいた。
*****
ルイ：「…そうですね。それでは、そこから噂を流してみましょうか。レイドさんにはほとんど直接届くでしょうからね――会員になっているらしいという方面から行きましょう」
表があれば裏があるように、普通の人々には見えない面を見せる、深夜の路地裏。集まるのは、何故かほんのりと輝いて見えるルイの姿と、霞みがかかったように白っぽく見える一角。
…見た感じ、人の姿は見えない。
だというのに、この――幾人もの気配を感じるのは何故だろう？
そして、裏道としてこの辺りは近道であり、まさに裏街道をひた走るような者たちにとって絶好の道だと言うのに、通りがかる者はおろか入り込んでくる者がいないのは…。
ルイ：「ええ、そうです。まずはそこからですね…あなた方も会員なのですから、胸を張って。自分たちの宣伝もして来るのですよ？」
ふ、っと柔らかにルイが微笑んだ――刹那。
ざあ…っ、と聞こえる筈の無い『音』が辺りに満ち、一瞬のちには、路地にはルイだけしかいなくなった。いや…最初からルイしかいなかったのだが、そうとしか言えない状況だった。
ルイ：「これからどうしたら良いでしょうね。まっすぐ家に戻るのは少々芸が無いですが…仕方ありません。わたくしの口からも、直接レイドさんの身内の方にお伝えするとしましょうか」
言葉とは裏腹に、表情は非常に楽しげで、くいと眼鏡を中指で持ち上げるとその場からふわりと裾を翻し、別の闇の中へと消えていった。
*****
？？？：「――本気でそう思っているのか？」
夜闇より尚濃い闇の中で、１人の、渋い声が聞こえて来る。その声色から察するに、見えない闇の中でもどんな表情を浮かべているかは想像が付いた。話をしているらしい気配も、ちょっとだけ怯えたような気配を見せ、自分の出番は終わったとばかりにその場から消えようとして――
？？？：「待て」
むんずと直接掴まれて逃げ道を塞がれたそれに、ずいと顔を近づける、もう１人の…尋常ではない存在感。それに畏れをなしたか、おののきつつ地面に這いつくばる気配。声の主…レイドはそこでようやく、自分が思わず配下を鷲づかみにしていた事に気付いたらしく、溜息を付きつつ手を離した。
レイド：「もういい、行くが良い」
その声も不機嫌そのもの。許され、脱兎の如くその場から去った配下と、まだレイドの元へ行っていいものかどうか迷っているらしい配下たちの存在に気付きつつ、もう一度ふうっと大きく溜息を付く。
人間界の事は、以前から興味深いと情報収集していたのだが、
配下たち：『レイド様がオーマシバルツ率いる腹黒軍団に加盟されたと聞きましたが本当ですかっ！？本当なら、是非私もご一緒させて下さい！』
入れ替わり立ち代り、同盟参加したと言う噂のレイドの傘下に入りたいと言う者から、何を考えたのかその場で入会を叫んできたと言う闇に属する者…死後単純な事しか考えられなくなったらしい霊の１人に本気で頭痛を覚えたものだ。
――尾ひれの付いた噂、と思いたい。以前に顔を合わせ自らをその、腹黒同盟と言うある意味で飛びぬけたセンスの名の集まりに強引に誘われた際きっぱりと断わった筈だったが。
レイド：「諦めていなかった、と言う事か…私も甘かったな。あの時思い切って潰してしまえば良かったのかもしれないが」
この所何故かぞくぞくと入ってくる腹黒同盟絡みの情報――作為的なモノしか感じ取れないそれは、あきらかに方向をレイド１人に定めて宣伝と誇張を繰り返している。尤も、実際に過ぎた誇張と受け取れる情報はあまり無く、かなり深く入り込んで真偽を確かめる必要のあるものばかりだった。
それにしても――
レイド：「王宮が公式に認めたなどと…狂気の沙汰としか思えん」
自分で呟いた直後、のほほんとしたこの国の平和さ具合…その象徴でもあるこの国の重要人物の顔を思い浮かべ、痛む筈の無いこめかみをぐりぐりと指で揉みほぐしつつ、
レイド：「……何だ？」
いつの間にか、レイドの姿と気配に畏怖を覚えつつふるふると震えていた１人の配下が、目の前にようやく歩み寄ってもじもじと手を擦り合わせている。
レイド：「何用か？用件があれば言えば良い」
もじもじ。
もじもじもじもじ。
レイド：「――いつまでそこにいるつもりだ」
ほんの少しだけ、声を尖らせると、瞬間びくんっと跳ね上がった配下が後ろへと飛びすさり、
配下：「……………」
その場から、消え入りそうな声でいくつかの単語と、嘆願を告げた。
レイド：「――――――」
単語をどうにか聞き取って、自分の頭に放り込むまで一瞬。
咀嚼し、理解するまで、数分。
そして、
レイド：「ふうううううっっっっ」
心底、人生に疲れ切った男のような深い深い溜息を吐いたのだった。
*****
リース：「わあ。凄いよ、なんだか霧が出たみたいに見えるよー」
ルイ：「ああ、あまり近寄らないで下さいね。存在そのものが負ですので、生者へは無意識にも影響を与えてしまいますから」
アイラス：「流石に――冷えますね。夜だけのせいではないでしょうけれど」
真夜中の、共同墓地の一角。間違っても普通の人間は訪れる事の無い時間と場所に、３人もの姿が集まっている。…いや――４人ではきかない。
なぜなら、ざわざわと囁き声や笑い声がひっきりなしにこの場に響いているし、気配だけはかなりの数居ると分かるからだ。そして、皆、何かを待ち侘びている。
オーマ：「おう、待たせた。いやぁ、墓守を説得すんの忘れてたぜ」
そして最後の１人が小さな小屋からぬうと現れ出ると、楽しげな笑みを浮かべつつ３人の元へと近寄っていき、その場の空気すら白く染め上げている霊団に「よう」と軽く手を上げる。
アイラス：「素直に僕たちがこれからやる事、認めてくれました？」
オーマ：「おうよ。つうか、外をちらっと見せただけで今日の事は何も見なかったし聞かなかった事にするとさ」
リース：「ええー、どうせなら墓守のおじいさんにも一緒にお祝いしてもらおうよ」
ぷぅ、とちょっぴり不満そうなリースに、苦笑したルイがゆるりと首を振り、
ルイ：「一般の方には刺激が強すぎますからね、仕方ありませんよ。それよりも――ああ…来たようですね」
蟠る闇より尚濃く。
魂まで凍らせるような冷たい気配を敷きつつ。
そして、この場に居る霊団の多くが畏敬を感じて各々のやりようで相手へ挨拶を送る、その場に、
レイド：「……呆れたぞ」
その一言を口にしつつ、不死王たるその人、レイドが悠然と現れた。
その脇には、一際白い何者かの姿があり、その姿を見た霊団がざわざわっと嬉しそうに『声』を上げた。
そう。この夜、招待したのはレイドだけではない。
メインイベントに必要不可欠なその白い影は――霊団の中から抜け出したひとつの影と、互いに歩み寄って寄り添ったのだった。
*****
レイド：「……私を謀るとはいい度胸だな」
そう言う口は苦虫を噛み潰したようで、怒りよりも呆れが先に来ている様子。
オーマ：「そりゃあもう。腹黒同盟の面目躍如たる所さ。――だがおまえさんもアレだろ？情報通なら分かるだろうが、俺様たちは嘘ばかり付いて来たわけじゃねえぜ？」
レイド：「……………」
オーマ：「それにだ。俺様はレイドが入ってくれりゃあいいな、と思いながら言い続けてたからよ。熱心が勝ってついうっかり希望的観測まで入ったオーバートークになっちまったかもしれねえ。まあ許せ」
嘘だろうと明らかに分かる、きらきらと輝くような笑顔を見せるオーマに、ふう、と何度目になるか分からない溜息を付いたレイドが、
レイド：「もうひとつ言わせてもらえばだ。我が配下を誘惑したのはそっちの仕業か？」
ルイ：「おや…随分な事を言いますね？わたくしは何の作為も致しておりませんよ？それに、初見から随分と気心が知れていたようですし…御似合いの２人ですよ」
情報を流す途中で生まれたのは、オーマたちが心配していたような錯誤情報ではなく、一組の、なんと言うか…霊同士のカップルだった。元々が男と女だったと言うのも作用したらしく、その情報を聞いたオーマがそれならばと打ち立てたのは今夜の結婚式で。
レイドは、その者の上司として、オーマ特製の招待券と共にこの場にやって来ていたのだった。…他にも、姿かたちは人間とほとんど変わらないが、ちょっぴり歯が長かったり、顔色が悪かったりする者や、同じように白い靄の霊たちを引き連れて。
オーマ：「そう言うことだ。で――答えを聞かせてもらおうか？あれだけの『情報』を集めたんだ、メリットは十分理解してんだろ？」
レイド：「だから何度も言っているだろうが。だいたい私はな、この場へ来たのはあれのためであってだな」
リース：「もおっ。そこでごちゃごちゃやってないの！楽しみましょうよ、せっかくの結婚式なんだし！」
『恋人』が伴侶として結ばれるのは当然の事だと、相手が何であっても気にしている様子の無いリースが、ぷぅと頬を膨らませつつ、そこでまだ不機嫌な顔を続けているレイドと、結婚式をそっちのけで勧誘へ話を進めていたオーマへと話し掛けた。
オーマ：「それもそうだな。うし、じゃあ始めるか――と、お２人さんちょっとこっち来てくれ」
何か思いついたか、オーマがぴたりと寄り添ったままの２人へちょいちょいと手招きし、こくんと頷いた２人が、レイドへぺこりと会釈して墓石の影へと導かれていった。
*****
子供の粘度細工のように、いびつなくたくたした形のものが２体そこにいる。どちらが女性でどちらが男性かがひと目で分かるのが不思議だったが、当人？たちは至って満足な様子だった。特に女性の側は、リースが作った小さなブーケを手にして酷く嬉しそうだ。
レイド：「私から言うのもなんだが。あれ以上何ともならなかったのか？」
オーマ：「あれだってマシな方さ。ああ、言っとくが俺様の技はカンペキだぜ？ありゃあな、『形』の中に入った魂が作り出した、以前の自分の姿さ。本人たちの持つ『力』が強けりゃ強いほど、本来の姿になるように仕組んだだけだ。本人たちも分かってる。分かってるから、あんなに嬉しそうなんだろ」
オーマが言うように、霊体の時よりもずっといびつな形のそれらは、それでも手を繋いだり抱き合ったりして、ラブラブオーラを思い切り発散している。
――そして準備万端整い、結婚式が始まった。
リース：「〜〜〜〜〜♪♪」
細く長く、たゆたうように謳い上げるリースの声は、嫌が応にもその場の雰囲気を高め、包み込み、新郎新婦にも、招待客…一般人が見たら即気絶してしまうような霊団と不死の者たちばかりなのだが…たちまでもを巻き込んで唱和してしまう程、暖かなものだった。
アイラス：「うーん。夢に出そうですね」
にこにこ笑いながらも辛らつな事をさらりと言ってのけたアイラスは、招待客たちが発する冷気や負の気配から距離を取ってその場を眺めている。
ルイ：「おめでとうございます。末永くお幸せに」
血の様に赤いウエディングロードを具現化させたそこを歩かせながら、ルイがにこりと２人へ笑いかける。
嬉しそうに――表情は分からないのだが、実に嬉しそうに微笑んだ『それ』は、まだ謳い上げるリースへも感謝の眼差しを送ると、手に持っていたブーケを空高く放り投げた。しっかりと、伴侶となった相手と腕を繋ぎながら。
――途端。
ぱあ――…っ、と、そのブーケを核に、一瞬だけだったが柔らかな光が街全体を包み込み、
その光が完全に消えた時、何故かとても清々しい空気がそこにあり、墓地にいた者の人数は半分に減っていた。
オーマ：「おう…何だ？」
アイラス：「新郎新婦も、消えていますね…それに、随分と空気が綺麗になったような気がします」
ルイ：「………」
リースも、歌うのをやめてきょときょとと周囲を見回していた。そこへ、呆然とした声が、広がって行く。
レイド：「――なんと言う事だ。下級霊と微弱な力しか持たない配下たちが全て消えてしまったではないか」
ルイ：「まさか、このような状況に至るとはわたくしも思い至りませんでした。ですけれど…残された方々も不思議と不満に思っている様子は見えませんね…レイドさんご自身も含めて。わたくしとしてはあまりやりたくないのですが、もし今の状況がご不満でしたら、呼び戻しを行う事も出来ますがいかがですか？」
レイド：「――いや」
やめておこう、そう言ったレイドがくるりと踵を返し、
オーマ：「っとそうだった、忘れてたぜ。答え聞かせてもらってねえぞ」
レイド：「そんなもの、一生忘れ続ければ良かったのだ」
配下を先に解散させ、レイドが呆れた顔のままくるりと振り返る。そこには、オーマだけでなく、期待に満ちたリースの笑顔もあって、ほんの少しだけたじろいだのはレイドの方。
アイラス：「どうでしょうね？入ると思いますか？」
ルイ：「さあ…如何なものでしょう。わたくしは確たる答えを出せそうにありません」
アイラス：「同じくです。まあ、望み薄でしょうけれどね」
ルイ：「その考えに同意します。それにしても先ほどのあの光は一体…何か、あの一瞬に様々な要因が重なったとしか思えません」
侃侃諤諤と互いの理論を持って声高に言い張る２人と、オーマを応援してぎゅっと拳を握り締めているリースを眺めつつ、そんな会話を交わす２人。
アイラス：「リースさんの歌も、きっと作用していると思いますよ。祝い歌に癒されて浄化されたような、そんな感じもありましたし」
ルイ：「…そうですね」
オーマ：「だからよ、俺様の主張を最後まで聞けっ」
レイド：「お主の意見を聞いていると頭が痛くなるのだ！第一、何故あのようなセンスの名を付けたものに私が入らないといけないというのだ！？」
リース：「ええ？でも楽しいよ？みーんな凄いんだし、ねーオーマ」
オーマ：「おうおうおう、援護射撃とは心強い味方だな。つーわけで、まだ時間はたっぷりあるから付き合ってもらうぞ」
レイド：「……ッ！」
説得と言うよりも、最早どちらかの気力が尽きるのが先というデッドレース。
その様子を最後まで見ていたのは、墓石にもたれかかって眠るオーマへ、昇る太陽に後を託し、別れを告げた月だけだっただろう。リースたちは途中で飽きてさっさと帰ってしまったのだし。
*****
一時的にとは言え、街中の低級霊を浄化させてしまったオーマたち。お陰で事情を知る者からは感謝され、また別の場所では奇跡が起きたと専らの評判で。
これを機に、ゴーストバスターの依頼が被害者側からも加害者側からも何故か舞い込んで来るようになってしまったのだが、それはまた別の話。
ちなみに、目標となっていたレイドの勧誘に付いて、だが。
レイド：「考えておこう。考えるだけだぞ、いいな」
やたらとそれだけを強調して、夜明けの街からふらふらと立ち去って行った、と言う話だった。
その後、不死の王と呼ばれる存在に、いまひとつ真偽の分からない噂が立った。…もしかしたらどこかで情報が錯綜したのかもしれないのだが、それでも、この言葉だけはあっという間に彼の者を知る者たちへと広まって行った。
不死王・レイド、腹黒同盟を擁護――と。
-END-
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