<東京怪談ノベル(シングル)>
想いは羽ばたく
陽の色は、いつも鮮やかな黄金色。
瞳を閉じても思い浮かぶのは、いつもそれだった。
いや、黄金色と思うのはある人物の髪の色なのかもしれない。
陽の光さえ吸収し、更に輝きを放つような、髪。
雨に濡れても、その色は変わる事が無いほど、強く、強く。
何者にも染まらず、何者にも変わらない――正に陽のようで声を出す事なども出来ず。
ただ、濡れた髪を拭くだけしか出来なかった自分が居る。
様々な想い、様々な葛藤を繰り返しては、一つところに落ち着いて。
それが、今は。
(喜んで……くれる、だろうか……?)
手元にある鈍い光。
銀を磨く前のくすんだ光が灯りに照らされている。
クリスマスの贈り物――何を贈ろうか自分ながらに考え、スラッシュは誕生石の指輪を贈ろうと考え、はたと止まった。
誕生石を埋め込んだ指輪だけではありきたりすぎる、と思ったのだ。
では、どうしようか。
そうだ、天使の卵を象った中に誕生石を埋め込み、指輪にしよう。
これならば、何処にでもあるような品でもないし贈られる主も喜んでくれる筈――だと思うのだが……どうにも、自信が持てない……気がする。
『気がする』と言うのは可笑しな言葉だ、とスラッシュ自身解っているのだが、どうにも何かを贈る…と言うのには決意が付きまとうし、時に決心も鈍る時があるもので。
(……不思議な、ものだ)
研磨途中の、銀を見やり、スラッシュはこの色に、月を想う。
月は太陽が無くては輝く事が出来ない。
陽が沈むと同時に、まるで追いかけるように夜に浮かぶ月――陽の光が余りに明るすぎて、暗闇が落ちるまでは見る事さえも出来ずに、ただ眺めては一人、満ちては欠けるを繰り返す、月。
余りにも、意気地が無い。
……そう、思っていた。
―――彼女に、逢うまでは。
もし、出会えたのが違う人であったなら、此処まで想う事は無かっだろう。
いいや、それ以上に、もっと冷えた心を抱えていたかもしれない。
あの時に出逢う事が出来て、会話を繰り返し、出かける事を共にして。
其処から、様々な日々が巡って行った事を、スラッシュはまるで昨日の様に思いだす。
記憶の中にあるのは笑ったり、悲しんだり……時に照れた表情を浮かべる彼女。
どの感情も、いつも眩しくて瞳を背けられないほどに真っ直ぐで。
何時からだろう?
護りたいと思ったのは。
何時から、だろう?
彼女の存在に、ただ傍に居る、そんな些細な事でさえ、癒され、支えられていると感じるようになったのは。
何か高価なものを貰ったわけでもない。
無論、素晴らしい美辞麗句を貰ったわけでも無い。
だが、確かに。
掌に、心に触れてくれた事。
その全てが支えであり救いだった。
だからこそ、変わる事ができたのだと今でもスラッシュは信じている。
――果たして、自分には出来るだろうか?
彼女がしてくれた事と同じような事が。
太陽は月を、照らしてくれる。
だが果たして、月は太陽を癒す事が出来るのか―――いいや、もし、出来なくとも。
喩え、この先にどんな出来事が襲い掛かろうと、また、どの様な分かれ道があろうとも。
(これから先も……同じ"道"を選び、歩み続けたい……)
迷う事もあるだろう。
惑う事も。
時に覚えていても辛いだけだと言う日々も無いとは言い切れない。
それでも確かな物がある限りは。
その日々が、この想いが間違いではなかったと信じきれる、から。
「……後、もう少し……出来上がるまでは……眠れんな」
鈍く光る銀に、埋め込まれるのを待つ様に煌めく翠玉。
羽ばたくような指輪の羽の形を見て、スラッシュは、この中に込めた想いごと受け取って貰えれば良いと。
そう、願いながら、再び作業を始めて。
夜の帳のその向こう。
淡く、柔らかに輝く、月が微笑んでいた。
―End―
+ライター通信+
こんにちは、初めまして。
今回、こちらのノベルを担当させて頂きました秋月 奏と申します。
とても素敵な贈り物に、お相手の方が羨ましくもなりながらも
書かせて頂きました(^^)
クリスマスの、素敵な贈り物になる事でしょうね♪
参照に、と言って下さったノベルがありましたので
読みながら書かせて頂きましたが、少しでも、楽しんで頂けた部分が
あれば幸いです。
それでは、今回はこの辺りにて失礼致します
また何処かでお会いできる事を祈りつつ……
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