<PCクエストノベル(1人)>


Love Instrumental 〜クレモナーラ村〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
泉の神(出張中)
ヴァンサー
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 音楽の祭典、と聞けば、大抵の者が思い浮かべるのがここ、クレモナーラ村だろう。
 特に有名なのは春の音楽祭。その時期には、冬の間をかけて作り上げた楽器や新作の曲の発表などがあり、まるで都市のように賑わうのだ。
 ――尤も、今は冬。
 夏場の、湿度の高い時期と、この乾燥しやすい冬の時期は、演奏家や楽器職人にとって鬼門とも言えるもの。自然、外で演奏するような者は少なくなり、その上冬の雰囲気も加味されるのか聴こえ流れてくる曲はどこか寂しげなものばかり。
 何となく思いついて村に立ち寄った大男、オーマ・シュヴァルツも物悲しさを感じてしまったのだから、やはり相当寂しい曲が流れていたのだろう。
オーマ:「冬に寂しい曲っつったら嵌りすぎだろうが。うぅ寒い。心まで冷え切っちまうぜ」
 ここはひとつ、思い切り騒々しい曲を奏でてくれそうな奇妙な音楽、または楽器を!とむぅんと胸を張って中へと入り…村の中ほどまで来た所で、ぴたりと足を止めた。
 そこに張られていた垂れ幕に、『がっき作り体験会』と言う文字が躍っていた。
オーマ:「………」
 何故か平仮名で書かれた楽器と言う言葉に妙な胡散臭さを感じ、だからこそ気になったのか、何人かの気配がするその場へと顔を覗かせた。
 何人かの子供たちと、その親らしき大人が2、3人。その向こうで講義を繰り返しつつ、手に持った何とも表現のしようがないくねくねと波打つ金属の管を振り回している、ローブ姿の老人。
 今こうして初めて見る分には、ローブ姿の、それなりに老熟した、どことなく威厳があるように見えなくも無い壮年の男と思うだろう。きっと。手に持った奇妙な楽器?や、その隠し様の無い巨体、ローブから溢れ出しそうな筋肉質の身体に少々引いている子供もいるのだが。
 ただし、初見ではないオーマにとっては、
オーマ:「な…何やってるんだこんな所で」
 思わず呟いてしまう程の驚きがあった。
 何故ならば、あの場所にいる男は――以前オーマが出会った事のあるいわゆる『神』だったからだ。

     ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

オーマ:「………」
 見本、と書かれたテーブルの上にずらりと並べられた楽器たちが、悪い意味で活き活きとその身体を晒している。と言うか、よーく見ると、呼吸しているように、表面にある模様の大きさが微妙に変化しているように見える。
 そしてまたこれもきっと気のせいだろうと思いたいのだが、その楽器の中に深紅に輝く鎌のような形状が見え隠れしているのが不気味であった。どう考えても鎌のような危険なものを楽器にするなどあり得ないと思うのだが…。
 ――作っているのが『あの』神とすれば、嫌な予感は予感だけで済まなくなる。
 そもそも、そこで楽器の作り方を手ほどきしている男は、オーマの知る限りでは伝説の片隅に放り込んで置きたいような泉の神であり、泉に放り込んでしまったアイテムを否応無しに変化させてしまうだけの力を持った者だった筈だ。
 それが一体何がどうしてこんな村で楽器作りに勤しんでいるのか。
 しかも実に楽しげに。
 その辺ツッコんで聞いて見たいところではあったが、それ以上に『関わると碌な事にならない』と言う前回の教訓が身に染みたか、何もかもを見なかった事にして、くるりと踵を返した。

 が――少々、遅かったようで。

???:「オウ、ユーも来ていたのカ!我のらぶぱわぁ(はぁと)のお陰だな?」
オーマ:「誰がだっ!?」
 一瞬、茶色いハートマークがオーマの脳内を乱舞し、かけられた声に脊髄反射のよに振り返ると、
親父神:「恥ずかしがる事はナーイ。よし、それならばユーも参加するが良い。我自ら手ほどきしてやろう」
 はちきれそうな身体をかろうじてローブに包んだ男、泉の神が白い歯を剥き出しにした胡散臭い笑顔でそこに立っていた。
 上機嫌なその男は、やはり以前泉の神として出会った男と同じ存在だった。流石に目の前にいれば、その者の持つ威厳が良く分かる。こう、意味不明にいきなりひれ伏したくなるような神々しさとか。――意地でもそれはやりたくなかったが。
オーマ:「…泉の神だったよな?泉から外に出て来れたのか」
親父神:「HAHAHAHA!今日は出張中だ。水を介せばどこからでも現れる事が出来るのでな――今日はほれ、あそこだ」
 指差した先にあるのは、生活用水用の井戸。
オーマ:「そっから出て来たのか…」
親父神:「いかにも。顔を出した瞬間、何故か皆逃げ惑ったのだが――これも神であるが故と思い不問にしておる」
オーマ:「多分それ違う」
 想像は付く。この男が、あの井戸から急にぬうと顔を出したら間違いなく水を汲みに来た者も、近くを通りかかった者も恐怖で一目散に家に逃げ帰っただろう。オーマなら躊躇無く手に銃を具現化させて弾切れになるまで撃ち込む。それでもきっと死なないだろうが。
親父神:「フムゥ。さて、オーマに似合いの楽器はなんであろうな。ユーの持つ具現と我の力を備えればなかなか面白い物が出来上がると思うが…よし、此方に来るがいい」
オーマ:「――って人が考えてる最中に勝手に話進めるんじゃねえ!」
 どうやら、この男はオーマが参加するものと決めてかかっているらしい。その辺りは目一杯否定したい所だったが、ふと泉の神が口にした言葉に興味を引かれ、
オーマ:「…そこまで知ってるのか、俺様の具現の力を」
親父神:「我を誰だと思っておる。陣取りに負けて泉が住処となってしまったが、これでもこの世界を統べる神の一員なのだからな」
 いいつつ、オーマの力と良く似た…だが、全く異質な『力』を持って、ひとつの粘土のような塊をどこからともなく取り出してくると、
親父神:「ユーの楽器の『素』だ。これに愛を満たせ」
 ぽん、と何気ない様子でオーマの手にそれを乗せた。――途端、ずんと身体の中を侵食して来そうなプレッシャーに、ぐ、と歯を噛み締める。
オーマ:「…面白ぇ。やってやろうじゃねえか」
 そして、オーマは不敵な笑みを浮かべ。
 渡された『素』に、自らも具現の力と――そして、思いつくままの想いのたけを流し込んだ。

     ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

オーマ:「いやいやいやいや、俺様勘違いしてたぜ。単なるイロモノ親父かと思ってたが違ったんだな!」
親父神:「HAHAHAHA!!当然だ、我こそはイロモノの上を行く存在!全ての親父の心の片隅に居るのだからな!!」
 ――夜の帳が降りた、クレモナーラ村の酒場の一角で、すっかり意気投合してしまっている親父が2人。
 この時期寒くないのか、ローブをはだけて見事な肉体美をさらけだしている男の隣で、顔を真赤にしつつ上機嫌で酒を煽るオーマ。
 その傍らには、ぴかぴかに磨きたてられた、金色の『楽器』が置いてある。
 長さはオーマの指先から肘までとほぼ同じ。細い管がくねくねとうねっていて、中途に音符マークやハートの形が、一筆書きで描かれている。それらはぱっと見、金色の楽譜にしか見えないのだが…端を見れば吹き口もあり、その反対側には優雅な曲線を描いた花弁が花開いている。
オーマ:「泉の神なんかやめちまって、イロモノ楽器伝道師にでもなればいいじゃねえか!才能あるぜおっさん」
親父神:「嬉しい事を言ってくれるなユーは。フムゥ…考えないでもなかった事だったが、それも良いかもしれぬな」
 まあ飲め飲め、そう互いに酒をがばがば注いで飲み干し、村人をも巻き込んで盛大に騒いでいる2人。
 どうやら、神はオーマの作り上げたこの楽器がいたくお気に召したらしい。輝く金属の肌にうっとりと視線を注ぎながら、「この楽器には『愛』が詰まっている」と語ることしきりだった。
 そしてまた、オーマ自身も形もさることながら、楽器から溢れ出す漢らしい、えもいわれぬサウンドにほれ込んでしまったらしい。――他に楽器を製作していた者たちが、その音を聞くなり蜘蛛の子を散らすように逃げ帰ってしまったのは、これだけの楽器と曲を聴いて自分たちの力不足を恥じたからだ、と信じて疑わなかった。
 ――そして。
オーマ:「……む?」
 延々と続く酒盛りに、はっと気付けば、辺りはもうすっかり日が昇っていた。…神の姿は無い。もう泉へ帰ったのかと思い、寝不足の目をこしこし擦って、もうひとつ大事な事に気付く。
オーマ:「や…やべえ。また無断外泊しちまった…」
 ふらっと外へ出て行く癖のあるオーマに、せめて夜どこかに止まるなら言ってから外に出るよう言われているオーマだったが、今回は泊まるつもりなど無かったから、何も言わず出て来てしまったのだが…。
 きっと、相手も寝ていないのだろう。いや、寝る間を惜しんで鎌を研いでいるかもしれない。きっとそうだ。
オーマ:「う、うわああ…」
 一気にさあああっと酔いも醒め、慌てて外へ飛び出そうとして、――ゆっくりと振り返る。少し強い視線が、室内、窓の外、床と動き、何かを確かめるようにオーマが片足を思い切り床に打ち付けた。
 鈍い反動のみが返って来る。だが、何一つ音が聞こえて来ない。
 オーマの声の他は何一つ。
オーマ:「何だ…?」
 もう一度足を床に叩きつけつつ、手に持った楽器をも試しにぷぅと吹いてみる、と、
 ぷあああん、と楽器から口を離しても尚余韻を持って音が鳴り響き、
オーマ:「これも鳴るな…何なんだ一体」
 ここにいても埒があかないと、取りあえず外へ出てみる事にした。途端、ずん、と身体にかかるプレッシャーに、思わず横へと飛びすさる。
 無音で、オーマが立っていた場に鎌の形をした楽器が突き刺さっていた。
オーマ:「ってちょっと待て!おい、親父、俺様何もしてねえぞ!?」
 少なくともいきなり命を狙われるような覚えは無い。
親父神:「ムゥン。ユーかと思ったのだが違ったか」
 姿を消していた訳ではなく、単に屋根の上に上がって他にも様々な自作楽器を手にしていた泉の神が、どこか残念そうに言ってとうっ、と地面に飛び込んで来る。
オーマ:「違うに決まってるだろうが。何で俺様が音を消すなんて事しなきゃいけねえんだよ」
親父神:「人には良く分からない趣味があったりするものだ。…おまけにこの村にはどうやら封印がなされているようでな、我はともかく他の者が外に出る事も出来ぬ」
オーマ:「いくらなんでも趣味って事は――ってちょい待て。封印、だと?」
親父神:「その通り。それにな――ユーがしたのではないか、というものに理由があるのだ」
オーマ:「おうおう、言いがかりか?そう言う事を俺様がするとでも思ってたっつうのか」
親父神:「何故かと言うとだな。ユーの世界の力がここに作用しているからなのだよ」
オーマ:「!?」
親父神:「そして今目の前に居るのはユー1人。結論を導くのは容易い事だろう?」
 オーマの力…いや、オーマの『世界の』力が作用している、と目の前の男は言った。その言葉を聞いて、オーマが少し考え込む。
オーマ:「封印、と言ったな」
 ややあって、オーマが顔を上げた。どこか苦々しげなその表情に、泉の神がこくりと頷く。
オーマ:「それは、俺様たちがウォズを封じる時の力の作用と似ていやしねえか?」
親父神:「かも知れぬな」
 あっさりと言う男に、オーマがはあああ、と深い溜息を吐く。
オーマ:「っち、嫌な予感っつうのはこっちかよ。しゃあねえ、やるか――おうオッサン、オッサンはこの封印の外に出られるんだな?」
親父神:「然り。我は実体を持つ者ではないからな。この程度の封印ならば可能だ」
オーマ:「なら、コレを貸す。ちぃっとばかり『力』を込めさせて貰うが、おまえさんなら可能だろう。表で思いっきり吹いてくれ。俺はその『音』を頼りに大馬鹿野郎を引っ剥がす」
親父神:「それは、音が消えたことと何か関わりがあるのか」
オーマ:「大アリさ。ま、さしずめオッサンが吹く音っつうのが釣り餌みたいなモンと考えてくれりゃいい」
親父神:「オウ。釣りか!それはいい!HAHAHAHA、任せろ!!」
 ばばっとマッスルポーズを取った神が、にかりと笑った次の瞬間、ふっとその場から消える。
 そして、

 ぶああああああああんん――もおおおおおおんん―――

 どうやったらそういう音が出るのか分からない、ドスの聞いたような、周囲が桃色や紫色に染まって見えるような『音』が、クレモナーラ村上空に朗々と響き渡った。

     ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 ぶおおおおおおおおんんん―――

 封印の外からも、村の建物を震わせるような『音』がひっきりなしに聞こえて来る。
 それは、無音の村の中ではあっという間に消えてしまうものであったが、それでも、オーマが探している『もの』を見つけ出すには十分な音量だった。
 そして、その楽器に仕掛けた指向性の『力』。それは、オーマが常に気にかけている存在、ウォズへの反応を特化させたアンテナのようなもの。ヴァンサーたちには自然備わっているものだが、こうして一部を切り離し、双方向から発信する事で位置を特定する…そういった使い方がなされる事はまず無い。その前に、こうした探知能力を切り離す事さえ、通常は有り得ない話なのだ。
オーマ:「ここ――だな」
 とある一軒の楽器屋。そこだけ、オーマの作り出した楽器からの反応が見られたのを見て、にやりと笑いつつドアを思い切り開く。
 目的は、ただひとつ。
オーマ:「さあさあ出て来い、このぺーぺーが!」
 あからさまな反応を見せる、ひとつの楽器にずぶりと腕を突っ込んで、どうやって入り込んでいたのか分からない大きさのものを2体、引っ張り出す事だった。
???:「あ――ひいっ」
 未だ音が復活していない村、空から異音が降って来る村、そして――目の前にずいと顔を突き出すオーマ。
 それらにいきなり出会ってしまった青年が、喉の奥で悲鳴を上げる。
オーマ:「ひい、じゃねえ。…やっぱりな。おまえ、封印しそこねたろ?」
???:「ひ――あ、あなた、は…」
オーマ:「俺様の名前なんざどうでもいい。おまけにウォズと共に半封印っつうのは情けねえ話じゃねえか。さっさと村の封印を解きやがれ」
 青年が腕に抱え持つのは、この世界で上手く形を作れていないウォズの姿。それをひょいと摘み上げると、オーマが自らの手で『封印』を施し、めっ、と青年を睨み付ける。
???:「は――はははははいっっ」
 ぎゅっ、と目を閉じた青年がぶんぶんと腕をやみくもに振り回す、と、そこでふっと身体が軽くなった。
 途端耳に飛び込んで来る様々な音にほっとしつつ、青年の首根っこを掴んで外へと引きずり出し、
オーマ:「オッサーン、もういいぜ、降りて来いよー」
 異音に顔をしかめ、耳を押えている村人に、もしかしたら自分の楽器の音色は周りにあまり受け入れられないのかも、とほんのちょっぴりだけ後悔しながら、未だ空で熱心に演奏を続けている半裸の親父に声をかけた。

     ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

青年:「す、すみませんでした大先輩っっっ」
 ぺこぺことコメツキバッタのように頭を下げ続けるのは、オーマの名を知った青年。オーマの想像通り、最近また飛ばされて来た新人のヴァンサーで、しかも向こうで追いかけていたウォズと共に異世界へ送り込まれたのだと言う。おそらく先程オーマが封じたウォズがそれだったのだろう。
オーマ:「大先輩はいい。つーか、おまえももっと精進しろ。封印つうのはやり方さえ覚えりゃいいってもんじゃねえんだ。…結果的に今回は音まで引っ張り込んだだろ。この村まで巻き込んでな」
青年:「はい――うぅ、申し訳ありません」
 助けられたのもつかの間、自分が追いかけていたウォズをあっさりと目の前で封印され、しかもその相手が『あの』オーマと知った青年の驚愕は、言葉に表せない程のものだった。
親父神:「ユーもヴァンサーなのか。フムゥ?」
 すっかりオーマ作の楽器が気に入ったらしく、しっかり抱えつつじろじろと青年を上から下まで眺める男。
親父神:「我は異世界のしきたりは良く知らぬが――世界の民に迷惑をかけるような事があってはならぬのではないか?」
オーマ:「まあ、そのとおりだ。あっちの世界でこんな事やったとしたら、降格や首じゃ済まねえからな」
 ぎくん、と青年が身体をしゃちほこばらせ、恐る恐るオーマを見上げる。
オーマ:「時間があれば俺様直々に躾けてもいいんだが、残念ながらそこまで暇じゃねえ。それに今はもう家族もいるしな――つーことで、オッサンやってみるか?」
親父神:「オウ。他人様に迷惑をかけない様、特訓するのだな?」
青年:「え、ええええええっっっ!?」
 きらりん、と目と歯がまぶしく光る半裸の神に、思い切り拒否反応を示しつつも断わりの言葉が咄嗟に浮かんで来ない青年ヴァンサー。
親父神:「HAHAHAHA!!任せろ、きっと将来この青年を立派な泉の神に仕立て上げてみせよう!」
オーマ:「いや神にしなくていいから。つうわけで、頑張れ青年」
青年:「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁ、先輩助けて下さいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 報酬はオーマと神合作の楽器で、と言う言葉にも満足げに頷いた男が、青年の襟首を掴んでずるずると引きずって行くのを、ひらひら、と手を振ったオーマが何となく良いことをした気になって、鼻歌混じりに気分良く家に戻って行く。

 ――最大最悪最凶の状況が、一晩かけて良く研ぎ上げた鎌と共に手ぐすね引いて待ち構えている事をすっかり忘れたまま。


-END-